PR2025.11.27
数理最適化のエキスパートが断言「AIブームで見落とされがちな重要技術」 1,300社が導入した「演繹的AI」が意思決定を変える
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多治川綾乃氏(以下、多治川):じゃあ、早いもので最後の問いで、今日のテーマにも直結するかなと思います。「人を動かし、イノベーションを起こす『聴く』とは?」。いかがでしょうか。
篠田真貴子氏(以下、篠田):ありがとうございます。ここも私がちょっと先にしゃべっちゃって……。
山口周氏(以下、山口):先にしゃべってください。
篠田:ありがとうございます。まず、人を動かすこととイノベーションを起こすことは、密接だけど分けて言います。ここまで言ってきたことは、聴いたり、聴いてもらったりすることで、人を動かす前にまず自分が動く。自分が変わるっていう話だと思うんですよね。
もしかしたら客観的な状況は変わってないかもしれないけど、聴くことを通して自分の状況の受け取りがアップデートされるので、それによってまずは自分が動き出す。自分が変わったら、同じ人と付き合っていても周りとの関係性はちょっと変わるから、それで周りが動き出すということなんだと思うんです。
自分が動かなくて、「他者が変わってくれないかな」とか「動いてくれないかな」っていうのは、他者に対してけっこう失礼な話だと思うんですよ。人は機械じゃないから、まずは自分が変わる。人を動かすということは、自分の何かが変わることなしには起きないんじゃないかなと思いますね。
篠田:その上でのイノベーションの話なんですが、これはまあまあ有名な事例なので知っているかもしれないです。Googleでプロジェクトアリストテレスと検索すれば出てきますが、10年ぐらい前にGoogleが、社内のパフォーマンスの高いチームは他のチームとどういう特徴や違いがあるのか、特徴量を2年ぐらいねちねち調べていたんです。
行動面で言うと、(スライドにある)黄色で丸をつけた2つなんだそうです。メンバー間が話す量が均等であることと、もう1つが非言語コミュニケーションに敏感なメンバーが揃っていること。これって、つまり聴き合っているということじゃないですか。
例えばチームに5人いて、1人がずーっとしゃべってるということではないわけだし。非言語コミュニケーションに敏感ってことは、しゃべってない時間は無視し合ってそっぽを向いてるってことではなく、なんとなく様子を気にしあってる。これは聴くってことなんですよね。
2015年のGoogleは、今と比べてもおそらくはるかにイノベーティブな時期だったと思うので、これは1つエピソードとしてお伝えしたいなと思いました。
その時に何が起きてるのかというと、よく「多様性がイノベーションを生む」っていう議論があって、否定はしないんですがそれだけだとめちゃくちゃ乱暴で、風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話なんですね。風が吹いただけじゃ桶屋は儲からないんですよ。
多様性を上げただけじゃイノベーションは起きない。間には何が必要かというと、やっぱり「聴く」というピースはもう欠かせないと思っています。
篠田:ミーティングをイメージしていただいて、お互いに案を持ち寄って、「なんか新しいことをやろうぜ」という場面を想像してください。私も提案者の1人としてこの会議に参加する時に、自分の案を通そうとしてガンって持っていった時って、みなさんが持ってくるアイデア全部に対して、「なんか違うんだよな」とか「私とここが違う」という差分にどうしても意識がいきますよね。
そうすると「どっちがいいんだっけ?」って、提案者の1人である私の意識が正しさとか上下関係に向いちゃうので、「そのアイデアはどこから来たんですか?」みたいな深まる話にはならない。だから物事の捉え方は変わらないし、複数の提案が出たら「どれがいいんですかね?」って、すぐ多数決に持ち込む。そうすると新しいものは生まれないんですよね。
みんなが持ってきた原案のどれかは選ばれるかもしれないけど、これはイノベーションじゃないんですよ。多様な案は出るかもしれないけど、じゃんけんないし多数決でどれか1個に決まるだけ。
聴くほうに意識を向けた場合は、私は私で提案を持ってくるんだけど、「ぜんぜん違う角度から持ってこられた提案にもそれなりの考えがあって、ロジカルだよね」という前提で受け取る。なので、「どれがいいかという前に、いったんみんなのアイデアを並べてみましょうか」って、ちょっとフラットに見る感じ。
「これ、私はまったく思いつかなかったんだけど、山口さんはどういう発想なんですか?」って意図を聴こうとする。「そこに着目したんですか。私はこっちが課題だと思ったんですよね」って言うと、この課題の捉え方にはその角度もあるんだって、お互いにちょっと見方がアップデートされるじゃないですか。
その結果、その先で運が良ければ、私は山口さんの物の見方を自分のものにするし、山口さんも私の物の見方をものにすることで、「だとしたらさ」と言って新しいアイデアにする。これの繰り返しでイノベーションが生まれると思うんです。
だから、without judgementで聴くコミュニケーションがないままではイノベーションは生まれない。「イノベーションは新結合です」というふうに経済学者が言いました。結合させるには、結合させるためのコミュニケーションが必要。聴くことはイノベーションに本当に欠かせないと私は思ってます。
多治川:ありがとうございます。
多治川:ぜひ山口さんもお願いします。
山口:そうですね。僕自身、聴いたほうがやっぱり得だと思っているのはなんでかというと、自分がすでに知っていることを話しても、自分にとってあんまり得がないっていうか。
確かに、自分が思っているとおりに説得して組織を動かすとか、プロジェクトをやるってなるとそれもいいのかもわからないですが、僕はあんまりそういう立場じゃないので。自分が思っていることをしゃべることが、自分にとってのリターンがあんまりない人間なんですよ。(自分が話せることは)もう知ってることだから、つまらないので。
なんで僕にとって聴くのが大事かというと、自分が変われる契機って、もう聴くことにしかないからなんですね。変わるのは楽しい。今までわからなかったものはわかるようになるし、今までわからなかった物の見え方が自分の中に入ってくるのは、やっぱり世界が一変するわけです。それはとても楽しいことなんですね。
ですからイノベーションとはどういうことかというと、最終的に、今までこれが当たり前だったことが世の中全体で変わることなわけです。世の中の人にとって当たり前だったことが変わる、世の中全体が変わるってことは、最初の1人が変わる、2人目が変わることは必ずあるわけですよね。
その1人目が変わるのは今ここかもしれないって思うとすると、イノベーションというのは、必ずどこかで「今、この人が変わる」というところからスタートするんです。人がどうしてそういう突拍子もないことを考えたのかとか、2つ折りの携帯電話が当たり前の時にタッチパネルを使おうと思ったのか、そういうことなわけですよね。
ですから常に少数派の人たちが、多数派の人たちからすると違和感があることを提案してイノベーションが起こってる。少数派の「いや、でも僕はこう思うんですけど」「こういうのがいいと思うんですが」「おもしろいと思うんですけど」というものに対して、「なんでそう思うの?」って聴かないとイノベーションは起こらないですよね。「私」が変わらないわけですから。
篠田:まさに。
篠田:時々イノベーションを期待される場面である、「活発に議論が交わされた」「みんなが自分の意見を言えて楽しかった」「いやぁ、活発でよかったね~」っていうのは若干ダウトだと思っているんですよ。
みんなが言いたいことを言っただけで誰の話も聴いてないまま、場としては音量が多くて口数が多くてめっちゃ盛り上がる場面って、しゃべっているほうが気持ちいいけど誰も聴いてなかったら、みんな自分の話を言いっぱなしで何もアップデートされてないんですよね。それは、イノベーションが起きる環境とはちょっと違うんじゃないかって思います。
山口:「頭クラクラ、みぞおちワクワク、下半身モヤモヤ」っていう……。
篠田:何それ(笑)。
山口:大尊敬してる細野晴臣先生が、これがいい音楽であると言っていて。みんなで言いたいことを言っているというのは、みぞおちワクワクっていう感じなんだけどモヤモヤがない。「確かにそれはあるような気もするけど、うーん、どうなの?」っていう。
頭クラクラ、下半身モヤモヤで、みぞおちワクワク。この3つがイノベーションでは大事なんです。それで出てきたのがYMOですから。
篠田:そうね。あれこそイノベーションですよね。細野晴臣さんって、YMOを作った後にそういう話をしてたの?
山口:いや、いつかな。でも、「頭クラクラ みぞおちワクワク」ってインターネットで引くとたぶん出てくると思います。
篠田:わかりました。見てみよう。すごい、今日は名言がいっぱい聴けた。ありがとうございます。
多治川:ありがとうございます。では、セッションはここまでになります。
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