【3行要約】
・退職プロセスで圧力や引き延ばしなどの不快な体験をした人は多く、「オフボーディング」の重要性が見過ごされています。
・實重遊氏は「退職体験は在籍社員にも伝わり、退職後の関係性や口コミにも影響する」と指摘します。
・退職面談では思いを引き出した上で意思を尊重し、退職日の送り出し方まで含めたオフボーディングの設計が組織改善につながります。
前回の記事はこちら 辞めないよう圧力をかけられ、退職を引き伸ばされる……
實重遊氏:ある人は会社が好きだからこそ、退職をして迷惑をかける人を、そんなにもてなしてはいけないというか、優しくしてはいけないのではないかと。会社へのエンゲージメントが高いがゆえに「裏切り者、会社からこれだけの恩を受けておいて、ふざけるなよ」という声を発してしまう。
それによって退職者の本音は、どんどん引き出せなくなっていきますし、引き留めもできなくなっていくところで、すごく悪影響がある。なので、まずはこのオフボーディングが、けっこう重要なプロセスであることを認識して、社内でどう取り扱うかを決めていく。そんなところが第一歩になると思います。
実際にこのオフボーディングの体験、退職時の体験が悪いという方が、驚くほど多くて。退職時に「退職の意思を伝えてから退職するまでの期間で、不快な思いをしたことがありますか?」って(質問に対して)、我々の調査でいうと、もう過半数が「あります」って答えています。

不快な思いをしたところでは、例えば怒られたとか。辞めないように圧力をかけられた。退職の意思を否定された。希望するタイミングで退職ができなかった。(退職を)引き延ばされた、みたいな話ですね。
そういったところで、実はいろいろな退職の不満があるんですけど。そもそもオフボーディングというプロセス自体が意識されないと、こういった不満の声すらも出てこない。なので各所が属人的に(対応しています)。
あるところでは圧力がかかっているし、あるところでは退職をなんとしてでも引き延ばすみたいな、無理な交渉が行われている。そんな実態すら、つかめていない。オフボーディングという領域は、まだまだカオスな状態なのかなと思います(笑)。
オフボーディングには在籍社員への影響もある
ただここは、けっこう影響が大きいところで。今回のテーマである「退職の本音」を引き出せなくなって組織改善に回らなくなる悪影響もあるんですけれども。いいオフボーディング、不適切なオフボーディングという、すごくラフなまとめ方なんですけど。仮にそれがいいオフボーディングで「退職体験が良かった」と言ってもらえて辞めるパターン。

あるいは不適切で、あるところで「裏切り者」って言っているようなオフボーディングになってしまっているパターンと。どんなことが起きるのかと言いますと、まず退職理由の把握は当然、いいオフボーディングをしていけば、本音を把握できる可能性は上がっていく。
あくまで、ここはすべてできるという話ではなく、可能性の話なんですけど。(いいオフボーディングができていれば)本音を把握しやすくなりますし、「裏切り者」という扱いのオフボーディングになってしまうと、建前しか出てこなくなるでしょうし。
引き留めについても、退職の決定をして、もう「連絡します」みたいな関係性ではなく、本来は「退職も含めて考えています」という相談から始まったりすると、きちんと引き留められる確率も上がっていきますよね。
またいいオフボーディングができれば、在籍社員への影響も、「退職というテーマについても、従業員を大切にする会社だ」と伝播していく。組織に対して伝わっていく可能性があります。
退職時のネガティブ体験は他の社員にも伝わる
一方で、退職体験は他の社員の方もけっこう気にしていたりするので。例えば「この日に、上司に退職相談をしようと思っているんだよね」と、同期に伝わっていて「どうだった?」というところで、ものすごくネガティブな体験をしたら、他の社員の方にも伝わったりするんですね。
そうすると、「じゃあ自分は退職相談をするのではなく、もう完全に(退職が)決まってから当たり障りのない理由を作ってから伝えよう」と、他の社員に対しても影響があったりします。あとは引き継ぎについても、モチベーションを維持して、「お世話になったし、なんとかして他の人にできるだけ迷惑をかけないようにして出ていこう」という意識を持ってもらえるのか。
もしくは、すごく嫌な体験をしたから、そこで引き継ぎのモチベーションもすごく下がって、退職時に「裏切り者扱いされるぐらいだったら、そんなに引き継ぎもがんばらなくていいや」という関係性になってしまうのか。
また、退職後の関係性も、いい辞めさせ方ができていれば、アルムナイとしての会社の資産になるはずですし、退職体験が悪ければ、例えば、「OpenWork」さんとか、口コミサイトに悪評が立つ。そんなリスクすらあるのではないかということで、このオフボーディングの重要性はすごく高いんですけれども、意識されていない。ここを変えていきませんかと。
我々もこのオフボーディング研修とか、オフボーディングのガイドラインを作って、社内に発信する取り組みもやっていまして。そもそも属人的なところから会社が正確なメッセージを投げて、上司の方、マネージャーの方、退職相談とか面談を受ける可能性がある方のトレーニングをしていく。そういったことまでやります。
退職者の本音を引き出す方法
今日のこの時間では少しお話をしきれないところなので、今日は例だけをお話できればと思います。1つ例に挙げると退職面談ということで、今回はパーソル総合研究所さんの研究結果を引用してきているんですけど。

どうすれば、この「アルムナイ意識」って書いてある、退職後の会社へのエンゲージメント、帰属意識みたいなものが高まるのかと。退職後の意識に、ポジティブに何がどういうふうに働くのかを調査した結果ですね。上司の面談で重要なことは、まず2つです。思いの引き出し。丁寧に、どういうふうに退職に至ったのか。何が不満だったのか、どんなキャリアを描きたいのか。
退職に至る思いを、まずは引き出す。ここはすごくポジティブに働く。ただ、その後の関係性ですね。辞めたあともいい関係性でいこうね。また一緒に働けたらいいね。そういった今後の関係性を歓迎する意思表示もポジティブに働くと。

一方で、退職意思の尊重が、マイナスに働くというところも、ここに記載されていて。これはどういうことかと言いますと、思いの引き出しが低くて意思尊重が行われたケースは、実はマイナスに働いていたということです。あまり話を聞かずに「退職するんです」って言われて、「あ、そうなの? じゃあ、いいんじゃない?」という尊重の仕方は、実はすごくネガティブに働いている。
一方で、思いを引き出して、なんで、どんなキャリア観を考えてそこに至ったのか。おそらくこれまでの1on1が実施されていたりとか、上司の方とまずは飲みに行くのでもいいんですけど。そこの信頼関係があれば、多くの場合、そもそものキャリア観とかのお話ができている。その場合は、そもそも退職面談の前に思いの引き出しができている状態かなと思うんですが。
そこの思いの引き出しができている状態で、意思尊重をする。「それだったら、あなたの意思は尊重するよ」「こう考えてたもんね」とか、「こういうところに課題意識を持っていたもんね」ということを十分に引き出した上で、認めてあげる。そうすると、ポジティブに働く。ただただ退職の意思を尊重すればいいというものではなく、そこのヒアリング、傾聴力。
「あなたの退職は会社に対する裏切り行為だ!」って決めつけるのではなくて、大前提(として)ここの引き出しがすごく重要で、どういう考えで退職に至ったのか。そこを引き出してあげることが、まず第一歩としてはすごく重要であると、ここの調査からも出てきたりします。
最終日にどう送り出すかが重要
あとは、引き留めについても、「いやいや、ここでもっとがんばったらいいよ」「最低でも3年、5年はやらないといけないよ」と、ただただ引き留めるメッセージではなく、この思いを引き出した上で、じゃあ「それをできるポジションがあるよ」「この部署に異動したらいいんじゃないか」。まぁ、ここで自分がこういう関わり方をしたら、それはもしかしたら実現できるんじゃないか。
そういった思いを引き出した上で、的確なカウンターの提案ができる。そんなふうになれば引き留めの確率も上がっていくでしょう。一方で、思いの引き出しが不十分なまま「よくわからないけど、まだまだもっとがんばったほうがいい」という提案になってしまうと、これもまたおそらくネガティブになってしまう。このあたりの設計については十分にガイドをしていくことが重要ですね。
またこれはちょっと文字が小さいので触りだけですが、他にも退職面談だけがオフボーディングではないので。退職のプロセス全体を、退職の意思表明時にどういうふうに扱うべきなのか。上長との面談時にどういうふうに扱い、退職が決定して引き継ぎ期間は、どういう対応をするべきなのか。そして最後、退職日。

これも実は最後にエレベーターまで見送ってくれたかどうかとか。普通に「お疲れさまでした」という、なんかあまり日常と変わらない最終日になってしまったとか。これだけでも退職後の印象とか、会社への思いはけっこうガラッと変わったりするので。退職日は最低限こういう対応をしようよと。
贈り物をどうするかとか、そのあたりは属人的でもいいけれども、最低限はエレベーターまで見送るのは共通ルールにするとか。そういったことは考えてもいいのかなと思います。こういったかたちでオフボーディング全体を設計して、ガイドラインを作り、そこの最低限こうあるべきとか、ここまではやりましょうというガイドを研修等を通じて社内に浸透させていく。そういったオフボーディングの見直しが、今必要になっていると。
そして、それ(オフボーディングの見直し)をすることによって、ネガティブな口コミが生まれたりとか、本音の退職理由も把握できなくて終わってしまう関係性から、ポジティブな関係性を退職後も築いていき、またきちんと本音を言ってくれて、そこから同じような離職を防いでいく。もっと早くケアしていく。適切な引き留めによってそもそも退職を減らしていく。そういったことも有効になっていきます。