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【弁護士解説】退職代行・SNS告発時代の問題社員対応と不当にならない辞めさせ方(全3記事)

“問題社員だからクビ”では不当解雇に 職場トラブルの裁判を左右する“客観的な証拠”の重要性

【3行要約】
・社員を解雇することについて、企業の「感覚的判断」と「法的現実」の間に大きなギャップがあり、安易な解雇が高額な賠償につながっています。
・弁護士の吉野誉文氏が、証拠不足や手続き不備により解雇が無効となった判例を紹介します。
・企業は就業規則への解雇事由の明記、証拠の確保、是正努力、指導記録の保存などのポイントを徹底し、法的リスクに備える必要があります。

問題を起こした社員を解雇した事例

吉野誉文氏:ここまで不当にならない解雇は非常に難しいということをお伝えしてきておりますが、さらに、ここで判例のほうをお伝えいたしたいと思います。

こちらも小さい字で少し読みにくいので、読み上げるかたちにしたいと思います。

「平成23年にXが金融業会社の営業本部長に就任しました。平成28年2月、Xは『A社への関与禁止』等の業務命令を受けたと主張されます。実際に命令があったかどうかは、裁判上は認定されていなくて争いになっておりますが。引き続き、A社の来期、4月以降の営業体制や計画作成に関与していました。

その後、社内ミーティングでXに『A社から外す方針』が伝えられるが、A社への滞在を継続し、社長に対して全社員の前で質問攻めをした。また、社長がA社に臨店した際、従業員が社長を囲み詰問する事態が発生した。

さらに、B社長に電話で『4日、A社社員を欠勤させる』と告げ、実際にA社社員42名中38名が一斉に欠勤した。Xと幹部が社内会議にて、Xは『懲戒解雇でもかまわない』と発言し、Xは解雇される」そういったような事例があります。

解雇が無効で約3,395万円の支払いが発生

さて、こちらはどういうことかと申しますと、会社が「関連会社に関わるな」と指示、業務命令を出したと考えていたにもかかわらず、XがA社の業務に関わり続けた上に、かつ、従業員の方を巻き込んで欠勤をするような反抗を行った、というかたちの事例となっております。

さて、こちらに対してですね、解雇をすることが有効だと思いますか? 無効だと思いますか? 少し考えてみていただいてもよろしいでしょうか?

結論から申しますと、解雇が無効になり、これはバックペイとして、約3,395万円の支払責任が会社に認められました。このような状態で、なぜ解雇が無効と判断されたと思いますか?

主な理由は「業務命令の存在自体を否定した」というかたちです。要は裁判所としては、実際に「A社に関与するな」というようなことを指導した証拠がないので、そういった事実がないんじゃないかと判断しております。

あるいは社長への詰問とか4日の欠勤事件についても、Xが扇動した明確な証拠がなくて、責任は限定的ではないかとか。それに対して会社側のほうがですね、十分な指示・指導を怠っているんじゃないかということも理由の1つとしております。

裁判では書面などの証拠が重要

さらにその他の理由としては、懲戒解雇に必要な就業規則上の手続ですね。懲罰委員会とか事業部会議を踏んでいませんでした。あと例えば、ほかに簡単な懲戒手続でも対処可能ではなかったかということで、この解雇とが無効になっております。

ここでみなさんに共有させていただきたいことは何かというと、会社のほうは、個人に対して口頭で注意することは多くあるのかなと思いますが、書面で注意したり、あるいは何かが残るようなかたちで正式に注意されている企業さんはなかなか少ないように感じています。

ですが、実際に裁判になった場合は、こういった簡単な「A社に関与しないでください」というような指導ですらも、証拠がなくて認められないこともあるんですね。ここが非常に注意をしないといけない点だと考えています。

試用期間のうちに雇用を終了した例

ではさらにですね、ちょっと判例が続いて恐縮ですが、もう1つの事例を紹介したいと思います。

「Xは、土木技術者であり、土木設計会社と期間の定めのない労働契約を締結した。契約には3ヶ月間の試用期間があった。

Xは、橋梁の配筋図作成業務を任され、まず1ブロック分の図面を作成したが、これについて発注元のA社から修正指示を受けたが、速やかに図面を修正し、その他の図面も提出して問題はなかった。

代表者の指示に反してAとの打ち合わせに参加しなかったり、電話の応対を拒否したり、電子メールでの指示・会話などに応答しなかったこともあった。さらに、Xは代表者から業務の一部であるデータ転送を依頼されたが、データの送信が遅れたため処理せずに帰宅し、会社はA社から苦情を受けた。

代表者はXに対して試用期間満了により『今月いっぱいで雇用を終了する』と伝え、Xはその日を最後に出社しなくなった」ということで、これは試用期間の満了に伴う雇用の終了が問題になった事例です。

こちらで問題になりましたのは大きく分けると2つです。1つが、設計をするにあたっての能力が十分ではなかったんじゃないかということ。発注元からAに修正指示が入って、十分に図面を作れなかったんじゃないかということが1つ。

2つ目が、コミュニケーションですね。メールや打ち合わせのようなコミュニケーションに対するモチベーションであったり、あるいはそれに対する指導違反での2点でもって、会社は試用期間を満了することによって雇用をやめた事例であります。

こちらは試用期間満了に伴う雇い止めになりますので、通常よりも解雇にあたっての要件はかなり低くなっています。みなさん、こちらの解雇が有効になったと思いますか? それとも無効だと考えられますか? 少しだけお考えください。

ここまでの流れで、かなり解雇が難しいと。「解雇無効だ」みたいな話をずっと伝えてきており大変恐縮ですが、こちらのほうも実は解雇が無効というかたちになり、800万円以上の支払責任が認められてしまった事例になります。

なぜ800万円もの支払い責任が発生したのか

これはなぜ無効になったか。試用期間満了により雇用をやめることができなかったかといいますと、「業務遂行能力に大きな問題がなく、改善の機会も与えられていない」ということが主な判決の理由になりました。

ポイントとなりましたのは、図面の修正対応をした時に、速やかに修正ができたということと、その他の図面の作成など(の業務)に問題がなかったことが主なポイントになっています。

さらに電話応対や社内コミュニケーションの点は、若干の行き違いがあったけれども、明確な指導や改善の機会が与えられた形跡がないということ。

要は、「きちんとやってな」とか「もう、ちゃんと電話応対するようにしてな」っていう話はしていたけれども、正式に書面などに残るかたちで指導であったり、勧告が行われていないし、改善の機会も与えられていない。なのにいきなり解雇にするのはダメですよという事例ですね。

ですので、私たちも弁護士をしているとですね、ご相談いただいた時、判断に迷うことが多いのは事実です。

ビジネスシーンの“感覚”と“法的現実”のズレ

具体的に申しますと、「どの程度まで能力がなかったら解雇をしてもいい」と助言することができるかどうかが、非常に難しいと考えられます。

これは裁判所の判断によっても、「これは本当に解雇じゃなくてもいいの?」っていう話であったり、「これは解雇OKなんだ」っていうような判例があったりですね、いろんな事例によって対処が難しい(と感じる)ことは多くあります。

この「改善の機会」。要はその(業務)レベルを下げたところでも、できることがなかったですっていう証拠をどんどん積み上げていかなければ、解雇は難しいということが、明らかなこととしてお伝えできるのかなと考えています。

ここで、問題社員に対する感覚的な認識と法的現実のギャップを埋めるというところですね。どういうことかと申しますと、例えば「何度注意しても改善しない」とか「協調性がなく、周囲に悪影響を与えている」とか「仕事の能力が低くて戦力にならん」とか、私はこれまで多くの企業さま、マネージャーの方から相談を承ってきました。

不当解雇にならないための4つのポイント

実際、何らかの処遇をすることになった場合、法的には、今ここに青で書いてあるようなことをきちんと考えないといけないんですね。「口頭で注意した」といっても、実際は改善の機会を与えたことにはならないということですよね。正式に指導書を渡すとか、懲戒処分として戒告をするとか、そういった具体的なアクションを取らないといけません。

ここまで、判断ポイントのまとめとして4点ですね。まず、就業規則に解雇事由として明記されているか。そもそも解雇事由が明記されていなければ解雇ができない可能性は非常に高いです。

そして2つ目が証拠があるかどうか。そして3つ目が、是正努力をしているかどうか。そして4つ目が、指導記録ですね。「きちんと指導したよ」というものがあるかがポイントになります。

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