【3行要約】
訪日外国人の消費額増加は評価されているが、欧米人と東アジア人では消費パターンが大きく異なるという認識が不足しています。
寺﨑新一郎氏は、欧米人は長期滞在により消費額が多く、自然体験やアドベンチャーツーリズムへの関心が高いことを解説し、地方観光の可能性を示唆しました。
観光事業者は、欧米人向けには地方の自然を活かしたツアー開発を進め、ガイド料金体系の見直しなど収益性向上にも取り組むべきだと提案しています。
中国では「板前」がブーム、日本の寿司職人が流出
寺﨑新一郎氏(以下、寺﨑):あと10分ぐらい時間がありますので、もう1つ、おもしろい事例をご紹介したいと思います。こちらのマーケティングの専門誌『日経MJ』で紹介されている事例は、たくさん給料を払ってくれる海外のお店に寿司職人がどんどん流出していますという話なんですね。
これは海外のお店なのですが、シェフとの会話が楽しめるカウンター席が予約で1ヶ月待ちということです。最近、留学生と交流していて非常におもしろかったのが、中国では今「板前」という言葉がそのまま通じるそうです。
日本語の板前という言葉は中国本土でもそのまま通じるし、板前=高級なレストランの代名詞になっているらしいです。お店の大将とカウンターでやり取りをしながら食事をするのは非常に高級なスタイルで、それが板前だと認知されています。これが和製中国語として、普及している。それぐらい、カウンターで食事を提供するスタイルが中国人にウケていて、最近はちょっとブームになっているようです。
実際に、この記事の事例でいうと、英語は独学と実践で身につけたというところで、例えば、こういったことを言っているらしいです。「富士山のふもとで採れた特別なわさびです。最初は香りがありません」。英語で言いながら、実際にサメの皮でわさびをすって実演する。それが非常に影響していると。節度を考えた上で、お客さんとその場を楽しむようにするといいということです。
海外の日本食レストランは8年で3倍に
寺﨑:この記事でおもしろいのが、日本料理人を海外に紹介する人材派遣の和食エージェントという会社が、マレーシアのクアラルンプールにあるそうなんですね。人材紹介の会社が海外にあるぐらい需要があるということです。日本にも寿司職人専門の求人サイト「SUSHI JOB」というのがあるらしく、そういったのも一部で活況を呈していることになります。
海外の日本食レストランはこの8年で3倍に増えたと書かれていますけれども。私も実際にいろいろと海外に行くことが多いんですが、本当の意味で日本食を提供している会社はほとんどないですね。
どういうことかというと、例えば私がロンドンに住んでいた時に回転寿司屋さんに行って味噌汁を注文したら、お吸い物みたいなものが出てきたんですね。これはなんでかと言うと、味噌を混ぜていないんですね(笑)。混ぜていないので、透明のお湯みたいなものが出てきたんです。しかも火傷しそうなくらい、めちゃくちゃ器が熱いわけですよ。
日本で寿司を学んだ人は、そういうものは出さないかなと思うので。ある意味、こういう寿司職人の人たちが海外で働くことは、日本文化とか日本食の大使みたいになっていると思うんですね。本物の日本文化を1つの大使みたいなかたちで広めていく。
寿司職人の流出と捉えると、これは国家的な損失のように思われますけれども。この方たちは日本の食文化をある意味代弁してくれるアンバサダー、大使なんだと考えると、これをフックにして、日本に興味を持って実際に来てみたいという外国人も増えると考えております。
実際にチップ文化があるような国だと、時期によっては給与分ぐらいのチップを得ることもあるということで、こちらもいろいろと期待できるおもしろい流れかなと。
寿司職人が海外で活躍することで日本経済もプラスに
寺﨑:例えば寿司職人がオーストラリアで仕事をしていますと、日本の魚自体も売れているらしいんですね。日本からの魚の輸出が増えるということで、二重においしいわけです。実際に寿司職人が海外でその文化を広めると同時に、その寿司職人が握るネタも日本から輸出される。日本の魚介類の売上も上がっていくということで、非常に効果的なビジネスになっていると思います。
今、1つ質問が来ましたので、もうちょっとしたらお答えしたいなと思います。少々お待ちくださいませ。
こちらに書いてありますとおり、ここに英国人のコメントがあります。「英国のスーパーの寿司は非常にひどい」「日本人のシェフがいるなら行ってみたい」とありますけれども。
最近、すばらしい解凍の技術を持った日本の会社がありまして、実際に日本で握った寿司を冷凍して、台湾で解凍してみたらしいんですね。そうすると、日本で握った寿司と変わらないぐらいおいしい寿司を出せる。それぐらい解凍の技術が今はすばらしいものがあるらしくて。
実は海外にいながら、日本と同じとまで言いませんけれども同等レベルの食を体験できる。そういったことも技術革新によってできる時代になっているのかなと思います。
いずれにしても寿司職人の方が海外で日本の文化も広めてくれる。それによって日本の魚介類がそのお店で使われるようになって輸出が促進されるという循環ですね。あと日本に興味を持って食べに来てくれるという循環が起こると非常におもしろい。日本経済にとってもプラスの効果が見込まれるかなと思います。
欧米の外国人の消費のパターン
寺﨑:今、質問が来ましたので、そちらをまず読み上げたいと思います。
まず1つ目の質問が、「現状の訪日外国人の水準と消費金額は、景況感の悪化した中国よりも、欧米系の訪日外国人が増えていることに影響を受けているように思われます。東アジア圏からの訪日外国人とは、マーケティング的にも消費者行動が違うように思えますが、このトレンドをどのように活かしたらよいでしょうか」と書かれていますね。
要は欧米人の(払う)金額が増えている。まず、そもそもなんで金額が多いかというと、1人あたりの所得が多いのももちろんありますけれども。例えばヨーロッパから来るとなると、もう丸1日かけて来るようなものなんですね。そうすると、せっかく来たのでやはり1週間とか2週間ぐらい旅行してみようという気になるわけです。
ですので結果的にたくさん宿泊して、多くのお金を使うことになるということですね。これがけっこう機会的な理由になります。やはり中国・韓国とかだと近いので、ちょっと来てすぐ帰ることになりますが、アメリカとかヨーロッパから来ると、やはりせっかく遠くまで来たから、少しゆっくり滞在したい。そういったニーズがあり、結果的に落とす金額が大きくなっているというところですね。
先ほども申し上げましたように、欧米人は東洋人とまたちょっと違う感性を持っているので、やはり日本的なものを訴求するような製品、サービスを展開することに活路を見出したほうがいいと思うんですね。
例えば高野山の旅行も欧米人に非常にウケています。ヨーロッパで本屋さんに行くと、本棚に「散歩」というカテゴリーがあるぐらいなんですね。「散歩」という棚が2つあるぐらい、散歩とか自然でのアクティビティ……アドベンチャーツーリズムと言いますけれども。いろいろな自然の中で例えばカヌーをやったり、そういうものの旅行需要が非常に大きいんですね。
こういった需要はどこで満たせるかというと、日本で考えるとそれは地方なんですね。例えば地方でカヌーをやったりハイキングをしたり、そういったところに関心を持つ欧米人はおそらく非常に多いのかなと思います。
先ほど高野山の話もしましたけれども、欧米人が非常に多い。あと今、旅行ガイドが実際にどうなっているかというと、旅行ガイドも圧倒的に不足しているんですね。1人あたりガイド料が1万5,000円とかじゃなくて、20人来ても10人来ても3人来ても一律1万5,000円を取っているらしいんです。
ですから、例えば旅行ガイドをするのであれば、普通は人数分の料金をチャージしてもいいと思うんですね。そういったところから改善をしていくのは非常に大事かなと思います。
欧米人のニーズを満たす戦略
寺﨑:今、デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション、DMOですね。観光地域づくり法人とありますけれども。あれの本当の目的は、観光を通した街作りなんですね。ですから、例えばガイドだったら一律1万5,000円ではなくて、人数分チャージしてお金を取る。
あとはその地方になかなか来ないのであれば、地方にしかない自然やアドベンチャー、冒険ができるような旅行プラン、ツアーを訴求していく。そういったところが欧米人のニーズを満たすところかなと思います。
やはりアジア系の人はなんだかんだでお買い物をするニーズが多いので、自然を積極的に楽しむことはないんですけれども、欧米人に訴求するのであれば、特に今地方の自然とかツーリングも非常に刺さるんじゃないかなと思います。
あともう1つ、「今回、早稲田新書からご出版ということですが、版元選定のメリット、デメリットを教えてください」と質問が来ております。
これはちょっと(笑)。早稲田出版の関係者がいらっしゃったら非常に申し訳ないんですけれども、これは私に指名で来たんですね。例えば早稲田新書で(書籍を)出された方と言いますと、著名な方だと假屋崎省吾さんとかも出されているんですが。アカデミック、学術研究者で新書を書けるような人はまだ早稲田新書から出していない。早稲田新書ができたのが2021年12月なので、まだ歴史は浅いんですね。
でも、ある程度一般の方にも読んでもらえそうな内容が書けて、研究的にもしっかりできている人ということで私と、例えば『三国志』や中国文化の研究者である早稲田大学の渡邉義浩先生にオファーが来たということになります。
あと、やはりそれでも学術出版社なので、小さな本屋さんは新書だと棚がなかなかないんですよね。紀伊國屋とかジュンク堂に行くと早稲田新書の売り場もあるんですけれども、普通の書店ではなかなかないので、そういった意味では売上がどうしてもネットに偏りやすいというのがあります。
ただ、個人的な話で恐縮ですが、私は先月、紀伊國屋書店の新宿本店でトークショーをやったんですね。それは早稲田出版だったから実現したかもしれないです。早稲田新書の中で、ある程度一般にもお話しできそうな方というとなかなか絞られるので、結果として私と中国史研究の早稲田の渡邉先生が選ばれたということになります。
例えば中公新書や岩波新書になってくるとライバルがたくさんいるので、私が選ばれることも叶わなかったかなと。そういった意味では早稲田新書で出した意味は非常に大きかったと思います。
以上が、こちらの2つのご質問に対する回答になります。その他に何かあれば、口頭でもよいですし、チャットにでも書き込んでいただければと思います。
日本のプロダクトを売る時の外国人人材の活用法
司会者:ありがとうございます。ファイナンス稲門会のアベでございます。みなさま、チャットに書き込んでも、「手を挙げる」というボタンがありますので、実際に手を挙げて音声をオンにして寺﨑さまに直接うかがっても大丈夫ですので、何かご質問ないでしょうか。
参加者1:よろしいでしょうか。フジイと申します。私も海外の生活が長くて、まさに先生がおっしゃったような食もそうですが、いろいろと日本文化に触れていたんですけども。
日本食レストランを含めて、それをプロデュースしているのは日本人じゃなくて外国人がすごく多いということなんですが。日本人がそのグローバル化に対応して日本のプロダクトを売るには、どういうアプローチをしたらよろしいでしょうか。
寺﨑:そうですね。先ほどのICHIGO社の事例のように、プロモーション面では、売りたいターゲットとなる外国人に考えてもらうのが一番いいと思います。ただオペレーションの部分は、やはり細かな取引がありますので、日本人のスタッフがやるとかうまく使い分けたりですね。
あとは例えば外国人がプロモーションプランを練るというのであれば、留学生なんかを積極的に活用するのも非常に良い手段かなと思います。
参加者1:ありがとうございます。
反日感情から生まれる製品ボイコット運動への対処法
司会者:まだ15分ぐらいお時間がございますので、いかがでしょうか。それでは、ご質問がないようなので、寺﨑さまにもう少し補足してお話しされることがあれば、ぜひお願いしたいのですが。
寺﨑:わかりました。そうですね、どのへんを深掘りしましょうか。
ちなみに、よく韓国とか中国で起こる製品ボイコット運動の話をちょっとしますと。こういうのは恒常的な敵対心と一時的な敵対心があることが研究でわかっているんですね。
恒常的な敵対心は、例えば恒常的な反日感情ですね。やはりこれは時間が経ってもなかなか消えないんですけれども。特に製品ボイコット運動に関係しているのが、一時的な反日感情なんですね。
中央大学の李キョンテ先生の論文によれば、だいたいそれの持続期間は半年ぐらいです。ですから半年ぐらい、なんとか耐え凌ぐことができれば製品ボイコット運動のネガティブな効果を抑制することが可能ということが今、わかっています。
あともう1つは、私も共著者として携わった研究では、そういう日本に対する敵対的な感情を、日本に対する好意や愛着のアフィニティが中和してくれるということもわかっています。
そういった意味では、日本に対するアフィニティ、好意、愛着、称賛の気持ちをどのように作っていくかを考えて、国として取り組んでいく必要があると思います。その1つの手段としてコンテンツが非常に有効であるということです。
最近、新聞でもよくにぎわっていますけれども、この数年、特に業績とか時価総額を大きく伸ばした企業として、バンダイナムコやカプコン、サンリオなどが挙げられます。今、任天堂も時価総額で言うと日本で5位ぐらいだと思いますが、要は知的財産をたくさん持っている会社が伸びているんです。
これは関税の影響も受けにくいですし、やはり日本のコンテンツを売っていく、コンテンツを通して日本の文化を売っていくということです。そうすると、それに感化されて日本に来たくなってしまうというのがあるので、いかに日本の強みであるアニメ、ゲームを絡めていくか。
今インドで『おぼっちゃまくん』が人気な理由
寺﨑:あとポップスで言うと、やはり韓国のポップスは世界中で流行していると思うんですけれども、韓国にはない日本のポップスの強みが1つあるんですね。これは何かというと、日本にはアニメがあるんです。ですからアニメとタイアップすることで日本のポップスが世界的に展開されていく。売上とか認知度を大きく上げていける。こうしたところがポイントかなと思います。
韓国は確か2009年に国家で韓国文化を振興する韓国コンテンツ振興院ができているんです。日本にも「クールジャパン」がありましたが。先ほど申し上げたように、日本人目線でどうやったら売れるかを考えていて、どうやったら日本のものを買いたくなるかという仕掛けの部分の発想がなかったんです。ですから沈静化してしまいました。
ただ、私がデンマークのヘルシンゲアからスウェーデンのヘルシンボリに行った時に、そこの港のセブン-イレブンに行くと、なんと韓流のポップスとか芸能の雑誌が置いてあったんです。私は普通に、驚くべきことかなと思っていて。その北欧の10万人にも満たないような町にもそういったものが浸透しているということですね。
ですから、こうした韓流の世界的な普及に伍していくには、やはりアニメ、ゲームとどう絡めていくか。主題歌をタイアップするとかですね。
あとは最近おもしろい現象としては、インドで『おぼっちゃまくん』の人気がすごいんです。ご存知ない方もたくさんいるかもしれませんけれども、『おぼっちゃまくん』は1980年後半から90年前半まで展開された小林よしのりさんの漫画なんですね。
これはお金持ちの人をコメディにした漫画なんですけれども。バブル時代の日本のその空気感と、インドもある種バブルというか経済発展がすごいので、そこの空気感にマッチして非常にウケているらしいですね。
ですから、日本では視聴されなくなったコンテンツも、時代が変わって、日本がバブル期であったように、今インドにバブル期が来ていて、そこにマッチするとかですね。
日本ではもうウケなくなってしまったコンテンツも、経済の発展状況が違う海外の国ではウケてしまうということもある。ある意味、効率よくリサイクルできたりすることもあるので、その国の発展段階と過去のコンテンツがマッチしているかどうかも1つポイントになってくるかなと思います。
こういったところはおそらく考え方として、それほどまだ日本では浸透していないと思うので、ご参考になればと思います。
司会者:ありがとうございます。