【3行要約】
・プロジェクトの定例会議は形骸化しがちだが、実は成功の鍵を握る重要な場である。
・長谷部可奈氏は「両利きのプロジェクトマネジメント」の中で、定例会議こそがプロジェクトの推進力になると指摘。
・プロマネは定例会議を「共通認識の形成」「柔軟な対応」「リズムづくり」の3つの目的で活用すべきです。
プロジェクトがうまくいくかは「定例会議」がカギ
長谷部可奈氏:今、書籍『両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術』の3章、4章までお話をしてきました。この軸を使って、それぞれプロジェクトをどういうふうに進めていくかは、今日ご紹介しない5章以降に書いてありますので、ぜひみなさん、予約をしてください(笑)。
というセールストークもしつつ、今日は事前にたくさん質問をいただいていた、「定例会議でプロジェクトを推進する」というところを少し見ていきたいと思います。
みなさん、プロジェクトで定例会議をしていますか? 私が関わってきたプロジェクトの中で、定例会議がないプロジェクトは見たことがないので。頻度は2週に1回だったり月1回だったり、プロジェクトによると思いますが、おそらく進捗を進めていかなければいけないプロジェクトでは、週次でミーティングをしているのではないかなと思います。
この週次のミーティングに私たちが着目しているのはなぜかというと、まず1つは、小まめなチェックポイントになるからですね。必ず定期的に予定が組まれて、みんなが参加する場が作られているので、小まめなチェックポイントとして使っていくことができる。そしてそれをペースメーカーにすることができる。ということで、「定例会議、いいな」と思っています。
なにより、プロジェクトにさらに「両利きになるために新しい仕組みを導入します」と言ったら、もうその時点で「えーっ」と言われる可能性が高いので、今ある仕組みを使って、この両利きを実現してもらいたいなと思っています。

特に「意味のある定例ミーティングを見たことがないです」というような声もたまに聞いたりするんですけれども、うまくいっていないところこそレバレッジが効くポイント。改善するとすごく大きな効果が得られるなと思っているので、ぜひこの定例会議をみなさんで活用するかたちにしていっていただきたいなと思っています。
目的は「共通認識を作る」こと
どういうふうに活用していくかというと、まず1つは、共通認識を作るという目的で(定例会議を)開催してほしいなと思っています。

プロジェクトの状況は、思ったほどみんなと共有できていないことが多いですね。プロジェクトの状況を共有して、チームで「今こうだよね」というプロジェクト像がそろっているということが、コミュニケーションコストを低くする上で一番重要なことだと思います。
なので、なんとなくその場にいて座っていて、「あぁ、じゃあ、今日は終わりま~す」というプロジェクトの定例会議ではなくて、「みんな、認識合っている? 大丈夫?」と確認するような場として活用してほしいというのが1つ目です。
2つ目は、柔軟に対応していく場として活用してほしいなと思っています。先ほど言っていたように、テンポよく(定例会議が)来ますので、刻々と変わる状況に合わせて、その時々で進め方や方針をきちんと見直して、自分たちにフィットするようにチューニングし直していく場として使ってほしいです。
なので、週1回ある定例会議でしたら、遅くとも1週間以内には修正したり対応したりできるはずです。惰性でなんとなく、「はい、ではこれで今日も終わります」という型どおりのものをするのではなくて、「今自分たち、大丈夫だったっけな? どう? みんな調子悪くない?」というような確認をする場、チューニングをする場として使ってほしいというのが2つ目です。
「締め切り」でチェックポイントをつくる
3つ目は、リズムを生み出す場として大いに活用してほしいということです。「次回の定例会議までにこういうのをやっていきましょうね」というToDoが出たり、進捗確認のタイミングがこの定例会議で設けられたりしていると思いますが、「この定例会議があるからがんばる」という、みなさんのチェックポイントにしていただければなと思います。
締め切りがない状態でタスクが着々と進む人はほぼいませんから、締め切りがあるからがんばれるということを大いに活用して、みなさんでプロジェクトを進めてほしいと思っています。
あとは対話を重ねて継続的に顔を合わせることで、「今日顔色が悪いけど大丈夫?」というような、ちょっと声掛けをするような場としても使っていただくと、信頼関係ができていく。「なんか困っている?」という声掛け1つで、「いや、実はちょっと言えていなかったんですけど、進捗が思うようにいかなくて……」という、感覚的なところをちゃんと出せる。そういう場として使っていくのにぜひ活用してほしいなと思っています。
「座っているだけ」の会議から脱却できる
この3つを実現すると、ただなんとなく座っているというのは許されない定例会議になっていきますので、総じて熱量高め、本気度高めの定例会議を30分クイックにぎゅっとやるとイメージしていただけるといいかなと思います。
プロジェクトを両利きで進めるためにどういうふうに活用するかというと、「直線」のために使う時間と「曲線」のために使う時間を明確に分けて、どのぐらいのバランスで使っていくかなというのを考えてほしいなと思っています。

もちろん合理的・スピーディに進めていくのは、特に企業の中の結果を出していかなければいけないプロジェクトではめちゃくちゃ大事だと思いますので。
プロジェクトのゴールから逆算して、スケジュールがどうなっているか、追いついているのか遅れているのか、あとは、WBSどおり進めているのかといったことをきちんとチェックしていく時間としても使ってほしいなと思っています。アジェンダを用意して効率良く進めるのは、ぜひここのためにやってほしいことです。
「合理性」と「メンバーの感性」どちらも重視する
もう1個、「曲線」のための定例会議は、メンバーの感性とか柔軟な変更を大事にする時間としても使ってほしいと思っています。メンバー各自が見ているもの、感じていることを共有して、お互いの考えを知るような時間にしてほしいです。
お互いの考えを知るといっても、「いや、私の価値観は!」みたいなことを突然話してほしいわけではなくて。そこでやろうとしているタスクについて、「いや、私だったらこういうふうにやるんだけどな」ということをちょっと話すだけでも、「えっ、そんなやり方があるの? 確かにそっちのアプローチのほうがいいね」という創造性が生まれたりするので、そういった時間としても活用してほしいと思っています。
なので、メンバーが感じていることとか考えていることも、ゆるっと共有する時間にする。しゃきっとする時間、ゆるっとする時間みたいなかたちで、この定例会議の中の時間をデザインしてほしいというのが私たちの定例会議としてお伝えしているところです。
「じゃあ、実際にどうやるの?」ということについては、書籍にさまざまなノウハウをモリモリに盛り込んでおりますので、ぜひこちらは書籍をご覧いただきたいなと思っています。
ということで、ここまで書籍の「はじめに」、1章、2章、3章、4章と、定例会議の7章を駆け足で見てきました。
メンバーと対話することは「責任」を曖昧にすることではない
最後に、ここでみなさんにお伝えしたいことがあります。これは書籍からの抜粋ですが、読み上げたいと思います。
「このようなチーム全員や対話を重視したマネジメントスタイルは、なあなあなプロジェクトになってしまうのではないか? という懸念を持たれることがありますが、そんなことはありません。むしろプロジェクトで成果を生み出すために必要な、ある意味では厳しいスタンスなのです。
チーム全員でマネジメントしていくためには、責任感を持ったメンバーがチームを形成していることが重要で、誰も責任を持たないとか、責任を曖昧にするといったことではありません。
対話を重視する関係性は、お互いに責任を果たせていなければ耳の痛いことでも伝え合うという厳しさを伴うものであり、楽しい雑談だけをするような関係性ではありません。
例えば、会議で出たToDoをやってこないメンバーがいれば、プロジェクトが進まないのは当然であって、そのような状況を放置してはいけないのです。
しかしその厳しさは、他者の思いや価値観を理解しようという土台があってこそです。現代のプロジェクトは、同じ組織のメンバーだけでチームが構成されることは少なくなってきており、さまざまな組織や立場、経験を持ったメンバーで構成されています。その時に、お互いの思いや価値観を知ろうとしなければ、思いや価値観のずれがプロジェクトにも悪影響を与えてしまうでしょう。
各自の思いや価値観は、プロジェクトを進めていく上での土台です。だからこそ、プロジェクトが始まる段階で、じっくり時間を取って、お互いの思いや価値観を共有する時間を取る必要があるのです。
他者とともに物事を為すことは難しい。だからこそ創造性を発揮しよう。内容に対する創造性のみならず、他者とともに物事を為すための考え方や振る舞い方についての創造性を。その創造性を仲間とともに発揮することが、プロジェクトを自分たちの手に取り戻すための道である」。と本書ではお伝えしています。
進捗がないことを謝らせるのは違う
これをもうちょっとシンプルに言うと、「えっ、そのToDo、なんでやってこなかったの?」と言われた時に、たぶんいろいろ事情がありますよね。「家族が……」「家庭が……」みたいなところもあるかもしれないし、「ほかのものが……」とか「思った以上に……」とか。
実は「ちょっとすみません、見積もりが甘かったです」というようなこともあると思うんですけど、それをぐっと飲み込んで、「すみませんでした」と言わせちゃうのって、ちょっと違うなと思うんですね。
なので、「あっ、ごめんごめん。ちょっと言い訳もさせて」と言えるような関係性や、「あぁ、わかるわかる。だったら先に言ってほしかったよ。こっちも手伝えたのに」という会話が生まれるようなプロジェクトにするためには、やはりお互いに何を大事にして、どういう優先度で動いているのかという背景を共有して、プロジェクトで進めていく必要がある。
そういうことを言うためには、まずはちゃんと曲線のほうですね。みんながどういうふうに感じて何を大事にしているのかも知った上でプロジェクトを進める必要があるよというのが、本書が伝えたい「両利き」という内容になっています。
論理も感性も大切にするプロジェクトマネジメント
「論理も感性も大切にする。これからの時代のプロマネを一緒に探究していきましょう!」というお誘いで本編を終わりにしたいと思います。と思いましたが、読書案内がありましたね。
この本は、米山さんの並々ならぬ読書量を踏まえてできております。米山さんがこの中で、「本書では語り切れなかったけれども、こういう本もさらに深まるよ」というおすすめの読書案内を掲載しておりますので、「プロジェクトマネジメントをさらに深めていきたい」「この背景にある背景理論を知りたい」という方は、こちらの読書案内をぜひご活用いただければなと思っています。
あとは、このおすすめ書籍を紹介するブログ連載も始めましたので、こちらもご覧いただければと思います。まず最初に、『シェアド・リーダーシップ(-チーム全員の影響力が職場を強くする)』という本の解説をさせていただいています。リーダーシップをシェアしていくにはどうしたらいいかというところをブログに載せておりますので、ぜひ見てみてください。
あとは私たちからのナレッジ提供としては、プロマネツールキットというかたちで読者特典を提供しておりますので、ぜひこちらも活用いただきたいです。
ということで、本編を終わりにしたいと思います。ちょっと時間を残せた。駆け足でここまで来ましたが、ここからは質疑応答に入っていきます。