人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、株式会社ゆめみ 取締役 CHROの太田昂志氏を迎え、同社の採用戦略について鼎談します。本記事では、同社の独自のカルチャーや多様な人材を活かす仕組みを紹介しました。
「徹底的な透明性」を重視するカルチャー
坪谷邦生氏(以下、坪谷):ゆめみさんがドキュメントを全部オープンにされているのは、とてもありがたいです。これはいったいどういう意図でそうされているんですか?
太田昂志氏(以下、太田):ゆめみでは、カルチャーとして「徹底的な透明性」を大切にしています。その一環として、採用活動においてもできる限り情報をオープンにすることを心がけています。
この取り組みの意図のひとつには、入社後に「こんなはずじゃなかった」と感じさせてしまうミスマッチを、少しでも減らしたいという想いがあります。応募者の方々の判断に必要な情報を事前に把握できるようにすることは、双方にとって誠実な姿勢だと思っています。

余談ですが、採用予定人数はもちろんのこと、提携しているエージェントの情報もオープンにしているんです。時には「出し過ぎでは?」と思われることもありますが。
(一同笑)
坪谷:そこまでオープンに出しても、今まで採用上の不利益が起きていないということですよね。
太田:ほぼ何も起きていないですね。
坪谷:情報を見た人からの信頼が得られて、いい人の応募が増えるという、いいことのほうが起きていそうですね。
太田:そうですね。
メリットがあっても、競合他社には真似できない理由
坪谷:すごいなぁ、本当にそういうことが起きるんだ。ここまでやっている企業を初めて見ました。すばらしいですね。私がエンジニア採用をするなら、まずこれを丸パクリするところから始めましょうって言います。
いや、でも、これは膨大すぎて真似できないのかな。社内で、競合他社に真似できない理由を話されたりとかしますか?
太田:あまり話したことはないですが、ここまで異常に言語化している会社はそもそもないんじゃないかと思います。社内のドキュメントですら、たぶんこのレベルで書けていないはずなので、ということは、競合他社のどこもできないかと思います。
坪谷:公開されているからといって真似できない。施策を1、2個真似したところで、戦略レベルで真似できないし、戦略レベルで真似しようとしたところで、哲学レベルで真似できない。哲学レベルで真似しようとしても、経営者(ソース)が本気で思っていないと徹底できない。そのあたりが競合優位になるのでしょうね。
太田:私も他社さんの採用をアドバイスをすることもありますが、この徹底度合いまで真似されようとするケースはあまりないですね。
坪谷:なぜそれができているかというと、やはり経営者の意志ですか?
太田:経営者の意志はもちろんあります。ただ、エンジニア集団というのも大きいと思います。エンジニアはドキュメントをとにかく書きますし、そのドキュメントを細かくレビューするという、職種の特徴もありますね。
徹底した言語化が、いつの間にか「AIフレンドリーな会社」に
太田:これも余談なんですけど、これだけドキュメントが膨大過ぎると、「こんなの見切れないよ」ってみんなが言うんです。でも、このレベルのドキュメント量になったことで、ゆめみはAIフレンドリーな会社になっているんですよ。
今、社内にAIエージェントがあるんですけど、こうしたドキュメントをすべて読み込んでもらっているので、わからないことは全部AIエージェントが教えてくれるんです。
坪谷・秋山紘樹氏(以下、秋山):確かに。
太田:1990年代以降の時代を「情報革命」と呼んできたじゃないですか。ただ、今まではその前哨戦に過ぎなくて、本当の「情報革命」はこれから始まると思っています。
こうした時代を乗り切るには、言語化を徹底して、ドキュメントを残していくことが必要じゃないかと考えています。
私たちもこのことを予測していたわけではなく、たまたまドキュメント化に取り組んでいただけでしたが、最近生成AIを活用する中で、これがAIフレンドリーな会社になるために不可欠だと気付いたんです。
坪谷:いやあ、おもしろいですね。
秋山:複利の効き方がすごいですね。
太田:そうですよね。あと「徹底的な透明性」でおもしろいのは、何でもオープンにするとドキュメントもきれいになるということです。
例えば、人を呼ばない部屋って散らかるじゃないですか? 社内のドキュメントも同じで、人が見ないドキュメントって散らかるんですよ。でも、私たちは情報をできるだけ社内外にオープンにしているので、ドキュメントもちゃんと書かなきゃいけないという力学が働くんです。
秋山:ある種の緊張感的なものもあるんですね。
太田:そこも組織の秩序を生むという意味で、うまく力学を働かせている感じはありますね。
坪谷:確かに。ドキュメントを全部読み切れないかもしれないし、AIがこうなるともわからなかったのに、溜め続けてきたのはすごいですね。
“社会の実験室”のような立ち位置でありたい
太田:そうなんです。まさかこうなるとは思っていなかったんですけど、言語化し続けるという取り組みが功を奏したのでしょうね。たまに、仏教の経典みたいだと思う時もありました。
坪谷:本当ですね。
太田:経典のようにとにかく書き残せば、絶対に誰か見てくれるだろうと言っていたら、それがAIだったという。
坪谷:なるほど(笑)。仏教でいうと、明恵というお坊さんが『夢記』という本を書いています。自分の見た夢を大量に書き残しているんですね。だれかが読んで、それを活かせるのか、無駄かもしれないなどとは、おそらく明恵は考えていなかったと思うのですが、後の世で河合隼雄という心理学者がそこから大きな学びを得ているんです。
ゆめみ社が、役に立つかどうかはわからない中でも、書き続けてきた経典が、これからAIによって誰かの助けになる……そんなところに符合を感じました。
太田:確かに、それはおもしろいですね。
坪谷:しかも、これはゆめみの理念に近いと思うんですけど、オープンにされていることで、世界中の人がこれらの知見を使えますね。哲学レベルで合意できた人は、ゆめみの一員じゃなくても、ゆめみの一員であるかのように活用することができますよね?
太田:まさにそこなんです。ゆめみは、世の中の“当たり前”に対して立ち止まり、問い直し、必要であれば実験を重ねながら少しずつ改善していく姿勢を大切にしています。
そうした取り組みを通じて得られた知見を、1つの例として世の中に共有していく、いわば“社会の実験室”のような立ち位置でありたいと考えています。
外から見ると「なんか話題づくりをしているんじゃないの?」と思われることもあるんですが、ゆめみとしてはいたって真面目に、パーパスに沿って実験を続けているだけなんです。
坪谷:本当に世の中のためになることを積み上げ続けてこられたんですね。とても感動しました。
採用って、企業に入る入り口じゃないですか。選考プロセスは、企業と個人が出会って、お互いに握手しようかどうしようかを決めるけれども、お話をうかがっていて、「1社と個人」の枠組みを超えている感じがしました。全部が世の中を良くしようとする活動なんだなと。
採用において、ゆめみとしては、一緒に実験してくれる人を求めているんでしょうか?
太田:そうですね。「社会の実験室になる」というパーパスを掲げていますので、そんな実験に付き合ってくださる人たちに来ていただいているのは間違いないと思います。