Zenken株式会社の取り組みから、若手社員が退職を踏みとどまった背景にある“チームで支えるマネジメント”をひもときます。上司や社外メンターとの関わりがどのような効果を生んだのか。Zenken株式会社 ヒューマンキャピタル事業部長の松島一浩氏、株式会社Work with Joy 代表取締役の新保博文氏が、組織づくりのヒントを実例から紹介します。
あえて社外のロールモデルを紹介する
司会者:(管理職のビジョンを明文化する「マネジメントポリシー」が部下からの信頼を作るという話を踏まえて):ありがとうございました。どんどん見ていきましょう。次、ナナメ・ヨコのイベントを作る。
松島一浩氏(以下、松島):タテ・ヨコ・ナナメということをよく言っています。まぁ、上司だけだと、なかなか難しいなと思いますので。同期の関わり合いを深めるイベントを社内でやることももちろんですし、社外の同期も。僕もちょうど来週、他の会社さんと、新卒2年目の社員同士と一緒に会うイベントをやるんですけど、そういった社外の同期のつながりを作ってあげる。
あとはもちろん「他の部署を頼る」とかもあるんですけど、(スライド)左斜め上の、これをぜひやっていただきたいと思います。僕らは「斜め上の会」って呼んでいて、他の会社の方に来てもらって、1時間話してもらうだけなんですが、非常にいいです。
「ふだん上司が言っていることと同じじゃん!」って思うんだけど、斜め上(の存在)からだとすごく入ってくるので、好評なイベントですね。
新保博文氏(以下、新保):社外の人と会ったら、そっちに憧れちゃうって思いますけど、逆ですよね。
松島:そうなんですよ。本当に逆だと思う。逆に言えば新卒って、人脈がないから、信頼できる大人とかロールモデルに会わせてくれる機会を創出してくれることに、すごく感謝してくれますし。ある意味そこで、多少スタイルとか、考え方が違う人でもいいかなというふうに、今の時代は上司側も考えるべきかなと思う。
新保:間違いないですね。
「管理職の罰ゲーム化」も「上司ガチャ」も孤独が原因
司会者:3つ目の「上司を孤独にさせない環境づくり」も深堀りしていきたいですね。
松島:やはり管理職の罰ゲーム化も、上司ガチャも、ここがあるよなぁと思うので。チームマネジメントというか、チーム・メンター、チーム・管理職。これがやはりすごく大事だと思います。
まず場として用意するもの。これは「上司サイドのチャットグループで喧々諤々」って書いてあるんですけど。新卒や新入社員のことを「成長させたいよね」「ああでもない」「こうでもない」(と議論する)。まさにリアリティ・ショックをどう越えさせるかを、みんなで語る場があることが大前提ですね。
司会者:はい。じゃあ、実際のやり取りを持ってきていただきました。
松島:これはちょっとライトめなやつなんですけど。左上から見ると、全員に向けて「〇〇さん、ITリテラシーテストの復習を10分ほどして退勤予定です! 〇〇も隣で気遣っていただきありがとうございましたー! 私もこれで退勤します」みたいな。それに対して次の日かな?
「昨日、隣に座ってたんだけど、PCの基礎勉強をがんばったほうがいいかもしれない。ショートカットキーとかがスムーズにできていないようです」「ありがとうございます。手元の様子が見えないので助かります」みたいな。右にいくと、ちょっとモザイクだらけだな、これ。
「申し訳ありません。〇〇さん、〇〇+ハードモードの〇〇をさせてしまい、〇〇さんにしっかりと伝わっていなかったので、私の責任です」。どんなハードモードなのかが気になりますけど。
新保:気になる(笑)。本質はそこじゃないですよ(笑)。
松島:「帰りにがんばっているねと、デスクからでいいので声をかけてあげてください」みたいな。
司会者:いいですね。
部署やチームが違っても、積極的に気づきを共有する
松島:こういう「みんなで見ていこうぜ!」っていう雰囲気作りと、そういうことを話す場を作る。これはすごく大事ですよね。
新保:でも本当に。場がないから、遠慮しちゃっているとも言える。例えば隣の子が気になったけど言うきっかけもないし、言うのも越権行為的かなと思っちゃうんです。
たぶんみんな気づいているはずですよね。ちゃんとチャットグループを作って、「言っていいよ」という場を作ってあげるだけで、1人で見るんじゃなくて、みんなで見ていこうってなる。しかもそれをみんなで推測して「こうかもね」って、ワーワーやっている感じですよね。
司会者:ポイントなんですけど、離職兆候社員にチームで向き合い「連携」と「覚悟」を、というところでお話をいただければなと。
松島:そうね。「連携」と「覚悟」って言葉にしてみたんですけどね。部活っぽいなっていう。
司会者:熱いですね。(笑)。
松島:でも、チームスポーツの考え方がすごく大事かなと思っています。「孤独にさせない連携」もそうですね。やはり、1人じゃないって感じてほしいし、今は「あなたのことなんだから」みたいなのもちょっと難しいと思っていて。先ほどみたいにチーム・メンター、チーム・役職者をしっかり作っていくことが大事。
でも、それだけじゃなくて、そのバトンを受け取った緊張感ってすごく大事なことで。こんなふうに主導してくれたAさんに対して、Bさんが「自分はしっかりと咀嚼や解説をしよう」と思って動くとか。連携の中で、自分がちゃんと役割を果たすんだという覚悟は、やはりすごく大事だと思います。
「覚悟」だとちょっと重いかなと思って、一応「背中を押される」にして軟らかめにしようとか思ったけど、ぜんぜん軟らかくなってなかった。
司会者:(笑)。
松島:連携と覚悟。これがテーマかなと思っています。
「もうこの人を泣かせてはいけない」
司会者:ありがとうございます。イメージはなんとなく湧くけれども、というところだと思います。アンケートの中で「具体的なエピソードを教えてください」って項目があったんですよ。なので、今日はいくつかご紹介をさせていただきたいと思います。

上司のおかげで転職を踏みとどまったエピソード1つ目。営業職、入社3ヶ月目、未経験中途入社の方です。「思ったよりも仕事がまったくできない、売上が上がらない日々が続き、自分は営業に向いていないのではないかと悩み、辞めたいと思うようになっていた。それを伝えたら、当時のメンターAさんが『そんなに苦しんでいたのか』と涙を流し、ちゃんと見てくれていなかったことに謝罪までしてくれました。
その時、もうこの人を泣かせてはいけない。成長して喜ばせたいと強く思いました。また、続けて上司のBさんから部署異動の話をいただいた時、私のキャリアについて本気で考えてくださっていることが伝わり、胸が熱くなりました。
さらに、上司の上司にあたるCさんからは『本当にそれでいいのか? 逃げるように部署異動することが、本当に望んでいることなのか?』と問いかけられ、自分が本当に目指しているのは、『できないことに直面しても諦めず、努力を続け、いつか成果を出せる営業パーソンになること』だったと気づき、逃げるのではなく、もう一度ここで挑戦しようと決意しました」。いい話ですね。
松島:ちょっと「美談ドヤ感」があってアレなんですけど。これはまさにリアリティ・ショックですよ。入社3ヶ月ぐらいの話なので、まさにという感じなんですけど。
これは合わせ技一本ですよね。要はAさん、Bさん、Cさんの3人が、ちょっと行動は違うんですけど、マネジメントポリシーをベースに同じ考え方でその人に向き合っていますよね。それで、チームチャット等を使いながら連携している。
上司ごとに違うアドバイスをしても良い
司会者:新保さんから見て、このエピソードはいかがですか?
新保:いや、入社3ヶ月で(上司が)3人出てくるのがすごいし、やはりそれぞれ向き合っていますよね。相手を思っているところがすごく特徴的だと思いますね。
松島:これはBさんの内容を受けて、Cさんがまったく違うことを言っているのがおもしろいですよね。Bさんが異動させようとしたんだけど、Cさんが「その部署でがんばれ」の方向にしているのが、ちょっとウケるんですけど。
司会者:両方必要なんですかね?
新保:でもこれ、ひょっとしたら一度に言っていたら「それでいいのか」まで受け止められなくて……。
松島:そうそう。
新保:最初は「あぁ、異動できるのかな」と思って、時間があいて、今度は違う人から言われたっていう、まさに合わせ技ですね。
松島:そうですね。明確なビジョンがあるからできるよねというのと、そんなに戦略的ではないんだけど、結局は連携と覚悟がマネジメントラインでできている。あとは個の戦いになっていないことも大事かなと。
元上司という“斜め上の存在”の重要性
司会者:連携というところで、もう1つエピソードがございます。次は、カスタマーサクセス、新卒入社4年目の方です。

「元上司であるAさんが家の近くまで来てくださり、まず思っていることを全部吐き出させてくださいました。自分のやりたいことができていないと思っていること。昔からの夢を叶えたいと思っていること。
上司や先輩が自分を引き止めるのは、『どうせ会社のために言っているだけだ』と思っていて、信用ならないということ。
新卒時代の自分を知っている方に話を聞いてもらえたことや、その人に言われて直属の上司が本音でぶつかってきてくれていることに気づき、自分の居場所がないと思っていたけれど、すでにあったという事実に気づくことができました。
また、自分の可能性・伸びしろがあるのではないかと思えたことや、この会社での自分の将来に期待できたことなど、複数の理由が絡み合って踏みとどまることができました」です。
松島:これ、「どうせ会社のためだ」と言われている上司も、すごく重要な登場人物です。その人の解釈・咀嚼を斜め上の存在がしている構図ですよね。
司会者:ありがたい(笑)!
松島:気づかせたという。やはり、これを彼氏とか彼女とかSNSじゃなくて、社内にいる斜め上の存在でできていることがすごく良かったと思いますね。