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⑩太田昂志氏に聞く採用戦略(全4記事)

採用は大企業に正攻法で挑んでも勝てない ゆめみCHROが語る、「弱者の戦略」の3つの基本 [2/2]

組織文化を変えるきっかけになった、深刻な経営危機

秋山:なるほど! ちなみに、個人アカウントOKや金銭インセンティブなど具体的な施策はたくさんある中で、そもそも「アウトプット文化を推進していこう」というビジョンや方針を打ち出したのはどなたなんでしょうか? 話し合いで決まったのか、それとも特定の方の主導だったのか。

太田:これは、代表の片岡(俊行)が自ら構想し、推進した取り組みでした。というのも、2017年から2018年にかけて、ゆめみは極めて深刻な経営危機に直面していたんです。

今振り返れば、そのときの対応には大いに反省すべき点がありますが、その1つとして、2017年に当時のCTOが不祥事を起こし、会社の信用が大きく揺らいだことがありました。離職率も一時期、24パーセントにまで上昇していました。

さらに、マネジメントの現場でも混乱が続き、部長が3代続けて「部長職を降りたい」と申し出るなど、組織運営そのものが危機的な状態に陥っていました。

当然ながら、人材採用はますます難しくなり、人材紹介会社にも敬遠される状況にまで至りました。応募者のみなさんからも「なぜこんな会社を紹介するのか」と怒られることすらあり、社内でも「このままでは会社が立ち行かなくなるのではないか」という危機感が広がっていました。

このような状況の中で、当時の代表が打ち出したのが「採用ドリブン経営」という考え方です。採用こそ、経営の最重要課題であるという強い意思のもと、採用活動をトップ自らがリードする方針を掲げました。この判断が、ゆめみの再起を支える大きな転換点になったと感じています。

秋山:なるほど。2017年の事件を受けて、逆に社員の方々は外部での発信を控えめになってしまったのではないかと思ったのですが、そこは代表の方がご自身で積極的に発信を続ける姿勢を示すことで、社内の雰囲気が徐々に変わっていったということでしょうか?

太田:もちろん、代表の積極的な姿勢がきっかけの1つであったことは間違いありません。ただ、正直なところ、それだけで社内の雰囲気が大きく変わったわけではないと思っています。

というのも、実はゆめみでは、2017年以前から社外への情報発信に対してどこか消極的な雰囲気があったんです。例えば、「個人名で会社の看板を背負って発信するってどういうことだ?」とか、「業務時間中にカンファレンスに登壇するくらいなら、まずはコードを書け」といった声が、社内に一定数ありました。

代表の片岡自らが積極的に発信することはもちろん大事ですが、掛け声だけ良くても、それだけで社内の文化が変わることはありません。ですので、そこで私たちが行ったのが「社外発信は業務の一つである」と位置付けたことです。

掛け声だけで終わらせないために、会社としてその取り組みをきちんと認め、インセンティブ設計を行い、アウトプットを推奨する仕組みを整えていきました。同時に私たちがこだわったのが、「アウトプットとは何か」という定義やガイドラインなどを具体的に定めたことです。

坪谷:ここ、ゆめみっぽいですね。

「イノベーター理論」は社内施策の展開にも効果的

太田:そうなんです。ただ、ここでひとつ悩ましいポイントが生まれました。それは、仮に定義やガイドラインで明文化されたとしても、不用意にSNSなどで発信することで、炎上するリスクもあったことです。

こうしたリスクをゼロにすることは難しいですが、それでも社員一人ひとりが自らの発信に対する“感覚”を養っていくことが大切だと考えました。そこで私たちは、まずは安心して発信の練習ができる場として、社内版Twitterのような仕組みを整えました。こうしたステップを踏むことで、社員一人ひとりが自信を持ってアウトプットできる環境を整えていったんです。

坪谷:「外に向けてアウトプットしてくださいね。やったらお金を出しますよ」だけではないのですね。

太田:おっしゃる通りです。さらにもう一つ、全社的な発信文化を根付かせるうえで重要だったのが、社員一人ひとりのニーズを丁寧に見極め、それぞれに合った施策を実行していくという姿勢でした。

このとき、私たちが参考にしたのが、マーケティングの分野で広く用いられている「イノベーター理論」です。

社員の動機や価値観は決して一様ではなく、いくつかのタイプに分かれていると捉えたほうが、現実的です。だからこそ、「全員に一斉に働きかける」よりも、「響く人から少しずつ広げていく」ほうが、無理なく、そして自然に文化が根づくと考えました。

具体的には、発信に対して意欲の高い“イノベーター層”に向けて取り組みをスタートし、次に“アーリーアダプター層”へと広げていく。その過程では、それぞれの層に合わせたインセンティブ設計やコミュニケーションの工夫も行いました。

さらに、いわゆる“キャズム”を越え、社内の“アーリーマジョリティ層”へ広げていく段階でも、彼らの特性に応じた施策を意識的に設計しました。

このように、誰か一人の熱意や掛け声に頼るのではなく、各フェーズ・各ペルソナに最適なアプローチを丁寧に重ねていくことで、結果的に「自然とアウトプットする文化」が社内全体に広がっていったんです。

坪谷:なるほど。外部を動かす時にイノベーター理論を考える会社は多いと思いますが、社内に対してもそこまでやるんですね。

太田:社内の組織変革をしたり何か施策を広げる時は、このイノベーター理論を使って検討することが多いですね。

坪谷:これはやはり、片岡さんがずっとされていることなんですか?

太田:そうですね。彼がいろんな試行錯誤をして得たナレッジで、私はそれを借りているだけなんですけど(笑)。

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