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「だけどチームがワークしない」福岡大学 准教授 縄田先生基調講演(全3記事)

“ぬるま湯チーム”を脱し、“本音が飛び交う組織”をつくるには 率直な対話を恐れない土壌づくりに必要なこと

【3行要約】
・チームの生産性向上に心理的安全性が重要とされるが、実際の効果やテレワーク環境での影響は不明確でした。
・縄田健悟氏の研究では、心理的安全性は厳しい意見交換を可能にし、テレワークは必ずしもチームワークを悪化させないことが判明。
・管理者は監視ツールより信頼関係構築を重視し、地理的分散とICT活用のバランスを取るべきです。

前回の記事はこちら

心理的安全性とは何か

縄田健悟氏(以下、縄田):また、心理的安全性も最近のバズワードの1つですが、単なるバズワードにはとどまらない、研究上も非常に重要性が指摘されている概念です。

聞いたことがある方が多いかなと思いますが、あらためて心理的安全性の定義を確認していきます。

これはエイミー・C・エドモンドソンという研究者が広めたもので、対人的リスクのある行動をとっても、「このチームは安全だ」とメンバーみんなが信じているチーム状態という定義です。この対人的なリスクのある行動が何かというと、例えば率直な意見を述べたり、質問をしたり、間違いを指摘したり、自分の間違いを認めたり、新しいアイデアを提案したり、支援を求めたりというようなものです。

「こんなことすると嫌われちゃうかな」とか「馬鹿にされちゃうかな」など、リスクをつい感じてしまう行動に対しても「メンバーから受け入れてもらえるな」と思えるのが、心理的安全性が確保できているチームと言えます。



心理的安全性に関しては、国内外でめちゃくちゃたくさん研究があって、私たちの研究グループでも心理的安全性は採っています。日本のデータをお見せしたほうがいいかなと思うので日本人データをお見せします。

やっぱりすごくいろいろな側面と関連性が大きいです。むしろ全部とすごく相関が高くて、あまり弁別性がありません。「こことは強いけれど、こことは弱い」みたいなほうが論文は書きやすかったのですが、あまりなくて「どれでも効くよ」みたいな結果になっていました。

結果としては、心理的安全性が高いチームはストレスが低く、チームワーク行動がよく取れていて、チーム成果が高く、リーダーシップがよく取れているとなっていて、中核的な概念だと言ってもいいと思います。



これは一応私の研究ですし、日本人データだしということで持ってきたのですが、国内外ともにもう数千レベルで研究があるので、重要性に関しては広く指摘されている概念だと言えると思います。

ぬるま湯ではない「心理的安全性」

縄田:概念に関してあらためて確認しておきたいのですが、心理的安全性は、ともするとぬるま湯として誤解されることがあります。「うちは厳しい会社だから、心理的安全性なんていらないんだ」みたいなことを言われることが時々あるんですけど、「いや、そうじゃないんですよ」ということをあらためてお伝えしたいと思います。

というのも、もう1回さっきの心理的安全性の定義を見ていただきたいのですが、こんな行動をとっても大丈夫だと信じられるチームで何が起きるかというと、こんな行動が増えるんですよね。



つまり率直な意見を言ったり、質問をしたり、間違いを指摘したり、自分の間違いを認めたりすることが遠慮なくできるチームだと言えます。「こういうチームってぬるま湯ですか」ということです。

ぬるま湯どころか、むしろ厳しい意見が飛び交うし、飛び交っても受け入れる土壌があるチームが心理的安全性があるチームなので、チャレンジングな集団だと言えると思います。

鍵を握るのは“心理的安全性”という分水嶺

縄田:そういった意味で、ぬるま湯チームとは概念的に違うんだよというところをあらためてお話ししたいと思います。実際にこれは、課題対立みたいなものを力に変える上で大事だと言われています。

Bradleyらの研究をもとに整理した図がこちらです。課題対立、いわゆる意見の食い違いです。意見の食い違いがパフォーマンスにつながるかどうかということを調べた研究です。心理的安全性が高いか低いかで、方向性が真逆になるということを示したのがこちらの研究です。



これ、どういうふうになっていたかというと、心理的安全性が高いチームでは課題対立、つまり意見が食い違うと、チームのパフォーマンスがむしろ上がるんですね。なぜかというと心理的安全性が高いチームは、さっき言ったとおり意見をしっかり戦わせることができるチームだからです。

そういう条件がきちんと確保できていれば、意見を戦わせて、パフォーマンスが伸びるという結果になるんですね。

一方で、心理的安全性が低いチームでは、意見の食い違いがパフォーマンスを下げてしまいました。対立の研究だと、だいたい意見の食い違いがそのまま人間関係の食い違いになってしまう。そのままパフォーマンスを下げるというのがむしろデフォルトだったりするんです。

心理的安全性があるかどうかが分水嶺になるんだよという研究結果でした。そういった意味で意見の食い違いはすごく大事なので、これをどう活かすかという時に心理的安全性が鍵になるということになります。

テレワークで本当にチームワークは悪化する?

縄田:ということで、最後に4つめの話にいきたいと思います。現代環境におけるチームワークということで、特にテレワークの話をしていきたいと思います。みなさんもご存じのとおり、コロナで急速にテレワークが進みました。

まず、統計データみたいなものを持ってきました。2020年4月がコロナの時の第1回緊急事態宣言だったのですが、その時にテレワーク実施率がポンと跳ね上がって、揺り戻しはありながらも、そのまま一定の定着が見られるのが現在かと思います。

コロナ以降、テレワークの研究が爆発的に増えたんです。私がまさにテレワーク研究を始めたのもコロナだったからです。テレワークの研究で、最大のデメリットとして「コミュニケーションが取りにくい」というのが挙げられます。おそらく肌感覚的にもその側面はあると思います。

コミュニケーションはチームワークにとって大事な要素なので、チームワークがさぞ悪いだろうなと思うかもしれません。

じゃあ、どうなっているか。バーチャルチーム研究というものがあります。バーチャルチームとはICTを通じたリモートチームの研究なのですが、こちらの知見を少し紹介していきたいと思います。



大まかな話ではあるのですが、研究上、バーチャルチームでチームワークが悪いという結果にはなっていないんですね。実証研究で一貫したマイナス効果は見られていないんです。ちょっと意外かもしれません。

実験研究だと悪いという研究が多かったりするのですが、組織現場を調査して調べた時に、バーチャルチーム度合いが高いほどチームワークが低い・高いという結果にはなっていません。

研究ごとにプラスだったりマイナスだったり、プラマイの方向が違っています。全部足し合わせると消えちゃうという結果になっていました。メタ分析と言うのですが、いろいろな研究を足すとそうなります。

研究者自身も「よくわかんないね」とまだ言ってます。ただ、バーチャルチームのほうが悪いんだという話が一貫して見られるわけでは決してなさそうです。


“分散”と“ICT活用”が相殺し合う現実

縄田:また、実際私たちの調査でも、第1回緊急事態宣言の2020年4月をまたいでチーム力診断を20チームから採っていて、(パフォーマンスが)下がっただろうと思ったらぜんぜん下がってなかったというのを書いたのがこの論文です。私たちの研究結果でもそうだし、他の研究でも、テレワーク日数が多いほどパフォーマンスが低いという関係にはあまりなっていません。研究上「テレワークでも(パフォーマンスは)下がらないね」という報告が多いです。

ここはおそらくバーチャリティの2側面を踏まえなきゃいけないんだろうと私たちは考えています。バーチャルチーム、つまり、ICTを通じたリモートチームで何が起こってるかというと、大きく2つの要素があるわけです。

これは別に私だけが言っているわけじゃなくて、この分類はいろいろな研究で言われているものです。バーチャルチームでは、まず地理的分散が高まります。在宅勤務がまさにそうで、みんな違う場所にいるわけですよね。だから地理的に別々なところにいるという側面があります。

それから、テクノロジーを利用するICTを介してメンバー同士がコミュニケーションや連携を取っているという側面があります。チームワークに関わる面では、地理的分散はマイナスの影響を及ぼすのですが、テクノロジー利用はプラスの影響になっているということが私たちの調査ではわかっています。

 

そうすると何が起こるかというと相殺するんですね。分析結果を図式的に描くと、(スライドを示して)こういう結果になっています。これはどうなったかというと、テレワーク日数が高いチームは地理的分散も高いし、テクノロジー利用も高いんです。そりゃそうでしょうと。

テレワークでチームを動かすわけで、みんなバラバラなところにいるし、テクノロジーをよく使うようになります。地理的分散とチームワークの関係性はやっぱりマイナスで、バラバラのところにいると、特にコミュニケーション面が確かに悪化していました。

一方でテクノロジーを使っていると、チームワークにプラスの要素があったんですね。そうすると、プラスのパスとマイナスのパスが相殺するようなかたちになります。テレワーク日数が高いほどチームワークが悪いとはなっていません。別に良いわけでもありません。良かったり悪かったりがおそらく相殺されるので、特別、テレワークのほうがチームワークに悪いよという関係性にはなっていませんでした。


監視ではなく“任せる”ことがパフォーマンスを高める

縄田:特にリモート状況では、信頼の影響が大きいと言われています。他のメンバーに自分の諸々を委ねることができるというのが信頼ですが、それ自体は対面チームでも当然重要です。

ただバーチャルのほうが信頼の影響が大きいということが研究で繰り返し指摘されています。リモートって、結局メンバー同士のふだんの仕事が見えにくくなるわけですよね。だからちゃんと任せられるようなチームができているかどうかが、すごく大事になってくるわけです。



そういう時に、自律的に働けるという要素もここでは必要です。そういったチームを事前に作っておくことが大事です。コロナの初期には(状況が)見えないから監視ツールみたいなものができていたと思いますが、自律性を低めるので基本的に監視は良くないです。自律性が低まると、モチベーションもパフォーマンスも下がるので、良くないです。

課題・対人・信頼・安全性をどう設計するか

縄田:テイクホームメッセージとして、まずチームワークに関しては、チームワークの基盤を備えるマネジメントをしていくためには、課題・対人の2側面の2本柱です。



コミュニケーションがチームワークの土台になってくるし、さらにリーダーシップや心理的安全性はさらにその土台です。それからリモートワークは単純にチームワークの悪化にはつながらないので、ICTを適切に活用することが鍵です。じゃあ信頼・自律性をどう取っていきましょうかということが大事となっていきます。

ということで、私からは以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)

信頼の定義とは?

司会者:ありがとうございます。縄田先生、貴重なお話をありがとうございます。集団がうまくいかないのがデフォルトというのはインパクトがあります。せっかくなので、ご質問を2〜3問ほど受けられたらなと思います。

質問者1:ありがとうございました。最後信頼というところで、具体的にどういうものを指していらっしゃるのかをおうかがいできればと思います。

縄田:「あれこれを委ねることができる」というのが信頼の定義です。仕事を任せることができたり、場合によっては自分が損する可能性があっても任せることができる。一緒にやっている仕事を相手に任せられる、これが信頼です。これがちゃんとできる状態であることがすごく大事です。特にリモートワークの場面では大事となってきます。

質問者1:ありがとうございます。思い当たる節としては、コロナ禍前に働いていた人とリモートするのは比較的楽で、それはたぶん信頼があるからなんですけど。その後に合流してきた新しいメンバーとの信頼関係はやっぱりなかなか難しいなというのがあって、そういう意図でおうかがいしました。

縄田:リモートは信頼が大事なんですけど、一方で初手からリモートで始めた時に信頼ができにくいということも、研究で繰り返し指摘されています。信頼ができている時にはうまくいくんだけど、信頼自体を作るにはリモートは苦手だと指摘されています。

地理的分散がチームワークを抑制する要因は?

質問者2:地理的分散がチームワークを抑制する要因みたいなものは、研究されているんでしょうか。

縄田:チームワークにもいくつかの側面があるのですが、特にこの関連性が強かったのはコミュニケーションの側面だったんですね。だからおそらくやっぱり会わないと、特に挨拶とかそういった日常的なコミュニケーションの面でうまくいかない。それが、その他の協力行動を避けることに影響するのかなと考えています。

質問者2:はい、ありがとうございます。

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