【3行要約】・マネジメントでは「指示」と「任せる」の間で揺れ動き、どちらが正解か悩む場面が多くあります。
・高橋氏のブランコ理論では、中途半端なバランスより両極端を行き来することで、状況に応じた最適解を見つけることを提案しています。
・メンバーの依存度や品質の不安などの兆候を見極め、意図的に「指示」と「任せる」を切り替えることで、マネジメントの安定性を高められます。
前回の記事はこちら マネージャーが抱えるジレンマ
高橋浩一氏:ブランコ理論の実践ということで、後半お話をしていきたいと思います。

マネージャーが抱えるジレンマというのは、「指示する」と「任せる」以外にも、例えばスライドの上から2番目にあるように「『短期的な業績アップ』に振るのか、あるいは『長期的な仕組み作り』に振るのか?」。これもありますよね。あと「みんなが自立したチームがいいのか、それとも助け合うチームがいいのか?」。これもありますよね。
このあたりについて、ほどほどのバランスを取るとかじゃなくて、両方やってみて、ブランコのように行ったり来たりしながらですね、最適解を探っていくということです。

ただ、たぶんみなさんが思われるのは、極端にというのはわかるんだけど、「どっちから先にやったらいいの?」とかあるじゃないですか。そこで1個ずつ具体的に解説をしてまいります。まずは「指示する」VS「任せる」についてですね。
「指示する」VS「任せる」の指針
「どっちからやったらいいの?」ということについて、まず指針をいくつか提示してみます。「メンバーは自律して働く下地がある?」に対してYesだったら「任せる極端」にいきなり振ってみる。Noだったら「指示する極端」に振ってみる。
あるいは、チーム全体のリスク許容動画が高いんだったら任せるほうに振ってみる。そこまでないかなということだったら「指示する極端」から入ってみる。
「外部とか上位の関与が強いか?」。例えばみなさんがミドルのマネージャーだとして、上の人がいろいろ言ってくるんだったら、最初は指示するほうから入ったほうがやりやすいかもしれません。早く学習効果を得たいんだったら「指示する極端」のほうからいくと、材料が多く集まります。
「指示する」は行動の具体的な言語化が大事
まずは「指示する極端」に振るほうからいきたいと思います。指示するということは、行動の具体的な言語化が大事なんです。
(スライドを示して)これは私が作った社内向けのドキュメントなんですけど、時間が具体的に書いてあるんですよね。
「すぐやる」とかじゃないんですよ。「3分以内に終わることはその場でやる」「毎日1回」あるいは「すぐにその場で」「溢れそうになることに気づいた時点で」とか。
あとは「2時間以上かかるような大きなタスクは、タスクのまま置いておくのではなく、まずは5分から10分ぐらい手を動かしてみて分解する」とかです。だから「ここは30分じゃないよ」「5分から10分なんだよ」みたいな感じで、相当具体的に言うわけですね。

こういったやり方においては、いわゆる「型のグーチョキパー」。具体的な「こういうふうにやっている良い例・悪い例」みたいなものと、それをある程度抽象化したチェックポイントと、それを確認するものみたいなものがそろっていて、「型のグーチョキパー」とになります。動画とモデルは7割ぐらい整合していればいいかなという感じです。「指示する」のモードの時はこれをティーチングで教えるということです。

例えば「翌日の商談、これまでに経験したことがない大手の企業の購買担当者なんですが、どうやって切り出したらいいでしょうか?」ということに対して、マネージャーは具体的な指導をする。
「最初の5分が肝心だ」「ポイントを挙げるとしたら3つかな」みたいな感じで、けっこう具体的に言い回しまで言ってあげて、「この場で少しロープレやってみようか?」という感じですね。非常に具体的です。

これは1件ずつの商談もそうですし、商談がリスト化されたものについても1件ずつちゃんと見ていく。ある程度案件がクロージング段階まで来て、特定の日付がちゃんと押さえられていて、BANTC(予算、決裁権、必要性、導入時期、競合)情報も確認ができていれば、次のアクションも明確なので、これはぜんぜんいいんですけれども。
例えば月末の日付になっているとか、未確認が多いとか、リスク対策が甘い。こういう状況はちょっと危ないですよね。そうしたら即介入する。あるいはクロージング段階まで来ていないんだけれど、このあたりの確認ができていないことが多いなということであれば、確認的なレビューをする。
前半段階は案件がぜんぜん見えていない状態ですけど、育成的なレビューをする。このあたりがぜんぜん決まっていないし見えていないんだったら放置しない。とにかく案件ごとに具体的に関わっていくということです。

さらに指示をしたらちゃんとモニタリングをする。モニタリングするというのは、メンバーから報告してもらう時に状況、方針を考えて、「具体的にどうやってアクションするの? それ、ちゃんと実際にできたの?」みたいな報告をちゃんと管理するということです。
ざっくりとですね、「お客さまに対してこういう方針でいこうと思います」みたいな、「状況の報告」と「方針の策定」で終わりじゃないんですよね。具体的な行動レベルでモニタリングをするということです。
ただしこれがあまりにもいきすぎると、やはりマイクロマネジメントの危険性が出てきます。ある時までは有効だとしても、「あれ? ちょっと待った」ってなったら今度はちょっと任せるほうを検討する。今度は任せるほうについてお話をしていきたいと思います。
「任せる」と「放置」の違い
任せるということは放置と(似ていて)紛らわしいんですよね。(スライドを示して)縦軸に「結果と行動」という感じで書いています。放置というのは「もうここだけ握って後は見ないよ」と。把握していなかったら放置なんですね。
任せるというのは何かっていうと、ちゃんと見ているし、把握した上で適度なサポートを行うということです。だから、任せていたとしても見ないのはダメなんですね。
「任せる」は標準の言語化が大事
じゃあ、これをやるためにはどうしたらいいか? 「任せる」のマネジメントの前提というものがあります。それは「標準」の言語化なんですよね。
標準の言語化というのは、どのくらいのペースで一人前になるか、どのくらいの時間をかけてどういう段階だと一人前になるかと、あとは案件1個ずつがどんなふうに進むのかについてのおおよその型があり、1人の営業担当はいくらぐらいトータルで持っていて、それはどんな案件ポートフォリオになっているのかというような目安です。
この標準があることによって、順調かそうでないかがわかるわけですよね。さらに目標達成計画というやつがありまして、ルート型とアカウント型で任せ方が異なってくるわけなんですけども。

ルート型というのは、1件ずつはシンプルで数が多いようなタイプの世界観です。もう1件ずつはすごく金額が小さく、たくさん回らなくちゃいけないみたいな。
アカウント型は1件ずつがけっこう大玉というか大口の案件で、数が少ない、絞られた、失敗がなかなかしにくいようなタイプのものがアカウント型ということです。

ルート型の場合は目標達成計画を立て、1回金額を立てたら「それに対してどのくらいの案件を何件ぐらい受注しなくちゃいけないか? そのためにはどのくらいの案件を作らなくちゃいけないか? そのためにはどのくらいのアポイントを取っておかなくちゃいけないか?」みたいな感じで考える。計画どおりだったら任せて、危ない予兆が見られたら介入です。
だから繰り返しになりますが、任せるって言っても見ないのはダメなんですよ。見て危なかったら介入するということですね。

ルート型の場合は、1件ずつの顔が見えませんが、アカウント型の場合は1件ずつの顔が見えます。A社さま、B社さまというようにお客さまがわかっているし、「こういう案件」というふうに球が見えているわけですよね。
そこに対してどんな活動をしていくかを見ていくのがアカウント型なんですけど、これも1件ずつを見ていって、順調に計画どおりだったら任せて、危ない予兆が見られたら介入するということです。