【3行要約】
・日本のお菓子の海外展開は注目されているが、多くの中小メーカーは海外顧客へのリーチに苦戦しています。
・寺﨑新一郎氏は「ICHIGO社は外国人目線での商品選定とプロモーションで、海外会員180万人を獲得した」と分析。
・日本企業は顧客である外国人の視点を取り入れ、物語性のある商品展開で海外市場を開拓すべきです。
海外の会員数が180万人の日本発越境EC
寺﨑新一郎氏:次に、マーケティングの専門誌『日経MJ』におもしろい記事がありましたので、これを通して具体的に事例を紹介していきたいと思います。こちらはICHIGOという会社です。この会社は何をやっている会社かと言いますと、定額課金で越境ECを展開している日本の会社なんです。
この会社はすごくうまくいっていまして、記事によると、海外に抱える会員数が180万人いるんですね。その中で欧米人が約9割を占めているサービスになっていて、非常に珍しいと思います。訪日外国人がこれだけ来ていて、そのほとんどがやはり北東アジアから来ている中で、このサービスを使っている人の9割が欧米人というのは驚くべきことです。
これは何がポイントだったかというと、中小メーカーの菓子を詰め合わせて毎月送るサービスを展開しているんですね。いくらぐらいでやっているかというと、だいたい月額37ドル、日本円でだいたい5,000円で展開しているサービスになります。
なぜこのサービスがそれほどウケているかと言うと、要はその買い手である外国人目線で品揃えをしていることがポイントなんですね。ここにも書いてありますとおり、まず日本人が日本のメーカーや卸から商品を仕入れるバイヤーを担当している一方で、箱詰めする商品の組み合わせと、顧客にプロモーションする手段を外国人が考えているんです。
ですから日本人目線じゃなくて、お客さんである外国人目線で商品展開やプロモーションを考えているのがポイントかなと思います。やはり日本人目線で考えてしまうと、どうしてもそれがまたバイアスになってしまうわけです。ですからお客さん目線でどういった商品がウケるのかを考えて、それをビジネスに結びつけているところがすばらしいと言えます。
佐賀県にタイの観光客が集まる理由
実際に、例えばベトナムではエースコックの即席めんが非常に人気があります。これまではエースコックの社員が現地で研究開発の責任者をしていたんですよ。ただ今はベトナム人が研究開発の、特に味付けの担当をしている。要は顧客目線でどういう製品を作っていくかのポイントを非常に絞っているということになります。
同様の考え方として、日本にはけっこうタイ人もたくさん来ているんですね。しかも佐賀県にけっこう来ているんですよ。その理由の1つが、ちょっとおもしろい話で、何を仕掛けたかというと、タイ人の映画監督やドラマの監督を佐賀に呼んで、佐賀でフィルムを撮るわけです。そうすると外国人目線で撮った日本のドラマや映画ができるわけです。
私もそれをちょっと観たんですけれども、私は日本人ですが、タイ人目線でそのドラマや映画が観られてしまうんですね。それをよく観てみると「あぁ、外国人はこういう風景に関心を持つんだ」とか「共感するんだ」ということが伝わってくるわけです。
ですので、どのようにプロモーションするかは、自分が想定しているお客さんに考えてもらったり作ってもらったりするのが有効なのではないかと考えるようになりました。
ICHIGOに話を戻すと外国人目線では、例えば毎月のラインアップに変化を持たせたり、バズりそうなお菓子が入っているかをチェックされたりしているそうです。これまでは、品揃えはメーカーや卸に任せがちだったと思います。そうではなくて、手間暇をかけてでも自社で商品を選ぶことにこだわったのがこの商品のポイントです。
中小のお菓子メーカーが海外の顧客にリーチできる
あとはやはりこの商品、サービスを使うことで、こちらにも書いてありますけれども、京都の中小のお菓子メーカーが、海外の180万人の欧米のお客さんにリーチするのはなかなか難しいと思うんですよね。
ですからICHIGOとコラボレーションすることで、京都の中小のお菓子メーカーが海外のお客さんにアクセスできて売上も上がっていく。こういう1つのハブみたいなかたちでこれが機能しているのも非常にいいやり方だと思います。
なんでも自社でやるのではなく、こういった業者と組むことで販路をどんどん開拓していく。そういった意味でも、この会社のやっているサービスは非常に意義深いと考えております。
これの1つおもしろいのが、毎月届く箱の中にこういう20ページぐらいの冊子が一緒に入っているんです。それで商品ができるまでの物語とか作り手の想いを伝えているというところですね。
やはりお菓子とか文化的なものを売るのに、物語と一緒にひもづけて売るのは非常に大事なことです。例えばこちらに書いてありますように、創業のストーリーとか製品にかける思いをここに書いているらしいんです。そうすると、それに共感をして買ってくれたりとか。
実際に、このお菓子を作った工場や会社を訪問するみたいなことも起きているらしくて。そういった意味でも、これが1つの日本の食文化、お菓子の文化のアンバサダー、大使のようなかたちでどんどん海外に広まっていっているところが非常におもしろいと思います。
日本のお菓子はかなりビジネスチャンスがある
ちなみに日本のお菓子は、私自身はもうめちゃくちゃビジネスチャンスがあると思っています。どういうことかというと、イギリスにも2年間住んでいたんですが、例えばチョコレート売り場に行っても、日本みたいにサクサクとか食感が良かったり香りが良かったり、箱が開けやすかったり、いろいろ工夫されている商品はほとんどないんです。
チョコレートはもういかにもチョコレートという感じで、そこまで差別化されていない商品が多い印象を持っています。特に日本のチョコレートやお菓子は非常に商品のバラエティが多いんですね。カップラーメンでも同じなんですけれども。
やはりカップラーメンとかお菓子というのは商品数が非常に多いので、外国人目線でもこういったサービスを海外で展開すると、我々の想定している以上にウケる可能性があると思います。
今は訪日外国人がスーツケースにバッグなんかをたくさん詰めて持って帰っていますけれども。そのうち、お菓子だけではなくて、例えばカップラーメンとか他の食品でもICHIGOのような展開をする会社が出てくると、その会社自身ももちろん収益が上がりますし、そこに商品を提供しているメーカーも潤うという好循環が起きると期待しております。
世界的に見ても老舗企業が一番多い日本
先ほど「作り手の思い」と言いましたけれども、私の友人で日本人の感性への価値観を調べた「いけじま企画」の池嶋徳佳さんの資料を見せていただいたことがあります。そこで非常におもしろいなと思ったのが、「道を求める」という価値観の存在です。
どういうことかと言いますと、例えば西洋的な「道」の考え方では、ゴールを決めて、最短距離で成果を上げることが評価される考え方があります。一方で、日本的な考え方としては、一生にわたり追求し続ける。次世代に受け継いでいく、いわゆる「道」になっているわけですね。
実際に老舗企業の数は世界的に見ても日本が一番多いですし、そういった「道」を求めるという考え方が日本人の精神文化に染みついていると考えられます。
ここに少なからず、共感するような外国の方もいらっしゃる。この左のほうと比べて、斬新な考え方ですね。先ほどのお菓子の例で言えば、そういったところも訴求していくと、我々が思っている以上に外国人には刺さっていく見せ方になっていきます。