【3行要約】・コーチングスキルを学んでも、部下との対話が噛み合わず期待した成果が得られない……多くのマネージャーが直面する課題です。
・キャリア支援の専門家である笹内俊佑氏は、真のコーチングとは「相手が知らない情報を質問すること」だと強調。
・マネージャーは部下の見え方を理解する合意形成から始め、未来を想像させる質問で新たな気づきを創出すべきだと提言します。
前回の記事はこちら アドバイスの前に必要なのは合意形成
笹内俊佑氏:1つ目に、合意形成ですね。これが一番大事です。みなさん部下と1on1をする時や部下から相談された時に、いきなりアドバイスをしていませんか? いきなり解決策を提示していませんか? いきなりティーチングをしていませんか?
合意形成では、部下が見えている世界、部下が見えている見え方、物事の捉え方をしっかり理解していく。そして部下の物事の見え方と、上司の物事の見え方を揃えていくことが非常に大事です。
例えば目標があって、上司は「このままだと目標達成しないな。たぶんもっとがんばったほうがいいし、もっと別のやり方をやったほうがいいな」と思っているとします。
そうすると上司は「もっとこうやったほうがいいよ」とか「どうしてそうなってるの?」と聞きますよね。でも部下に「このままだと目標に到達しない」という認識がなかったら、そのアドバイスやヒアリングを全部自分ごとにできないんですよね。
部下と“同じ景色”を見ることで対話は噛み合い始める
キャリア支援やコーチングの現場では、車の助手席に座るように相手と同じ景色、相手と同じ物事の捉え方をして、それからヒアリングをして解決策を提示することが重要と言われています。
上司やマネージャーは部下のことをよく見ているし、視座が高いことがほとんどだと思うので、部下には見えていない課題や部下に足りていないところがすごくよく見つけられると思うんです。
でも結局、部下やメンバーがその課題に気づいていなかったり、その課題を「直さなきゃいけないんだ」とか「修正しなきゃいけないんだ」と思っていないと、何を伝えても伝わらないですよね。これはけっこう起きているんじゃないかなと思います。
メンバーに対して指摘やフィードバックしているのになかなか動かないとか、自分が思ったように動いてくれないとか、期待に応えてくれないとか、こういったミスコミュニケーションが起きているのは、「合意形成ができていないから」が非常に多いんじゃないかなと思っています。
じゃあどうやって進めていくかというと、例えば「このままだと目標達成しないなって私からは見えるんだけど、○○さんはどう思っていますか?」とか「今の現状について○○さんはどう感じてますか? どう思っていますか」とまず聞いてあげる。
そして、「ここが課題だと思っています」(と回答があったら)「私もそう思ってました、じゃあ一緒に考えていきましょう」とか。もし(回答が)上司の基準に達していない場合は「ここが課題だと思うよ」と伝えてあげることも大事かもしれません。

まず、ここの合意形成。同じ目線に立つ、同じ景色を見る、同じ物事の捉え方をする。そういうことをやってから部下とコミュニケーションを取っていただきたいなと思います。これが1の合意形成の部分ですね。
みなさんいかがでしょうか。「これはけっこうやっている」という方、「ぜんぜんできてなかったな」という方、いろいろいらっしゃるかなと思います。ぜひウェビナーのチャットにも「これはできていました」とか「けっこう意識してます」「ぜんぜん意識できてませんでした」というところも書いていただけたらなと思います。
まずはメンバーの見え方やメンバーの物事の捉え方を理解していく。ここから始めていただけたらなと思います。
コーチングとはまだ気づいていない視点を届けること
そしてこれができて初めて、次のステップに進んでいきます。「2、気づきの創出」ですね。ここはコーチングのスキルを使っていくところで、いろいろなコーチングのスキルやフレームワークを使っていきます。
ここでポイントなのが、相手が見えていない部分にフォーカスすることです。相手が見えていない部分に問いを立てて、質問をして、気づきを与えてあげる。ここが非常に重要かなと思っています。
ここをけっこう勘違いされることが多くて、コーチングというと「質問をする」と捉えている方がけっこう多いんです。
僕らはキャリア支援をやっている会社なので、初めましての方とお話しすることが多いのですが、初めましての方には「今どういう仕事されてるんですか」とか「今どういうところにお悩みなんですか」と質問するんですよ。
これはコーチングではありません。ただのヒアリングです。なぜかというと、相手がすでに自分が知っている情報を聞いているからです。ここにフォーカスして質問をするのは、コーチングではなく、単純なヒアリングです。
例えばマネジメントの現場で、部下の方、メンバーがすごく課題感を持って仕事に取り組んでくれているとします。課題感を持って取り組んでいるすばらしいメンバーの子に「どこが課題だと思っている?」とか「どこがモヤモヤしている?」と聞いても、メンバーがその状態を自覚しているのであれば、あまり気づきを与えられる質問にならないんですね。
メンバーが気づいていない、新しい気づきを与えられているかというところにしっかりフォーカスしてほしいなと思っています。

まずは合意形成をしてメンバーの基準とマネージャーの基準を揃える。例えば、メンバーが新しいことにチャレンジして失敗してしまいました。すごく自責で捉えて反省をして「こうすればよかったです」とか「ここがダメで、次はこういうふうに改善しなきゃいけないです」と言ってくれているメンバーに対して、どういう関わり方をするかというと、「そのチャレンジの中でできたことは何だったの?」「そのチャレンジによって成長したポイントは何だったの?」と、ポジティブな面にフォーカスしてコーチングをしてあげる。
逆に課題感が薄いとか、失敗しているのにあまり反省していない、課題感が薄いメンバーに対しては、そこの課題に気づいてもらう質問の仕方、問いかけの仕方をする必要があると思います。
マネージャーの方、リーダーの方はメンバーと1on1している場面が多いと思いますが、新しい気づきをメンバーに与えられているのかというところを基準として、面談・ピープルマネジメントをしていただきたいなと思っています。
そしてこの気づきの創出にはいろいろな方法、フレームワークがあります。コーチングスクールでも使っているフレームワークの1つには、「経験学習サイクル」というものがあります。
今日はお時間の関係でさらっとしか紹介しませんが、こういった質問のフレームワークをたくさん持っておく。経験学習サイクルもあれば、いろいろなフレームワークがたくさんあります。そしてそのフレームワークをメンバーの状況や課題感、ポジティブなのかネガティブなのかという状況に応じて使い分けていく。これが非常に重要だと思っています。

「2、気づきの創出」というお話をしましたが、一番大事なのは、メンバーが気づいていないことにフォーカスをすることです。プラス、質問のバリエーション、自分の引き出しをたくさん持って、メンバーに対して関わっていく。これが大事なんだなというふうに覚えて帰っていただけたらなと思っています。
未来を見せる問いが「気づきの引き金」になる
最後に、気づきを創出させるためには、未来を想像させるような質問(が有効です)。メンバーに対して新しい気づきの創出のヒントになるかなと思うので、ちょっとご用意しました。

例えば目標に対してがんばっているメンバーがいて、「今のあなたのがんばりを続けたらどうなっていきそうですか?」とか。今あまり成果が出ていないメンバーがいたとしたら「今の成果とか実績が続いたらどうなりそうかな?」という問いかけをして、ちょっと危機感・課題感を与えていったり。

今どうするかというところにフォーカスさせるだけではなくて、未来ですね。これが続いたらどうなるのかというところにフォーカスした質問をしてあげると、少し気づきの創出に役立つと思うので、ちょっと紹介させていただきました。
明日の1on1、明日のメンバーとの会話から、少し未来のところに問いを立てる質問を1つしてあげると「どういうことかな?」というふうに、メンバーの内省が深まる関わりもできるので、ぜひ試してみていただきたいなと思います。