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伝わらない理由は「知りすぎている」から:知識の呪いとそのメカニズム(全3記事)

「相手の立場になって考える」では認識のズレを解消できない 解釈の偏りをもたらす「思い込み」の発生を抑える方法 [1/2]

【3行要約】
・コミュニケーションの大敵「知識の呪い」は、自分が知っていることを相手も知っていると過大評価し、さまざまな業務場面で支障をきたす現象です。
・この現象は単に「相手の立場になって」と意識するだけでは解決せず、情報の流暢性から生じる根深い認知バイアスとして研究されています。
・効果的な対策は「もし理解していなかったら?」と逆の視点を持つこと。また組織の習慣として定着させ、準備の質向上などポジティブな側面も活用すべきです。

前回の記事はこちら

「相手の立場になって考える」では解決できない

伊達洋駆氏:「知識の呪い」をできれば抑制していきたいわけですが、「どうすればいいんだろうか?」ということです。ちょっとやっかいなのが、一般的に「こういうふうにしたら収まりそうだな」「『知識の呪い』を抑えることができそうだな」という方法があまり効かないことが、今までの研究の中で明らかになっています。

具体的には「相手の立場になって考えてください」といった指示をするだけでは、なかなかうまくいかないということなんですね。これはけっこう意外な結果ではないかなと思います。

例えばコミュニケーションの中で、「相手は情報を持っていません。情報を持っていない相手のことを、ちゃんと意識してくださいね」と明確に指示をされたとしても、「知識の呪い」はなかなか抑制できないというのが、実験研究の中で明らかになっています。「相手のことを考えてね」と言うだけでは、なかなかうまくいかないんです。

「相手の立場に立ってください」ということを「パースペクティブ・テイキング」と呼びます。相手の視座(パースペクティブ)を取る(テイキング)ということですね。この重要性は誰しも理解していると思うんですが、その重要性を理解したとしても、なかなか「知識の呪い」という認知バイアスを回避することは難しいんですね。

これは要するに何を意味しているかというと、意識するだけではなかなか防ぐことが難しい、より深い認知プロセスの中で処理されている現象が「知識の呪い」なんだということを示しているかと思います。

「説明責任の強化」や「慎重な判断」でも抑制できない

「では、どうしていけばいいんだろうか?」というところなんですが、1つヒントとなる研究をみなさんに紹介させていただきます。監査業務に関する研究です。経験豊富な監査人を対象とした実験を行いました。企業の破綻情報を事前に監査人が知らされていると、その破綻の兆候を過大評価してしまう傾向、「わかるだろう」と思ってしまう傾向があります。

すなわち、「知識の呪い」が確認されたわけですね。ただ、どの企業が破綻するかなんてことは、当然ながらわからないわけですね。ところが、結果を知っている、つまり知識を持っていると「知識の呪い」が発現してしまうわけですね。

じゃあ「知識の呪い」を抑制していくために、「説明責任を強化します」とか、あるいは「より慎重に判断してくださいね」と求める。よくあるというか、一般的に思いつくような介入を行っていくんですが、なかなか「知識の呪い」が抑制されません。

凝り固まった思考を緩和させる

ところが、1つ有効な方法というのがありまして、それが「反論を作成してください」「あえて逆のことを考えてみてください」という課題を与えた時に、「知識の呪い」が抑制されることが明らかになりました。

どういうことかというと、「破綻に至らなかった可能性のあるシナリオを考えてみてください」と言うと、「破綻することって、当たり前じゃないんだ」と思えるわけですね。

破綻という事実だけ知らされていると、「これはもう、絶対破綻するじゃないか」というふうに、その視点しか持てなくなってしまうんですが、「破綻に至らなかった可能性は、どういうふうなシナリオとして考えられますか?」と言われると、自分の凝り固まった思考が少し緩和されるんですね。

凝り固まった思考が緩和されるというところがすごく大事で、「そうか。これはみんなにとって当たり前というわけじゃないんだ」と思えるようになって、他のシナリオを考えられるようになるんですね。

そうすると、「知識の呪い」も幾分緩和される可能性がある。つまり、当たり前なんですが「いろいろな見方があるよね」ということを理解できるようになる。世界を知っていたり、知識を持っていたりすると、「これは当然こうだよね」と思ってしまって、それが流暢性につながって「知識の呪い」になっていくんですが。

「当然じゃないかも」と別の観点、つまり逆の観点から考えてみる。「もしも破綻しなかったら」とか、そういうふうに別のシナリオを考えてみると、自分の頭を柔軟にさせることにつながって、それが結果的に「知識の呪い」を下げていくところに結びついていきます。

想定シナリオとは異なるシナリオを考える

こうしたことは職場の中でいろいろな応用が効くのかなと思います。例えば重要な判断を下していく会議の前に、「この判断や、この情報が間違っていたらどうなるの?」みたいなことを考えてみる。そうすると、「これを知っているのは当然」「こういうふうにやるのは当然」と思う気持ちに対して、少しセーブをかけることができるんですね。

自分の知識とか持っている情報を、「当たり前なんだ」「これはみんな知っているよね」と過度に拡張してしまわないようにする。そのために、「自分の知っている知識が違っていたらどうするの?」みたいなことを考えていくと、思考が硬直化するのを防げて、結果的に「知識の呪い」を抑制していくことにもつながっていくわけです。

他にも、例えば部下とか同僚に説明していく時に、「これ、わかるでしょ」と思って説明していく。これに対して、逆の発想をぶつけていくわけですね。「相手が理解していない場合、どんな感じになるんだろうか」とかを想定してみるわけです。

「相手の立場に立ってくださいね」というのは難しいんですけど、「理解不足だった時にどんな状況になるのか」をシミュレーションしていくと、「説明の仕方を変える必要があるな」「もう少しちゃんと説明しないと駄目だな」とか、そういったことが見えてくるわけですね。

あるいは、ディスカッションを行っている時に、いわゆる「Devil’s Advocate」と呼ばれる、「悪魔の代弁者」の役を設定していくのも1つの手ですね。何か意見が出されていく時に、反論を組み込んでいくというか、「あえて反論を言うと」みたいな感じのことを言う役割の人がいると、「知識の呪い」が集団的に発生していくのを防いでいける可能性もあるわけですね。

「みんなわかっているでしょ」と思う傾向を防ぐことができます。要するに、自分が考えているシナリオとは違うシナリオを考えるのが、「知識の呪い」を抑制する方法だということですね。

組織の習慣として定着させていくことが重要

ただこうしたことは、1回だけやっても、効果が即座にずっと表れるわけではないので、うまく組織の習慣として定着させていくことが重要ではないかなと思います。反論を考えるとか、あるいは代替するシナリオを考えることが、日常的な業務の中に組み込まれていくことがやはり重要だと思うんですね。

例えばプレゼンを行う時には、「相手が理解できないとしたら?」という可能性について考えると、「あれ? ちょっと省略しすぎかな?」というふうに考えられるわけですね。

資料を誰かが作っている時に、「これ、相手が理解できないとしたら、どんな感じになりますかね?」と一言言うだけでもぜんぜん違う。そういう役割の人を設けておくというのが、1つ考えられるところかなと思います。

そして一方で、先ほど申し上げたとおり、「知識の呪い」は私たちの脳に深く刻み込まれた認知プロセスなわけですね。完全になくすのは非常に難しいというか、我々の認知処理のメカニズムそのものを変えていく必要があるぐらい、難しいわけです。先ほどの説明もあくまで抑制できるという話で、除去できるとか、あらゆる状況で完全になくすという話ではないわけです。

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