【3行要約】
・会社中心から人生中心へとキャリア観が大きく変化する中、従来の組織変革手法が通用しなくなっています。
・『冒険する組織のつくりかた』著者の安斎勇樹氏は、80年続いた軍事的世界観の終焉と新たな組織論の必要性を提唱。
・リーダーは危機感を煽るのではなく、不確実な世界で好奇心を資源に価値を探究する組織づくりへの転換が求められます。
『冒険する組織のつくりかた』著者の安斎勇樹氏が登壇
安斎勇樹氏(以下、安斎):ここから僕のパートということで。今回『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』という本を1月に出版しまた。その内容も少し紹介させていただくかたちで話題提供できればと思っております。
最初に自己紹介すると、私は安斎勇樹と申します。MIMIGURIという80人ぐらいのベンチャー企業なんですけれども、フリーさんのようにプロダクトをたくさんつくって事業を多角化していき、部門もそれに合わせて多様化していくと、部門間の問題だったり部門横断の問題だったり、いろんな組織の問題が起きていく。その中で、そういった大きな組織の組織コンサルティングを得意としている会社を経営しております。

もともとのバックグラウンドとしては、大学院でずっと研究をしていました。人間の創造性とか集団のコミュニケーションをずっと研究して、博士論文を書いて、そのまま大学の研究者になったところがキャリアのスタートなんですけれども。
大元は組織というよりは、どちらかというと人の創造性の本質に迫っていった結果、「問いってものすごく大事だよね」というところに行き着きました。代表作として、2020年に出した『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』という本が今7万部のベストセラーになっています。
『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』という本を2021年に出版して、こちらも今4万部とヒットしています。「問い」をどうやって集団のコミュニケーション、会議、1on1、あるいは組織づくりに活かしていくのかをずっと研究していたんですね。
なので、どちらかというとファシリテーションとか、そういう領域で20代、30代の頃は活動をしてきたんですが。今回は『冒険する組織のつくりかた』ということで、初めて組織論について(書きました)。
MIMIGURIとしては主な専門領域になっていた問いや創造性というものを、どうやって組織の日常に溶け込ませていくのか。そういったことを探っていったかたちで『冒険する組織のつくりかた』という本を出版しました。
これまでの経営論やマネジメント論は、あまりにも軍事的
安斎:今回もしかしたらチケットにこれ(『冒険する組織のつくりかた』)をつけて買ってくださっている方は、今(本を)お持ちの方がいらっしゃいますか?
(会場挙手)
安斎:ありがとうございます。「こんなに大きいんだ、鞄のサイズ間違えたな」という方がいらっしゃったら本当に申し訳ないんですけれども、448ページとめちゃくちゃ分厚い本になってしまって。
今、本が売れない時代でたぶん書店さんは大変だと思うんですけど(笑)。新書とかのほうが売れるんですよね。今どんどん小さくなって薄くなって、1,000円ぐらいの安い本が売れる時代なんですけれども、逆張りで分厚い448ページ、ビッグサイズ。
しかも2,640円みたいな本を書いたところ、思いのほかみなさん買った時にぎょっとして、「でかっ!」とか言って写真付きでXにつぶやいてしまうという。意外とSNSマーケティング的には良かったかもなと思っているんですけど(笑)。それぐらい大きな本になっています。
サイズだけじゃなくて、ここで掲げている問題意識も非常に大きな問題意識になっています。この本に『「軍事的世界観」を抜け出す』というサブタイトルをつけさせてもらっているんですけれども。
私自身がずっと研究や経営をしてきて、さまざまな大企業やベンチャー企業さんのコンサルティングをさせていただく中で、これまでのビジネスとか経営論の根底にある今一番の課題って何なんだろうなと考えた時。「これまでの経営論とかマネジメント論があまりにも軍事的、戦争的な考え方に傾倒しすぎていたんじゃないか」ということが、僕が今一番根底で感じている問題意識なんですね。
1940年代から広まった「ビジネスは戦争である」という考え方
安斎:「戦略」「戦術」という言葉を使わずに明日から仕事するのは無理なので、これを捨てましょう、というのは無理なんですけれども(笑)。この言葉に代表されるように……あと「VUCA」「ロジスティクス」とかも軍事用語ですしね。
僕もCEOを名乗っていますけど「チーフオフィサー」なんて、めちゃくちゃ軍事用語ですしね。こういうのがこびりついている。おもしろいのが1930年ぐらいまで、誰も戦略とか戦術なんて言っていなかったんですよ。
ところが1940年代の中盤、つまり第二次世界大戦が起きているようなタイミングで、「戦争で軍隊を束ねて領地を奪い合う」という活動と、「ビジネスで怠惰な従業員を束ねて、生産性を上げて競合と戦ってシェアを奪う」って、ものすごく似ているなということに気がついた。
戦争はものすごく予算が投下されて、大きな戦争が起きるといろんなノウハウが発展するんです。それこそ銃を持ったこともないような兵隊のモチベーションをどうやって上げて、どれだけ短期間で殺傷能力の高い兵隊に育てるか、みたいなトレーニングのノウハウが、どんどん開発されるわけです。で、「これ、部下育成にめちゃくちゃ使えるじゃん」と。
みなさんもマネジメント職の方は、研修でフィードバックのやり方とか習うと思うんですよね。フィードバックというのは部下が何かをやらかしたら、なるべく早く時間を空けずに呼び出して、証拠を集めて、密室で耳の痛い話をちゃんと通達して「行動を改善しろ」と(伝える)。
「行動が改善していないと成長とは見なさないんだ」みたいなことを習うと思うんですけど。あれのルーツを辿ると、兵隊を育てる時の理論がそのまま転用されていたりするわけです。
「会社中心」から「人生中心」へ…キャリア観の変化
安斎:こういうのがあるわけなんですけれども、この話をこれほど大げさにうわーっとしゃべると、ご年配の経営学者の方とかは「いや、君は何を当たり前のことを言っとるんだ」とか言うわけですね(笑)。
ところがこの話をZ世代の若者にすると、「えっ、怖。キモ」とか言うわけですよ(笑)。それぐらい価値観のギャップみたいなことが生まれていて、やはり今大きく変わっている。
これまでの80年間はこれで良かったと思うんですよね。経済成長とか、いろんなものが安く手に入る社会を実現する上では、バチバチ競争してくれていて、大量生産していたほうが良かったと思うんですけれども。
今はやはり仕事、働く、キャリアの考え方がすごく変わっていますよね。一昔前は基本的に「良い会社に入って、なるべくその会社で出世していく」ということが家族を食わせるために大事な戦略だった。そう考えた時に、そこにどれだけ自分をアジャストしていくのかが大事。

そこで「何がやりたい」とか「やりたくない」みたいなことは、「そんなことは職場に持ち込むもんじゃない、仕事というのはそういうもんじゃないんだ」みたいなところで、どうやって食らいついていくか。会社中心のキャリア観みたいなものが賢いやり方だった。
どちらかというと今それは崩壊していて、人生100年時代。100年続く人生の中で、定年後はめちゃくちゃ長い。しかも兼業、副業、リモートワーク、いろんな働き方が許されて、いろんな選択肢がある中で、1つの会社で長く働いても給料が上がるとは限らない。
そういう状況の中で自分の人生というものがあった時に、「どうやったら自分の人生は幸せなんだろう。自分は都会で暮らすのがいいのかな、地方がいいのかな」「リモートワークがいいのかな、出社しろって言われているけど辞めようかな」とか。いろんな疑問がある中で、会社という構成要素がその輪の中に入っている。
そういうふうに「人生の中に会社がある」みたいなかたちで、まさに天動説、地動説並みに、キャリアの中心軸が入れ替わっているわけですよね。
組織変革のためには「従業員の危機感を煽れ」
安斎:1980年ぐらいの組織変革論の教科書を読むと、全部の教科書に共通して「ステップ1:組織を変えたければ危機感を煽れ」と書いてあるんです。
つまり「このままだとこの船は沈むぞ」と言って、従業員の危機感を煽らないとあいつらはピンとこないんだ、変わらないんだということが書いてあるんですけれども。今それをやるとどうなるか、想像がつきますよね。明日、みんな辞めていくわけですよ(笑)。
しかも静かな退職で「あれ、いなくなった?」みたいな。で、何かが届いているような感じで(笑)、気づいたらいなくなっていたりする。これはやる気がないとか根性がないとかじゃなくて、これぐらい価値観が違うという話なんですよね。
そういったかたちで、人がいったい何のために働くのかということが、個人のキャリアレベルでも組織のレベルでも、会社経営のレベルでもプロダクトづくりのレベルでも「これって何の意味があるんだろうか」ということが、非常に問い直されている時代にあると思っています。
長く続いた軍事的世界観が終焉し、「冒険的世界観」とでも呼ぶべき、この不確実な世界の中で好奇心を資源にしながら新しい価値を探究するような価値観。そういうものが、キャリアの目線でもビジネスの目線でも組織の目線でも大事になってきているんじゃないか。
もはや「短期的な成果のため」では組織がつくれない
安斎:そうするとマネジメントとか組織づくり、経営というのは、これまでは偉い偉い大将軍、王翦将軍みたいな人が「この戦争はこうやって勝つんだ」と決めたら、その戦略・戦術を右翼の軍勢、左翼の軍勢にもちゃんとインストールしてやらせきることだったんですけれども、(今は)そうではなくて。
経営も悩んでいるし、マネージャーも悩んでいるし、みんな悩んでいる。若者も悩んでいる、シニアも悩んでいる中で、ちゃんと「会社としてどうなっていくんだろう」というミッションをみんなで長い目線で探究しながら、一人ひとりのキャリアも人生100年時代に探究していく。
これを共鳴させていくのがマネジメントだよねと、組織づくりとかマネジメントの考え方を切り替えていかないと。まさにおっしゃっていただいた「土壌を耕す」ような組織づくりに切り替えていかないといけない。
拙速で短期的な、成果のために目の前のことだけやるんだとなってしまうと、組織がつくれなくなってしまう。そういったことを含めてこの『冒険する組織のつくりかた』を書かせていただきました。
今日は細かい話はしませんが、具体的に目標設定をどうやって変えていけばいいんだっけ、チームづくりをどうやって変えていけばいいんだっけ、会議のやり方はそれでいいんだっけ、とか。それこそ成長というもののとらえ方もどう変えていくといいんだろうかとか、そういったことを切り替えていく処方せんを示しているのが、『冒険する組織のつくりかた』という本になっております。
今日買っていただいた方、ありがとうございます。ぜひ興味があれば読んでいただければなと思っております。こんな話を下敷きにしながら、このあとディスカッションできればと思っております。
(会場拍手)