【3行要約】
・マネジメントスキルは言語化・体系化が難しく、特に日本では“とにかくやってみて"式の指導が長く続いてきましたが、現代ではそれが通用しなくなっています。
・複数企業でマネージャー経験を持つ井上大輔氏は、その経験を独自の手法として体系化し実践しています。
・井上氏は著書で「リレート」「デリゲート」「キャリブレート」「モチベート」「ファシリテート」という5つのステップを提示し、マネジメント論の議論を深める土台を提供しています。
前回の記事はこちら グローバル企業におけるマネジメント研修
小早川幸一郎氏(以下、小早川):あとは本書にも書いてありますけど、「海外と日本で異なるマネジメントの前提」と「育成環境の違い」についても、ちょっと聞かせていただけますか?
井上大輔氏(以下、井上):やはり絶対的にマネジメント教育にかけている時間がまず違うのかなという感覚はあります。私が初めて管理職になった外資系企業では、当然マネージャー研修があるんです。
外国なんですけども、本社がある場所にグラマースクールという寄宿制の高校があり、夏休みは空いているので借り切っています。10日間ぐらいそこに行って、もう朝から晩までずっとマネジメントの教育を受けたりですとか。そこで学んだ知識をベースに仕事をして、それを前提にしたフィードバックを上司から受けたりですとか。そういった(ように)、単純に(学びが)量的に多かったりします。
あとはそれを体感していただく一番手っ取り早い方法として、「LinkdInラーニング」というLinkdInがやっているeラーニングのビジネススキルを学ぶラーニングサイトがあります。そこでマネジメント系の研修を検索していただくと、ものすごくいっぱい出てくるんですよね。
それこそ、「任せる、(つまり)デリゲーションとはどういうものだ」とか、「コーチングとは何だ」というのがいっぱい出てきます。ものすごく体系的に言語化されたコンテンツが整っているんですよね。

そういうLinkdInラーニングのようなコンテンツが日本にはなかったり、やはり体系的に学べるコンテンツの量も少なかったりするかなとか。日本とグローバル企業では非常に環境が違うかなと実感しております。
日本企業は「業界理解」に時間をかける
小早川:なるほどね。日本の企業のほうがジョブローテーションしていろんな現場を時間をかけて学ばせるとか、あとは終身雇用で社員を大切にするとか、そういうイメージがあります。
一方でそこにあぐらをかいていて、(ビジネススキルの)教育は欧米などの外資系企業のほうが、その人のキャリアを考えて、お金や時間を投資して集中的にしっかりやっている感じなのは、私も最近すごく聞いたり学んだりしています。そういうことなんですかね?
井上:そうですね。やはりフォーカスが違うのかなと思っています。日本企業もすばらしい教育システムをやはり持っていらっしゃって、教育にかける時間と情熱は同じぐらいだと思います。けれども、日本の企業って例えば会社のことや業界を理解するといったところの教育に時間を使われると思うんですよね。

一方でマーケティングの知識やマネジメントも1つのスペシャリティだとしたら、マネジメントのスキルを身に付ける教育は、やはりどちらかというとジョブ型雇用が中心のグローバル企業や欧米企業のほうが進んでいるというか、時間とエネルギーを割いているのかなという印象はありますね。
小早川:じゃあ、井上さんは本当に世界のマネージャーの良さと改善点を理解されている。あとは反対に日本の企業のいい面と悪い面をわかっている。ということで、今回の本にはそれを井上さんなりの解釈で書いていただいているということですね。
井上:そうですね。おっしゃるとおりです。ありがとうございます。
小早川:それでこの本の中では、そういう前提であらゆるマネージャーが押さえておくべき実践的なファーストステップを書いていただいています。そこの話をちょっと聞かせていただけますか?
井上:やはり私はマネジメントが苦手だったものですから、「どうやったらできるようになるのかな?」ということで意識したことが2つあります。
1つは言語化です。例えば「任せる」というけど、「具体的に部下にどう任せるんだ?」「任せるとは具体的にどういうことなのか?」ということを徹底的に言語化したのが1つです。