「人事評価が面倒くさい」「ネガティブな評価をつけるのが憂鬱」そんな悩みを抱える管理職も少なくないのではないでしょうか。今回は、『離職率ゼロ!部下が辞めない1on1ミーティング!』著者で三井住友海上火災保険 三重支店 部長の竹野潤氏に「部下が成長する評価面談のコツ」についてインタビューしました。本記事では、メンバーの納得感が高まり成果につながる「人事評価」の仕方を解説しました。
上役に見せる「人事評価シート」を部下本人にも見せる
——竹野さんは、部下が納得いく評価をするために年初での1on1や期中でのフィードバックで目線合わせを行うとうかがいました。こうした、最終的な評価をする前段階での目線合わせのポイントはありますか?
竹野潤氏(以下、竹野):人事評価はマネージャーで全部フィニッシュできることは少なくて、マネージャーの上の部長とかの二次評価があると思います。
これは賛否両論あると思いますが、上役に見せる最終面談の人事評価シートを、部下本人にも全部見せるんですよ。「こういう行動で評価を上げるけれども、齟齬はない?」とか。そうすると「こんなにいいふうに書いていただいてありがとうございます」ということもあれば、「いや、できればこれも追加してほしいです」というのが出てきます。
その時に、「じゃあ、それも追加しておくね。これで提出するからね」と言って、事前に認識合わせをしておくんです。
あらかじめ部下に評価シートを見せたほうが、フィードバックが楽
——実際に上に上げる人事評価シートを部下にも見せるんですね。なぜそうされているんですか?
竹野:最終的な評価がでた後のフィードバックが楽なんですよ。マネージャーが評価会議に臨む前に「これを持って全力でがんばってくるからね。その代わり、仮に結果が悪くても受け止めてね」と、一言付け加えます。
こうすると、「これでダメだったら仕方ないですね」と部下も覚悟できるので、フィードバックにほとんど時間をかけなくて済むんです。
もちろん評価会議でアピールをしても、その通りの結果にならないこともあります。最終的なフィードバックで「がんばったけどダメだったわ」となったとしても、「説明は今までしてきたとおりだよね」ということで、部下も納得してくれるんです。
そもそも、最終的なフィードバックで「こういうところがダメだから、次からこうしよう」という話をしても、部下としては「だったらもっと早く教えてよ」となりますし、(希望通りの評価にならなかった)言い訳に捉えられてしまう危険性もあるんですよね。
なので最終的な評価会議の前までに時間をかけて、フィードバックにはそんなに時間をかけないやり方のほうが、実際楽ですし、禍根も残りません。
上役に見せる評価シートは、部下に見せたものより「甘め」にする
——部下としても、ふだん1on1でアピールしたことを、本当に上司が上に伝えてくれているのかなと、不安になることもありますよね。人事評価シートを部下にも見せることで、その辺りの懸念点も解消されそうですね。
竹野:そうなんです。「どこまでアピールしてくれたの?」というのは、常に部下が持つ不満だと思うんですよね。それを書面で出す前に本人のコンセンサスを得ておくことで、納得感が高まるんです。
——部下と評価シートの目線合わせをしたうえで、さらに上の上司に持っていく時のポイントはありますか?
竹野:まず、部下本人に見せる評価シートは、ちょっと厳しめのものを見せるんですね。そして自分の上司に上げる時は、若干甘めのものにする。もちろんぜんぜん違うことは書けないですけど、自分の中である程度のバッファを持っておくということです。
最終的な評価は、ほかのチームのメンバーと調整されるわけですよね。だからある程度落とされるという計算も入れながら、本人に見せる評価シートと実際に上司に上げるものは、少しバッファを持たせていました。それはもう最低限の必要悪かなとは思います。
上司にCCで「部下との面談の記録」を送る
——そこで上司にアピールするためのポイントはありますか?
竹野:これはちょっとせこいんですけど、私はいつ面談をしたかとかの記録を残していたので、それをちょいちょい上司にCCで入れたりしていました。「これだけ面談をしていますよ。だから(メンバーの評価を)落とさないでね」というメッセージというか。
逆に「落とす時もちゃんとその根拠を言ってくれないと、私は納得しませんよ」と、暗にプレッシャーをかけるというか(笑)。
あんまり細かいことをメールで送る必要はないと思いますが、「毎月1on1ミーティングをやっていますよ」というぐらいは、別にCCに入れてもいいと思うんです。ただ、「いちいちこんなの送ってこなくていい」と言う上司もいるでしょうし、そこはケースバイケースだと思います。
——なるほど。ふだんから部下と向き合う一方で、上司への根回しもしっかり行っていく必要があるんですね。
竹野:いやぁ、めちゃくちゃあると思いますね。私はどっちかというと上司アピールが下手なほうだったんですが、私がある程度上司から認めてもらわないと、部下も認めてもらえないので、中間管理職が評価されるというのはすごく大事なことだと思います。
人事評価シートを作る時のポイント
——ほかにもこの評価シートを作る際のポイントがあれば教えていただけますか?
竹野:「具体的な数字を伝える勇気を持つ」ことですね。成績が良い部下の場合は問題ないんですけど、良くない部下との面談は難しいじゃないですか。その時に具体的な数字で伝える勇気を持つのがすごく大事だなと思っています。
「もうちょっとだね」とかじゃなくて、「私の中では何点だから、あと何点足りないね」と言う。そうすると「いや、そこまでじゃないと思います」とか、部下も反論してくるケースがあるんです。そこで、「じゃあ、もうちょっとすり合わせようか」「あっ、ごめん、そこを見ていなかったわ。じゃあもうちょっと評価を上げるけど、ここが限界だな」という具合にやっていくんです。
そこで具体的な数字を伝えるのってけっこうストレスなんですけど、この勇気を持つのがけっこう大事かなと思っています。
上司も部下も「具体的な数字」をもって話をする
竹野:あとは、行動評価と言っても、個人の行動、チームとしての行動、いろいろあると思うんです。私の場合は3つぐらいの項目に対して、本人にABC評価をしてもらって、「じゃあトータルで何点?」という自己評価を出してもらっていました。あまり資料作りに時間をかけさせたくなかったので、Aは良い、Bは普通、Cはダメという3段階の評価にしていました。
そのうえで、「私は80点だと思います」という自己評価に対して「80点はちょっと甘いかな。良くても78点かな」とか。ここで具体的な根拠を示すのは難しいので、この辺りはもう完全にお互いの主観でいいと思います。
だいたい評価に困る時って、上司より部下の評価のほうが高いケースです。上司と部下の両方が具体的な数字をもって話をするのが、行動評価においては必要かなと思います。
——なるほど。先ほどお話しいただいたように、期の始めで「このぐらいやってほしい」という期待値をあらかじめ伝えているから、最終的にできたかどうかのすり合わせで認識のズレが生まれにくいんですね。
竹野:そうです。それが一番大事ですね。部下もどの方向にどれぐらいのペースで走ればいいかがわかっていないので、まずそれをちゃんと伝える。辻褄合わせであったり、整合性がなかったりすると納得感がないので、年初に伝えた期待値に対して、年度末での着地がどうだったかをはっきりさせておくのは、すごく大事ですね。
本にもちょっと書いたんでが、箱根駅伝のイメージなんです。監督は車に乗って伴走して、「20秒遅れているぞ!」とか「良いペースだ!」とか、声をかけているじゃないですか。期中での人事評価の面談はあのイメージなんです。
部下の給料の話をタブー視してはいけない
——書籍の中では、マネージャーは部下の給料の話をタブー視しないことが大事だとおっしゃっていましたが、そのあたりをおうがかいしてもいいですか?
竹野:はい。私は人事規程とかを引っ張り出してきて、「今、月給いくらだよね?」っていう話をするんですよ。
うちの会社は評価によって給与がどのくらい上がるのか全部ガラス張りなので「今年例えばS評価だったら、来年2万円上がるじゃん」とか言います。実は本人もあんまりよくわかっていないケースがあって、「ボーナスでA評価とS評価だといくら違うか知ってる?」とか聞くと、「いやぁ、よく見ていないです」みたいな。「これだけ違うんだよ。これぐらい上がったらどう?」「いや、めちゃくちゃうれしいですね」「でしょう? じゃあ、がんばろうよ」みたいな対話をしています。
その対話の中で、部下は「自分の処遇についてもすごく興味を持ってくれているな」って感じるはずなんですよね。日本人ってお金の話を避けがちですけど、私はけっこうダイレクトに言いますね。
例えば「お子さんがこの大学に入って、お金かかるよね」というところから、「じゃあ、給料を上げようぜ」みたいな話をして。「来年に昇進はまだ厳しいかもしれないけど、再来年はトライできるから、そのためには今年はここまで持っていったほうがいいんじゃない?」「そうすると再来年にはこれぐらい給料が上がる可能性は十分あるので、これを目指そうよ」みたいな感じでよく話していましたね。

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