【3行要約】・健康経営の実現には従業員の充実感が不可欠ですが、多くの職場では目標の曖昧さや上司の指示に振り回される環境が問題となっています。
・笠井康多氏は「フロー体験に入れない条件付けがされている仕事」が健康経営を脅かすと分析し、freee社では3ヶ月評価を導入。
・組織は明確な目標設定とフレキシビリティのバランスを保ち、従業員が没入できる環境を整備することが重要です。
前回の記事はこちら 「健康経営」を脅かす組織のサイクル
司会者:時間も押しているので最後の3つ目のテーマにいきたいと思います。今回「健康経営Fes!」ということで健康経営がテーマにあるので、それをここでもお話しができればなと思って(テーマを)持ってきております。「何が『健康経営』を脅かしている??」というところです。
健康経営とは何かも踏まえながら。どういうところに課題があるのか? また連続になってしまいますが、安斎さんからお願いできますか。
安斎勇樹氏(以下、安斎):わかりました。「健康経営とは何か」という議論はいろいろあると思うんですけど、人間の健康は何に脅かされているんだろうと考えた時に、たぶん多くの人は「健康になりたい」と思っていると思うんですよね。
だけど疲れたからストレス発散のために酒を飲んじゃうとかね(笑)。「こんなに上司に詰められたんだからタバコぐらい吸わせてくれよ」とか言って吸ってしまうとか。
健康はすごく中長期的な営みなんだけれども、人は短期的な快楽とか欲求に勝てないという、時間軸のズレみたいなものが健康を脅かす原因じゃないかなと思っています。
たぶん健康経営というのも「がんばったら翌日に健康経営ができました」みたいなものじゃなくて、けっこう長い目で評価されるもので、基本的には中長期的な投資だと思うんですよね。
だからたぶんこれを脅かすのは、もっと短期的な何かだと思っています。それこそお酒とかタバコみたいに「わかっちゃいながらやってしまう」ものと同様に、短期的な依存症みたいなものがたぶん組織・ビジネスにもある。
それが会社によって違うんでしょうし、長い目で見たらわかっているんだけど「競合との今のこういう危機的な状況で、ここはこうやったほうが、いったん顧客の会員数を回復できる」とか「今いったんこうやったほうがエンゲージメントスコアを回復できる」とか(笑)。
そういう短期的に問題を解決してドーパミンが出て「あっぶねー」みたいな(笑)、そういうある意味、成功体験にとらわれている。「徹夜でがんばったらテストの点数が良くなった」というのが成功体験になっているから、コツコツ勉強できなくなっちゃうみたいなのと同じだと思います。
そういう短期的な問題解決とドーパミンサイクルの依存症みたいなものが、けっこう中長期的な健康経営を脅かしているんじゃないかと思いました。
目標があいまい、チャレンジできない、上司の指示に振り回される…
司会者:なるほど。笠井さん、いかがですか? 今の意見もありつつですけれども。
笠井康多氏(以下、笠井):健康というものをどうとらえるかですけども、私自身はやはり自分が「充実した人生を送っているな」と思えていること自体がすごく大事だと思うんですよね。身体的な健康ももちろんそうですけども。
そう考えると、さっきからずっとフロー体験にこだわっちゃいますけども、結局フローに入る条件がある。そうじゃない、つまりそれに入れない条件付けがされている仕事が、健康経営を脅かすんじゃないかなと思うんですね。
例えば目標が曖昧である、チャレンジできなくてずっと同じ仕事をさせられている。さっきの難易度がちょうどよくないという話とか、自己目的的じゃない、つまりやりたくてやっていないとかですね。あとは自分がコントロールできない、常に上司の指示に振り回されるみたいな話とか。
今挙げたような仕事をずっとやっていたら絶対健康になれないじゃないですか。そういったところが結局、フローを妨げて健康を脅かしていると思っています。なので、例えば会社としては目標設定とかの要素をしっかり埋め込んでいく。そして、なるべく多くの人がフローを体験できるようなかたちで組織を運営していくことが、結果として健康経営につながっていくんじゃないかなと思っています。
司会者:なるほど。
評価は四半期に1回行う
安斎:ちょっとお聞きしてもいいですか?
笠井:はい。
安斎:めちゃくちゃ共感しています。あとチクセントミハイのフロー理論をめちゃくちゃ繰り返し引用されていて、実は僕もフロー理論がすごく好きなので興味深いなと思ったんですけど(笑)。
フロー理論の条件の1つに、人間がフロー・没入する時に「時間感覚が喪失している」ことが挙げられるというのは、チクセントミハイが指摘していると思います。あと今僕が前段でお話ししたとおり、中長期的な営みに対して短期的なドーパミンサイクルみたいなものが入りすぎると依存症になっちゃう。
そういった時に、フリーさんが評価サイクルを四半期にしているのはすごくおもしろいなと思っています。これも下手をすると「終わったと思ったらまた次の……」みたいな感じになって、疲弊してしまいかねない部分もあると思ったんですけど。フローを保つ、健康経営を保つんだけど、評価は四半期に1回という、これをうまく不健全な方向にならないように工夫しているんですか?
笠井:基本的には、短期のサイクルで走り続けることは非常に負荷が高いんですよね。走り続ける人もそうですし、走り続けてもらうために四半期ごとに目標を設定して、フィードバックをして評価をしてという、これをやるシステム自体も非常に負荷が高いところがあります。
「結果としてそれは健康につながっているね」という強弁も当然できるんですけども、一方で我々は「やっぱりいきすぎるとダメだよね」ということで、フレキシビリティを非常に大事にしているんですね。
原則「週5出社」を続ける理由
笠井:実は我々ビジネス職は今、原則週5出社なんですね。今は出社回帰が進んでいますけれども、けっこう前から週5出社でやっています。これはやはりすごく反発もあったんですね。当然そうだと思います。
リモートになったことで家での仕事の分担とかがどんどん変わっていって、それをそのまま維持できないみたいなところがあったんですね。でもやはり我々はミッションを実現するためにここにいて、我々はまだまだ道半ばだから、顔を合わせて議論することが大事だよねということでやりました。
一方で、それは形だけではぜんぜん意味がない。当然「今日は通院するので在宅します」というのは常に発生していて、いかにフレキシビリティを担保するかが日常でも大事です。例えばしんどい時に「ちょっとスローペースにしたほうがいいよ」とか、現場、現場で状況に合わせて緩めることが大事。
それはあんまりルールとかでできるものではないので、いかにそういったことを当たり前に、現場の「ジャーマネ」がしっかりケアして差配していくか。そういった土壌をつくっていくことが、両立させていく上ではすごく大事だなと思っています。