“揺れ”を経てほどよいバランス感をつかむ
ということで、「指示する」「任せる」「バランス良く」っていう、いずれでも安心し切れない。例えば先ほど3番と答えた方が割合としてはけっこう多かったですが、「3番を安心感持ってできますか?」と言われるとちょっと難しいということもあったりすると思うんです。

ここで、今日は「ブランコ理論」というものをご紹介をしていきます。

ブランコ理論というのは私が作った造語なんですが、ブランコには軸があって、ブラーン、ブラーンって揺れますよね。
まず片方のスタイルを極端にやってみる。次に、反対のスタイルを極端に試してみる。行ったり来たりしているうちにほどよいバランス感をつかむということで、ほどほどのマネジメントではなく、往復運動を経て得られた軸のある判断が強い営業チームを作るという考え方です。初めからバランス良くじゃないですよね。両方極端にそれぞれやってみると、いい感覚がつかめてくるということです。
「極端にやる」ことのメリット
これは私自身の体験によるところも大きいんですが、私は社会人経験がろくにない時期に起業してしまったので、メンバーとか部下とかを持ったことがない状態で、どんどん社員が増えていったわけですね。
本当にたくさん失敗をしましたが、でも後から振り返ってみると、中途半端な失敗をあまりしなかったんですよ。
指示するって決めた時には、それこそ箸の上げ下ろしみたいにやった時もありましたし、「任せるんだ」って時には、オフィスにいると口を出しちゃうので、「あえて会社に来ません」「メールも見ません」とかやったこともありました。
やはり失敗するんですよね。でも私が今になって思うのは、振り切って失敗するのは、やはりすごくいい体験だった……。
正確に言うと、メンバーに対して「申し訳ない、うまくいかなかった」という気持ちはもちろんそれは確固として存在します。ただ、自分自身がマネジメントを向上させていくという意味では、意味のある体験だったなと思うわけですね。

極端にやるということは、深い身体感覚を獲得できる。要するに、ブランコのように「もうここまで行っちゃっていいの?」と思いっ切りガーッてやるみたいな。これによって学習が鮮明に刻まれるというのもあります。深い身体感覚。ギリギリまでやるとやはりドキドキしますからね。
あと「構造的理解」というのは、リカバリー可能な中で大きく振り切ることによって、どこに落とし穴があるのか、見えざるリスクとか限界を実際に経験して、その上でマネジメント・スタイルを体系化できるということもあります。
ブランコ理論が示すマネジメントの姿勢
ということで、ブランコ理論が示すマネジメントの姿勢というのは、「まずは極端にやる勇気を持つ」「失敗を通じて、構造を学ぶ」「行き来するからこそ、“軸”(自分なりのバランスを取る判断ポイント)が見えてくる」ということになります。
ここは後でも触れますが、極端にやるということは先ほど言ったリカバリー可能な範囲でやるということです。組織を壊滅、崩壊させてしまってはよくない。だけど崩壊させない範囲で極端にやるということなんですよね。それはなにかというと、危なくなったら、ちゃんと見切りをつけて判断をして反対側に振るということになります。
さて、「中途半端なバランスと軸のある揺れの違いは何なのか?」という話ですが、中途半端なバランスは、いずれにも振り切らず、ほどほどだけを狙う。
リカバリー可能な小さな失敗をもう少し言語化すると、ビビってぜんぜん漕がないわけじゃないんですよ。けっこうグワーッと漕ぐんですが、ちょっと行き過ぎたなと思ったら逆に戻すわけですよ。ここ、すごく大事なポイントです。
極端にやってうまくいかなかったら反対方向に行くという感じなので、ほどほどではなくて……。「構造的な感覚」というのは、「今はこっちをやっているんだ」と意図的にやっているわけです。自分なりに「判断ポイントはこうなんだ」ということを徐々に作っていく。
そうすると、最終的には揺れながらも、チームは安定した成果を出すという方向に行くわけなんです。具体的な話は今日の後半で触れていきますけどね。
バランスを取る判断ポイントをどうつかむか
バランスを取る判断ポイントをどうつかむかという話ですが、まずマイルストーンごとの介入ポイントを設定する。例えば、案件の開始時とか期のタイミングに合わせて、関与の範囲を明確にする。
やはりちゃんとメンバーとコミュニケーションをしないといけないですよね。いきなり揺れたらメンバーはびっくりしちゃいます。「さぁ、今からこっちに振るよ」って言うわけです。あと「今回の商談はこっちに振るよ」と言うわけですよ。ちゃんと言っておくということです。
最低限チェックすべき定量的・定性的な目標を定義するということですね。要するに、進捗を見た時に危なかったら反対側に振るわけなんですが、その目安を持っておくということです。
そして、状況とか人材に応じたマネジメント・スタイルということであれば、例えば「マズローの欲求5段階説」が有名ですが、「まずは安全を欲している人」と「自己実現を目指す人」のように、レベルが違えばそこは分けていいということです。
また、案件の性質によってもちょっと違いますよね。例えば「この案件を受注しないと会社がまずいぞ」みたいな案件はそりゃ介入するけど、片や一方で、「この案件は任せてもいいか」というものは同時期に存在することもあるわけです。ただし、やはりこれはある程度カテゴリー分けの発想が必要です。
組織全体の相談しやすい空気作り
さて、バランスを取る判断ポイント上の工夫もありますが、失敗を通じて構造を学ぶことをやっていくためには、組織全体が相談しやすい空気作りがないと、異常が検知できなかったりします。
ですから、1on1とは別にカジュアルに話したり、チャットツールなんかでチームの様子がちゃんとある程度見えているし、みんなと連絡が取れている状態を作ったりしておきましょうということです。
さらに、オープンに学びを共有する場ということで、当社も2週間に1回、みんなの失敗事例とか成功事例をオープンにシェアする機会を設けているんですが、こういうふうに話せる場を作りましょうということです。

そしてあらかじめ、揺れることをわかっておく。揺れるから安定してくるんだということですね。
安定してくるというのは、ピタッと止まった状態で安定するんじゃなくて、ある程度「この揺れ自体が安定なんだ」ということですよね。
ある時期にこうやっていたとして、反対側のことをやるみたいなことが起こるわけなんですが、それはある程度織り込み済みであるということです。
“揺れ“を経て得られた軸のある判断が強い営業チームを作る
こういう考え方は従来提唱されてこなかったと思いますが、実はこれをテーマに本を書いていまして。
世界中の先行研究を調べていくと、営業マネジメントというか一般的なマネジメントの世界だと、いくつかこういったことに関する研究が存在することがわかりましたので、そこそこちゃんとエビデンスがあるんだということは確認をしながら体系化をやっております。
このポイントですが、それぞれの不安はありますが、そこに対してほどほどのマネジメントではなく、往復運動を経て得られた軸のある判断が強い営業チームを作るということです。
先ほど1番、2番、3番と答えていただきましたが、みなさんにとって今日の内容がヒントになればと思います。

ほどほどのマネジメントではなく、往復運動を経て得られた軸のある判断が強い営業チームを作る。「まずは極端にやる勇気を持つ」「失敗を通じて、構造を学ぶ」「行き来するからこそ、“軸”(自分なりのバランスを取る判断ポイント)が見えてくる」ということです。