新入社員が入社して早々に辞めてしまう早期離職が問題視されています。そこで今回は、甲南大学 経営学部 経営学科 教授で
『組織になじませる力 ~ オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』著者の尾形真実哉氏にインタビューしました。新卒・中途それぞれに向けて、早期離職を防ぐポイントをお届けします。本記事では、中途採用者が早期離職する原因と解決策をお伝えします。
中途採用者が早期離職してしまう原因
——前回、新卒向けの効果的なオンボーディング施策についてお話しいただきました。一方で中途社員が早期離職してしまう場合、その背景にはどんな問題があるのでしょうか?
尾形真実哉氏(以下、尾形):先ほどお話しした通り、日本企業は新卒に対するオンボーディングは、どこの会社も充実していて、むしろやりすぎな会社もあるくらいです。一方、中途はほとんどされていないんですね。
その要因は、今まで新卒一括採用でやってきたという日本の採用の歴史も関係しています。転職市場がこれだけ活況になったのは本当にここ数年だとは思うんですけど。バブルが崩壊してちょっと経ってから、2000年代の頭ぐらいから中途採用が徐々に始まりました。
若い労働力はどんどん減ってくる中で、中途採用は不可欠になってくるので、中途に対するオンボーディングもやっていかなくちゃいけない。でも現場は忙しいので、中途のサポートまで行き届かないまま、(中途採用が始まってから)もう25年も経ってしまったのが今の日本企業の現状です。
なぜ中途社員のオンボーディングは進まないのか?
——中途のオンボーディングが進まない要因として、どんなことがあるのでしょうか?
尾形:まず中途と新卒のオンボーディングの違いをマラソンに例えると、中途は先行逃げ切り型。中途の方は最初の1〜3ヶ月間がすごく不安なので、この期間にオンボーディングを充実させる。逆に新卒はマイペース型と言っていて、2年間は同じペースで平等にオンボーディングをしていく。

ただ中途が難しいのは、毎月毎月入ってくるので、それを何度も繰り返さなくちゃいけないのが面倒くさい。現場の負担感もすごくあるし、人事からのサポートもけっこう難しいので、ここがやはり中途採用のオンボーディングが難しいところですね。
もう1つ、中途採用者に対する組織のみなさんの捉え方の問題もあります。中途採用って社会人経験があるし大人だから、そんなにサポートが要らないだろうってみんな思ってしまう。
私もずっと言っているんですけど、「中途イコール即戦力」というイメージは絶対にやめたほうがいい。会社の知識もないし、仕事もどんなことをやるかわからないし、どういうプロセスで仕事をするかもわからない。会社の中に人脈もまったくなく、社員との信頼関係も築けていない中で、パフォーマンスをすぐ発揮できる人なんてほとんどいないんです。
「とりあえずお手並み拝見」という周囲の雰囲気
——周りが「中途は仕事ができて当たり前」みたいなスタンスでいると、中途採用者自身も質問したり頼ったりしづらいですよね。
尾形:そうなんです。別に周りも悪気があってやっているわけじゃないんですけど、「お前、どれだけできるんだ?」「とりあえずお手並み拝見」みたいな、様子見する雰囲気ってやはり伝わるんですよね。
オンボーディングの3つの効果の中に、情報を与えるインフォーム行動と、温かく迎え入れるウェルカム行動というのがあるんですけど、このウェルカム意識がやはり低下していると、「なんか歓迎されていないな」と感じさせてしまいます。
「即戦力だからサポートは必要ない」という勘違い
——そうなると、孤独感を抱いたりしてパフォーマンスも発揮できないですよね。組織としてはどう対策していけばいいんでしょうか?
尾形:一言で言うと、やはりオンボーディングが大事です。最初にしなくちゃいけないのは、「中途採用者はサポートは必要ない」という既存社員の意識を変えることです。
人事も、「即戦力で採っているから、そこまでサポートを手厚くする必要ない」って思っちゃうんですけど、決してそんなことはなくて。中途だからこそサポートしなくちゃいけないと思っています。
私がいつも挙げるのは、8個の中途採用者の適応課題です。

新卒はさっき言ったリアリティ・ショックがすごく大事で、あとは会社のルールや仕事のやり方、会社の暗黙のルールを徐々に理解していく必要があるんですけど。
中途のほうが、組織課題は圧倒的に多いのにサポートが不足しています。そこで具体的にどんなサポートをしていくかというと、まずはアンラーニングですね。新卒って何にも染まっていないので、その会社の色に染める染色教育だけで済むんですけど、中途はやはり前の職場での色がついています。
中途の良さがなくなってしまうので、真っ白にする必要はないんですけど、ちょっと薄めてもらうところは必要だと思うんですよね。それが脱色教育、つまりアンラーニングです。まずこのアンラーニングをしてから、新しい会社の色にも多少染まってもらうという段階です。
なので、まず中途採用者自身に「アンラーニングとは何か」という知識を与える。これは座学レベルでよくて、研修で「アンラーニングとはこういう考え方で中途採用の方にも非常に重要な考え方。それをしないと不適応を起こしてなじめなくなってしまう」ということを伝える。これはもちろん、まず人事のみなさんがアンラーニングをしっかり理解しないといけません。
あとは知識の付与だけじゃなくて間接学習ですね。中途採用者の先輩社員で活躍している人は、おそらくアンラーニングがうまくできた人の可能性が高いです。会社によってもアンラーニングのやり方は変わってくると思うので、先輩社員にアンラーニングの実践の仕方について話してもらうのが理想です。
中途採用者が苦労する「他部署との人脈づくり」
——なるほど。このアンラーニングをされた後は、どのようなオンボーディングのプロセスがあるのでしょうか?
尾形:あとは染色教育なので、新卒と同じように会社の知識やカルチャー、歴史とかを伝える研修を行っていく。もう1つ大事なのは、中途の方は人脈作りのところですごく苦労することが多いんです。中途の方は「同期の存在が欲しい」と言う方が多いんです。やはり同期がいないっていうのはけっこう寂しいので。
年に1人とか2人しか採用しない会社は難しいかもしれないですが、例えば20人ぐらい入った時に、一堂に集めてワークをしてもらったり。そこで人脈を作ってもらって、同期としての関係性を築いてもらえるような研修をするのも大事だと思います。
中途の方の話を聞くと、自分の職場や部署での人脈は比較的築きやすいんですけど、他部署との人脈を築くのがすごく難しいんです。なので他部署にもつながりを作るような研修をする。
——なるほど。ありがとうございます。
関連サイト:
『組織になじませる力 ~ オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』