なぜ日本企業は急速にダメになったのか?
野田:実は企業だけではなく「世界競争力ランキング」というスイスのIMDのランキングを見ても、1989年から1992年まではピークだったわけですけれども。それでも1996年ぐらいまでは2位、3位、4位あたりをうろついていました。ところが、1997年に一気に17位に落ちた後、今はもう20位にも届かないような状態になりました。

なぜ急速に日本の企業が、こんなにもダメになったんだろうか。1996年から1997年にかけて急速に順位を落とした理由は簡単で、山一證券の自主廃業、北海道拓殖銀行の破綻といった、いわゆるバブル崩壊の影響でした。金融システムの不安定化が海外でも大きく報じられて、一気に日本の競争力が低下したということなんですね。
「失われた30年」の原因はバブル崩壊だけではない
野田:我々は、これが諸悪の根源で、バブルが弾けたことがいけなかったみたいになんとなく感じているんですけれども。本当にこのバブル崩壊というのが、その後に続く失われた30年の原因かというと、私はまったくそうは思いません。

確かにバブルが崩壊して企業収益が急速に悪化したのは事実です。それに対して日本の企業は迅速に対応をしたと私は思っています。まさに緊急避難をしたわけですよね。今すぐに役に立たないようなものについては、どんどん止めていこうじゃないか。ということで、中長期的な研究開発投資を凍結し、新規事業投資も抑制し、人材育成もすぐには効かないから投資を抑制する。
また、既存事業の収益化を図るために徹底したコストカットを行い、優秀人材の活性化と人件費カットの両面から社員に差を付けていく成果主義が導入された。私は緊急避難としては悪くはなかったと思っています。いや、やらなければもっと死屍累累になっていたと思うんです。
新規事業や人材育成への投資を抑制…「守り」しか経験のない経営者
野田:重要なことは、この緊急避難がずっと続いたこと、この緊急避難が常態化したことではないかと思います。「もう緊急避難段階ではない」と、どこかで思わなきゃいけなかったんだけれども、これが常態化しました。
また、この緊急避難の時に、内部留保の拡大が行われました。それは、キャッシュがなくなって本当に死にそうな苦しみを味わったものですから、正直言って「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」というような状態で、徹底的な内部留保志向が高まりました。結果として、人材育成投資も抑制され、新しい事業にも展開しないものですから、仕事を通じた人材育成もできず、人的資源が30年間かけて徐々に劣化したと考えております。
やはり30年間、守りしか経験のない経営者が増加し、私はここで企業と人間との関係性が壊れた、心の中の企業像が壊れたと思っているんですが、こうした状況を「不真面目な優等生」という言い方をしています。
「言われたことはやるが、挑戦しない人」が増えた理由
野田:これは大学院大学至善館の野田智義さんがおっしゃり始めたことではあるんですけれども。「不真面目な優等生」、すなわち、言われたことはしっかりとやるけれども、それをなぜやっているのかとか、まさに青臭い話は一切しない。
言われたところで高い点数を取ることが目的化しているようなもの。そもそもという根源的なことを考えないから不真面目なんですね。しかし、成績だけはいいので優等生という人間が残念ながら増えてきたのではないかなと思っています。日本人の遺伝的な特性であるところの、不満に強く不安に弱いというのも、またこれに拍車をかけたかもしれません。
いずれにいたしましても、挑戦しない。言われたこと以外をやらない。いや、会社というのはそういうものなんだと。何か失敗したら罰を与えられてしまうのだから。会社というのは縛るものなんだから、それに従えばいいのだということが続いたと思っています。
まさに緊急避難が正当化されると言いますか、緊急避難状態が正当化され続けたと思っています。結果として挑戦しませんからデジタル化にも遅れたし、国際化にも遅れた。なんと言ってもイノベーションは減少したし、新創業も少なくなってしまったということではないかなと思っています。
私はもともと日本人がイノベーティブでもないとか、国際感覚がないなんてことを言う気は毛頭ありません。言語なんてものは後からくっついてくるわけで、日本人が英語が下手だなんていうのはもう嘘八百です。むしろやる中で、みなさんちゃんと学んでいったはずなんですね。自らのチャンスを潰すことによって、このような状態になってしまったのではないかというのが、私のこの30年間の結論です。
ということは、逆に言えば我々が会社に対する思いを変えて、自分たちの役割を再定義することによって、この状況を一気に変えることだってできるのではないだろうか。それが、私がKXに望みを託している理由にもなるわけであります。
ということで、一回ちょっとここでブレイクをしたいんですけれども。私が今説明させていただいた企業の変遷、および特にこの30年間に焦点を向けた私たちの心の中の企業の劣化(について)。みなさんはどんなふうにお考えになりましたでしょうか。
大野誠一氏:野田さん、ありがとうございます。