【3行要約】
・組織の定義は「自分たちの会社」に限定されがちですが、実際には家族から人類まで、どこまでを組織と捉えるかで成長段階が変わるという問題があります。
・坪谷邦生氏は、インテグラル理論を基に「組織の範囲を広げることが成長」だと指摘し、リーダーの器が組織の定義を決定すると語ります。
・ビジネスパーソンは自部門だけでなく、会社全体や地域・業界まで視野を広げ、「組んで織りなす」協働の意識を持つことが重要です。
「自分を組織として捉えられるか」が大事
坪谷邦生氏(以下、坪谷):ありがとうございます。今おっしゃっていただいたとおり、どの範囲を組織と捉えるかはけっこうキーで、国でも捉えられるし、なんなら人類とかもありますよね。もうちょっと言うと生物とかね、ちょっと仏教っぽくなりますけど、生きとし生けるものとかも言えるかもしれない。もっと小さくいくと、体も組織ですよね。
黒川公晴氏(以下、黒川):そうですね。
坪谷:生物の細胞ね。細胞も組織からできているので、どこまでを組織として見るかは1個の非常に大事な問いですね。インテグラル理論とかスパイラル・ダイナミクスとかの、成長の発達段階みたいなのでいくと、成長するというのは、組織のことを自分のこととして考えられること。
一番低い段階の、初めは自分なんですよ。レッドとか言いますけどね……この意識段階の時は自分だけなんですけど。成長するにつれて家族のことも、我々のことも大事にするようになり、オフィスのみんなとか地域とか、ちょっとずつ大きくなる。これを発達段階理論では「成長」と言いますね。
自分を組織として捉えられるかがけっこう大事な問いですね。経営者の方とかはもう自組織だけじゃなくて地域とか業界とか、だいたい考えていらっしゃる方が多いですね。
部長が自部門のことだけを考えて経営会議でしゃべるとだいたい怒られますよね。「なんで自分のことだけ考えているんだよ」「会社のことを考えろよ」と。組織の範囲を間違えている。
リーダーがどこまで「組織」と定義しているか
黒川:ちょっとお聞きしたいんですけど。人事という営みの中で、組織の構成員が描く組織像を拡張させたい時、要は自部門、自分のチームだけじゃなくて会社全体で見ていきたい時に、理想的なアプローチはありますか?
坪谷:間違いなく、リーダーの器にほぼ規定されると思います。リーダーがどこのことを組織と捉えてふだんからやっているか。組織の定義がどこなのかが日々の対人(関係)でどこまで伝わっているかだと思うんですよ。
私が行った会社でいくと、まずリクルートという会社でいきましょうか。リクルートは昔は自分たちのことを「株式会社日本人事部」と言っていたんですね。要は「リクルートだけ良くてもぜんぜんダメだよ」「日本人の人事の状況を自分たちが考えて、良くするのが俺たちだからさ」と。これは新入社員もそう思っているんですよ。という時代がありましたね。そういうふうに仕向けたのは、間違いなく江副(浩正)さんと大沢(武志)さんですね。
黒川:こういうものをちょっと思い出しただけなんですけど、すごく尊敬している外交官の上司がいたんですよね。その人が飲むたびに本当に口酸っぱく、「まず家族を大事にしろ」「家族を幸せにしろ」と言うんですよね。「家族を幸せにできない人間が国のことを幸せにできないだろう」と言われたことがあって。
システムを広げるだけじゃなくて、やはりミクロでどれだけ虫の目で見られるかみたいな。ちなみに「虫の目」というのは、ミネルバのリーダーシップのシステム思考のところでよく使うんですけど、鳥の目で見て虫の目で見るみたいな。だから両方を行き来するみたいなのがやはり大事なポイントだなと、今聞いていて思いました。
坪谷:これもインテグラル理論でいくと、「超えて含む」という概念があります。初めは自分1人から始まって、家族になって、これは木の年輪みたいに「超えて含む」構造になっているんですよね。
なので根っこの「自分を大事にする」がないまま「家族を大事にする」に行くとゆがんじゃう。自分を大事にできて、家族を大事にできて、仲間を大事にできてって、こういう構造になっていくと言われていますね。まさにそうだと思います。
組織とは、共通の目的を目指して「肩を組む」こと
坪谷:じゃあ、坪谷の組織を。「組んで織りなす」。「組んで織りなす」の「組む」とは何かでいくと、目的ですね。共通の目的を目指して、肩を組むことだと私は思っています。身体性も含めてね。
なので目的は、さっきパーパスという言葉も出ましたけど、理屈じゃダメなんですよね。志、心が動いていないとダメです。
さっきから何度も出ているのでちょっとしゃべると、野中郁次郎さんに会いに行ったんですよ。私のいたゲーム会社ではアジャイル、スクラムがすごく発達していて、エンジニアの人たちも組織開発がめちゃくちゃうまかったんですね。「スクラムって何だろう?」と勉強したら、野中さんの論文が基になってできたものだと書かれていて、感動して野中さんに会いに行ったんですよ。
「野中先生、スクラムって何ですか?」と聞いたら、「坪谷君、スクラムはね、こうだよ」と肩を組んでくれたんです。すごく感動して、いろいろわかった気がしたんですよね。
「同じ領域に興味関心を持ってここまで来てくれた君は仲間だってわかっているよ」「僕に伝えられることは伝えてあげようと思っているよ」という、(自分を)同じ組織として見てくれて、「組んでいる人たちだよ」と思ってくれているのが瞬間的に伝わってきて、「あっ、すごいな」と思ったんですよね。
一緒の集団と思えたというか、そういう意味で「組む」ですね。人はそれぞれ違った目的を持っているので、集まっただけじゃ力が集約されないんですよ。この、みなさんに聞いた問いをいろんなところで聞くんですけど、たまに「人の集まり」というのが出てくるんですよね。
「集まっただけで組織になりますか?」で言うと、例えば「街の雑踏は組織か?」でいくと、たぶん目的が違うし、それぞれ行きたいところも違うので、組織じゃないですよね。
組織に属しているけど「協働」しない人
坪谷:じゃあ、例えば、「アイドルのライブに行った会場にいる人たちは組織なのか?」でいくと、ひょっとしたらこれは言えるかもしれないですね。「このアイドルを応援したい」「この曲を聴きたい」とか、(目的は)一緒かもしれないので、「組む」はできている気がする。
「織りなす」が、たぶんライブではできていないですね。「織りなす」は協働ですね。1人で行うよりも協働ですね。1人ずつバラバラにやったほうが効果的なら、わざわざ数人で集まって組織にならなくていいよ。
たまにいらっしゃるじゃないですか。「僕1人でやったほうがうまくいくので」って協働させてくれない方。そういう人には「独立してください」と。別に無理にいなくても、本当に1人で効果が上がるなら1人でやったらいいんですよ。何も悪いことはない。
ただ、組織にいるなら織りなしてくれないと、共通の目的に向けて動けないですよ。だから「組んで織りなす」が、私は組織だと思っております。
さっき出ましたけど、チームは共通の目的に向かう人の集まりという定義が多いので、「織りなす」という意味のほうが、組織は強いかもしれないですね。チームでも役割分担していることはあるので何とも言えないですけど。ただこっちのほうが強い感じがします。
黒川:なるほど。リーダーシップ研修とかトレーニングをやる時に、「いや、現場が忙しいので」とか「そもそも多忙なので」みたいな声が上がったりするんですよ。
リーダーシップの定義に戻っていった時に、自分1人ではできないもの。組織があってこそ到達できるものに対して他者に影響を与えていくことに戻っていくと、やはり「じゃあ、この組織で何を達成したいのか?」ということがセットされていないと、そもそもこの協働の概念自体を自分の中に内在化させるのはけっこう難しいですよね。
坪谷:難しい。
黒川:そこの意識の拡張がまず大事というか。
坪谷:組んでいないのに組織にいるということは意外と多いですよね。就職しなきゃいけないと思って就職したけど、別にこの会社にそんなに興味があるわけじゃないとか。多くの人はそこからスタートするのが、また自然なことだと思っていて、真の組織になるためにどうしていくかが、人事にもリーダーにも問われるのかもしれませんね。