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第三回 「聴く」で、人を動かす(全5記事)

「本音を話してよ」と言うのはむしろ相手に失礼 コミュニケーションの質を左右する“聴く力“を上げるコツ [1/2]

visions college特別連続講座の第三回では、日常の中にある「聴く」力に焦点を当てたトークセッションが行われました。ゲストとして登壇したのは、エール株式会社 取締役の篠田真貴子氏と独立研究者の山口周氏。本記事では、職場でも家庭でもコミュニケーションを円滑にする「聴く」力の重要性について語ります。

「聴く力」を身につけると何が変わるのか?

篠田真貴子氏(以下、篠田):(「聞く」と「聴く」の違いについて)「聞く」の時は「この人はいったい何を考えてるのかな?」と人に関心が寄るのに比べると、「聴く」の時は事柄、言ってみればスクリーンにその話してる人のテーマがあるんだけど、「いまいち解像度が荒いんですが、ここはどうなってますか?」という関心の寄せ方です。

例えば話し手がこうやってモニョモニョと話していて、「『モナ・リザ』っぽいことを言ってるけど、なんか違う気がする。これはなんですか? 何を描いてるんですか?」って聴くと、「(実は)顔が違うじゃん!」みたいな。

聴かないで早とちりして、「これは『モナ・リザ』だけど絵が下手ですよね」とか言っちゃうとwith judgement(聞く)、ここまで聴き切るのがwithout judgement(聴く)という感じです。

これは抽象的なのでさらに別の言い方をすると、私にとっては「おかしいな」「間違ってる」「嘘でしょ」とか、なんなら「バカじゃないの」「ぜんぜんわかってないな」と、一見思えちゃう発言や行動であっても、相手には相手なりの考えがある。その、あなたなりの考えをいったん教えてくださいねっていう態度です。

もっと言うと、ロジカルじゃない人はいない。その人なりのロジックがあるという前提で聴く。これをやってもらうと話し手側はじっくり話せるので、だんだんと言葉になっていくなっていう感情を得るんですよ。

どういうことかというと、私たちは日々いろんな刺激を受けているわけですが、全部に注意を払うなんてことは到底できないので、無意識に線をバーンって引いていて、その上のことしか覚えてないし感じないんですよね。

だけど、じっくり聴いてもらったりすると、イメージとしてはこの水平線がちょっと下がって(新たな気づきが)出てくる。だから、知らなかったわけじゃないんだけど、「言われてみれば、確かに自分は今週で一番感情が動いた」みたいに感情が動く。

「実は親に言われた時に一瞬カチンって来たんだけど、もう毎度のことだから言ってもしょうがないなと思って、そのまんま流したことがあったな」みたいなことを思い出したりする。こういうふうに、やっぱり人は聴いてもらって初めて出てくる思いや考えがあるんですよね。

「本音を話してよ」と言うのは相手に対して失礼

篠田:「本音を話してよ」とか、よく上司に言われたり仲間同士で言ったりするんですが、お互いにもう大人ですから、その人がすでに気がついてることは相手を選んだり、場を選んで言ったり言わなかったりするので、そこに踏み込むのははっきり言って失礼なんだと思うんです。

でも、ここでお互いに生産的になるのは、「気がついてないけど、聴かれる機会がないと話さないこと」を一緒に探しにいけると、聴き手も「この人はそういう面があるのか」となる。話しているほうも「聴いてもらって初めて気がついたわ」というふうになって、動き出すきっかけがつかめるのではないかなと思うんですよね。

たぶん私の持ち時間ってあと1分ぐらいですよね。もう1個だけ次につながるかもしれないのでちょっとお話をすると、聴いてるだけじゃ何も進みませんよ。だって、当たり前じゃないですか。それは当然です。私も、ずっと聴いてろと言うつもりはまったくありません。

でも、なんでここまで「聴く」という話をべらべらしゃべっているかというと、コミュニケーションってキャッチボールなんですね。一番初めにご紹介した『こころの対話 25のルール』と『この気もち伝えたい』の両方で、これに触れています。

そのまんま(書籍から)転用していますが、キャッチボールに例えます。本当のキャッチボールをイメージしていただくと、投げるほうが上手だともちろんキャッチボールは続くけど、投げるほうが多少へなちょこでも、キャッチするほうがすごく技量もあって楽しそうにキャッチしてくれたら、キャッチボールって楽しく続きますよね。

この例えをもう1回コミュニケーションに戻すと、話し手ががんばるというのもあるんだけど、聴き手の技量とかあり方によって、コミュニケーションはスムーズにいったりいかなかったりする。わかりますか? 

なのに、私たちがコミュニケーションの課題に直面した時って、聴くことの工夫を忘れて、「どう伝えようかな? 言い方を工夫しよう」「今じゃないな。言うタイミングを変えよう」「ご飯を食べながらにしよう」とか、場を変えたり。なんなら「私からだとなかなか聴いてもらえないので、山口さんから言ってもらえますか?」みたいな。

伝えるほうはめっちゃいろんな工夫をするのに比べると、聴き方の工夫ってどれぐらいしていますでしょうか。意識の100のうち99を言い方に向けていて、聴くことに1しか向けてないんだとしたら、90対10ぐらいにしませんか? というご提案なんですね。

それでもやっぱり話すことが主なんだけど、聴くことだけに注目したら、1から10で10倍ですよ。この違いによって、ものすごく大きな違いが生まれるんじゃないかなと思って、日々活動しております。じゃあ、いったんはここまでにします。

多治川綾乃氏(以下、多治川):ありがとうございます。

本音を隠した状態ではパフォーマンスを発揮できない

多治川:では、さっそくお二人にお話しいただきたい最初のテーマが、「『聴く』を、私たちはふだんどのくらいできている?」というものです。いかがでしょうか。

山口周氏(以下、山口):この年になってから、かなり意識はするようになりましたね。年齢的に言うと20代の時には一方的にしゃべってましたし、最初に言われたことに違和感があったりすると、シャットダウンするかショットガンを打つかみたいな感じで、もうコミュニケーションもなかったですね。最初から核ミサイルのボタンを押す準備ができている、みたいな感じだったので。

さっきも話しましたが、僕は30代のときに戦略系のコンサルティング会社にいて、組織開発は対話がすごく重要なんですよね。

例えば合併の時が典型なんですが、会社によって大事なものが違う。あるいは合併みたいなケースじゃなくても、同じ会社の中で人によって優先順位が違う。しばしばそれは、僕の場合は大喧嘩みたいな激しい口論になったこともあるんですが。

相手がどういうふうに考えているのかが徹底的にわかると、実はその後でいろいろなものがスムーズになるという経験はあって。

ブルース・タックマンという教育心理学者が言った「タックマンモデル」というものが、インターネット上にたくさん出てきますが、ある人が集められてチームがパフォーマンスするということはいきなりはできない。

いろいろな意見のぶつかり合いとか、優先順位、信条、価値観みたいなものをみんな隠している状態で、表面上仲良くやっているわけですよ。その状態だと本当にパフォーマンスって出ないんです。「私はすごく違和感がある」「それはなぜなんだ」「いや、そんなの優先順位が低いだろう」と、いったんそれを全部表面化する。

それを彼はストーミング(混乱期)って言ってますが、それが(自分の体験では)30代後半ぐらいから40代前半にかけてあって、そこからスムーズにいろいろな物事が進むようになったんですね。「この人はこういう考え方で生きているんだ」と、わかってみればなんでもない。

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