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第三回 「聴く」で、人を動かす(全5記事)

心を病む人の特徴は「自分の物語を作るのに失敗した人」 山口周氏×篠田真貴子氏が説く、主体性を高めて生きるためのヒント

特別連続講座の第三回では、日常の中にある「聴く」力に焦点を当てたトークセッションが行われました。ゲストとして登壇したのは、エール株式会社 取締役の篠田真貴子氏と独立研究者の山口周氏。本記事では、「主体性」と「聴く力」の関係性について、両氏が自身のキャリアを振り返りながら語ります。

「主体性」と「聴く力」の関係性

多治川綾乃氏(以下、多治川):では、次の問いもつながるところがありそうですが(スライドを)送らせていただきますね。もう問いも後半戦なんですが、今度は「自分の『主体』とはなにか?」。こちらはいかがでしょうか。

篠田真貴子氏(以下、篠田):主体。これもスライドを持ってきちゃったんだけど、話していいですか?

山口周氏(以下、山口):お願いします。

篠田:主体とは何か。これもエールの基本コンセプトにぴったりなので持ってきたんです。主体ってつい字面から、「他者との関係を無視して自分だけを見つめる」と捉えがちなんですが、まったくそうじゃないよねというのがここで申し上げたいことです。

主体性って、「自分と周りとの関係の中で、自分はどうありたいのかな?」ということもめちゃくちゃ大事だと思うんです。なんでかというと、働く場面を一応想定して(スライド)左側を「組織」としましたが、家族でもいいし、学校でもいいし、とにかく他者との関係なしに私たちは存在しないわけじゃないですか。

人によっては、属するコミュニティによって違う自分が立ち現れるという実感をお持ちの方もいるかなと思います。そこを出発点にした時に、主体って2つの重なりなんです。

1個は、右側の黄色で示しているのはご自身です。ご自身がこう考えた、こうしゃべった、こういうふうに行動する。その中にある感情や価値観まで見えてきて、「それと周りの重なりってこういうことか。だからみんな私がしゃべると変な顔するのか」ということがわかって納得することが大事で、(周りと)合わせる必要はないんです。

さっきの(山口氏の)お子さんの話もこれです。別に塾に行くとか行かないってことではなく、お子さんご自身が「なんで自分は塾に行きたくないって思うのかな?」ということが見えてきたり、お父さんに聴いてもらってスッキリした感じがして、それで動けるようになっちゃう。これを表しているのが右側です。

一方で左側は、例えば私がある組織に所属している時に、ただ指示されているだけだと「この指示、わけわかんないな」と思って、だんだんやる気がなくなる。

だけど、もらう業務指示の背景にある意図とか、さらにはそれを生み出す組織のストーリーまで感じられてくると、「あ、そういうことですね」と納得できる。そうすると、今までつまんないし単純作業だと思ってたことに、実はすごい意味が見出せたりする。

ここ(右と左の円)が重なってくることが、より主体的になっていくということだと思います。そうすると、右側の個人の動機みたいなものは、ここまで言ってきた「聴いてもらう時間」がすごく効果的です。

逆に左側の円を理解すること、どういう意図なのかに関心を寄せて聴く態度があって、初めてこの重層的な円の中が見えてきます。主体的であることと聴く力は、すごく密接な関係があるんじゃないかなと考えています。

山口:なるほどですね。これは本当に篠田さんの言うとおりだと思います。

心を病むのは、基本的に「自分の物語を作るのに失敗した人」

山口:「自分の本質は何か?」みたいなことは、沈思黙考してもあんまり実りがあるとは思えなくて。この間、起業家のけんすうさんとお話をする機会があったんです。

篠田:本名、古川健介さんね。

山口:彼が『物語思考』という本を書いていて、とてもおもしろくて。やっぱり主体性って、自分の物語を持っているということだと思うんですよね。主体性って言うと、例えば「こういう性質だ」とか、ある種のスタティックな属性のように(思われがち)。

篠田:「あの人は主体性がある」「あの人はない」とか、言っちゃう。

山口:そう。でも、けんすうさんが言ってるのは、自分という人生、自分という人を、自分が作者になった物語の主人公としておいてみましょうと。その主人公のキャラクターって、例えば『ルパン三世』であれば次元大介とか不二子ちゃんとか、ああいう人たちとの関係性のバランスの中で定義されるキャラクターがある。

主体というのは物語の中に置いてみると、「何をする人で何をしない人か」っていうのは、自ずと文脈を作ってくれる。よくこれは漫画家や小説家の人なんかが言いますが、世界観の設定や状況設定とか、チャーミングな登場人物の関係が作れれば、あとはそこから勝手に物語は進んでいく。

『ONE PIECE』とか『ルパン三世』なんかも典型だと思うんですが、自分の物語の主人公がイメージできているということが、主体に近いのかなと思っていて。

ちなみにさっき出た河合隼雄さんは、本の名前は忘れちゃいましたが、「心を病むのはどういう人かといったら、基本的に自分の物語を作るのに失敗した人なんだ」って言ってるんです。ですから、自分の物語が破綻してしまうと心が壊れるということです。(物語とは)もっとダイナミックなものだし、コンテクスチュアルなものなのかなと思いますけどもね。

篠田:まさにですね。コンテクスチュアルだと言ってるのが、まさにさっきの私の(スライドの)絵にある、周りとの重なりの中で主体が生まれるということだと、うかがっていて(話が)重なるなと思いました。

山口:そうですね。

キャリアにおける“挫折の時期”に起きていたこと

山口:でも、あれでしょ。さっきの(篠田氏の経歴の中で)マッキンゼーを辞めた時にドカーンと(線グラフが下がっていた)。おもしろいのが、ドカーンとへこむ前に微妙に1個へこんでいた。

篠田:ああ、そうそう。一瞬ね。

山口:あれはこだわりのへこみなわけですよね。

篠田:そうやって書きましたからね。

山口:ポコンってへこんでいる前に、ちっちゃくへこんでいるところがあって。

篠田:そうね。ちょっと今、見てもらいましょうか。

山口:みなさんから見ると、たぶん僕はお気楽に生きてるように見えると思うんですが。この微妙なへこみが、大きなカタストロフの前に余震があったみたいな感じで、何があったのかなってちょっと気になったんです。

僕もキャリアでいくつか挫折みたいなことがあって、それなりに大変だった時期があるんです。ただ、今から思い返すと(大変だった時期は)自分の物語が組み立てられなくなっている状態なんですよね。

その時には「こういう領域で活躍して、こうなっていくぞ」と思っていたのが、人から「ちょっと無理」って言われたり、自分のパフォーマンスを見ていて明らかにこれはダメだと思った時に、「自分の物語はこう紡がれていく。前半はこうで、第2章はこうなる」と思っていた第2章がガラガラって崩れる。その時に崩壊するわけですよね。

関係性も非常に崩れてしまうし、下手すると心を病んじゃうのはそういう状況なんだと。それで言うと、主体と物語と関係性は非常に密接につながっているなって気がしますよね。やっぱりこの時期(大変な時期)は物語がなかった、組み立てられなかったわけですよね。

篠田:そう、組み立てるのが大変でした。だから、この後に組み立て直しの数年間が必要だったってことですよね。いや、本当にそうだなぁ。

業績評価がだんだん下がる……篠田氏が振り返るコンサル時代

篠田:ここ(大きな挫折の前の小さなへこみの時期)で何があったかというと、客観的に見れば私に対する業績評価がだんだん下がっていくわけですね。要は、基準は上がっていくのに私のパフォーマンスがあんまり伸びなくて。

山口:高飛びで言うと、バーだけ勝手にボンボン上がっていくんですよ。

篠田:そうそう。そうなんです。

山口:コンサルティング会社って目の前でどんどんバーが上がって、「はい、飛んで」「はい、また飛んで」っていうね。

篠田:そうなるんですよね。

山口:ちょっとバーを引っかけちゃった感じですか?

篠田:ちょっと引っかけたなと自覚した。本当は客観的にはすでに引っかかりまくってるんだけど、認知が歪んでいるので「いや、私はできる!」「たまたまマネージャーが悪かっただけ」「たまたまクライアントと相性が悪かっただけ」って全部人のせいにしてたんですよね。ある短いプロジェクトで、すごく思ったようにいかなくて、一瞬「あれっ」てなったんです。

山口:エンゲージメント・マネージャー(EM)の時? 

篠田:EM手前ですね。

山口:あぁ、なるほど。

篠田:次にまたマネージャーをやるからここで挽回と思って、「挽回できてる私」って思ってたんです。なので、あれは事故案件っていう処理をして戻しちゃった。本当は事故案件じゃなくて、私のけっこう大事な分岐点だったんですよね。さすが、いいところを見てますね(笑)。ここに気がついてくれた人はあんまりいない。

山口:一応、グラフを見るのはトレーニングされましたので。

篠田:(笑)。

山口:「そのへこみ、何?」みたいなね。

篠田:(笑)。「これ何?」が大事。そうなんですよね。

山口:なので、主体というのはなかなか捉えにくい概念ですけれども、自分の人生を物語にした時に、主人公のキャラがわりと明確に見えているかどうかと捉えると、それが見えていれば健全な状態だし、物語はどんどん動いていくかなっていう捉え方をしてますね。

多治川:ありがとうございます。

篠田:若干お時間も気になりますが。大丈夫?

多治川:私も聴き入ってしまいました。

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