【3行要約】
・プロジェクトマネジメントは論理的手法が主流だが、現代では限界に直面している――多くの組織でプロジェクトの失敗や人材の疲弊が問題となっています。
・『両利きのプロジェクトマネジメント』の著者・米山知宏氏と伴走者の長谷部可奈氏は、論理偏重の直線的モードだけでなく、感性や対話を重視する曲線的モードの必要性を指摘。
・プロジェクトマネージャーだけでなく、チーム全員でリーダーシップを発揮し、定例会議を活用して創造的にプロジェクトを進めることが成功への道だと提案します。
「両利きのプロジェクトマネジメント」を紹介
長谷部可奈氏(以下、長谷部):今日の登壇者をご紹介します。『両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術』の著者である米山知宏と、今司会進行しており、執筆に伴走もしておりました私、長谷部可奈が、今日は登壇させていただきます。
米山は、コパイロツトのProject Enablementの事業責任者として活動する傍ら、新潟県村上市役所のCIO補佐官としても活動しています。東京工業大学大学院社会工学専攻修了後、株式会社三菱総合研究所、新潟県の市役所を経て、現職になっております。
民間企業や自治体におけるデジタル・トランスフォーメーションや組織変革を支援しながらプロジェクトを推進する方法論を探究している、弊社の研究を担う大事な1人だと思っています。
本書の執筆にあたって、私は両利きを実践する者として約2年半くらい伴走をさせていただいています。あとはフリーのファシリテーターとして活動したり、身体性の探究をしたりしているので、今日も感覚を担う人としてこの場にいられたらいいなと思っています。
という2人でお送りする予定だったんですが、みなさんにお詫びがあります。著者の米山が最近、声を出しにくい状況になっております。本日、米山の話を楽しみにして来ていただいた方には大変申し訳ないのですが、この場では執筆伴走した私、長谷部がメインでお話をさせていただければと思っています。
スライドには「ところどころ」と書いてあるんですけど、基本、全編「ハセベ節」でお届けしておりますので、「そういうものだな」と思って聞いていただければいいかなと思います。米山の声自体は回復傾向にありますので、またどこかの機会で米山から直接思いを伝えていただく場が設けられればなと思っています。
(声が)まったく出ないというわけではないので、ところどころ発言するかもしれませんし、チャットで副音声のように盛り上げてくれることになっておりますので、みなさん、ぜひチャットで絡んでいただければと思います。
米山知宏氏(以下、米山):はい。
長谷部:ありがとうございます(笑)。ということで、私が進行させていただきたいと思います。
プロジェクトの状況や会議の現状は?
長谷部:もしかしたら直近でお申し込みいただいた方はお手元にないかもしれないんですけど、実は事前にアンケートをお送りしていて、「みなさんのプロジェクトの状況や会議の現状はいかがですか? お聞かせください」というお願いをしておりました。
プロジェクトを進める中で苦労していることや工夫していること、会議で苦労していること、意識していることなどを共有できればなと思っています。「自分の当たり前は他人の非常識」と思って、自分が当たり前にやっていることをぜひチャットでお知らせいただいて、みんなでナレッジを共有しながらこの場を進めていければなと思います。
あと、米山さんがチャットに張り付きで回答してくれますので、しゃべっている途中での質問などもチャットに入れていただければと思います。
ここまでスライドショーでお送りしてきたんですが、米山さんがスライドにコメントを書きながら参加するスタイルにしたいと思いますので、ここからは編集ができるモードで画面を共有して進めていきたいと思います。
我々、一緒に書いていてよかったですね。サポートできるというか、こうやって思いを共有しておくのが大事だなということを……今強引に両利きのプロジェクトマネジメントを伝えようとして失敗したという感じですが(笑)。
本日はまずこの本で何を伝えたいのかを私たちからメッセージさせていただいた後、本書にある「はじめに」、1章、2章、3章、4章、7章と進んでいきたいと思います。
今日は、本書の概要とプロジェクトに感じている限界、見方を変える3つの世界観、両利きでマネジメントするための3軸、事前の質問でもたくさんいただいていた定例会議のところをお話ししていければと思っております。
では、こういう感じで米山さんが書いてくれると思いますので、さっそく進んでいきたいと思います。
現代のプロジェクトを乗り越えていくためには「2つのモード」が必要
長谷部:まず今回のこの『両利きのプロジェクトマネジメント』で私たちは何を伝えたいのか、というところを最初に見ていきたいと思います。
この本で伝えたいこと①。現代のプロジェクトを乗り越えていくためには、直線的なモードと曲線的なモードの両方を使いこなしていく必要があると考えています。これが両利きの両方と言っている正体ですね。

1つは直線的なモードです。こちらは従来のプロジェクトマネジメントをイメージしていただければいいと思いますが、「ゴールを目指してまっしぐら」「論理、合理性、計画、スピード重視」というプロジェクトを、私たちは直線的なモードと表現しています。
もう1つ、曲線的なモード。こっちも大事にしていこうよというのが今回の本の趣旨です。この曲線的なモードは、「脇道で新しい発見をしながら進んでいく」といったプロジェクトや「メンバーの感性や柔軟な変更を大事にしていく」という、ちょっと不確実な状況の中で進んでいくようなプロジェクトをイメージしていただくといいかもしれません。
この両方を使いこなしていこうというのがこの本で伝えたいことです。どっちかじゃないですね、両方大事にしようというのがこの本で伝えたいことの①です。
私たちは論理的なモードに寄り過ぎている
長谷部:伝えたいこと②としては、プロジェクトマネージャー1人ではなく、チーム全員でリーダーシップをシェアしながらプロジェクトを推進することを全編にわたってお伝えしています。そのために鍵にしてほしいのが定例会議だとお伝えしています。

「えっ、なんで定例会議? 定例会議は見たことあるけど、だいたい非効率的だよね」という声も聞こえますが、どのプロジェクトでもやっているのが定例会議なので、この定例会議にぜひアプローチしたいというのが私たちの思いです。
この2つをみなさんと見ていきたいと思います。直線的なモードと曲線的なモードを見ていくので、ちょっとリラックスして座っていただいて、まずご自身が「どうかな?」というところに思いをめぐらせていただければと思います。
プロジェクトを計画どおりに遂行することを目指して、数値化できるものを重視し、合理的にプロジェクトを進めることも大事。それが悪いわけではありません。でも私たちは論理、つまり直線的なモードに寄り過ぎていたのではないでしょうか?
決まったものを決まったとおりに作るには最高の手法です。でも今の時代、果たしてそれがピッタリ合うでしょうか? 私たち自身の恐れもあったかもしれません。失敗することに対する恐れ、批判されることに対する恐れ、進捗していないと怒られる(恐れ)。
だから、心の中では納得していないのに、とにかく急いで、とりあえず形にして、とりあえず進める。なんだか取り繕うということばかりしていなかったでしょうか?
自分自身の大切な人生の時間を使うに値する、思いが乗ったプロジェクトにできていますか? 自分自身がプロジェクトで仕事をする意味を見いだせているでしょうか? こんな状態で、簡単ではないことに取り組むエネルギーが湧くでしょうか?
「対話」や「感性」を取り入れることの意味
長谷部:みなさん、いかがでしょうか? 先ほどご紹介したように、私たちはたくさんのプロジェクトを見てきました。組織にはもちろんやるしかないプロジェクトもあります。だいたいがやるしかないプロジェクトだと思いますが。
でも人生の大切な時間を使う活動、プロジェクトがより対話的なものになったり、自分自身の成長や幸せにつながったり、人生にも影響を与えるものであってほしいと私たちは願っています。そしてそのことが結果的に、次のプロジェクトを成功させることにつながっていくと考えています。

だから、「対話や感性も大切にできる曲線的なモードも大切にしなければいけないんだ」というのが、この本でみなさんにお伝えしたいことです。なので「両利き」としています。
「他者とともに物事を為すことは難しい。だからこそ、創造性を発揮しよう。内容に対する創造性のみならず、他者とともに物事を為すための考え方や振る舞い方についての創造性を。その創造性を仲間とともに発揮することがプロジェクトを自分たちの手に取り戻すための道である」と米山さんは言っています。
とはいえ、待っていても最高のプロジェクトは用意されません。「どうぞどうぞ、こちらにあなたのお席を用意してあります」とはなりませんので、「このプロジェクトをもっと良いかたちで進めていくためにはどうしたらいいだろうか?」という問いをみんなで携えて、チームのみんなでプロジェクトを作っていこう。そのための方法をお伝えするよ、というのが今回のこの『両利きのプロジェクトマネジメント』です。
ありがとうございます。コメントにもいただいておりますが、心当たりが私にもありますし取り戻したいと思っております。
ということで、じゃあ、これを実現するために、本にはどんなことが書いてあるのかを見ていきたいと思います。これは本の中にも載っている本の全体像の見取り図ですね。
第1章では、現代のプロジェクトで起こっていること。第2章では、それを前提とする世界観。3章、4章で、プロジェクトを見る視点・方法論を使いこなす視点をご紹介した後、これを実際にどう使っていくのかという具体的な方法論を5章以降に載せています。
2章に「世界観」ときていて、「えっ、プロジェクトマネジメントの本で世界観?」と思われるかもしれないですが。先ほどの私たちの凝り固まった直線的なプロジェクトマネジメントの手法ではないほうの、もう1個の曲線を使うには、世界観をほぐしてからと思っていますので、まずこの世界観をたっぷり語るところに1章を割かせていただいているのがこの本です。
リーダーもメンバーも「孤独」になりがち
長谷部:では、さっそく私たちが今のプロジェクトに感じている限界をみなさんと共有していきたいと思います。私たちのもとにも、うまくいっているプロジェクトの相談はまず来ませんね。だいたい「うまくいっていないです」「人が足りないです」「PMが育っていないです」といったようなご相談が多いです。
あちこちでプロジェクトがうまくいっていない現象が観測されるのは、やはりプロジェクトの状況に対する理解がアップデートされていないからだなと私たちは見立てています。

まず一番左側ですね。「リーダーが孤独だがメンバーも孤独」という状況がとてもたくさんあります。プロジェクトマネジメントがプロジェクトマネージャー個人のスキルの問題とされていて、プロマネが1人でなんとかするしかない状況。それで「うまくいかないんです」となってしまっているのをたくさん見ます。
ですが、メンバーはそうじゃないのかというと、実はメンバーも、「個人のスキルの問題ですよね。自分に割り当てられているタスクを予定どおりやってください」というようなことをけっこう詰められているのもあります。
「個人のスキルの問題だよね」となってしまうので、協力し合う、サポートし合うということがなかなかできていないのが現状です。「みなさん、完璧人間を目指したいですか?」という話ですね。
「完璧さ」を求められるプロジェクトマネージャー
長谷部:真ん中。「仕事はこう進めるものである」という価値観へのとらわれがあると思っています。「えっ? それ、プロマネの仕事でしょ?」という言葉のなんと多いことか。それを総合していくと、ここで求められているリーダー像は、リーダーシップがあってメンバーにゴールを示し、何でも判断できて適切な指示ができるという。みなさんの言葉を合わせると、こういうスーパープロジェクトマネージャーが出来上がります。
が、「そんなスーパーな人、そもそもいます?」ですし、「『あなたがなってください』と言われたらどうします?」ということかなと思います。
プロジェクトで苦労し続けることになる構造
長谷部:3つ目は、チームとして学びながら進められていない現状があります。組織としては経験があってもやっている人は初めてというプロジェクトもとても多いです。なのに結果にコミットしなければいけない。
結果重視でとりあえず目の前の仕事を進んでいるふうに見せる。プロジェクトの進め方、仕事の進め方にそもそも無理があるのに、それをチューニングすることができていない。振り返りができていなくて学びが得られていない。チーム自体が成長してできるようになっていくプロセスを踏めていないことが見受けられます。
これだとずっと苦労し続けることになるのではないか。こういった構造的なうまくいかない現状があるので、私たちのところにたくさん相談が来るのかなと思っています。