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働くをもっとオモシロク、仕事が「冒険」になる組織とは? 〜 自分らしく成長できる“土壌”のつくり方 〜(全5記事)

社員を道具のように扱う軍事的組織から脱却するヒント トップダウンでやってきた世代の価値観のシフト

【3行要約】
・AI時代において「働く意味」を見出すことが難しくなっているが、人間にしかできない領域も残されています。
・笠井康多氏と安斎勇樹氏は、AIには反復作業を任せ、人間は「問い」の設定や好奇心を活かした仕事に注力すべきだと提言。
・個人の歪んだレンズ(独自の視点)を大切にし、AIに代替されない自分だけの価値創造を追求することが重要です。

前回の記事はこちら

AI時代、「働く意味」をどこに見出すか

司会者:次のテーマが、時代的なテーマでの成長とか、組織みたいなところです。「AIが仕事を代替する時代に、人は“働く意味”をどこに見出す?」ということで、今AIのすごいテクノロジーが台頭している中で、どういう働き方・生き方をするといいんだろうか、みたいなところで言うと……さきほど安斎さんからうかがったので、笠井さんからお願いします。

笠井康多氏(以下、笠井):これも非常に難しい問いで(笑)、我々の会社も当然AIを使ってユーザーさんの業務をいかに効率化するかは常に考えているんですけども。先ほど私がフロー体験というところを出しましたが、あれは結局自己目的的ということで、それ自体がおもしろくないといけないという話なんですけども。

仕事は当然、おもしろい仕事ばかりじゃないんですよね。やはりやらなきゃいけないことがあって、それを削減したいというのが我々のミッションなんですけども。やらなきゃいけないことをいかに小さくしていくかというのは、仕事で喜びを感じるぐらいすごく大事だと思っています。

まずAIと人間の役割分担というのは、つまり「おもしろくないことをやってもらう」ということだと思うんですね。今のところAIの得意なことはやはり反復。一定のルールが決められていないと、なかなか仕事に応用できないところがあります。

そういう、人がやらなくてもいい、人がやったらあんまりおもしろくないことをAIにしっかりやってもらって、自分たちはおもしろいことをやる。じゃあおもしろいことって結局何かというと、先ほどからあるとおり「問い」みたいな話なんだと私は思っています。

結局何がしたいんだっけ、そこにおいて何が課題なんだっけ。自分たちは何に取り組むべきなんだっけということを設定していくのは、今のところやはり人間にしかできません。そこを設定できるところが、自分がそれをおもしろがれるかどうかの分岐点だと私は思うので。

そういった何かを生み出す時に必ず必要な、出発点とか上流の工程をしっかり人がやっていく。そこに楽しみを見出して、AIを使ってパワフルに実行していくのが大事なんじゃないかなと思っています。

人間に残されるのは「好奇心」を活用すること

司会者:ありがとうございます。この問いに対して、安斎さんはいかがでしょう。

安斎勇樹氏(以下、安斎):この問題は、どれぐらいのスパンで考えるのかによっても変わってきそうですけどね。最近はこの問いについてはいろんな意見があって、落合陽一さんとかは「もう人間には意味がないんじゃないか」みたいなことを言っていたりしますけど(笑)。

(一同笑)

安斎:いろんな意見があるんですが、でもおっしゃったとおり「おもしろい」みたいな、好奇心はすごく大事だなと思っています。機能的な意味での知的生産みたいなものは、やはりどんどんAIに適わなくなっていく時に、人間に残された重要な資源はもう好奇心しかないんじゃないかと思っています。

人が短期的に知的生産とか問題解決とか処理とか、そういうふうにやっていくとたぶん……今はまだ人間が代替されない仕事はたくさんあると思うんですけど、2年後、3年後は「中間管理の調整作業は、だいたいAIエージェントでできるよね」とか。

「商品開発のアイデアを出すのは、マーケターじゃなくてAIに頼んだほうがいいよね」と、価値創造レベルでもどんどん「AIのほうがアウトプットが良いよね」となっていくと思うんですよね。

実は僕も最近、文章だけは負けないと思っていたけど「Geminiのほうが良い文章書くな」と、だんだん負けを認めつつあるんですよね。

(一同笑)

誰もが「歪んだレンズ」を持っている

安斎:なんですけど、やはり自分の好奇心は萎えない。何をおもしろいと思うかは、これまでの人生を生きてきた自分の、いびつなレンズみたいなものが一人ひとり違うわけじゃないですか。

僕のレンズはもうすごく歪みまくっていて、たぶんみなさんのレンズも相当歪んでいると思うんですけども(笑)。一人ひとり歪んでいると思うんですよね。だってここだから言いますけど、「冒険的世界観」とか「軍事的世界観」とか言っているじゃないですか。

なんで僕がこんなに軍事的世界観に怒っているかを辿ると、僕は小学生の頃に、お父さんに海に連れて行ってもらった時に溺れたんですよ。溺れて、水が頭にかかると怖いぐらい泳げなくなってしまったんですね。

で、僕は泳げないんですけど、体育のプールってめちゃくちゃ泳がされるじゃないですか。僕、人生の中で一番恨んでいるのが体育の水泳なんですよ。あれが本当に許せなくて。

考えただけでもいまだに「なんであの時、泳げないし泳ぎたくもないのに、自分が25メートルすら泳げないスキルが可視化されて、毎週泳がされていたんだろう。腹立つ」って。辿るとあの軍国主義的な教育で、「軍事的世界観か!」みたいな感じで(笑)。

(一同笑)

安斎:だから僕がその本を書いた理由は「体育の水泳が嫌いだったから」なんです。

笠井:なるほど(笑)。

安斎:この問題にこんなに怒れるのはたぶん、あの時泳げなくて歪んだレンズを持っている僕ぐらいしかいないんじゃないかと思っていて。そういうフラットな問題解決とか価値創造という面で見ると、たぶんAIで代替する・代替しないという問題自体がナンセンスになっていくと思うんです。

あなたは世界をどうとらえたくて、何におもしろいと思ってしまって、AIに代替されようがされまいがどんなものをつくっていきたいのかということが、すごく問われる時代になっていくんじゃないかなと思いますね。

トップダウンでやってきた世代が直面する壁

司会者:なるほど。透明書店もフリーがやっているというのもあるので、AIを取り入れるとか、テクノロジーをどう取り入れるかみたいなことはすごくやるんですけれども。書店員がやりたいことは人によって違うから、接客をやりたい人は接客をやる。

けど今は「接客の補助をします」みたいなクラゲ副店長がいるんですけど。「私は別に任せなくても接客をやりたいです」ならすればいいし、「私は選書に力を入れたいんだ」といったらすればいいし、みたいな。

やりたいこととやりたくないところは、たぶん人によってもぜんぜん違うでしょうから、そのあたりは「これがAIの仕事で、これが人の仕事だ」と決められないような気はするなというのは、リアルなビジネスをやりながら思うところではあります。

フリーとかもけっこう、会計とか人事労務とかで「こういうのは任せるけど、これはむしろやりたいです」とか、選択の余地があるとすごく思っていますね。ありがとうございます。

3つ目のテーマもありつつ、ちょっと質問ももう1回見てみようかなと思います。軍事的世界観のお話に戻るんですけれども。

「軍事的世界観が中心の世代が、冒険的世界観へのシフトに苦労している姿を社内で見かけます。彼らも冒険的世界観の仲間になるには、何から始めたらいいのでしょうか」というご質問が来ておりますね。

安斎:じゃあ、これは私が。変化しようと苦労されている、試行錯誤されている様子が出ているって、めちゃくちゃ良い状況ですよね。上の世代はもう軍事的世界観のまま変わる気がないとか、防御して鎧をまとって分断が生まれてしまって、みたいな話も聞くので。

ただこれが難しいのが、僕は体育の水泳が嫌いだから軍事的世界観に怒っちゃったんですけど(笑)。これまでのビジネスとか経営を支えてきていた世代を批判すべきでは、まったくないと思うんですよね。

経済成長を支えてきて、時代に合わせて良いものをたくさんつくっていくといった時には、やはりトップダウンマネジメントをどれだけちゃんとやっていけるかがすごく重要だったわけです。

なのでそこで生まれた戦略の考え方とか戦術の考え方とか、プロダクトを改善していく効率的な考え方とか、いろんなテクノロジーやノウハウは冒険の重要な資源というか、資産になります。

軍事的世界観を突き詰めると人間も道具になる

安斎:軍事的世界観で何が問題かというと、軍事的世界観を突き詰めていくと究極「人間も道具になってしまう」ということです。人間は組織に過剰適応すべき存在で、人が何がやりたい・やりたくない、それこそ選書がしたい・したくないは関係ない。

「選書が得意なあの人にやらせるべきだ」とか「それはAIのほうが得意なんだから、お前がやりたいと言ってもやるべきじゃないだろう」と、人間がネジや歯車のように合理的に扱われきってしまう状態が、軍事的世界観に傾倒しきった状態。

だとした時に、ついついトップダウンに考えてしまう人とか、ついついロジカルにフィードバックしてしまう人は別に批判されるべきではなくて。そういう人たちの英知を結集しながら、それこそ「人間の好奇心とか自己実現欲求とかがないがしろにされない職場をつくるにはどうしたらいいか」という問いに、みんなで向き合えばいいと思うんです。

だからそういう意味では一人ひとりが何をおもしろいと思っているのか、何をおもしろくないと思っているのか。それこそ僕みたいに体育の水泳がムカついたみたいな、そういうレンズの歪みみたいなことも含めて職場でシェアする。

そういうのが目の前でやっている仕事と一人ひとり結びつくといいよねという共通見解のもとで、仕事のアサインだったりチームのあり方だったりに向き合うといいんじゃないかなと思います。

大きい問題にとらえすぎないほうがいいんじゃないかということで、本の後半で実はそういうチームビルディング論とか「自己紹介が足りてないんじゃないか」とか、足元の話も書いているんですけど、そんなところですかね。

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