【3行要約】
・職場の秩序を乱す「問題社員」への対応に悩む企業が増えていますが、安易な解雇はリスクを伴います。
・吉野モア法律事務所 代表弁護士の吉野誉文氏は「SNS告発の普及やメンタル不調の労災認定増加により、企業の対応はより慎重になっている」と現状を分析。
・解雇を検討する際は「客観的合理性」「社会通念上の相当性」「手続的適正さ」などの条件を満たし、配置転換などの努力を尽くすことが不可欠です。
“辞めてもらいたい問題社員”への対処法
司会者:みなさま、本日はお忙しい中、吉野モア法律事務所主催のセミナーにご参加いただきありがとうございます。お時間になりましたので開始させていただきます。
本日は「問題社員対応と不当にならない辞めさせ方」と題しまして、いわゆる問題社員となってしまった社員について、企業はどうリスクを抑えながら対応すべきか、実務面で押さえておくべきことの手順や、就業規則の整備のポイントなどを解説してまいります。
セミナーの後半には質疑応答の時間を設けておりますので、ぜひセミナー中もZoomのQ&A欄にご質問をご記入いただけますと幸いです。
それでは、さっそく本日のスピーカー、吉野モア法律事務所代表弁護士の吉野より、本題についてお話しさせていただきます。
吉野誉文氏(以下、吉野):みなさま、本日はお集まりいただきましてありがとうございます。吉野モア法律事務所の代表弁護士、吉野と申します。よろしくお願いいたします。
では、「問題社員対応と不当にならない辞めさせ方」についてレクチャーをさせていただきます。
弁護士の視点から、トラブルのない組織作りを追求
吉野:まず、簡単に私の自己紹介をさせていただきます。私は2011年に弁護士登録をしておりまして、そこから2025年で15年目となります。

大阪で弁護士事務所を開業しており、主な分野としては企業法務や労務紛争を取り扱っております。
クライアントとしましては、不動産業や製造業、建設業などの、主に中小企業の顧問先になります。お客さまの日々の業務における、法的なわからないこととか、リーガルチェックといった相談を多く承っております。
そういった経緯で、企業さま側から相談を受けることも多くあるのですけれども、一方で、個人側からも相談を受けることもあります。例えば残業代の請求であったりとか、あるいは今回の内容にあるような不当解雇があったから解雇無効の請求をするというようなことも行ってきましたので、こういった紛争を両側の立場から見ることが多くありました。
そういった中で、弊所では予防法務というかたちで、そもそも裁判にならない体制や関係作りが重要ではないかと考えております。ここに書いてありますとおり、裁判にならないための組織作りをサービスとして展開している状況です。
ちょうど2024年に会社を設立した上で、いかにトラブルがない組織を作るのかということで、主に中小企業のみなさまとともに、ルール作りのようなプロジェクトをさせていただいております。
では本日の目的ですが、「問題社員に対し、企業として法的に正しい対応方法を知る」となっております。
非常に短い時間ではありますが、この時間が終わった後には、みなさんのほうで実際に何をしたらいいのかがなんとなくわかる。現状、困っていらっしゃるとしたら、その状況に対して、具体的にアクションとして「あぁ、こうしよう」っていう気づきや学びを届けたいと考えております。
なぜ問題社員対応が難しいのか?
吉野:アジェンダは4つです。最初に、「なぜ今『問題社員対応』が難しいのか?」をご説明差し上げた上で、2、3というかたちで、「不当解雇とされないための判断ポイント」。これは裁判例等に基づいてですね、ご説明差し上げます。
3つ目、「企業が取るべき対応と手順」というかたちで、そのまま(の事実)ではありませんが、私が実際に相談を承った事例に基づいて、みなさんに手順をお伝えさせていただこうと考えております。
1、2、3でですね、だいたい45分間を予定しております。質疑応答の時間として15分ほど予定しておりますので、冒頭にありましたとおり、どうぞ何か思いつく限り、質問いただければと考えております。
では、さっそく最初のテーマである、「なぜ今『問題社員対応』が難しいのか?」というテーマに入りたいと思います。弊所は本当に直近なんですけれども、ある企業さまから相談がありまして、私が対応しました。
具体的にどういうことかというと、(ある社員が)もう7ヶ月ほど休職していると。その社員に何度か連絡したけれどもなかなか連絡がつかない。「もうこれ、解雇していいんですか?」というような相談を受けることがありました。
そういった問題社員に対して、かなりいろんなパターンの困った状況が起こっているのかなと考えております。
SNSや退職代行サービスの普及が与えた変化
吉野:弊所の理念としては「問題社員だからすぐ辞めさせたらいい」とか、「問題社員だから言うことを聞くべきじゃないか?」とは考えておりませんが、とは言うものの、契約違反や業務命令違反とか、そういった社員の方に対しては、厳正に法的な対処が必要と考えております。

「じゃあ、なぜこんなに難しいのか?」という時に、これは私の考えで非常に恐縮なんですけども、3点あるかと考えています。
まず1点目が、退職代行であったりSNS告発の普及です。いきなり退職通告になって、何か気に食わないことがあったらすぐに辞めてしまうとか、あるいはブラック企業であるというようなことをSNSで言われてしまうとか、そういったことでなかなか厳しい指導や対処がしにくい現状があるのかなと考えています。
先ほどの事例もですね、7ヶ月間休職されているのであれば、もう厳正に処理をしていけばいいのではないかと考えられなくはないんですけども、企業さまは「何か間違った処理をしてしまったら、大きい問題になるんじゃないか?」という不安を抱えていて、次の一歩が取れない状況でした。
さらに、メンタル不調・労災申請の増加というところでいきますと、最近はメンタルによる労災がかなりクローズアップされておりまして、それに関係するかたちでハラスメントも問題視されるようになっています。
そういった流れの中で、労働者の方の権利意識が高まってきておりまして、要は「会社が決めたことだから、しゃあないな」ではなくて、「なぜそうなるのか? これはルール上どうなんだ?」とか、直近ではChatGPTに聞いたり、何らかのミスがあったら大きな問題にする流れがあるように感じています。
コンプライアンス意識の変化も要因に
吉野:そもそも、不当にならないように解雇すること自体が非常に難しい法制度となっております。

一定の制限はあるものの、社員の方は辞めること自体は自由であるけれども、会社のほうには厳格なルールがあって、辞めてもらうことがなかなか難しいんですね。
あるいは人手不足で、以前にも増して転職が自由になっております。一方で会社は人手を確保するためになるべくモチベーション高くいてほしいから「厳しいことを言うのはちょっとどうかな?」「これで懲戒処分をした時に、ほかの社員への影響ってどうなんだろう?」とか。
そういった会社にとっての危機感とか、何らかの遠慮を、最近よく聞くかなと考えております。
例えば私が弁護士になり立ての15年前ほどでしたら、これも極端な例ではありますが、「もう辞めさせましたから、あとはどう対処したらいいか先生のほうで考えてください」みたいな事例が、1年間に数件ほどありました。
弁護士として事後対応に非常に困ったんですけども、直近ではそういったことはあまり聞かなくなってきて、世の中の流れかなと考えております。
さらによく言われるコンプライアンス疲れですね。何かしら悪いことをしたら袋叩きに遭うんじゃないかとか、ちょっと間違ってしまったら取引先に影響があるんじゃないかとか、そういった危惧感を抱えていて、解雇に踏み込む、あるいは解雇までの段階を取ることも難しいと思われている企業さんが多いように感じています。