【3行要約】
・かつては憧れだった管理職が今や「罰ゲーム」と言われる時代に、マネジメントの本質とは何かが問われています。
・井上大輔氏は、自身も「マネージャーに向いていない」と言われながら、苦手意識を克服するために体系的な知識を構築。
・井上氏は「管理する人」としてのマネージャーと「ビジョンを描く人」としてのリーダーの違いを理解し、自分の役割を明確にすることが成功への鍵だと指摘します。
国内外の大手企業での経験を著作に
小早川幸一郎氏(以下、小早川):「ビジネス・ブック・アカデミー」。今日は新刊の『
世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?』の著者で、OFFICE pianonoki代表の井上大輔さんにお話を聞いていきたいと思います。井上さん、よろしくお願いします。
井上大輔氏(以下、井上):よろしくお願いいたします。
小早川:さっそくなんですけど、井上さんのこれまでのキャリアと、現在のお仕事について聞かせていただけますか?
井上:はい。今はマーケティングや、マネジメントのコンサルテーション、書籍の執筆、講演等をメインにやらせていただいています。基本的にはずっとマーケティング畑で、いわゆるマーケターの仕事をしてまいりました。ニュージーランド航空という航空会社とか、わりと外資系を渡り歩いてきたかたちです。

消費財企業のユニリーバや(自動車メーカーの)アウディといった外資系企業でマーケティングコミュニケーションの仕事をしてまいりました。その後に日本企業に転じまして、ソフトバンク株式会社や、今はLINEヤフー(株式会社)になっているヤフー株式会社でマーケティングの仕事をやらせていただきました。
今は個人事務所で仕事をする傍ら、教育系の上場企業で執行役員として、そちらでもマーケティングを担当しています。なので、基本的にマーケティング×マネジメントのキャリアを長らく歩んできたような経緯の持ち主でございます。
小早川:井上さんのご著書は、これまでに出されたものも拝読しまして。
井上:恐縮です。ありがとうございます。
“マネージャーに向いていない”と言われて
小早川:これまではマーケティングをテーマにした本を書かれていました。けれども今回はマネージャーのキャリアの話と、あとは外資系を含めた世界での(マネージャーの働き方)ということで本を書いていました。なぜ今回、このテーマで本を書こうと思われたかを聞かせていただけますか?
井上:やはり私はマネジメントの仕事を長らくやらせていただいているんですが、私のことを小さい頃から知っている方に聞くと、「絶対に(マネージャーに)向いていない」と全員が口をそろえて言うと思うんです。自覚もしておりますし、人からも言われています。そんな中でマネージャーの仕事をしてきました。
もともと子どもの頃からまとめ役や集団行動ができないタイプの人間でした。そのコンプレックスで、ちょっと「マネジメントの仕事を絶対にやってやる!」ってなったもので、ずっと苦手意識を持ちながら10年、20年と続けてきております。
という中で、苦手だからこそ言語化・体系化できるところがあるのかなと思いました。逆に、言語化・体系化しないとできなかったという悪戦苦闘の歴史を残しておきたいというか。同じような苦しみを持っている方もいらっしゃるかと思いますので、せっかくここまで言語化・体系化したので、書籍としてかたちにしたいなと思って筆を執ったという経緯がございました。
ずっと集団行動が苦手だった
小早川:あぁー、なるほどね。やはり外資系のマネージャーで、しかもマーケティングや営業関係のトップをやられていた方は、押し出しが強く、「外資の組織の中で生き抜いた!」みたいなタフさが体から滲み出ているようなイメージがあったんですけど(笑)。
井上:(笑)。
小早川:お会いした瞬間に、すごくソフトな感じというか、しなやかな感じがしていて。
井上:いえいえ。
小早川:いい意味で「あれ?」っていう感じだったんですけど、そういうことはよく言われませんか?
井上:そうですね。だいたい私は本を読んだり書いたりするのが好きな人間です。内向的というか、押し出しはもともと弱いタイプだと思います。それ以外にもいろんな方面から「マネージャーには向いていない」とよく言われますし、自覚もしています。
小早川:でも、そう言われたり、自覚しているからこそ、あえて反対の道に進んだのは何か理由があるんですか?
井上:もともと学校を卒業するまでずっと集団生活が苦手で、どちらかというと集団を困らせるような生き方をしてきました。やはりその反動というか、自分でも「人をまとめる立場はできないんだ!」と思っていました。
30代前半でマネージャーになるも……
井上:一方で、私が就職したのは就職氷河期の真っただ中でした。今でこそいろんなキャリアパスがあると思うんですが、当時は「社会に出て成功する=管理職になる」以外の選択肢がありませんでした。
そこで「人をまとめられる立場になれない」「そういう仕事に向いていない」、イコール、言ってみれば「ダメな人」じゃないですけど、「成功ができない人」という現実に、おそらく初めて直面したんだと思うんですよね。
これまでの人生の20年間、いろんな人が部活をやったりとか、キャプテンをやったりとか。「なんでやっているんだろう?」と思っていたけど、その時に「あっ、このためだったのか!」みたいな思いがありまして、おそらく挫折をしたんだと思います。
そんな自分を認めたくなかったというか、「いや、自分にもできるんだ!」と、ある意味虚勢を張ってマネージャーを目指し始めました。なので、その反動で「もう絶対になってやる!」って、非常に固執していました。やはりしばらくはマネージャーになれなくて苦戦したんですけど、30代前半ぐらいで初めてマネージャーのポジションを射止めました。

それで「(自分はマネージャーが)できない!」ということになって、先ほどの話につながってくる感じだったかなと。
マネジメントが苦手な人の気持ちがわかる
小早川:あぁー。なるほどね。確かに今はマネージャーにもいろいろなスタイルがあったりしますし、あと多様性を認めるような組織というか、雰囲気にはなっています。けれども私も世代が一緒なので(わかりますが)、当時はまだスポコン最終世代みたいな感じでした(笑)。
井上:まさに。
小早川:「マネージャーや上司たる者はこうあるべきだ」みたいなのがありましたもんね。
井上:ありましたね。
小早川:でも、そこに違和感がありつつも、自分自身で自分らしいマネージャーのスタイルを見つけていったということですよね。
井上:そうですね。まぁ、やはりもともとそういう性格ですし、資質もなかったです。そんな中でマネージャーになりました。やはり今でもそういうところはあると思うんですけど、当時はより一層、マネジメント教育がなかった時代かなと思っています。
なので、もう本当に苦戦しながら、上司や周りの方、特に部下の方にも迷惑をかけながら今までやってきました。その苦手意識はまだ抜けていないかもしれないですね。
小早川:なるほどね。生まれながらのリーダーやマネージャーみたいな人はいます。けれども井上さんは、ご自身でもそうじゃないと思われているからこそ上のマネージャーの気持ちや部下の気持ちがわかるのが、ある意味強みになっているかもしれないです。