アルゴリズム管理が加速させる評価の格差
また報酬を巡っては、アルゴリズム管理のもとでは、評価の高い人ほど魅力的な案件を獲得しやすく、それをきちんと遂行すれば、さらに評価が高くなるという、ポジティブなスパイラルが生まれやすい。
裏を返せば、その逆もある。評価の低い人は、魅力的な案件にアクセスしづらくなり、結果として収入が伸びにくくなる。つまり、二極化、格差が拡大していく可能性があるということも、アルゴリズム管理のもとでは指摘されているわけです。
従来の人間による評価では、評価と仕事のアサインをリアルタイムで連動させながら、どんどん前に進めていくとか、リアルタイムでフィードバックするといったことは、あまり現実的ではありませんでした。
ある程度時間をかけて、ゆっくりと評価していかざるを得なかったわけですが、アルゴリズムの場合は自動化されているので、評価とアサインを連動させながら、よりスピーディーに進めていくことが可能になります。
これによって、通常であれば10年ぐらいかけて生まれる評価の格差が、一気に、非常に速いスピードで生じる。そうした評価格差の加速が指摘されています。

例えば、最初に運良く高い評価を得た人は、一気に評価が上がっていくかもしれませんが、最初にそうでなかった人は、なかなか評価が上がらず、傾きを変えられないといった状況につながっていくわけです。
働きたい時に働けるけど、“待機時間に報酬が発生しない”問題
もう1つ、報酬という観点から重要なのが、「業務と時間の細分化」です。これはアルゴリズム管理の1つの特徴でもあります。
例えば配車アプリや宅配サービスなどがありますよね。私も利用することがありますが、みなさんも使われているかもしれません。これらのサービスでは、働く人の視点から見ると、1回1回の業務が非常に細かく区切られていることが特徴です。そして、待機時間には報酬が発生しないケースもあります。
つまり、次の仕事が来るまでの間、無給のまま待機しているという状態になるわけです。当たり前といえば当たり前なのですが、ここは働き方を考える上で大きなポイントになります。働く時間が断片化されていく構造になっているからです。
この断片化された時間の構造は、「働きたい時に働ける」といった謳い文句につながっていきます。一見すると柔軟な働き方ができそうに思えるのですが、実態としては、かえって長時間の拘束を生むのではないかという指摘もあります。
例えば、仕事量自体はそれほど多くなくても、特定の時間帯に少し稼働して、またしばらくして稼働して、というようなかたちになると、次の依頼が来た時にすぐ対応できる状態にいなければ、その依頼を受け取ることができないわけです。そうすると、依頼に応じて仕事を遂行するというサイクル自体が崩れてしまいます。

さらに、「連続して依頼を受けている」状態でないと評価されないアルゴリズムが採用されている場合には、待機時間も実質的に拘束時間となります。つまり、待機していないと評価が上がらない、という構造がある。そうなると、本来は自由をもたらすはずだった断片化された時間が、実際には長時間の拘束につながってしまうというわけです。
“自由な働き方”が実は収入と時間を縛るジレンマに
加えて、報酬が実働時間のみに支払われる場合、総収入が下がってしまう可能性もあります。例えば、待機時間や移動時間が報酬に反映されないケースを考えると、そうした時間も含めて活動時間と捉えた時に、その割には得られる収入が少ないという状況が生じるわけです。
そんな中で、アルゴリズム管理のもとで安定した収入を確保しようとすると、常時オンラインで接続されていなければならない。これが、なかなか大きなジレンマになってくるわけです。
自由に働きたいと思っているのに、ずっと待機していなければいけない。そうなると、「それって普通に働いているのと変わらないのでは?」と感じますよね。むしろ、普通に働いている時よりも、常にシステムをチェックしていなければならないので、より厳しい状況にあるとも言えるわけです。
こうしたアルゴリズム管理と報酬の関係性は、働く人の経済的な安定にも直結する、非常に重要で深刻な課題です。おそらく今後、この点についての議論はさらに進んでいくでしょうし、深まっていくことも予想されます。プラットフォーム側がさまざまな対策を講じていく一方で、働く人の側からも多様な要望が出されていくことになるでしょう。
いずれにせよ、働く人にとっては、アルゴリズム管理の透明性の確保や、待機時間をどのように扱うか、そしてそれが報酬とどう結びついているのかといった点について、今後しっかりと検討されていく必要があると言えます。