忙しいから判断の質が悪くなる
もう1個、この「時間がない」というお声に対して申し上げたいのは、「だから集団浅慮に陥るのでは?」っていう話なんですよね。もう1回集団浅慮の防止策を見ていくと、(スライドの)赤でハイライトしたところは全部、時間がかかるんですよ。「『わざわざいったんグループに分けて議論してから持ち寄りましょう』って、一発でやればいいんじゃないですか?」っていう話ですし。

第三者意見だって、わざわざ先生を探して会議をして、時間がかかるんですよね。右側の「全員が意見を述べる」とか「反対意見を言ってもらう」とか「段階的に」とか「匿名で」とか、時間をかけてくれって言っているんですよ。
これが意味することは何かというと、前半で話した、この社会の変化です。
「一様性を大事にするのか、多様性を大事にするのか」というところともつながってくると思っています。
ビジネスモデルが完成して、生産性を上げていく、日々改善するモードになると、どんどん会議のやり方や議題の出し方、決裁の判断基準が全部決まってくる。同じ質問をお互いにして、その質問に対して「こう答えたら決裁」「こう答えたらダメね」という。
これって、生産性が上がるじゃないですか? 常に生産性の向上に追われているから、それを何十年もかけてどんどん改善し続けているんですよ。その結果、時間を使うということが苦に思えてきて、その中で「業績を上げよう」「ビジネスパーソンとして成果を出そう」とする努力の結果、どんどん集団浅慮に向かっていくという、ものすごい矛盾の構造にあるんですよね。
忙しいのに、客観的には何も進んでいない状態
途中で経営の話を出したんですけど、単にコミュニケーションのやり方に気をつけるだけでは防げない構造が常に生まれていることを理解して、その構造を変えるには、やはり組織を動かす一定の権限がある方じゃないとできない話なんです。
やはり今日聴いてくださっている方で、「そこまでの権限がないです」という方でも、ご自身が主催する会議はあると思うんですよね。その中であえて時間を使って、集団浅慮から解き放たれる機会を作りませんかということが、我々に問われている話だと思っています。
もう1個、「なんで忙しいんだ?」って考えると、過去の集団浅慮のせいで変な意思決定をしちゃって、それの尻拭いで走り回っていませんか? それでスパイラル的に忙しくなってしまう。でも忙しいと「自分は仕事をやっている」というふうに、どこかやりがいを感じちゃうんです。
「ない課題」を解決するより「明確に起きた課題」を解決したほうが人にわかってもらいやすいから、けっこう中毒性があるんですよ。「これで仕事が進んだ」と思うけど、実はメタで見るとただグルグルと、穴を掘って埋め、穴を掘って埋めている。「集団浅慮がもたらしていることって、こういうことなんじゃないの?」という話なんですよね。
「聴くなんて時間がかかるから無理です」っていう言説に対して、「間違った意思決定をしているせいで余計に忙しくなって、自分の首を絞めているんじゃないのか」と、自分への諫めも込めて思ったりします。
“やってあげたいな”という前向きな関心が大事
最後ですね。こうやっていろんな角度から「聴く」が大事ですよというお話をさせていただくので、最近よく言われるのは、「いや、大事なのはわかっています! もういいでーす!」みたいな(笑)。
なんですけど、できていないんですよ。この、「わかる」と「できる」の差は何なのか。これも、やはり優秀なみなさんって、「わかる」と「できる」がニアリーイコールだと、自分をちょっと過信するんですよ。ここが最後のトラップ。

当たり前ですけど、本を読めばできるスキルとそうじゃないスキルってあるじゃないですか。Excelの関数とかは普通に本を見たりネットで調べたり、今だとChatGPTに聞いて、それをピッと貼ればできるんですけど。
わかっていてもできないスキルっていっぱいありますよね。ピアノとか運転とかプレゼンとかもそう。「聴く」はこの側のスキルなんです。

例えば、「エジプト料理の○○がおいしい」って熱弁されて、食材とかレシピを渡されたとします。でも、見たことも食べたこともなければ作らないし、作っていても不安だし、味見しても、「これで合っているのかな?」って、不安になりますよね。
まったく同じことが「聴く」に起きていると思っていて、こうやって私の話を聴いてくださって、なんなら本も読む。もしかしたら御社の研修やマニュアルも整備されているのかもしれません。
でも、さっきの食事と一緒で、試食すれば「作ろうかな?」って思うじゃないですか。この「聴く」の試食、つまり「聴いてもらった経験」がなくて、いきなりやってもできません。
部下との1on1でやってみたとしても「これで合っているのかな?」「あれでよかったんだろうか?」と不安になる。
やはり人間は本能的に、不安なことを全力で避けようとします。だから「わかっています。でもやらない」。ここにすごいギャップがあるんです。難しいところをやらない原因は、不安という葛藤なんですよね。

基本的には聴いていないとできないし、知識や経験があるだけではなくて、「やってみたいな」「部下にやってあげたいな」「家族の話を聴いてあげたいな」という前向きな関心があって初めて、できるようになるループが回ります。
優秀なみなさんって、こういう習熟の仕方を意外と軽視するんですよね。「勉強すればできる」と考えてしまう。これに関してはご自身の経験が必要です。
ここまでがわりと本丸な話でした。
「聴く」力を鍛える、おすすめの練習法
これはエールの代表の櫻井(将)さんが『まず、ちゃんと聴く。』という本を出していて、この本から抜粋しています。なので、より深く知りたいなっていう時は、本を見ていただけるといいかなと思います。

その上でまず「聴く」「聴いてもらう」、そして「対話」、それぞれについて実践のコツをご紹介をしました。
まず「聴く」について、さっき申し上げたように「あり方」と「やり方」なんですよというところなんですが、「あり方」については、やはり好奇心を持つことが必要ですよと。
「好奇心は醸成できる」ということをご紹介しようと思っております。あと繰り返しになりますけれども、やはり身体知なので、実際に体験を重ねることで習熟できるスキルです。
「やり方」は、非言語のほうなんですけども、まず、実際に聴く前段階で関係性がけっこう大事です。「聴く」って、身近な人ほど難しいんですよ。
関係がない人だとわりとフラットに聴けるので、練習してみたいなっていう方は、まず利害関係が薄いところ。店員さんとかタクシーの運転手さんとかの話を聴くところからスタートされてみてください。

上司、部下が一番難しいです。車の運転で言うと、(スライド)左が仮免で右が首都高なので、いきなり首都高に突っ込むことはお勧めしないです。
「Why」以外の質問を考える
もう1個、非言語の時に、「自分の表情が」とかいろいろご指導があると思います。それはそうなんですけども、私は自分で自分のスイッチを入れることが大事だなと思っています。「聴く」モードに入る。

例えば同じ挨拶でも「(どんよりと)おはようございます……」と言うよりも、「(明るく)おはようございます!」って言うと、自分へのスイッチも相手への影響も違うじゃないですか。
部屋に入る時の「こんにちは!」でもいいですし、「聴きますよ」っていうトーンを相手に伝え、自分にもスイッチを入れる何かがあるとやりやすいかなと思います。
言語のところでもう1個は、途中の例で出しましたが、「なぜ」っていうのは状況によっては相手を詰問するような印象になってしまいます。

内心、「なんで?」って思った時も、4W1Hの「Why」はやめて、それ以外の疑問詞で聴いていただくとフラットに話しやすい。
もう1つは、「具体的なところを聴く」。一緒にその場面が見られるようにお話を聴けるといいなと思いながら聴くとやりやすいです。
このあたりもさっきご紹介した『まず、ちゃんと聴く。』からそのまま持ってきているんですけど、大きく4種類の質問しかないので、それしかないと思うと、ハードルは下がるかなと思います。
一方、実は聴いてもらうほうの技術もあります。愚痴を吐くとか、思考を整理するとか、自分の考えを発見するためには話を聴いてもらうことが大事なんだと知っていれば、「ちょっと10分、聴いてもらっていいですか」と人にお願いできるようになります。
この知識は自律的に働いていきたい、動いていきたいという時に、とても有効だと思っております。
ここでは、「聴いてください」って言ってもけっこう話題に困るよねっていう時のために、話題のメニューを、定食みたいな感じでご用意したので、これはスライドを見てください。
「聴く」力はイノベーションの源泉になる
最後に対話です。これは『集団浅慮ー政策決定と大失敗の心理学的研究』の本に書いてあることですが、多様な意見が出やすくなるミーティングの工夫って、けっこうたくさんできることがあるんですよね。

グループシンクをまとめたスライドにはなかったものをグレーで2つハイライトしてありますので、こちらも参考になれば幸いです。こうやってミーティングの運営を変えることでも意見が出やすくなったり、聴くことで相手の意見を受け取りやすくなったりします。
すいません、ちょっと最後のパートがとても駆け足になってしまいましたけれども、ここまでお時間をいただいて、そもそも多様性が必要な背景に、集団浅慮を防ぐためであること、社会の構造がフラット化に向かっていることを申し上げました。

その中で異なる意見を受け取って活かすために、聴いてもらって、自分の意見をまず理解する。聴いて、受け取る。そこから対話して、新しい枠組みを作る。これが必要ですよねということを申し上げました。
その上で、集団浅慮を乗り越えることやイノベーションは「聴く」振る舞いなしではできないんだと。
最後、4番のところで話をしたのは、やはり時間がないから「聴く」ができないことに関して、むしろそれが集団浅慮を生んでいるのではないか。あるいはイノベーションをする暇や余裕もないほどの業務の繁忙を生んでいるんじゃないかということを、私の1つの見解として申し上げました。
どうでしょう、少しひもとけてきましたでしょうか? ここまで長時間でしたけど、聴いてくださって本当にありがとうございました。