「人事評価が面倒くさい」「ネガティブな評価をつけるのが憂鬱」そんな悩みを抱える管理職も少なくないのではないでしょうか。今回は、『離職率ゼロ!部下が辞めない1on1ミーティング!』著者で三井住友海上火災保険 三重支店 部長の竹野潤氏に「部下が成長する評価面談のコツ」についてインタビューしました。本記事では、マネージャーの仕事がラクになる「チーム理念」の作り方についてお話しします。
「プライベートを犠牲にしてまで出世したくない」と言う若手
——前回、最終的な評価をする前の目線合わせのポイントについてうかがいました。これまで期初や期中での1on1で対話していく中で、困ったタイプの部下はいましたか?
竹野潤氏(以下、竹野):「プライベートを犠牲にしてまで出世したくないです」という若手の部下がいましたね。私の持論では、会社員たる者、出世は目指すべきかなとは思っていますけど、人それぞれ価値観があっていいと思いますので、昇進やマネージャーになるのが絶対ではないとは思います。
ただ、忙しそうなマネージャーを見て、「あそこまでしてマネージャーになりたくない」と言う若手の中には、具体的にマネージャーがどんな仕事なのかを理解していない場合も多いと思うんです。
だから「プライベートを犠牲にしてまで出世したくない」と言う人には、「あぁ、大丈夫。その発想だと出世しないから」と言いました(笑)。「じゃあ、あなたが大事にしているものは何なの?」と聞いて、「〇〇なことです」と。「それ、やっていけば出世するよ。それでいいじゃん」みたいな話をしたら、本人も腹落ちしたようでした。
働く上で目指すものの1つがお金であり昇進でありマネージャーへの昇格であったりすると思うので、まず「部下が何を大事にしているか」を聞いてあげるのが大事だと思います。
全員が納得する人事評価はあり得ない
——なるほど。「何を大事にして働いているか」を聞くことが、部下のモチベーションを高める上でも大事なんですね。
竹野:はい。あとは会社から評価されなくて転勤してくるような、心に傷を負ってやってくる人もいるんですよね。この配属先は本当は行きたいところじゃなかったとか、去年の評価には納得していないとか。そうした結果は仕方ないと言えば仕方ないんですが、私がよく言っていたのは、「それよりも社外の人から評価されるとか、あるいは自分自身の評価のほうが大事じゃないの?」ということです。
ちょっとちゃぶ台をひっくり返すような話ですけど、しょせん人事評価って会社の中だけの狭い評価なわけです。
全員が納得する人事評価ってあり得ないと思っているので、そこに必ず不満は生じるんです。でも、結局それって会社の中だけの評価なので、「別にあなたという人間が評価されているわけではないので、しょせんそんなものだと思っておいたほうがラクじゃない?」と言っています。
だから私自身も、「あの人からはたまたま評価されなかったんだな、仕方ないな」ぐらいに思っています(笑)。
例えばですけど、人事評価ができるAIが出てきて、「あなたの遺伝子レベルで正確な評価を下せます」「あなたは60点です」って言われたら、けっこう傷つきませんか?ところが、人間がやると不満が出る一方で、逆に自分で折り合いをつけられる部分も出てくる。だから不満は必ずしも悪いことばかりじゃないかなと思っているんですよ。
「あの人にはそう評価されたけど、俺はちゃんと自分の評価を持っているぜ」というのでもいいんじゃないかなと思います。上司は神さまじゃないですからね(笑)。
能力は高いけど積極性がない部下
——なるほど。部下側の評価の受け止め方についても教えていただきました。他にも、例えば能力は高いけど積極性がなかったりモチベーションが低い部下には、1on1でどんなふうに向き合っていらっしゃいますか?
竹野:そうですね。自分の能力が高かったらそれを使いたくなるものだと思いますけど、にもかかわらずモチベーションが低いというのは、たぶん理由があると思うんです。そこは本人にしかわからないことなので、直接聞きますね。
「あなたの能力は高いと思っています。ところがモチベーションは決して高いとは私には見えません」と。「私はあなたにこういうことをやってほしい。でもやらない理由をよかったら教えてくれませんか?」って聞くしかないと思います。
対話の場を持ったにもかかわらずモチベーションが上がらないなら、もう配置換えすべきだと思いますね。けっこうそのへんはドライに考えています。部下1人のモチベーションを上げることではなく、チーム全体で成果を上げるのがマネージャーの仕事なので。
1人にかけられる時間ってやはり限られるじゃないですか。ある程度時間をかけてもダメなら、配置換えを検討したほうがいいと思います。その仕事が合わなかった、あるいは私と合わなかったという可能性もあるので、そこは違うフィールドを用意してあげたほうがいいと思います。
全員を「平均点以上」に育てようとしない
——上司としては、成果を出せていない部下がいたら、優先的に指導しなければという気持ちもあると思いますが、そんなに1人に合わせていられないということもありますよね。そのあたりはどう考えたらいいでしょうか?
竹野:メンバーの人数分だけ、実力値があるわけじゃないですか。その総合点を上げるのがマネージャーの仕事だと私は思っています。例えば10点の部下と80点の部下がいたとすると、どうしても10点の部下が目につくんですよね。「なんでそんな動き方をするの?」とか、こっちも人間なので腹も立つじゃないですか。でも10点をなんとか50点まで持っていこうというのは、けっこう無理がある。10点の部下にしてみたら5倍のパフォーマンスを出さないと無理なので、そうするとどうしてもパワハラになってしまったりします。
全員を平均点以上に上げようとするとどうしても無理が生じますから、10点の部下には「20点でいい」と言います。その代わり「80点の部下を95点にしよう」とか、そういう発想を持つと、チームとして全体のスコアが上がるんです。
「チーム理念」を作るとマネージャーの仕事がラクになる
——なるほど。ほかにも、竹野さんがマネージャーとして大事にしているポイントはありますか?
竹野:私はチームの経営理念みたいなものを作っていました。会社には「お客さまのために」といった経営理念やミッションがありますけど、抽象的なんですよね。「うちのチームだったら、お客さまのためにどういうことができるかな?」というのを言語化していました。
それを常に日常業務と結び付けていく。個人個人の価値観と会社の経営理念、あるいはチームの経営理念を結び付けるのがマネージャーのすごく大事な仕事なんです。私は毎朝の朝礼で必ずチーム理念を伝えていました。そうすることによって、「竹野さんはここは一歩も譲らないな」とか、リーダーがこだわっていることが部下にも伝わるんです。
チーム理念があると、何かトラブルがあっても、「課長、どうしましょう?」といちいち聞きに来なくなります。「竹野さんだったら何て言うかな?」という思考回路が部下の中に出来上がってきて勝手に判断してくれるので、マネージャーもラクになるんですよね。
——なるほど。個別のケースでもチーム理念に当てはめて考えることで、部下自身が対処できるようになるんですね。このチーム理念はどうやって作ったらいいのでしょうか?
竹野:私の場合は、みんなに作ってもらいました。私が作ると、「それって竹野さんが作ったやつでしょう?」となるのがわかっていたので、「俺は一切入らないけど、会社の経営理念を踏まえて作ってね」と伝えました。
上がってきたものに若干意見は言いましたが、みんなが出してきたものを、ほぼそのままチーム理念にしました。「だって、みなさんが考えたんでしょう?」という感じで、あえてマネージャーはあまり首を突っ込み過ぎないほうがいいと思います。
1on1は部下よりも「上司が育つ」もの
——そうすることによって自主性が芽生えたり、モチベーションが高まるんですね。竹野さんは1on1の支援もされていらっしゃいますが、実際に企業側によくあるお悩みを教えてください。
竹野:一番多いのが「やらされ感」ですね。最初に人事部あるいは社長が「1on1をやろう!」と声を上げるのはいいんですけど、「もうちょっとスモールスタートしたほうがいいんじゃないですか?」と言っています。
まず(現場の管理職に)腹落ちしてもらわないと、最初はよくても3ヶ月ぐらい経つと、やらされ感が蔓延してきてしまうんです。「あっ、やばい。今月の1on1やらないとな」みたいな状態になってくると、やはり良くないんです。
そもそも1on1ミーティングというと、どうしても部下の育成という観点でやられると思うんですけど、「実は上司が育つんですよ」と言っています。部下に育ててもらうんですね。1on1ってやはり部下の話を聞かないとダメじゃないですか。
でもついつい上司がしゃべっちゃうんですよね。私も過去はよくしゃべっていましたけど(笑)。人の話を聞くのってすごく難しくて、聞けるようになると人間力が上がるんです。だから1on1をちゃんと続けると、マネージャーとしてめちゃくちゃ成長します。
例えばですが、今までめちゃくちゃ真剣に話を聞いてくれた人って何人います? もしそんな人がいたら、「その人のためなら、ちょっと一肌脱いでがんばろうか」って気持ちになりませんか?
——確かに、自分の話を真剣に聞いてくれる上司にはついていきたいと思いますよね。
竹野:目指すところはやはりそこなんですよね。組織として、話が聞ける上司を育成することがすごく大事だと思います。それによって、部下のパフォーマンスが劇的に上がるんです。
「我以外皆我師也」って吉川英治さんも言っているように、やはり部下から学ぶことってけっこう多いんですよね。中間管理職になってくると上の人が部長とか役員になってくるので、どうしても学ぶ機会が減ってきます。そこで部下から学べる人って、やはり人間力が高いですよね。「1on1を続けるとそういう上司になれる可能性がありますよ」と言うと、みんな「おぉ、じゃあやろうか」ってなるんです。
いろんな書籍が出ていますけど、その観点で書かれているものはあんまりなくて、部下の育成を主眼に置いた書籍が多いんですね。もちろんそれはあるんですけど、1on1で本当に育つのは上司だと思っています。
——なるほど。上司としての能力を上げるためにも1on1が有効だということなんですね。竹野さん、ありがとうございました。

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