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良い議論は「聴く」ことからはじまる ~多様な意見を引き出し、組織の成果につなげる力~(全4記事)

上司に“今さら言う?”と返されるのが怖い 強いリーダーシップが組織に与える思わぬリスク

AGC株式会社主催のセミナー「良い議論は『聴く』ことからはじまる~多様な意見を引き出し、組織の成果につなげる力~」より、エール株式会社・篠田真貴子氏によるメインセッションをお届けします。質の低い意思決定を生む「集団浅慮(グループシンク)」に着目し、ダイバーシティ&インクルージョンによる“多様性を活かした組織作り”のヒントを解説します。

組織におけるインクルージョンとは何か

さっそく、多様性と組織の力を、集団浅慮とフラット化の観点からひもといていきたいなと思います。

まず、ダイバーシティとインクルージョンって何か? こちらのインタビューをご紹介したいと思います。

以前、スリーエムジャパンで代表をされていた昆(政彦)さんに『日経ビジネス』でお話をうかがう機会がありまして、それの抜粋です。

まずダイバーシティは数値的に把握可能な部分です。50パーセントを超えたらマジョリティ。だから男性が80パーセント、女性が20パーセントの役員会だったら、男性がマジョリティですよねと。

こういうお話なんですが、この2つのグループが別々に分かれて、「それぞれ話し合って多数決で決めましょう」となったら何の意味もないわけですね。

ここで入ってくるのがインクルージョンです。

例えば2割の女性と8割の男性が刺激し合っていると、お互いの価値観を認めているということです。そのためにはまず、それぞれの価値観が違うことを自分も相手も理解することが出発点になります。これがインクルージョンです。

少数意見を封じてしまう「集団浅慮」の罠

次は、今日の呼びかけ文にあった「集団浅慮」です。これ、2024年のイベントで(現代アーティストの)スプツニ子!さんがいらして、ディスカッションの中で集団浅慮というキーワードが出てきたとおうかがいしました。

(スライドを示して)この本は、『集団浅慮ー政策決定と大失敗の心理学的研究』ですね。日本語版もあります。もとになった論文が発表されたのは、なんと1972年。私が持っているこの版だと1982年ですね。日本語版が出ましたのは2022年なので、つい最近です。

見方によっては、アメリカでこの課題が顕在化してから50年後に日本でも課題になっているのかなと思います。

扱われているのは、1940〜1960年代のアメリカ軍の行動とそこにまつわる意思決定において、メンバーがグループの合意と調和を優先し、批判的思考や異なる意見を抑圧してしまう現象です。

その結果、判断の質が悪くなり、大失敗する。そのリカバリーにものすごくリスクとリソースを使ってしまうという話なんですね。

これを、この本の中ではより細かく説明しています。大きくわけて先行条件、兆候となるグループシンク(集団浅慮)の症状が起きて、本格化するという3段階です。これをかいつまんでお話をしますね。

強いリーダーシップや組織の連帯が裏目に

まず原因は、強い結束力。外部の情報が入ってこないような閉鎖的な環境。指示的なリーダー。そして時間的プレッシャー。このあたりが要因としてあります。どうでしょう、どれも一見するといい面もある。

リーダーが強い意見を持つのって、ある意味リーダーシップの表し方として決して悪くはないように思えますし、時間的プレッシャーも、現実問題として、みんな忙しいじゃないですか。1個1個の要素が「これはダメだよね」とかじゃないですよね。これ、リアルに私たちにけっこう起きていることかなと思います。

これがあると、メンバーが無意識のうちに「みんなに合わせたほうがいいな」と感じてしまう。時間がないので「今さらそれ言う?」ってなってしまうと、ちょっと言えないな、ということもあるかもしれません。

私自身も日々経験がありますけど、やはり「いいね、いいね」ってみんなが言っている時って、ある種、自分の思考が止まる感覚に覚えはないでしょうか?

これが起きるのが「兆候」のところなんですね。ある種の無敵感。自分たちは絶対正しい。「いけるいける、イエーイ!」って感じになっちゃったり、「今さら何言ってるの?」と、異論を排除したくなる。

さらには集団的合理化。冷静に考えたら兆候があるのに、辻褄が通るような理屈を思いついて、全部を正当化しちゃう。そして外部への敵意。別の部署が何か言ってきた時に、「あいつらはわかってない」って排除する。

この症状によって客観的な判断が難しくなるんですけど、私自身、読んでいてめちゃくちゃ身に覚えがあるなと思いました。

これがあると結果的に欠陥のある、質の悪い意思決定が出ますよという話なんですね。代替案を十分に検討しなかったり、リスクを過小評価したり、そもそも情報が集まっていない。こういうことをさまざまな事例で述べています。

集団浅慮が起こりにくい組織とは?

「じゃあ、どうしたらいいの?」ということは、この後何回か戻ってくるので、今はさらっとだけお伝えします。この本が出た当時、DEIなんて言葉は当然ないのですが、今の私たちが見ると、DEIのフレームと同じことを言っている感覚なんですよ。

大きく5項目あって、「組織構造の改善」「リーダーシップの変革」「役割分担によって多様性を促進する」「異なる価値観を受け取る」。そして「意思決定」とあるのですが、2つだけご紹介します。

例えば(スライド)左上の、そもそもの組織構造で、集団を小グループに分けて議論をしてもらって比較検討して、意見の多様性が出る構造を作りましょうと言っているんですよね。

あと、(スライド)右上の「役割分担」も、多数派に対してあえて反対意見を述べる批判的な役割を設けるのはどうでしょうかというアイデアもあります。

その上で「異なる意見を受け取る」。反対意見や少数意見を受け入れて、互いに尊重し合う文化を醸成する。これってDEIそのものだなと。DEIが集団浅慮を防ぐ非常に有効な考え方であるとくみ取れるかなと思います。

「なんでDEIなんだっけ?」っていうのをこのパートで話しているので、今、集団浅慮とちょっと紐づけてお話ししましたけども。

これまでの社会はヒエラルキー構造だった

もう1つ別の切り口として、「自分のこれまでの経験では、別にDEIがなくても十分に仕事ができていたから要りません」っていうことが言える会社や部門があるかもしれません。ですが、社会がもうDEI方向に向かっておりますので、世の中の方向とちょっとずれていることは認識しておく必要があるかなと思いました。

何を言っているかっていうと、(スライドに)「これまで」「これから」って雑に書いていますが、20年前ぐらいまでの「これまで」は日本がこんなのだったかなと。「これから」っていうのはまさに今、起きている変化を表しています。

これまでは、社会全体がヒエラルキー構造だったのではないでしょうか? 

世代によって感じ方は違うかもしれませんが、私は1991年に社会人になったんですね。その頃はベンチャーって考え方はないですから、もう明確に「官が上、民が下」「大企業が上、中小企業が下」。さらには「男が上、女が下」という感じだったんです。

この構造があると、働き方においても出身とか所属が大事なわけです。同じ「篠田真貴子」でも、仮に私が当時の大蔵省にいるのと一銀行にいるのでは、大蔵省にいる私のほうが偉く、インフルエンスがある。所属がめちゃくちゃ大事なんですよね。

こうやってヒエラルキーでもって社会が構成されているということは、情報伝達経路も「上から下へ」と決まっているわけです。組織も社会も、いかに効率的に伝達するかで動いている世界観だったんだと思います。

その環境で事業を行う時の組織力の源は、社員のみなさんの方向性をそろえること。聞いてくださっているみなさんも一応人間なので……一応って言っちゃった、人間ですので(笑)。その点から見たらみんな、ボディパーツとか、物事を考えるとか、基本的にはそろっているじゃないですか。

“自分は何ができるのか”が問われる社会

特にAGCさんであれば事業領域も決まっていますから、そこに適した方々が集まっています。別の角度から見たら人は多様なんですけど、多様性の面で言えばそろっているわけですよね。

それで、どちらに注目するかという話です。これまでの会社はどちらかというと一様性に注目して鍛え上げて、それをバチッと組み上げることで組織の力に換えましょうというロジックだったと思います。

それって新入社員よりも、先輩や上司のほうがAGCさんに合った一様性の完成度が高いわけだから、上から下に伝える伝達経路が大事だった。

これが対する(スライド)右側に行きますと、やはり世の中全体がフラット化しています。やはりインターネットが出てきたことが大きなドライバーになっていると感じるんですが、大量の情報が流通するので、情報でヒエラルキーを作ることがかなり難しくなってきています。

そうなると、出身とか所属も大事じゃないとは言いませんが、それに加えてご自身のタグ、つまり「あなたは何が好きな人なの? 何ができる人なの?」ということが大事。情報も決まった経路で伝達されるもののみならず、ネットワークを往来するものから、適切なものを拾って、自分のパフォーマンスに変えていく振る舞いが重要になっている。

組織においても、どちらかというと多様性を組織の力に換えたほうが、社会の動きとリンクしながら事業を推進していきやすいという話なんですよね。

求められるコミュニケーションも変わっている

そうなると態度とコミュニケーションも、ただ上から下に下ろすというよりは、一人ひとりが自己理解をする、あるいは他者を理解する。多様性を理解するかは相対的な話なので、やはり「聴く」とか「聴いてもらう」ことがまず大切な要素としてあります。

その上で一人ひとりがここに参画していく意思決定をすることが、過去の世界に比べると求められているし、良しとされている。我々はこういう世の中で事業活動をしているのかなと思います。

なのでDEIに関していろんな考えがあることはそれこそ多様性なので、個人的にはそれはいいことだと思っています。

ただその上で、組織としてオペレートする時にDEIを軽視してどこまでいけるのでしょうか? というクエスチョンがありますよと。こういう捉え方かなと考えています。

ここまで、「組織力の源として、なんで多様性って言っているんでしたっけ?」ということと、集団浅慮の観点。そして、社会がフラット化して、所属よりも個人の持ち味でやっていくインフラができてしまっている以上、それを組織にどう取り込むかに我々は直面していますという点でお話をしました。

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