「人事評価が面倒くさい」「ネガティブな評価をつけるのが憂鬱」そんな悩みを抱える管理職も少なくないのではないでしょうか。今回は、『離職率ゼロ!部下が辞めない1on1ミーティング!』著者で三井住友海上火災保険 茨城支店 部長の竹野潤氏に「部下が成長する評価面談のコツ」についてインタビューしました。本記事では、管理職が「人事評価」で悩みやすいポイントと対処法について語りました。
「人事評価が憂鬱」管理職が悩みやすいポイント
——6月は上半期の成果見直しなど、評価・面談対応に追われるマネージャーも多いのではないかと思います。そんな中で、「人事評価が面倒くさい」「ネガティブな評価を伝えるのが憂鬱」と感じる方も少なくないのではないでしょうか。まずは、上司が人事評価に苦手意識を持ちやすい理由や、悩みやすいポイントを教えていただけますか?
竹野潤氏(以下、竹野):これは一言で言うと、人事評価に対する上司の無関心が問題だと思っています。やはり、一人ひとりの部下に対して「良い」「普通」「ダメ」って評価するのはすごくストレスなんですよね。良い評価をする時はいいんですけど、良くない評価って誰しもしたくないので、当然苦手意識を持ってしまう。
人事評価への関心が低いと、いざフィードバックとか人事面談の時になって「どうしよう」って焦ってしまうんですね。私自身、「もっと人事評価に関心を持てばエンゲージメントも上がるのに」と前から思っていたんです。まずは関心度合いが低いということが、苦手意識につながっているのだと思います。
本(『離職率ゼロ!部下が辞めない1on1ミーティング!』)にも書いたんですけど、人事評価には主に成果評価と行動評価の2つがあると思っています。成果や実績は数字を伝えるだけでさしたるストレスは感じないと思います。
明確な基準がない「行動評価」がストレスに
竹野:一方で、行動評価ってその人の主観がだいぶ入るので、「あなたは良いですよ」「ダメですよ」と言うのって、すごくストレスなんですよね。マネージャーにとってはめちゃくちゃ大事な領域なんですけど、できればやりたくないっていうのは正直なところだと思いますね。
あともう1つは、対話不足ですね。ふだんから対話していれば、評価が良いか悪いかは、なんとなく部下もわかってくるんです。それを最終の人事評価のフィードバック1回で終わらせようとするから、どうしても無理が生じてしまうんです。
——なるほど。竹野さんご自身も、マネージャーになった当初、人事評価に対して無関心だったり、苦手意識を持っていましたか?
竹野:そうですね。人事評価は大事だとは思っていたんですが、やり方がよくわからなかったんです。これはどこの会社でもそうだと思うんですが、マネージャーってある日突然マネージャーに指名されるわけで、人事評価のプロじゃないんですよね。やったこともない人事評価を、いきなり「今月からやってください」という状況になるわけです。
もちろん研修をやっている会社さんもあると思いますし、私が勤めている三井住友海上でも「人事評価が大事だよ」とは言っています。
ところが「具体的にどうやればいいか」とか「部下にこういうふうに言わないといけない」とかまで手を差し伸べている会社って、ほとんどないと思うんですよね。だから私も最初は手探りでやっていました。
メンバーの「役割」を言語化して伝える
——なるほど。苦手意識を持ちやすい背景には、人事評価の具体的な方法がわからないまま、手探りでやっているからという点もあるんですね。竹野さんご自身も、人事評価で失敗した経験はありますか?
竹野:本にも失敗談を1つ書いたんですが、私も最初の頃はぜんぜん対話ができていませんでした。三井住友海上では役職ごとの役割区分があるのですが、決して具体的な表現ではないんですよ。
例えば課長代理なら「チームをまとめる」とか、抽象的な表現にならざるを得ないんですが、そこをもっと明確に言語化して伝えてあげたらよかったなという反省はありますね。
いわゆるジョブディスクリプションを明確にするということです。「役割区分で考えると、例えばこういう行動になるよね」とか、できるだけ具体的な表現で部下にしてほしい行動をもっと伝えられたらよかったと思います。
——例えば課長代理のポジションの方が、その役割で期待されるような行動ができていなかった場合に、明確に「課長代理はこういうことができていないとダメですよ」とお伝えしておけばよかったということですね。
竹野:そうです。会社が定めた役職ごとの役割を、本人の業務に置き換えてマネージャーが言葉として伝える。会社が定めているのって一般的なことなので、それを「今うちの部署だと、これはこういうことに該当するよね」とか通訳してあげないと、ふわっとしたままでは部下はわからないと思うんです。
例えば担当課長だと、会社が定めた役割区分としては「チームを率いている」などの表現が使われます。でも「チームを率いる」というのは抽象的なので、解像度が低いんです。
「じゃあ、これって具体的にはどういうことなの?」と考えて、例えば会議での指示や、「月の目標に対してこういう動きをすること」といった具体的な行動をかみ砕いてあげるのも、マネージャーの仕事だと思います。
部下は人事評価に何らかの不満を抱くもの
——著書『離職率ゼロ!部下が辞めない1on1ミーティング!』の中では「人事評価は納得感を持たせることが大事」と書かれていました。そのために上司としてやるべきことを具体的に教えていただけますでしょうか?
竹野:そもそも、部下にとって、人事評価は何らかの不満を持ちやすいものです。上司の力量にもよりますけれど、「上司が評価をするものだから、もう仕方ないですよね」みたいに諦めている部下も多いと思います。
そこで大事になってくるのは、「部下と上司の目線のギャップをなくすこと」です。よくカーナビにたとえてしゃべることがあるんですけど、「4月にスタートして、翌年の3月末にこういう状態」って目標を立てるわけじゃないですか。要は目的地を設定するわけです。
それに第1四半期、第2四半期ということで進んでいくんですけども、その時の現在地が、いわゆるマネージャーと部下の間では必ずずれが生じるんです。
本来100キロ行くところを、部下は「いや、もう70キロまで来ています」と。でも上司は「いやいや、まだ30キロしか行っていないでしょう?」と、そこの目線合わせがすごく大事になってきます。
部下と上司の目線のギャップをなくす
——なるほど。部下としては「仕事がちゃんとできている」と思っているけれども、マネージャーからしたら「もっとやれるでしょう」というギャップですね。
竹野:そうです。「期待値を示すことが大事」と書籍にも書いているんですけど、A君に対しては「これをやってほしい」と期待値を伝える。上司と部下ではどうしても、目的地に対する進度がずれるものなので。「まだちょっと追いついていないけど、いいペースで来ているよ」とか、ずれをその都度見直していく。期中での面談の回数が大事なのはそこなんですよね。
——面談の回数が大事だということですが、この期中での見直しはどういったタイミングですればよいでしょうか?
竹野:私はだいたい四半期に1回ぐらいやっていましたね。1on1ミーティングは毎月やっていたんですが、毎月評価の話だと部下も嫌がるので(笑)、人事評価についての見直しは、3ヶ月に1回のペースでは入れていました。
だいたい会社は「上期末と年度末(に人事評価の見直しをするように)」って言うんですけど、それでは少な過ぎるので、年に最低でも4回ぐらいやる。そうすれば、部下も遅れが生じた時に自覚してペース配分を変えられるじゃないですか。その機会をできるだけ多く確保することが大事かなと思います。
適正な「行動評価」は存在しない
——先ほど、数字ではっきりと出る成果評価と、主観で判断する行動評価の2つがあるとお聞きしました。部下の納得感を高めるために、この行動評価を適正に行うポイントはありますか?
竹野:私は行動評価に適正な評価というのはないと思っていて、そもそも行動評価って難しいんですよね。よく相対評価とか適正な評価という表現が使われますけど、正直私は無理だと思っていて、もう絶対評価と主観的評価でいいと思っています。
ちょっと誤解が生じるかもしれませんが、上司が示す期待値に対して、できている、できていないというのがすべてだと思っています。というのは、行動評価って常に上司が見られるわけじゃないので、そこを全部適正に評価するなんて、どだい無理なんですよね。だから対話量をできるだけ多くして、見れていないところを部下にしゃべってもらう。そうすると、部下と上司の認識のずれが少なくなってきます。
1on1で聞き出したいポイント
——例えば、マネージャーが気づいていないけど、ふだんチームのためにやってくれている行動を部下にアピールしてもらうということでしょうか。
竹野:そうです。部下の性格にもよりますけど、けっこうアピールしてくる人もいれば、控えめな人もいるじゃないですか。「そんなこともやっていたの? 知らんかったわ」みたいなことを1on1ミーティングで拾っていくイメージです。
そうすることによって、部下も「あぁ、聞いてくれている」と感じるので、最終的な人事評価に納得感が高まってきます。部下全員に同じようにそのような機会を確保すれば、人事評価の不満はなくなりはしませんけど、少なくはなると思います。

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