一生治らないと思っていた病気がアメリカで改善
矢津田:アメリカでの1年半の中で、もう一つ、大きな変化がありました。渡米した当初は膠原病の治療のために約3か月ごとに検査と診察を受け、薬を取りに日本に行く生活を送っていたのですが、アメリカで生活しているうちに、薬がなくても症状が出なくなっていったのです。
なぜ、そんな奇跡が起きたのか? その答えは、食生活にありました。アメリカでは、食事に対する意識が日本とはまるで違っていて、三大栄養素だけでなくその詳細やトランス脂肪酸などの栄養成分表記が徹底されていたのです。そのため、食事の管理が非常にしやすかったのです。
毎日自分で食事を作り、ランニングの習慣を日々継続する。そんな生活を続けているうちに、風邪を引いても入院するどころか、薬をやめても体調を維持でき、むしろ調子が良くなっていくのを感じていました。
風邪を引くと薬を使えなくなるのですが、風邪が治った後も症状が出ないので薬をさらに1ヶ月止めて、病院で血液検査をしたところ、すべてが正常値という驚くべき結果でした。しばらくは定期検査を続けましたが、最終的には問題なし。薬なしでも健康を維持できていることがわかりました。
この経験から、私は日本に戻った後、食に関する事業を新たに立ち上げようと決めました。一生治らないと思っていた病気を改善に導いた食の力をもっと多くの人に広めるべきだと感じたのです。
ITと食の融合を目指し、4年かけてビジネスモデルを構築

商品開発会議の様子。メンバー間で活発にディスカッションが行われている。
矢津田:そうしてIT事業と並行して「食」の事業も展開しようとした矢先のことです。投資を検討くださっていた方から「事業が分散していると、投資できない。一つに絞ったほうがいい」と言われました。
そこで私は、どちらかを切り捨てるのではなく、「ITと食を融合させた領域」がないかを模索し始めました。そうして辿り着いたのが、「パーソナルフード」という考え方でした。AIの活用による個人に最適化された食事。その提供こそ、これからの未来に重要な位置づけを担うと確信したのです。
ITと食の事業を合併させよう。そう決意したのは2016年でしたが、2つのビジネスモデルをきちんと融合させることができたのは2019年。4年近い間、収益の中心はIT事業で、パーソナルフードのほうはしばらく研究開発段階から脱出できないままでした。
とはいえ、経営上早期に収益化していく必要があるということで、添加物ゼロの社食事業を進めていたのですが、そこにやってきたのがコロナ禍です。顧客が9割減という大打撃を受け、会社の事業全体の方向性を大きく見直していくことになりました。
新事業における困難と乗り越えられた理由
スタクラ:そこからパーソナルフードの新事業の基盤を作っていく過程には、並々ならぬご苦労があったかと思います。特に困難だった点について教えてください。
矢津田:心から追求したいと思っていたパーソナルの事業を始められないまま、目の前の売上優先の仕事ばかりになってしまっていたことが一番苦しかったです。複数の事業が混在し、リソースも分散したまま、会社としての行く先を見失いかけていたように思います。
お客さまは「誰」なのか。「何」を解決するものなのか。そこをきちんと言語化した上で、もっと早く事業の取捨選択を行い、ビジョンに沿った行動に集中していれば、チーム一丸となって事業をもっと早く推進できたのではないかと思います。
さまざまな葛藤を抱えながら、それでも前に進もうとあがいていた時に、EOという起業家組織に出会いました。EOにはメンター制度があるのですが、高校時代に私を導いてくれた水泳のコーチのように、先輩経営者の方々に寄り添ってもらえたおかげで、自分ひとりではどうにもできなかったビジョンの再確認と事業の整理、自分の考え方のクセの矯正を進めることができました。
結果、社内の裏のミッションを「食生活習慣病撲滅」に絞り込み、無添加食品を求める、小さいお子さんがいらっしゃる共働き世帯向けに、作り置きの無添加食品を配達するtoCサービスに注力すると決めました。
新しいサービスに集中し始めてから、AIVICKのビジネスは急成長を始めました。月次の成長率は110〜130%に達しています。この成果によって事業は黒字化を達成。ここでようやく、パーソナルフードの事業に再挑戦するための下地が整ったのです。
誰もが「必要な食」を自由に選べる世界へ
スタクラ:AIVICK社の今後の展望について、教えてください。
矢津田:食の事業が黒字化したことで、心から追求したいと願っていたパーソナルフード事業のビジョンが、ようやく実現に向けて大きく前進し始めています。これまでAIVICKを支えてくれた方々、そして今も共に歩んでくれている従業員やお客様に恩返しをしたい。その思いが全体に浸透し、チームとして事業を前進させていけるようになりました。
AIVICKはこれまで何度も失敗をし、苦しい状況に追い込まれる度に、「自分たちの本当の強みは何なのか?」を見つめ直してきました。無添加の食品提供を支える冷やす技術やノウハウはもちろんですが、それ以上に、伴走くださる方々の力をお借りし、未知の知識をどんどん吸収しながら推進していく力こそが、私たちの強みなのだと実感しています。
これからもさまざまな挑戦をしていくわけですが、今後の展望としてAIVICKが手にしたいと考えている力があります。それが、「消費者からの熱狂的支持による公益な革命力」です。
昨今の食ビジネスを俯瞰すると、科学的な裏付けに基づく発信が力を増している一方で、自然食のような文化的側面の強い領域に関しては、公に訴求しづらい部分があるように感じています。私たちはその両軸のバランスを取りつつ、適切な情報提供や教育を通じ、消費者が選べる食の選択肢を広げていきたいのです。
「食」とはそもそも何なのか。AIVICKでは、人の心身の健康を維持・向上させ、「幸せを感じられるライフスタイル」を支える基盤こそが食だと、定義しています。適切な知識に基づき、誰もが「必要な食」を自由に選べる世界。それが私たちの目指す未来です。
事業計画の3つのフェーズ
矢津田:2050年を目標に「いつでも・どこでも・好きなものと必要なものを適切に食べられる世界」を創りたい。そのために私たちはこれから事業をさらに展開させていきます。これからの事業計画は、大別して3つのフェーズにわかれます。
最初のフェーズは、女性のライフステージに合わせたつくりおき食の提供サービスや、個々の目的達成に向けたパーソナライズ食の提供に取り組んでいきます。2024年の現段階で注力している内容がこれに当たります。
そこから第2ステージでは、食の安全性を担保するトレーサビリティの確保や効率的なサプライチェーンの確立に向けて、ITの利活用を推進していきます。最後のチャレンジフェーズでは、「食」の移動にかかるコスト削減に向け、物流の改善にも取り組み、ライフサービス市場における新たな価値創出を実現していく予定です。
これらの計画を実現し、食の未来を変えていくためには、メンバー全員が自発的に進んでいける組織づくりが欠かせません。当社のポジションにはまだまだ空席があり、誰もが新たな挑戦を通じて成長できる環境が整っています。
まだまだ成長の余地がたくさんあるAIVICKですが、目標に向かって成果を出すことに楽しみを見いだし、人としても成長し続けることを喜びとする人たちと一緒に進んでいける未来に日々、心を踊らせています。一緒に前進していける新たな仲間と、ぜひ出会いたいですね。
スタクラ:本日は貴重なお話をありがとうございました。