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伝わらない理由は「知りすぎている」から:知識の呪いとそのメカニズム(全3記事)

相手への過大評価が引き起こすコミュニケーションのズレ プレゼンや交渉の場でも発生する「思い込み」の弊害 [1/2]

【3行要約】
・「知識の呪い」は、自分が知っていることを相手も知っていると過大評価してしまう現象で、プレゼンや医療現場などさまざまな場面で発生します。
・伊達洋駆氏は「知識の呪い」のメカニズムとして「流暢性の錯覚」を挙げ、情報が頭の中でスムーズに想起される状態では、他者も同じ知識を持つと誤解すると説明します。
・この現象は人間の認知プロセスに深く刻み込まれているため、意識的に対策を講じ、相手の理解度を考慮したコミュニケーション設計が必要です。

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「知識の呪い」はいろいろな場面で顔を出す

伊達洋駆氏:「知識の呪い」は本当にいろいろな場面で顔を出してくるんですね。今からいくつか場面を紹介していきます。まず1つが、情報の可視化です。いわゆるインフォグラフィックスのようなものですね。

この研究はなかなかおもしろくて、実際の実験で、グラフやチャートを用意する。そのグラフやチャートがどういう背景を持っているのかを説明するグループと、ただグラフやチャートを見せられるだけのグループに分けていきます。

背景の情報を事前に与えられると、どこを見ればいいのかがわかりますよね。「グラフのここに注目すればいいのか」「チャートのここの部分を見れば、より良く理解できるのか」が、背景情報があると理解できるかと思います。

ところが、背景情報が与えられたグループは、「この箇所を見ていけばわかる。理解が深まる。きっとみんなここを見るだろう」と、そして「みんな同じような結論にたどり着くだろう」と考えるわけですね。背景情報があるので、「これはもう一目瞭然じゃないか。ざっとたくさんのグラフがある中で、ここに注目したらいいというのはすぐわかるよね」と思ってしまうんですね。

ところが、背景情報を持たない人たちが実際にグラフを見ると、どこに注目したかはそれぞれ違うんですね。当たり前ですよね。背景情報がないので、それぞれの人が注目する箇所が違うわけです。ある人はこのグラフに注目して解釈をする。でも、他の人は別のグラフに注目するというふうに、背景情報を持たない人は、着目の観点がばらつく結果になりました。当然の結果です。

背景情報を持っている人からすると、「みんなここを見るだろう」と思ってしまっている。でも、実際はそういうわけじゃないという、まさに「知識の呪い」が生じているといったことがわかるかと思います。

プレゼンでも「知識の呪い」が発生している可能性がある

こういうこと、プレゼンなどでないですか? 例えば経営層に対して、人事の責任者・担当者がプレゼンをしていくようなシーンで、もしかすると起こってくるかもしれません。

もし部下がいるマネージャーであれば、部下からの説明がとても早くて、「資料にいっぱい書いているけど、どこを見たらいいのかわからない」みたいになってしまうこともあるかと思います。そういう場合には、もしかすると「知識の呪い」が発生している可能性があるんじゃないのかなと思われます。

事前に情報を知っている人は自信過剰の状態に陥る

他にも、このようなシーンでも「知識の呪い」は起こってきます。クイズのシーンですね。あるクイズを行っていくという時に、事前に答えを知っているか・否かでグループを分けていくんですね。

事前に答えを知っているグループのほうが、「他の人もたくさん正解するだろう」と思う傾向があります。それはなぜかと言うと、答えを知っているので、要するに「きっとみんなわかるだろう」と、「知識の呪い」がまさに生じてしまっているわけですね。

ここでプラスアルファでおもしろいのは、「自分の成績は他の人より上だろう」「自分は他の人に勝てるだろう」と自信を抱いてしまう、いわゆる自信過剰の状態に同時に陥るということも、この研究からは明らかになりました。

答えを知っていると、「他の人もきっといい成績を取るだろう。だけれども、自分のほうがもっといい成績ですよ」と思う傾向があるわけですね。

医師と患者、医師と研修医の間で起きる「知識の呪い」

医療現場でも「知識の呪い」は問題視されています。今日、医師の方が視聴されているかどうかはわからないんですが、患者として医師の説明を受けた経験は、多くの人が持っているかと思います。

医師というのは、専門的な知識をたくさん持った専門家なわけですね。そういう豊富な専門知識を持っている医師が、患者や研修医とコミュニケーションを取る時に、相手の理解レベルを過大評価してしまうことが起こります。まさに医療現場における「知識の呪い」です。

医師にとってみると、「要点はすでに説明したよな」と思っていても、実は患者側からすると、治療のリスクとかを十分に理解できていないといった乖離が起きてしまう。

あるいは、研修医に対して教育を行っていく場面でも、「基本的な手順はわかるでしょ?」と思ってしまって省略してしまう。そうすると、実際に処置を行わなければならない時に、基本的な手順を教えられていないので、研修医が困ってしまうといったことが起こってくる。この背景にも「知識の呪い」があるわけです。

交渉の場面でも「知識の呪い」は生じる

交渉の場面なんかでも「知識の呪い」は生じてきます。相手について、例えば資金の状況であったり、どんな制約があるのかだったりと、情報をいろいろ調べて、たくさんの情報を持っている人がいるとします。

そうすると、「相手もきっと自分たちのことを調べているだろう」と思うわけですね。これは相手の理解度を測り誤っているというか、間違っているわけです。「相手の理解レベルはもっと高いだろう」「相手ももっと調べてきているだろう」と思い込んでしまうわけです。

ところが、相手がそういうふうに調べているとは限らないので、お互いの期待に食い違いが生じてしまうんですね。交渉を行っていく時に、相手の理解度を誤ってしまうと、交渉はなかなかうまくいきにくくなってしまうことが明らかになっています。

身近な現象だからこそ対策が必要

また、こうしたシチュエーションもあると思います。職場の中で、例えば上司、あるいは管理職であれば経営層に何かを報告するという時に、相手、つまり経営層は、「かなり背景の知識を持っているんじゃないのか?」と考えてしまうんですね。

そして管理職、マネージャーが経営層に説明をする時に、説明を大幅に簡略化してしまう。「きっとご存じですよね」というような感じで、かなり簡略な説明を行ってしまう。ただ、経営層がその知識を持っているとは限らないわけですね。

過大評価してしまっているケースが多いというのが、「知識の呪い」の怖いところです。そうなると、相手に対して判断材料をきちんと提供できていないということになるんですね。意思決定の精度が落ちてしまうことも確認されています。

このようなかたちで、「知識の呪い」は日常的な場面から仕事の場面、意思決定の場面というふうに、さまざまな場面で顔を覗かせる現象であり、非常に一般的に表れてくる現象だということがわかっていただけたかと思います。

それぐらい身近な現象ですので、「対策を講じていくということが必要なんだ」ということが、ご理解いただけたのではないかなと思います。

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