『ノーノーマル時代を生き抜く リーダーシップの教科書』の出版を記念して開催された本イベント。著者で、株式会社HRファーブラ 代表/組織人事コンサルタント&ファシリテータ/研修講師の山本紳也氏が登壇しました。本記事では、「この人の下で働きたい」と思われるリーダーの条件について語ります。
松下幸之助氏の言葉から学こと
山本紳也氏(以下、山本):「謙虚で素直に」と書いていますが、松下幸之助さんの本を読まれた方はおわかりだと思いますけれども、幸之助さんの本に書いてあることに別に目新しいことはないです、みんな一緒です。松下幸之助さんという方は、素直という言葉をすごく使われる。
この本の中でも引用させてもらいましたけれども、新入社員が何か質問をしてきたら立ち止まって、(自分が)社長の時にもしっかりと耳を傾けて聞く。

秘書をやっていた方が書いていらっしゃる本だったかな。「いや社長、こんな忙しいのになんであの若者にそんなに時間を使うんですか?」と言ったら、「私は60年生きてきて彼は20年しか生きていないかもしれないけども、僕は彼の20年を生きたことはないから、彼から学ぶことはあると思うよ」というようなことを答えられた話が出てきます。
やはりその姿勢ですよね。「俺の言うことを聞いてりゃいいんだ」というのではない。そんな上司はもう今はあんまりいないと思いますけども。そうすると、この傾聴というのは自然にできるようになりますよね。
「部下に興味を持つ」ことから
山本:ずっと1人でしゃべっているからちょっと聞きたい。自分は傾聴が得意だ、できていると思う方は手を挙げてください。または、自分の上司は傾聴してくれているという人?
ありがとうございます。やはり僕は研修とかコンサルをしていてもそうだし。いわゆるコーチングの資格は持っていないんですけれども、ビジネスコーチみたいなので2つぐらい外資系企業でやっています。
いろんな国の人の(コーチング)を受けることもあるんですけど、もうビックリするぐらい傾聴をしていないと思います。すみません、かつて一緒に働いていた人が「山本さん、していなかったでしょ」って、昔の話はちょっと置いておいてね。
(会場笑)
山本:もう本当に、「何を考えているのかね? うちの部下はこうこうこうなんですけど、こう言ったらどう反応しますかね?」とか「どう思うと思います?」って。会ったことも見たこともない俺にわかるわけないだろうという話で、「本人に聞いてみた?」と言ったら、「いや、聞いていないです」「聞いてみないとわからないよね」という話から入ることがすごく多いです。
聞いて初めて部下の考えていることがわかるわけだし、「聞いてもらえている」と部下が思うかどうかが大きいわけですよね。上司、部下というよりも同僚でいいんですけども。やはりその場を作っていくのは大事かなと。入り口はこの好奇心……よく「部下に興味を持て」とか言うじゃないですか。「どうやって興味を持てばいいんですか?」とかみんなすぐ言うんですけれども。
だって、良いところも悪いところもみんなあるし、自分と違うものを絶対持っているじゃないですか。だから、「なんでそういうふうになったのかなとか、興味を持たない?」と言ったら、「いや、あいつ、俺と合わないんで」と。「だからあいつと合わないじゃなくて」みたいな話をよくしますけども。それはすごくあるかなと思います。
「日本はクリーンな国」という思い込み

山本:さっき言ったように倫理観がすごく変わってきていますよね。やはり言い方は悪いですけど、「お金儲けのためだったらば」というのは違うし。
さっきの賄賂の話もそう。それも本で書いていますが、意外と日本はクリーンな国だって思っているかもしれないですけれども、盆暮れ正月がある(お中元とお歳暮を贈る慣習がある)とか、飲み会でおごるとかおごられるというのがあるとか、「『あれって賄賂じゃないの?』と聞かれた時にどう答えます?」というのはあるんですよね。
僕は(本の)中で実例を書きましたけれども、やはり外資系の企業で、「いやいや、こんなの本社にバレたら絶対俺、クビだよ」ということが日本では当たり前に行われているみたいなことがけっこうあったりします。そのへんは世代間ですごく違ってきていますから、やはり上の人たちがここをしっかりとするのは当然かなと。
で、公平性。僕はちょっと悩んだんですが、アンコンシャス・バイアスをダイバーシティのセクションじゃなくて公平性のところで書いたんです。
何気なくみんな使っているDE&I、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」という……「エクイティ」というのが何年か前に入ってきましたが、どういう意味かをわかっていない上司が圧倒的に多いと思うんですね。
やはりそこはちゃんと理解しなくちゃいけない。「本当にスタートラインが一緒なんですか?」というところをすごく意識する必要はあるかなと思います。
「1回決めたらやり抜く」という美徳が会社を倒産に導くことも
山本:さっき言ったように、昔みたいに実績、履歴書に書いてあることではなくて、この人と働いてみたいかどうかで人を見ていますから、やはりオープンな人でないといけない。トランスペアレントな人(透明性のある人)でないとついて来ない、というのはすごくあるかなと思います。
(本を)書いてみたら、「松下幸之助さんとかそれこそ稲盛(和夫)さんだとか、あの方々の言われていること、書かれていることと一緒なんですよね」と、この間言われたんですよね。「でも時代が変わってきたら何か違うところ、ありません?」と言われた時にあらためて考えてみたら、やはりここかなと思いました。
変化のスピード感が違う。とりあえずじっと我慢してやらせてみるのは簡単じゃなくなっていますよね。やはり「1回決めたんだからとことんやり抜こうぜ」という美徳は、一歩間違えれば会社を倒産に導く可能性まであるわけですよね。
だからここの変化にどうついていくか、ちゃんと意思決定……たぶんこの間で意思決定が入るんですけども、それで行動をどう変えていくかみたいなところは、やはりこの時間軸がすごく変わってきていると思います。
さっき言ったように、ビジョンがブレないということがないと、ただの優柔不断なおじさんになってしまいますので、やはりそこかなと。
今ここに元PwCが何人かいるので話がしづらいところもあるんですけども。PwCの前の前のCEOが僕の上司だった時に、「成長し続けなくちゃいけないんだ」と言われて。いや、本当にできているかどうかは別ですが、「成長し続けて拡大してあげなくちゃいけないんだ」と言われて、「えっ、利益のほうが大事なんじゃないんですか?」と。「ただ大きくなればいいって、そういう問題じゃないですよね?」。
もちろん、ただ大きくなればいいというんじゃないんだけど。それもここに書いていたような気がするんですが。何が言いたいかというと、やはりある程度のレベルはちゃんと大きくならなくちゃいけないんですけども、「PwCという会社はコンサルタント一人ひとりが社会貢献をするんだ」と。
「1人でも2人でも人間が増えることによって、それだけ社会に対する良いインパクトを与えるサイズが大きくなるんだ」「だからそれが社会的な使命なんだ」と言われたんですよ。できているかどうかは別として、「あぁ、そうか。こういう信念を持っていなくちゃいけないんだ」と、すごく思ったことはあります。その人のことを僕はすごくリスペクトしていましたし、やはりそういうものは必要かなと。