退職代行サービスが注目される中で、見逃せないのが「辞めたいけれど、辞めなかった人たち」の存在です。本セッションでは、株式会社Work with Joy 代表取締役の新保博文氏、Zenken株式会社 ヒューマンキャピタル事業部長の松島一浩氏が登壇。退職の「踏みとどまり」という選択肢に着目し、転職を考えた社員へのアンケート結果から、人材定着のために管理職ができることを探ります。
「消極的踏みとどまり」と「積極的踏みとどまり」
司会者:はい。ありがとうございました。では、退職代行を学んだところで、さっそくですね。
新保博文氏(以下、新保):「使わない」じゃなくて、「踏みとどまる」ですね。
司会者:ここに迫っていきたいなと。松島さん、お願いいたします。
松島一浩氏(以下、松島):はい。辞めるのが悪いとか、そういう立場ではないんですけど。じゃあ、踏みとどまるというところ。これは転職希望者が転職しなかった理由についての、リクルートマネジメントソリューションズさんのデータです。

これを上から見ていくと、「転職も検討しているが、リスクもあると感じる」「会社がつぶれる心配がない」「条件に合うものが見つかっていない」といった理由です。みなさんこれ、どう思います? ちょっと残念な踏みとどまりに思えませんか?
これを我々の定義では「消極的踏みとどまり」と呼んでいます。「コンフォートゾーンから抜けたくない」的なものですね。
逆に、下のほう(積極的踏みとどまりの理由)を見るとプラスな言葉があるんですよ。「自分のやりたい仕事ができる」「一緒に働きたい」「希望する働き方」「風土が合っている」。「いいところを認めてくれる」「成長できる」。だから残った。これは「積極的踏みとどまり」と定義しました。
つまり、消極的踏みとどまりの人は会社に残っても、世で言われるところの「ぶら下がり社員」とか「逃げ切り社員」になる可能性があって、かつ離職リスクもある。そうなると、これは生産性が上がらないし、その人も幸せじゃないんじゃないかと思うわけですよね。
退職を検討した時の心境は「自信を失っていた」
松島:逆に積極的に踏みとどまった人は、そのあと活躍しやすいんじゃないかなという仮説があって。
積極的踏みとどまりの事例や考察・分析がないかなぁと探しましたが、ありませんでした。なので、自分たちで取るしかないなと。Zenken株式会社は470人ぐらいの社員がいるんですけど、その中から「辞めたいと思ったことがある人」×「今活躍している社員」という50人を対象にアンケートを取りました。そこから踏みとどまりの考察をしていきたいなと思っています。
新保:このかけ算で50人は、なかなか見つからないですよね。「辞めたいと思ったことがある人」×「今活躍している社員」。
松島:逆に、活躍した人はみんな辞めたいと思っているのかなと思ったりもしたという(笑)。
新保:(笑)。
司会者:どんなアンケートを取ったのかをご覧いただくと、けっこういろいろ書いてもらったんですが、全部取り上げるのは難しいので、この赤字の部分にフォーカスしてご紹介をしていきたいなと思っております。

ということで1つ目。「『辞めたい』と思った最大の理由は何でしたか?」。「成長実感が得られなかった」「仕事についていけなかった」「成果が出ない」「仕事にやりがいを感じられなかった」などなど、けっこうばらけているんですよね。最後に「人間関係」もありますね。

それで、その時の心境です。1位「自信を失っていた」。2位「期待と現実のギャップに苦しんでいた」とか、「将来に不安があった」「自分の価値が認められていないと感じていた」「誰にも相談できず悩んでいた」「職場で孤独だと感じていた」。
松島:申し訳ない!
司会者:(笑)。笑っちゃいけない。そうですね。申し訳ないですね。
「辞めたいって思わせちゃダメ」ではない
松島:いや、でもね。逆に言えば、こういうのを経て活躍していくんですよ。こうなることにビビっちゃダメというか。「辞めたいって思わせちゃダメ」も、ちょっと違うんじゃないの? というのは、今回すごく思いましたね。
司会者:この内容を見ていくと傾向があるなと、こんなふうにまとめてみました。新保さん、こちらをご説明いただけますか?
新保:先ほどのデータで、タイミングとかをいろいろ分析してやってみると、時期と辞めたい理由がラベリングできると思っていて。縦軸のラベリングは自己決定理論とモチベーション3.0という、いわゆるモチベーション系の理論を組み合わせて、意味、有能感、成長、自律性、人間関係にしています。これは順番になってくるなと。グラデーションがある。
どういうことかというと、最初のうちは仕事の意味、意義が感じられない。それが、仕事ができるようになったら、今度は同期と比べて成果に差が出て、「自分はできないんじゃないか」みたいに自信を喪失する。
仮にそれを乗り越えて仕事ができるようになると、「あれ? なんか大学の同期のほうが成長しているな」。もっといくと、大学の同期はめちゃくちゃ大きな案件を任せられているんですよ。「自分は任せられてない、自律してないな」みたいになってグラデーションになる。人間関係は、いつでもあるという感じですね。
これで大事なのは、これ(モチベーションの波)の意味がわかってない人に、「ここだったら成長する」と言っても、たぶん刺さらないと思います。グラデーションだからこそ、ごちゃごちゃになっている。これは、あくまでも1つの傾向なので、このタイミングがいいかはわからないんですけど、「この人は、どこで悩んでいるんだろう?」というのが大事なんじゃないかなと思いますね。