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AIが変えるマネジメントの未来:アルゴリズム管理の可能性と課題(全4記事)

AIが仕事を割り振る職場でリファラルが減る理由 アルゴリズム管理が求人紹介に与える影響

組織課題を丹念に読み解く調査&コンサルティング会社「ビジネスリサーチラボ」が開催するセミナー。今回は「AIが変えるマネジメントの未来」をテーマとしたセッションの模様をお届けします。「アルゴリズム管理」がうまく機能しなくなる要因や、プラットフォームと働き手の“いたちごっこ”構造について語られました。

アルゴリズム管理が与える「リファラル採用」への悪影響

伊達洋駆氏:ここまで、アルゴリズム管理の「報酬」に関する側面についてお話ししてきましたが、今度は働く人の「心身」への影響を考えてみたいと思います。

まず、あまり好ましくない結果として、アルゴリズムの介入が強まることで、サービスの質に対する熱意が低下するという傾向が明らかになっています。

つまり、アルゴリズムによって評価されると、「自分の努力が評価に反映されている」と感じにくくなってしまうわけです。なぜなら、その評価基準がブラックボックス化していて、よくわからないからです。

その結果、仕事に対する愛着が薄れてしまう。実際に、そういった影響が実証されているんですね。これは非常に悲しいことです。アルゴリズムのもとで働いていると、モチベーションが下がってしまうということになります。

さらに、アルゴリズム管理が整備されている環境では、そこで働く人が「その仕事を他の人に勧めようとしなくなる」という傾向も明らかになっています。つまり、自分の知り合いに「良い仕事があるよ」と紹介する、いわゆるリファラル採用のような行動が起こりにくくなるわけです。

言い換えると、アルゴリズム管理が今後さまざまな領域に浸透していくと、リファラル採用にとってはあまり望ましくない状況が生まれる可能性がある、ということになります。

“AI評価”で働くと疲労が蓄積する仕組み

さらに、身体への影響についても分析が進んでいます。例えば、物流センターの中でアルゴリズム管理が行われているケースでは、そこで働く人たちの様子を観察した研究があります。その中で、働く人がみな急いで行動していた。アルゴリズムが提示する作業の順序に従って、急ぐように動いていたということが確認されたんですね。

これはなぜかと言うと、システムが示す最適なルートがあって、そのルートに従わないと評価が下がるからなんですね。ですので、作業時間に間に合うように急いで、どんどん業務をこなしていくかたちになります。

そして、たとえ疲れてきても、作業のスピードを維持する必要がある。なんとか間に合わせようと急ぐことで、疲労が蓄積していくという状況が確認されています。

こうした人間の疲労や体調といった部分は、現時点では必ずしも完全に数値化されているわけではありません。つまり、アルゴリズムは人間の体調を考慮することなく、次々と指示を出してくる。その指示に対して、成果ベースで評価をしていくという仕組みが成り立ってしまう可能性があるわけです。

そうなると、疲れているのに遅れたりミスをしたりすれば、自分の評価が下がってしまう。だからこそ、限界を超えてでも成果を出そうと、働く人が無理をしてしまうことにつながっていくんですね。

このような、時間に追われ、指示に追われるような働き方が続くとどうなるか。

中長期的に見れば、健康面でのリスクが高まることになります。そういった意味で、心身への影響というのは懸念されるポイントになってきます。

プラットフォームと働き手の“いたちごっこ”構造

とはいえ、働く人の側も何もしていないわけではありません。例えば、監視をかわそうとしたり、位置情報を少し操作してみたり。なんとかしてシステムの抜け道を探そうとする動きも見られるわけです。

一方で、プラットフォーム側もそれに対応して監視のアルゴリズムを強化するなど、対策を講じてくる。そうなると、“いたちごっこ”のような状態が続く可能性も示唆されています。

いずれにしても、アルゴリズム管理は今後、さまざまな現場で部分的に導入されていくでしょう。その際には、人々のモチベーションや健康、ウェルビーイングの問題に対する配慮が必要になってくるのではないかと思います。例えば、休息を促す通知を取り入れるとか、身体の状況を考慮した業務配分を行うとか。働く人の心理や行動を意識した設計が求められるということです。

ただ、ここには難しい側面もあります。例えば、自分の心身に関する情報まですべて会社側に預けるとなると、かなりの程度の情報が企業側に渡ることになる。企業側としては、「従業員の健康を守るために必要だから」として取得しようとするかもしれませんが、「どこまで情報を共有するのか」という点については、今後、間違いなく議論されていくテーマになると思います。

試行錯誤が生む「対アルゴリズム」の裏技

では、次のトピックに入りましょう。ここまでの説明を聞いて、「人間というのは、アルゴリズム管理のもとで受動的に働く存在なんだ」という印象を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。でも、実際には人間は人間でがんばるわけです。

なかなかしたたかで、いろいろと考えますし、思考もしますし、ときには裏をかこうともする。そういった積極的な姿勢も、人間は取っていくんですね。アルゴリズムの仕組みをなんとか理解しようとしたり、できればそれを利用しようとしたりするわけです。

「アルゴリズムの計算方法はどうなっているんだろうか」といったことを、試行錯誤しながら、あるいは集団的に把握しようとして、自分なりの基準を定めて行動していく。こうした現象は、さまざまなプラットフォームに関する研究の中で、共通して観察されているポイントでもあります。

例えば、料理を配達するスタッフを観察した研究では、依頼が集中する時間帯を見極めたり、評価につながるような行動や対応を学習したりしている様子が見られました。

アルゴリズムが不透明であっても、「この地域で待機すると仕事が入りやすい」といった情報を、仲間内で交換している。こういった情報が手がかりになって、それぞれが掲示板などを通じてノウハウを共有していき、いわば「対アルゴリズム」のノウハウ、いわば攻略本のような知識が蓄積されていくわけです。

ただ、注意が必要なのは、そこで共有されている情報が必ずしも正確とは限らないという点です。それでも、ブラックボックス化されたシステムに対して、人間はなんとか対処しようと、集合知を活用していく。そういうことが実際に起こっているわけですね。

やはり人間というのは、ただ環境に置かれて受け身になるだけではありません。「どうすればより良い状況をつくれるか」ということを、常に考えていく存在です。

アルゴリズムがブラックボックス化されていて、ロジックが不明確な中でも、働く人は自分の経験や周囲の話を頼りに行動を調整しています。ただ、それが本当に正しいのかどうかはわからない。そういった曖昧さの中で働いているという状況です。

アルゴリズム管理がうまく機能しなくなる要因とは

さらに一部の人たちは、アルゴリズムを逆手に取って利益を得ようとする、より積極的な行動を取っているケースも見られます。例えば、最初は短時間の業務を繰り返して高評価を蓄積し、それによって良い仕事を得られるとわかると、その戦略を実行していく。

あるいは、特定の時間帯に集中して活動した方が効率的だと判断し、需要の高まるタイミングを見計らって動く。こうした戦略は、必ずしもプラットフォーム側が公式に提供している情報に基づくものではありません。

むしろ、働く人たち自身が自分たちで見つけ出したものだったり、情報交換を通じて発見された、ある種の「裏技」に近いノウハウなんですね。つまり、「人間が裏技をつくり出している」という姿が、ここで浮かび上がってくるわけです。非常に興味深い現象だと思います。

こうして見てみると、機械側=アルゴリズムだけを見ていても、その本質は見えてこないということです。人間側も人間側で、さまざまな工夫をしている。そしてそれは個人レベルではなく、集団としてノウハウを共有しながら対処している可能性がある。アルゴリズム管理の理解には、こうした人間側の動きにも目を向ける必要があるということです。

つまり整理すると、アルゴリズム管理が行われ、自由が制限されている状況であっても、働く人はアルゴリズムをなんとか操れないかと考え、裏技のような工夫を発達させていく可能性があるということなんですね。

なぜそうなるかというと、やはりアルゴリズムをうまく使いこなすことができれば、自分の報酬として跳ね返ってくる。あるいは評価として返ってくるわけです。だからこそ、アルゴリズムの動きを理解して、自分なりの法則を見つけ、それに基づいて行動することにはインセンティブがある。モチベーションが高まりやすい構造になっているわけです。

アルゴリズム管理導入で企業が押さえるべき視点

そういった意味で、アルゴリズム管理というのは、働く人にさまざまな制約を課す仕組みでもあるのですが、同時に“攻略すべき対象”にもなりうる。それが非常に興味深い点だと思います。

ただ、ここにもやはり“いたちごっこ”が生じる可能性がある。働く人が集合知やノウハウを通じて、プラットフォームのアルゴリズムの隙をつけるようになってくると、今度はプラットフォーム側が規約を変更したり、アルゴリズムを調整したりする。

そうなると、もともと使っていた知見が通用しなくなる。しかし、働く人はそこで諦めるのではなく、また別の方法を模索しはじめる。こうした“いたちごっこ”的な関係が続いていくという現象が見られるわけです。

こうした裏技的なアプローチは、ある意味では共存術とも言えますが、うまくいくとは限りません。そもそも集合知が必ずしも正確とは限らないからです。

また、アルゴリズムを読み解いてうまく活用できる人もいれば、逆にアルゴリズムに振り回されてしまい、疲弊していく人も当然出てくる。

しかもやっかいなのは、あるプラットフォームで通用した方法が、別のプラットフォームでも通用するとは限らないということです。アルゴリズムの仕様はプラットフォームごとに異なりますから、同じ“裏技”が他の場所ではまったく機能しない可能性もあるわけです。

今までお話ししてきたような、アルゴリズムをただ受け入れるのではなく、試行錯誤を通じて適応しようとするような能動的な人間像も、今後アルゴリズム管理を進めていくうえで、重要な論点として捉える必要があると思います。

アルゴリズム管理について議論するとき、つい「AIはどんなことができるのか」といった技術側の特徴にばかり目が向きがちです。でも実際には、それを使う人間側の反応も非常に能動的で、多様な動きを見せています。すごくポジティブに言えば、「人間側の創意工夫」もきちんと見ていく必要があるわけです。

ですので、企業がこれからアルゴリズム管理を導入していこうとする際には、働く人がどのように主体的に反応するのか、どういった“裏技”を編み出そうとするのか、そういった点も含めて、あらかじめ検討しておく必要があるのではないかと思います。

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