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日本企業が知らない任せる育てる技術(全2記事)

“とにかくやって”がNGの時代に部下を動かすには “任せて育てる”マネジメントの5つのステップ [2/2]

なぜ欧米のビジネスパーソンは言語化が得意なのか

井上:もう1つは体系化です。人やチームをマネージするという全体の体系の中で、「任せる」というのがどういう位置付けなのか。例えば関係を作る、(つまり)リレートというのが最初のステップだと思っています。そのリレート(関係を作る)とデリゲート(任せる)はどういう関係なのか、この要素同士の関係性を体系的に整理する。

この2つを意識して体系化しております。それがこの本にも反映されていると思っております。

小早川:欧米の人って、仕組みを作るのは得意じゃないですか。

井上:はい。

小早川:あとはやはり、自分じゃなくてもできるように言語化するのが得意です。けど日本人ってそこがけっこう苦手というか、やっていないじゃないですか。一方で仕事って、すべてが言語化できるものではないじゃないですか。そこは日本人は得意だから、両方をうまく組み合わせると、すごくいいマネージャーになれそうですよね。

井上:そうですね! おっしゃるとおりだと思います。「なんで欧米の人は言語化が得意で、日本の企業は得意じゃない人もいるのかな?」というところを考えて分析しますと、やはり言語の特性がわりとあるのかなと思っています。英語やドイツ語、フランス語と日本の言語の1つの大きな違いとして、「冠詞があるか、ないか」というのがあると思うんですね。

小早川:おぉー。

井上:(英語だと)「a」や「the」(という冠詞があります)。例えば「car」、車って日本語だと(単に)「車」じゃないですか。英語だと「a car」とか「cars」とか「the car」とかで、冠詞が付く、付かない(があります)。

あれの違いって、冠詞が付くものは具体的なもので、冠詞が付かないものは概念的なものみたいな(違いなんです)。なので「car」と言うと概念としての車で、「a car」と言うと(具体的に)そこにあるみたいな違いがあるんですよね。

英語は概念の話をしやすい言語

井上:それが何を意味しているかというと、英語などの欧米の言語って、概念を扱う話と具体を扱う話を分けている。冠詞を付けずに「car」って言うと、今この人は概念の話をしているんだな。「a car」って言うと具体的な車の話をしているんだな。というので、概念の話と具体の話を分ける言語なんですよね。

そうなると概念の世界の話をすることに慣れている人たちなので、概念的な議論や整理が得意になってくる。

日本の言語は具体を扱う言語ですので、「それって具体的に言うとどうなるの?」ということがやはりみんな知りたくなってきます。なので「概念として、これとこれの関係はどう(なっているか)」みたいな議論がわりと発達しにくいという違いがあるのかなと思っております。

小早川:なるほど。じゃあ、もう脳みそのところがちょっと違うのかもしれないですね。

井上:おっしゃるとおりですね。OSが違うというか。

小早川:うちはビジネス英語の本もたくさん出しているので。

井上:ですよね。

小早川:今度書いていただきたいと思うんですけど(笑)。

井上:いえいえ、とんでもないです。

チームの生産性を最大化する5つのステップ

小早川:おもしろいな。そういう考え方もあるんですね。なるほどね。あと、これは目次にもなっているんですけど、私が(すごくおもしろいと思ったことが)今回の本の冒頭に書いてありました。

ゴールを達成するためにチームの生産性を最大化するという目的があります。その手段として、まずリレート、関係を作る。次はデリゲート、任せる。次がキャリブレートで、軌道修正する。次がモチベート、背中を押す。最後がファシリテートで、チームワークを作るということです。この体系化はすごくおもしろいと思っています。これを実際にご自身でもやられてきたんですよね?

井上:そうですね。私はマネージャーとしてスタートしました。そのうちに苦戦しながらもいろいろ体系(化)してやって、評価をいただいて、複数のマネージャーを管理する部長や本部長みたいなグループマネージャーの立場になりました。そうなるとマネージャーを育てるのが仕事になってきます。

その時に、やはり体系化しないと教えにくいというか、一度に全部が体験できるわけではありません。なので、「今やっているのは全体のここなんだよ」と教えながらやっていく必要に駆られました。というところで、今お話しいただいた体系を作りました。

でも、いろいろと試行錯誤しながらではあったんですが、あまり難しくし過ぎると全体像の把握ができなくなってしまいます。一方で、あまり単純化し過ぎると全体の中での位置付けが曖昧になってしまう。ということで、今ご紹介いただいた体系が一番マネジメント教育として実務にかなっているのかなと思っております。

“とにかくやってみて”が通用しない時代こそ体系化を

小早川:この体系化は、頭の中ではいつぐらいにできていたんですか?

井上:やはり何事も体系化して考えてしまう性格なので、最初に作ったんですけど、(当初は)もっと複雑なものでした(笑)。自分ではなんとか理解できるんですけど、人に教えようと思うと「もうぜんぜんわからないです」という感じになってしまったので、そこからどんどん単純化していきました。

小早川:やはり井上さんのように、それこそメーカーやサービスの会社だったり、あとは外資系や日本の会社だったり、さまざまな業種・業態でマネージャーとして活躍するためには、自分自身の中でのマネジメント論や哲学がないと難しいですかね?

井上:そうですね。やはり私はとにかく(マネジメントが)苦手だったので、そういうふうに体系化しないと自分自身でできなかったのが、まず1つ大きいかなと思っています。あともう1個は、教えることを考えると、例えば「任せるとはこういうことなんだよ」というのを体系化して言語化しないと教えられないかなと思っておりました。

昔は「なんとかするんだ!」「任せるというのは言葉では説明できないんだ!」みたいな教育が成り立つところもあったかなと思うんですけど、今の社会はそれを許さないところがあると思います。

「任せるってどういうふうにやるんですか?」と聞かれた時に、「とにかく任せるんだ!」みたいなことだと、それは教育として成立しない時代になってきていると思います。なのでその意味では、言語化というのは今後欠かせなくなってくるのかなと感じております。

小早川:なるほどね。昔は勢いと人間性があればけっこうどこに行ってもマネージャーができちゃう人もいたと思うんです。まぁ、それはそれで今でも大事だと思うんですけど、やはり体系化するとか、ちゃんと理屈で部下に話ができるようにならないといけないというのは、ビジネスやマネジメントが複雑で難しくなっている要因の1つだと思いますね。

井上:いや、そのとおりですね。

マネジメントについて議論するきっかけの一冊に

小早川:最後に、この本を読んでいただいた方、または、まだ読んでいない方にメッセージをいただけますか?

井上:ありがとうございます。まずは、今までお話を聞いていただきありがとうございます。私がこの本を書いた一番の思いは、やはり自分自身が「マネジメントって大変だな。つらいな」と思い、もがきながらやってきて、今もやっている立場だということです。

私ぐらいマネージャーに向いていない方はそういらっしゃらないと思います。けれども(日本では)マネージャーが1つの土台として底に足を置けるものがあまりないなと思いましたので、書いた次第でございます。ですので「マネジメントが苦手だ」「マネジメントって大変だな」と思っている方にこそ読んでいただきたいなと思っております。

あとは、体系化・言語化していることは、もちろんそれが正解だと申し上げているわけでは毛頭なくて、1つの考え方として提示させていただいております。なので、「いや、ここはもっとこうなんじゃないか?」「ここはこういう要素をもう少し付け加えたらどうか?」みたいな議論の土台になったらいいなという思いも込めて作らせていただいております。

1つの体系や1つの言語化ということで読んでいただいて、これをベースにアジェンダを提起させていただく。そして、マネジメント論がもっと日本の中で語られるようになったらいいなと。

今でも語られているとは思うんですけども、それより明確な言語でいろんな議論をする。その意味でも礎となれば、これ以上の幸いはないと思っております。マネジメントに興味を持っている方は、ぜひそういう視点でも読んでいただけますと幸いでございます。

小早川:ありがとうございます。今日は『世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?』の著者、井上大輔さんにお話を聞きました。井上さん、ありがとうございます。

井上:ありがとうございました。

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