退職代行サービスが話題になる一方で、企業にとって見逃せないのが“早期離職”の実態です。本イベントでは株式会社Work with Joy 代表取締役の新保博文氏、Zenken株式会社 ヒューマンキャピタル事業部長の松島一浩氏が、退職代行を巡る実情から、企業側の課題、退職代行を利用する若手社員の心理を紹介します。
退職を踏みとどまった人は活躍しやすいという仮説
司会者:話題の退職代行をテーマにしたウェビナーとなっておりますが、今日はこの3人でお届けしていきたいと思います。最近はメディアでもけっこう取り上げられてきましたね。利用する人が増えているんですかね?
松島一浩氏(以下、松島):(今日のセミナーを)楽しみにしていました。増えているという話は、4月1日〜3日で、たぶんみなさんニュースを目にしたと思うんです。退職代行企業のデータだと、「2024年の倍です」という言い方をしているんですが、「十何人が三十何人になった。だから2倍」という話なので、ニュースのネタになるよねと。
全体でいうと、使っている人はまだそこまで多くないことも含めて、このあとお見せしたいなと思います。どちらかというと、退職代行を扱った話題の影響ですよね。Xもそうだし、みなさんの会社にいる新卒の方や新入社員の方もすごく目にしていると思うので、その影響をどう考えるかは議論があるかなって気がしますね。
新保博文氏(以下、新保):そうですよね。あと今日は、忙しい4月に、みなさんすごく集まっていただいています
松島:ありがとうございます。
新保:僕も最初は退職代行を知った時って、正直……正直ですよ? 「何だそれ? 自分で言いなよ」って、思ったんですよね。なので、ネガティブな気持ちもあったんですけど、ちゃんとデータや実態を見て、心が弱いからとかじゃなくて「つい使っちゃう」現状があるんだなぁって思ったので、そこをちょっと解説したいのと。
ここにあるとおり、使う・使わないを超えて、やはり退職を踏みとどまってそのあとにどう活躍するかみたいな、そんな話もしたいですよね。
松島:そうなんですよ。退職を引き止めるセミナーじゃないんですよ。「踏みとどまる」と「引き止める」は違って、引き止め方をお伝えするってわけじゃない。僕らには「自分の気持ちで踏みとどまった人は、そのあとに活躍をしやすいんじゃないか」っていう仮説があって、それを考察したいですね。
入社6ヶ月以内の「早期退職」が増加
司会者:そうなんです。ということで、今日の流れをお話させていただきます。まずは退職代行の基本とその影響も学んでいきながら、早期退職をデータで見ていきます。
次にメインですね。「辞める」ではなく「踏みとどまる」のインサイトに迫ります。最後にリアルイベントのお誘いとアンケートをお願いさせていただければと思っております。では、さっそくいきましょう。「早期退職をデータで見る」。新保さんお願いします。
新保:はい。今日はてんこ盛りなので、このへんはちょっとパパッといくので。倍速でございます。

1つ目、「そもそも早期退職って増えているのか?」でいうと、これは厚生労働省のデータでございます。グラフが2つあるんですが、下の大卒を見てください。このグラフの見方としては、1年目で辞めた、2年目で辞めた、3年目で辞めたという積み上げになっているんですけど、直近10年ぐらいで見ると、やはり上昇傾向です。
ただ、もうちょっと長い時間軸で見てみましょう。過去最高水準に近づいていますけど、それと比べてめちゃくちゃ高いわけでもない。ただ、体感として増えているのは実態かなと思います。

次、違う角度で見てみます。今日はいろんな会社の方がいらっしゃっています。けっこう大企業の人が「最近は若手がすぐ辞めちゃう」って言っているんですけど、その実感値は強いんじゃないかなと思っています。大企業のほうが上がり幅の角度がちょっと高いですね。
松島:優秀な子が大企業を辞めちゃう話は、本当に「VOiCE(全研本社株式会社が運営するwebサービス)」のお客さんもすごく言っていますね。
新保:そうですよね。こうやって、緩やかに増えている。でも、すごく課題感が強くなっているのはなんでかというと、けっこう単純な話で。1つ目は、採用が大変だからですね。採用難の時代なので、みなさんあの手この手をやっていると思います。
もう2026年度卒の採用が佳境です。それに加えて2027年度卒の仕込みが同時進行。2025年度卒の研修をしながら、2026年度卒の採用、2027年度卒の採用準備っていう、3つに向き合っている状況だと思います。なので、これだけ難しくなっている。これはマイナビのデータですが、採用の充足率が過去最低になっているという状況です。
4月に転職サイトに登録する新卒社員
松島:ちょっと違う視点でみると、潜在的な「あ、すぐに辞めちゃいそうだな」っていうのは、みなさんひしひしと感じていると思うんですよね。ちょっと適しているかわからないんですけど、ご紹介したいわかりやすいデータが、4月に転職サイトに登録する人の推移ですね。

下の黒いラインは全体です。2011年を1とした時にどうなっていったかというと、もう30倍ぐらい、新社会人が4月度に転職サイトに登録している。これの見方にはいろんなご意見があると思うんですけど、私なんかは新社会人になってワクワクドキドキの瞬間。転職サイトに登録をするなんて、発想にもなかった。
まぁ、当時はそもそもあまり転職サイトがなかったなって話かもしれないですけど。でもかなり変わって、潜在リスクを感じているんですね。
じゃあ、なんで早期離職をするのか。今日、みなさん、このセミナーに来ている時点でけっこう、いろんなことを勉強しているんじゃないかなと思うんですけど「リアリティ・ショック」っていう言葉があります。ご存じない方のためにご紹介したいなと思うんですけど、最初は期待していたのに「あれ? 違ったぞ?」という話です。
なので、新たな職に就いた時に、期待と現実のギャップがあった。これは異動とかでも、そう言われているんですよ。こういう仕事だと思っていたことが、ぜんぜん現実が違った、ということはあって。この理屈は1958年、組織心理学が生まれた頃から言われているものです。
“キラキラ採用”が生む入社後ギャップ
松島:人間関係とか、いろんな理由があると。特に最近は採用時にキラキラを見せすぎて、「採用が困難だから、一生懸命がんばって期待値を上げた結果、ギャップがある」ってことも、あるんじゃないかと言われております。
じゃあ、どんなリアリティ・ショックがあるかは、次のデータで見たいと思います。
松島:3年以内の早期離職って一般的なんですけど、これは6ヶ月以内のデータを取ってきたものです。「超早期」と言っていいのか、かなり早期な人たちですね。

上から見ていくと「上司/先輩から理不尽な指摘や指導があった」「職場の雰囲気が良くなかった」「仕事内容に対する給与が見合っていなかった」「上司/同僚などの職場の人間関係が合わなかった」みたいな話ですね。
これ、たぶん退職代行のニュースとかで見ると「理不尽な話があって辞めました」みたいなものがあるので、まさにこういうことを感じて、すぐに辞めやすくなってる。不安を感じたらちょっと連絡して、すぐに辞められちゃうというのが、退職代行の利用が増えている要因なんじゃないかなと。
司会者:そうしましたら、みなさんも退職代行についていろんなイメージをお持ちだと思うんですけど、そもそもどういう仕組みなのかとか、与える影響をもう少し深掘りしてみたいと思います。お願いします。
なぜ退職代行業者が増えているのか
新保:はい。じゃあ、まず基本編ですね。簡単にご説明しますが、依頼を受けて、退職希望者と会社の間に立って、会社側の手続きの事務連絡をつなげるという、間に入る者です。
「これって法律上、規制とかないの?」って思うんですけれども。まぁ、あるはあるのですが、交渉するとなると、これは非弁行為なので弁護士さんの行為。弁護士法の範囲になりますので、交渉はできないんですね。労組系の場合は、一定の団体交渉権に基づいて、労組系の退職代行ができます。

今話題の退職代行会社は民間でございまして、これは本当に事務代行です。ちょっと言い方は良くないかもしれないですけど、伝書鳩的な機能かもしれません。それだけであれば規制はないです。ただし、交渉等が入ると非弁行為となり、弁護士法に触れる可能性があります。
じゃあ、規制がなくて成立するかというと、会社側の立場になると、退職代行から連絡が来ます。例えば「退職代行企業から連絡ありました」という時点で、もう「交渉の余地ないのはわかったよ」って言わざるを得ないので、これは機能しています。

なので、実際にプレイヤーはめちゃくちゃ多いです。これは2022年のデータですが、やはり参入障壁が低いので、これだけ増えたという感じですね。
司会者:すごい。
松島:誰でもできる仕事かもしれないですね。