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これでイイのか⁈『社員の退職リスク』(全3記事)

“やる気に頼らない組織”をどう作るか ハイパフォーマーと「静かな退職者」の共存の鍵は“業務の細分化”

人材育成・組織開発を通じ、企業成長を後押するDaBaDee株式会社。今回は「これでイイのか⁈『社員の退職リスク』」をテーマとした同社主催のセミナーの模様をお届けします。企業が「静かな退職者」を受け入れるメリットや、モチベーションマネジメントが不要になる組織設計などが語られました。

企業が「静かな退職者」を受け入れるメリット

高桑由樹氏:「静かな退職」について、ここまで聞いてこられたみなさんの中には、「これって大丈夫なのか?」と不安に思われた方もいるかもしれません。確かに、課題も多く、問題視される面もあるとは思います。

ただ、少し視点を変えて、静かな退職者を会社としてどのように受け入れるかを考えてみると、必ずしも悪い話ばかりではありません。むしろ、一定のメリットがあると考えています。

まず1つ目のメリットは、採用要件の緩和につながるという点です。静かな退職者は、そもそも昇給への期待が低いため、給与に対する要求水準が高くありません。

例えば、これまでは転職市場で50代の方を採用するとなると、マネージャーや役員クラスでない限り難しいとされてきました。理由は、年齢に比例して高い給与水準を提示しなければならないという年功的な発想があったからです。

ところが、静かな退職者の場合、そうした「高年齢=高給与」という前提がそもそもありません。ポジションや業務内容に応じた年収設定を受け入れてくれるため、年齢を問わず、あるいは非正規雇用であっても柔軟に採用しやすくなるという利点があります。

2つ目は、昇給が前提にならないため、人件費のコントロールがしやすくなるという点です。毎年昇給するという前提がない分、予算面でも安定的な人材マネジメントが可能になります。

3つ目のメリットは、がんばらない働き方を前提にした組織設計ができるということです。静かな退職者は、過度な努力や積極的な貢献を求めていません。であれば、最初から「がんばらなくても成立する」業務設計、オペレーション設計にすることで、同じような働き方を望む人材を安定的に集められるようになります。

モチベーションマネジメントが不要になる組織設計

4つ目は、モチベーションマネジメントが不要になることです。先ほど申し上げたとおり、静かな退職者に対して「やる気を引き出そう」としても響きません。そもそもやる気を前提にしていないため、管理は非常にシンプルになります。「決められたことができているかどうか」だけを確認すればよく、人の感情やモチベーションの機微を考慮する必要がありません。

こうした点は、成果主義が強く根付いている欧米的なスタイルにも通じるものがあります。もちろん、欧米型がすべて良いというわけではありませんが、日本的な「関係性重視」のマネジメントから、「成果や結果にフォーカスした管理」への移行が進む一因にはなると考えています。

そして最後にもう1点。静かな退職者は、「言われたことをきちんとこなす」というスタンスのため、マネージャーとしても要望を伝えやすくなります。人間関係や信頼形成にエネルギーを割かずとも、業務をスムーズに進められる環境が整いやすいという面もあるでしょう。

このように、静かな退職者の存在は一見ネガティブに捉えられがちですが、受け入れ方によっては、組織運営においてプラスに働く要素も確かにあるのです。

ここまでを踏まえてお伝えしたいのは、「静かな退職」は必ずしも問題ではない、ということです。こういった方々が増えているのは、時代背景が大きく関わっています。つまり、これは今後スタンダードになっていく動きだということです。

「どうしよう」「この流れを止めないと」と構えるのではなく、むしろ私たちがこの変化にどうアジャストしていくか。そこにフォーカスしていく必要があると思っています。ここまでが、中途・既存社員の退職要因についての整理でした。

ハイパフォーマーと静かな退職者を“業務で切り分ける”

では最後のパートです。ここまでの内容を踏まえて、人材定着のために今後どう取り組んでいけばよいかを考えていきます。

3つの方向性を挙げていますが、とくに1つ目と2つ目は、静かな退職者とどう向き合うか、3つ目は積極的に働きたい人材をどう引き留めるかという観点です。

1つ目は、「静かな退職者をどう活用するか」です。こうした方々にも、もちろん組織に貢献してもらう必要があります。マンパワーを確保するという意味でも、静かな退職者が「この会社、悪くないな」「ここでなら働いてもいいな」と思えるような職場を提供できるかが勝負になります。

彼らは、やりがいや成長機会、あるいは会社への帰属意識を重視していません。関心があるのは、実利です。職場が「コスパがいい」「タイパがいい」と感じられるかどうか。そうした視点で職場設計を考えていくことが必要だと思います。

2つ目は、「少人数で運営できる体制へのシフト」です。極端に言えば、どうしても働かない人には、やはりご退場いただくしかない場面も出てくるでしょう。放置しておくと、むしろパフォーマンスの高い人材の退職を招くリスクがあるからです。

そのためには、「引き止めなくてもまわせる」組織体制を整えておくことが重要です。誰かに強く依存しない、属人化しない業務に分解して、モチベーションが高くなくても回るように仕事を設計しておく。つまり、「誰でも一定の水準でできるようにする」ことが求められます。

3つ目は、「貢献意欲の高い人材を惹きつける」ことです。静かな退職者が増えている一方で、自己成長を望み、ポテンシャルを発揮したいという方々も確実に存在します。こうした人たちは、「この会社で働くとどう成長できるのか」「どんなキャリアパスがあるのか」といったメリットが明確でなければ、より魅力を感じられる他社へと流れていきます。

今はもはや、関係性や終身雇用を前提にして人が残る時代ではありません。だからこそ、会社として「ここで働く価値」を明示し、魅力的な環境を提供していく必要があると考えています。

“やる気に頼らない組織”をどう作るか

最後になりますが、これまでのようにモチベーションを前提としたマネジメントは通用しづらくなるという話をすると、「静かな退職者なんて増えてほしくない」「やる気を見せてくれない人とは一緒に働きたくない」といった声をいただくことがあります。その気持ちもとてもよくわかります。「どうにかこの流れを止めたい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、静かな退職者が増えていくのは、もはや止められない時代の流れです。だからこそ重要なのは、彼らが活躍できる場をつくることです。モチベーションを前提としない仕事へと切り分け、彼らが力を発揮できる環境を整えることが求められています。

ひとつ、印象的な事例として「タイミー」の話をご紹介します。タイミーは、短時間でも働ける人と企業をマッチングするプラットフォームですが、単なる人材紹介ではなく、「業務を分解する」ことが本質的な価値だと捉えています。

クライアント企業に提案する際、まず行うのは業務のヒアリングです。どの仕事が正社員でなければならないのか、どこまでなら非正規社員でも対応可能か。業務を細かく分解し、それに応じて最適な人材をマッチングしていく。

実際、多くの業務は正社員でなくても十分にこなせるということがわかってきています。機密性の高い一部の業務を除けば、多くの仕事はパートやアルバイトでも対応可能なのです。タイミーの事例のように、業務に適した人材をタイミングに合わせて配置することが、まさに「静かな退職者時代のマネジメント」だと言えます。

このように、これからの人材活用においては、「業務 × 人の切り分け」がより重要になります。AIと人の役割分担が注目されていますが、それと同じように「モチベーションが高い人」と静かな退職者の役割を切り分けて設計する必要があると感じています。

従来の日本の職場は、右肩上がりの成長と社内競争を前提として設計されてきました。しかし今は、そうではないキャリアパスや働き方を提示できなければ、「選ばれる会社」にはなれません。結果として、せっかく雇った人材が定着せず、次々と辞めていってしまうということにもなりかねません。

このように、「静かな退職」というのは一時的なブームではなく、長期的なトレンドです。これにどう対応していくかが、企業にとって極めて重要なテーマになっていくと思います。

以上をもちまして、本日のセミナーは終了となります。ありがとうございました。

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