【3行要約】・短期的な成果と長期的な育成の両立は難しく、多くのマネージャーがプレッシャーに引っ張られて短期志向になりがちです。
・高橋浩一氏は、メンバーの状態をABCDの4タイプに分類し、それぞれに最適な介入方法があると指摘しています。
・マネージャーは「ブランコ理論」を実践し、どちらかに極端に振った後、弊害が見えたら反対側に振ることで、組織に最適なバランスを見つけていくことが大切です。
前回の記事はこちら 「短期的な業績アップ」VS「長期的な仕組み作り」
高橋浩一氏:さて、じゃあ、「指示する」「任せる」のところはいきましたので、次は「短期的な業績アップ」と「長期的な仕組み作り」の話にいきたいと思います。

難しいのは、長期目線で取り組もうとしても、短期目線のプレッシャーに引っ張られやすいんですよね。直近の業績向上に対するプレッシャーもありますが、かといってマネージャーとしては長期目線で取り組みたいと思うじゃないですか。
人間関係をしっかりと盤石なものにしたいとか、メンバーの考える質を上げたいとか、行動のレベルアップをしたいとか、ありますよね。でも、短期のプレッシャーに引っ張られることはままあります。

さて、そこでどういうふうに判断していったらいいのか。まずどっちに振るかです。今すぐの成果が死活的に必要なんだったら、これは文句なく「短期的なアップ」を極端なほうに振るというわけです。経営層の期待が直近の成果を重視するんだったら、やはり「短期」からいったほうがいいでしょう。
「リソースに余裕があるか?」。余裕があるんだったら、今度は長期のほうからいく。さらに「学習する文化があるな」と思うんだったら長期のほうから振るみたいな感じで、目安を設けておくといいんじゃないかなと思います。
モニタリングのマネジメントPDCA
では、短期的な業績アップのほうからいきたいと思います。モニタリングのマネジメントPDCAということですが、業績ですからやはり数字を見るわけですね。
受注の進捗を見ていって、例えば「売上はどうかな?」「期待収益はどのくらいかな?」「パイプラインはどのくらいかな?」と。
期待収益は、例えば確度が50パーセントだったら2分の1で計算する。確度が30パーセントだったら3分の1で計算していって、今見えている案件の積み上げを期待値換算したものになります。パイプラインは、それを期待値の考え方ではなくて、「いくら分ぐらい積まれているか?」と直接的な数字を見るということじゃないでしょうかね。
ただ、それを見てもあくまでも結果を見ているっていうことにしかならないですから、結果に対するプロセスも見る必要があります。内訳やプロセスということで、フェーズアップが順調に進んでいるかとか、新規商談が安定的に作られているかを見ていくわけです。
「商談をピックアップして介入する」というのは、大事な商談が止まっていたら状況を見て介入する。
そして「アクションとか優先順位を指示する」。「このお客さまに行って」「この案件をちゃんと進めておいて」「今日このお客さんに電話して」とかがちゃんと合っているかどうかを見ていくということですね。
商談の更新状況を見ていったり、受注・失注パターンを見て、ある種の答え合わせをしていくことになります。短期的な業績アップにちゃんとフォーカスしようと思ったら、ここをきちんと見る必要があるわけです。

さらにこれを見て、メンバーごとの状況を見て介入していきます。(スライドを示して)まずこの矢羽根記号の連続を見ていただくと、「売上の目標が見えている」「パイプラインが潤沢に積まれている」「商談が前進している」「商談を作れている」「商談を作るための行動量が十分である」。これはだんだんブレイクダウンしています。
全部「○」なAさんは、もう任せていいわけなんですが、Bさんのような人もいます。プロセスとしてはまあまあ悪くない。受注までもうちょっとだったら、重要案件のクロージングを助けてあげましょう。
そしてCさんですね。パイプラインが足りないというやつです。パイプラインが足りなかったら何をする必要があるか。でも数字の達成が厳しいわけですから、こういうCさんみたいな人は「将来に向けて案件を作るのか、あるいは目の前の案件をクロージングするのか?」という優先順位がすごくデリケートな状態にあります。ここに介入すると。
Dさんみたいな人は、商談がそもそも進んでいない。これはまずいですね。商談がそもそも進んでいないとなったら、けっこう強めに介入して、同行したり商談レビューを積極的にやっていく。
商談をそもそも作ることすらできないという場合は、まず商談を作りましょうと。あるいは、今期は大丈夫なんだけど、今後に向けて不安材料があるんだったら、次の期の話をしましょうということになります。

こういうことをやって業績にフォーカスを当てていくと、先ほどのABCDのKPIを見ながら行動の量と質を見て、そこに対する改善指導をしていくことになります。
ここで、みなさんAの像を目指したがるんですよ。行動の量も多いし質も高いAの像を目指したいわけです。じゃあ、Dゾーン、Cゾーン、Bゾーンにどうしていくかをこれからお話をしていきます。
過去データの分析で「こうしたらいい」が見えてくる
ますDゾーンは行動の量も少ないし質も低い人ですよね。となったら、期待値とか基準をけっこう下げてあげないといけないわけです。基準をある程度下げてから数を増やしていくことになります。もともとDにいた人が成長すると、Bに行くことになります。

一方でCゾーンの人は、質はまあまあ高いです。ただ量が少ないです。ということは、量をやってもらう必要がありますよね。
ただし「どのくらい足りていないの?」ということをある程度ロジカルに算出する必要があります。でないと、本人がやっているつもりだったら行動しないですからね。「今の受注率を考えると何件必要だね」とか、あるいは訪問先データを見て「ここには接触していないね」みたいなことを言ってあげるということです。
そこに対してリストを確認していったりしながら、ちゃんと活動をフォローしていくということです。ちょっとお尻を叩くみたいな感じでしょうかね。

お尻を叩くだけではダメなのはBさんです。Bさんは質が高くない。量はけっこうたくさんやっているけど、ただ質が高くないという人に対しては、率を上げるための指導が必要です。
これは、過去における接戦の失注・受注のデータ分析から「こうしたらいい」ということが見えてきます。こういったことを見て、直接的に介入する。このあたりの世界観が短期的な業績アップの話です。
これがみんながAゾーンに行ってくれればいいわけですが、全員がAゾーンとはいかなくとも、数字に関しては安心して見られるってなったら、長期の仕組み作りに時間を振ったほうがいいわけです。
長期的な仕組み作りの根幹は人材育成
長期的な仕組み作りの根幹は、やはり人材育成にあります。人が育ってくれば、メンバーのパフォーマンスが上がってくる。
(スライドを示して)ざっくりお話しすると、左から右に営業のレベルがあり、縦に必要なスキルの要素分解があり、どういう状態かが記述されています。こんなふうになっているスキルマップです。そのうちの特定のスキルを引っ張り出してきて、スキルアップの手段を整えていきます。

まず商談の序盤で、一方的な話にならずに、ちゃんと双方向に会話を展開する。これ、大事ですよね。それができるようになるためにレベルが5段階あり、理想、どのぐらいできたらいいのかということを定義します。
そうしたら、レベル2から4をある程度、そんなに厳密でなくてもかまわないのでセットしてあげて、あとはこれに関して練習とかテストとか教材を充実させていく。こういうのって、目の前の数字を追いかけていると、なかなか手がつけられないですよね。

育成の話をしましたが、ツールを整備するのもやはり長期的な仕組み作りになります。「みんながこれを参照して仕事を進めていく」みたいなものだったり。

あるいは便利なツール集、例えばお役立ち情報資料集とかがあるとメンバーは助かりますよね。こういうのを整えていくような話が長期的な仕組み作りの話になります。
だいぶ違いますよね。短期的な業績アップはとにかく数字を見る。長期的な仕組み作りは、直接的な目の前のことじゃなく、今すぐに役立つわけじゃなくて、将来役立つことをしっかり整えていくという話です。
極端にやり、弊害が見えてきたら逆に振る
これをどう見極めていったらいいのかっていうことなんですが、短期的な業績アップをやっても、やはり限界が出てくることがあります。
とにかくクイックウィンを連発しても持続しないとか、メンバーが燃え尽き傾向にあるとか、プロセスがブラックボックス化しているとか、あるいは改善提案が定着しないみたいに長期的なことに手を付けたほうがいいんじゃないかなっていう気配が見えてきたら、長期的なほうに振る。
一方で、長期的なことをやり続けているうちに、焦りが募ってきたり、ステークホルダーのプレッシャーが高まっていったり。あるいは時間とお金をちょっと使い過ぎたとか。あるいは波に乗れていない。長期的な仕組み作りをやっている最中は、目に見えて反応が起こらないこともあったりします。そういう時は、短期的な業績アップに振ることも検討するということです。
だいぶ毛色が違います。ここを私はほどほどにバランスを取りましょうではなくて、やるんだったら片方をしっかり極端にやる。極端にやることの弊害が見えてきたら逆の極端をやる。やっているうちにだんだんバランスがつかめてくるという考え方です。これがブランコ理論です。