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新入社員が活躍できる組織をつくる、企業のオンボーディング対策(全3記事)

中だるみしやすい「入社2年目の憂鬱」の乗り越え方 できる後輩が入ってきて"モチベ低下”を防ぐポイント

新入社員が入社して早々に辞めてしまう早期離職が問題視されています。そこで今回は、甲南大学 経営学部 経営学科 教授で『組織になじませる力 ~ オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』著者の尾形真実哉氏にインタビューしました。新卒・中途それぞれに向けて、早期離職を防ぐポイントをお届けします。本記事では、新卒社員に向けたオンボーディングのヒントをお伝えします。

数ヶ月で辞めてしまう新入社員…早期離職はなぜ起きるのか?

——新年度が始まり数ヶ月が経ちますが、「新入社員がすぐに辞めてしまう」といった悩みを抱える企業も多いのではないでしょうか。早期離職が起きてしまう背景や、防ぐためのポイントがあれば教えてください。

尾形真実哉氏(以下、尾形):そうですね。うちのゼミ生なんかもそうなんですけど、今は「新卒で入った会社でずっと勤め上げる」と考えている人は、ほとんどいないというか。転職を前提に就職活動をしている感じなんですよね。

我々世代はそんなことを考えていなかったし、特にもっと上の世代なんて、基本的には終身雇用ですから、1つの会社で勤め上げるのが当たり前。会社としては「入れてしまったらこっちのもん」みたいな感じで、そこまで社員を組織になじませようとしなくてもよかった。ある種、「勝手になじめ」みたいなところがあったと思います。

でも今は会社としても、特に若い子には定着してもらって、将来的に活躍してもらいたいというのがありますよね。その時に、しっかりサポートをしてなじませてあげるような働きかけをしていかないと、「人のことをぜんぜん大切にしてくれないな」「この会社に長くいても自分は成長できない」と、すぐ転職されてしまう。

中途採用はもちろん比較的高いコストがかかっているし、新卒は教育コストも大きいので、それを回収できないのは会社にとってはすごくデメリットなんです。そこを回収する意味も含めて、やはり社員を組織になじませるための働きかけはすごく必要になってきます。

新入社員を「組織になじませる」工夫が大事

——人材流出を防ぐためにも採用後のオンボーディングが重要だということですね。

尾形:「どうせ転職されるんだから、別になじませなくてもいいんじゃないか?」という考え方もありますが、私は大きな間違いだと思っています。こういう時代だからこそ、組織になじませる力がないとぜんぜん人が入ってこないし、入ってきてもすぐに出ていく。人材流出企業になって淘汰されてしまいます。

転職が当たり前になってはいますが、やはりどこの会社の人事も経営者も、できれば長く定着してもらいたいと思っているんですよ。これは実はアメリカでもそうなんです。アメリカ社会では転職が当たり前だとされていますが、人事の人たちもできれば長く定着してもらいたいと思っているんですよね。

——転職が当たり前の時代だからこそ、企業が生き残っていくために、社員を定着させる必要があるんですね。やはり早期離職の原因としては、企業側がオンボーディングをしっかりできていないことが大きいのでしょうか?

尾形:早期離職の原因は、新卒の方と中途の方で違うんです。やはりそこをしっかり分けて考えないといけないと思います。

新卒社員が早期離職してしまう原因

——新卒の方の早期離職の原因はどういったところにあるんでしょうか?

尾形:これは私の本(『組織になじませる力 ~ オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』)にも書いているんですけど、基本的に新卒はリアリティ・ショックが原因です。ここは誰もが直面するような課題だと思うんですよね。

リアリティ・ショックというのは、思っていた仕事と違うとか、心理的なミスマッチのことです。ここをまずうまく解消していくのは、新卒でも中途でも大事な課題です。これは個人の中で解消しなくちゃいけない部分もありますし、組織としてその解消をサポートしなくちゃいけない部分もある。

リアリティ・ショックは、やはり採用のところがすごく問題なんです。最初に「この会社ってこんな仕事をさせてもらえるんだ」「こんな人たちがいるんだ」とか、イメージを持つのって、やはり採用の段階ですよね。

この採用の時にちゃんと組織の現実というか、正確な情報提供をしないと、リアリティ・ショックが起きやすい。入社前に「うちの会社はこんな良いところがありますよ」「こんな楽しいことありますよ」とか、良いところばかり伝えると、バラ色のイメージを持ってしまうので。

採用担当者の「白い嘘」と「黒い嘘」

——採用で会社の良いところを伝え過ぎないというのはなかなか塩梅が難しいと思いますが、ポイントはありますか?

尾形:もちろん、良いところは絶対に伝えたほうがいいと思います。やりがいはしっかり伝える必要がありますが、同時にしんどい部分や大変な部分を隠さずに必ず伝えてください、と私はよく言っています。

専門的にはRJP(Realistic Job Preview)、正確な職務情報の事前提供と言って、ちゃんとした正確な情報を提供しましょうということなんですけど。このリアリティ・ショックが生じる背景には「2つの嘘」があると言われています。

1つは、事実とまったく違うことを言う「黒い嘘」。例えば、「給料は手取りで30万円もらえます」と言われていたのに実際は20万円だったとか。でもこの黒い嘘をつくような会社は、今はあんまりありません。ここよりも問題なのは、もう1つの「白い嘘」のほうです。これは言わなくちゃいけないことを隠しているというか。相手から質問が来るまで答えない。

例えば「初任給は、手取りで40万円です」と言われて、確かに40万円だったんだけど、朝から晩まで仕事させられて、土日も仕事で、めちゃくちゃ過酷な生活だったとか。

企業側から「朝から晩まで仕事で大変だけど、やりがいがあるし給料も手取りで40万円もらえますよ」って、そこまでしっかり正確に伝えないと、リアリティ・ショックが生じやすいので。やはりリアリティ・ショックは、ここの白い嘘が圧倒的に多いんですよね。

——無意識に伝えていないという採用担当者も多そうですね。

尾形:そのとおりですね。もちろんたくさんの応募者がいる中で、一人ひとりがどういうことを期待しているかは人事としても把握しきれないところがある。全員に対して必要な情報を全部提供するのは不可能なので、「中心的な情報を提供しなくちゃ」というのは正しいんですけど。伝えなくちゃいけない部分はしっかり伝えるということですね。

入社後のリアリティ・ショックには2種類ある

——このリアリティ・ショックには、いくつかの種類があると書籍の中で拝見しました。このあたりを詳しく伺えますか?

尾形:はい。まず、入社前に生じるリアリティ・ショックというのも中にはあります。例えば「営業で採用しました」と言われたのに、入社直前に「やはり営業じゃなくて経理に行ってもらいます」と言われるとか。でもあんまり多くなくて、やはり実際に入社してからのほうが多いんですね。

この入社後のリアリティ・ショックには2種類あると思っています。まず、実際に組織の現実に直面して、「現実ってこんなもんなんだ」と、ちょっと思っていたのと違うというリアリティ・ショック。これは入社してすぐに現実に直面するので、「遭遇型」と言っています。

これは組織の現実を知らない新卒の方が直面しやすいんですけど、私は2年目がけっこう重要だと思っています。というのも、2年目にもう1回リアリティ・ショックが生じる傾向がけっこうあるんですよね。なんでかというと、1年目って仕事を覚えることや、与えられたタスクをこなすために、とにかく自分の能力を上げなくちゃいけないとみんな必死なので、あんまり周りが見えていない。

仕事に慣れてきた「入社2年目」の落とし穴

——「とりあえずがんばろう」という感じで、目の前のことで精いっぱいですよね。

尾形:そうです。そうなってくると、自分の気持ちを顧みる余裕もないんですよね。でも2年目になると、やはり多少周りが見えてきたり、会社の良いところ、悪いところが見えてくる。さらには自分の適性というか、「今の仕事、やはり向いていないな」とか「やりたいと思っていたけど、実際にやってみるとちょっと違うな」とかがわかるようになってきます。

2年目で心理的な余裕ができるので、その分、「自分って本当はどんな力があるのかな?」「本当にこの仕事を続けられるかな?」と考え直すんですね、そこで、徐々にイメージと現実のずれが生じてくるんです。

——周りが見えるようになった分、理想とのずれに気づきやすくなるんですね。

尾形:そうなんです。それを乗り越えて3年目になると、長期定着の可能性があるんですけど。この2年目の「擦り合わせ型」のリアリティ・ショックを乗り越えられない人が、3年目ぐらいで、「やはり転職しよう」と離職してしまう。

いきなりはしごを外される…「2年目の憂鬱」

尾形:だから2年目がすごく重要な1年だと私は思います。日本企業では、新卒のオンボーディングはすごく充実している会社が多いんですよ。1年目はがっつりやるけど、2年目になった途端、研修が途絶えてしまう会社が圧倒的に多いんですよね。だから私は、「2年目研修がすごく大事なので、絶対やってください」と言っています。

(スライドを指しながら)この入社してずっと右肩上がりで動くことはあんまりないんです。でも、さっき言った遭遇型のリアリティ・ショックって、もちろん苦しむ人もいるんだけど、社会人の通過儀礼みたいな感じで、誰でもなるものです。

私は「2年目の憂鬱」と呼んでいるのですが、新入社員時代は手取り足取り教えられていたのが、2年目になった途端なくなる。それは解放されたというプラスの意味もあるんですけど、ふっとなくなって、「ちょっと寂しいな」みたいなところもあるし。

解放されて、ちょっと気が抜けちゃったり、悪い方向に行ってしまう人もいるんですよね。あと社会人になって初めて後輩ができるので、後輩からのプレッシャーがある。1年目と2年目って言うほど差はないですから、ちょっと優秀な後輩が入ってくると、「なんかヤバいな」って焦っちゃったり。さらに自律性ということで、「もう2年目なんだから自分でやりなよ」みたいに言われたりもします。

2年目社員へのサポートの仕方

——1年目も2年目も実力的にはそれほど差はないのに、周囲からのサポートが格段に減ってしまうんですね。この2年目の憂鬱は、新卒だけじゃなくて中途でも起こるんでしょうか?

尾形:中途はあんまりないと思います。どちらかというと、中途は最初の1年が勝負だと思うんです。なので私は中途のオンボーディングはとにかく1年間、もっと言えば半年ぐらいがっつりやることが大事だと言っています。対して、新卒の場合は2年間しっかりやる。

やはり2年目って、なかなか難しい時期なんです。高校時代も、2年生ってちょっと浮くじゃないですか? 一番上でもないし一番下でもないし、アイデンティティというか位置付けが難しい。

——ちょっと中だるみする時期ですよね。新卒社員に対しての2年目の研修は、どんなことをするのが良いのでしょうか?

尾形:そうですね。まず知っておいていただきたいのは、新卒ほどがっつりやる必要はないのですが、まったくないというのが問題だということです。私がインタビューをして実際にけっこう多かったのが、「(1年目の研修は)あんなにがっつりやっていたのに、いきなりはしごを外された」という意見です。

なので、ちゃんと2年目も見ていますよ、というシグナルを出すことが必要だと思います。やはり半期に1回ぐらい、同期で顔を合わせてコミュニケーションを取れる場がすごく大事だなと思うんです。

同期って、自分の成長度合いを測れる物差しになるので、「あいつ、もうあんなことをやっているのか」「自分はまだ足らないな」とか、お互いに刺激し合える。あとストレスを発散し合うような場が必要なので。その程度でいいと思うので、ちょっとそういう場を設けることですね。

あと2つ目は、さっき言った「2年目の憂鬱」という現象について、企業側が理解することです。「2年目の憂鬱」でちょっと苦しんでいるような人がいたら、現場の管理職も人事もその方をサポートしなくちゃいけない。2年目は複雑な1年だということを理解して、そこを乗り越えられるようなサポートを組織としてちゃんとしてあげるのが必要だと思いますね。

——組織全体で、「2年目社員のこともしっかり見ていますよ」と伝えてサポートしていくのが大事なんですね。ありがとうございます。

関連サイト:『組織になじませる力 ~ オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』

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