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fabula株式会社 代表取締役 町田紘太 氏(全1記事)

「ゴミから感動をつくる」 食品廃棄物を「価値ある新素材」に変えるスタートアップの挑戦

今回は、食品廃棄物を「価値ある新素材」に変え、永続的に再利用できる仕組みを作り上げようと取り組むfabula株式会社 代表取締役の町田紘太氏のインタビューの模様をお届けします。町田氏の生い立ちからfabula社立ち上げまでの経緯、そして創業後に感じた壁や今後の展望についてお伝えします。

※このログはStartup Magazineのインタビュー記事を転載したものに、ログミー編集部でタイトルなどを追加して作成しています。

小学3年生でオランダへ…帰国してぶつかった言語の壁

スタクラ:まず、町田さんの生い立ちからお伺いします。現在につながる原体験のようなものがあれば教えてください。

町田紘太氏(以下、町田):私の生まれは、神奈川県横浜市です。父の仕事の関係で、小学校3年生から日本を離れ、オランダのインターナショナルスクールに3年ほど通っていました。オランダでは、平日インターナショナルスクールに通い、土曜日には補習校で学ばせてもらいました。日本とは全く違う教育環境のもと、地球温暖化について発表する授業や視覚障害者の視界体験など、多彩な学びを経験できました。

オランダは、エコやサステナビリティに関する取り組みが進んでいる国です。そのため、幼少期から「社会に対して自分がどう関わっていくべきなのか」を自然と意識しはじめたように思います。

オランダから日本に戻ったのは、小学6年生の時でした。帰国して早々、私は「できない自分」を思い知り、劣等感に苛まれるようになりました。オランダにいた間はほとんど日本語を使っていなかったため、小学校2年生レベル以上の漢字が使えず、言葉の壁にぶつかってしまったのです。

帰国後に日本語を学び直す日々は、本当に苦しいものでした。仕事人だった両親からは、「自分で考えて、意思決定を下しなさい」とよく言われていたのですが、当時の私は自主的に勉強に打ち込むことが出来ませんでした。結果、中学受験には失敗してしまい、地元の公立中学校へと進学することになりました。

実は、後の創業メンバーであるCFOの松田大希とCTO大石琢馬は、小学校時代からの幼馴染なので、もし当時の進学先が違っていたら、今のfabulaはなかったかもしれません。中学以降の学生生活を振り返ると、尊敬する先生方とのご縁に恵まれ、多くの影響を受けました。

人間性の軸にある「自ら考え動くべき」という考え

町田:中学時代、私は学級委員長を務めていたのですが、当時の学年主任の先生からスピーチスキルを厳しく叩き込まれました。みんなの前で話す機会の前には、スピーチ原稿を必ず用意し、フィードバックをいただいては修正しました。そして、原稿を暗記した上で、事前にリハーサルもしっかり行うように指導されたのです。

「いつまでも親や先生がいるわけではない。だから、自分で考えて動ける人になりなさい」と、その先生はよく口にしていました。おかげで、両親の教えと相まって、私の人間性の軸として「自ら考え動くべき」という考え方が染み付いたように思います。

高校は自由度が高く、進学についても個人の意向まかせという校風でした。しかし、当時出会った先生は、毎朝、通勤前に神社へと参拝し、生徒の進路を熱心に応援してくれる人でした。生徒のためにがんばる先生の姿に刺激を受け、自分もちゃんと目標を決めて、勉学に励もうと心に決めました。

勉強の甲斐あって、高校卒業後は東京大学へと進学し、生産技術研究所の酒井研究室で研究に打ち込むようになりました。サークルは国連関連団体の運営に携わり、社会のインクルージョンを推進するプロジェクトを仲間たちと立ち上げ、時には夜中の3時過ぎまで先生の研究室で作業することもありました。

プロジェクトは、地道な作業や調べ物の連続です。企業との交渉など、思うようにいかず苦労したこともありました。「分からないことは、素直に分からないと言った方がいい」とサークル活動を支援してくれていた先生が、当時よく言っていました。物事に対して素直に向き合う姿勢は、起業した今でも本当に大切だと感じます。

「食べられるコンクリート」の着想に至った経緯

町田:東京大学にはもともと文系専攻で進学しましたが、3年時に理転を決意しました。高校は文系で物理を学んだことすらなかったため、「このままではだめだ、実社会で学びを活かせないまま終わってしまう」と危機感を抱いていたからです。

理系の知識や考え方を身につけたい。そして、もともと関心があったまちづくりの分野に対して、3次元的な関わり方をしてみたい。そんな想いから、選んだ専攻が社会基盤学という土木系の学問でした。

当初は景観計画などソフト面の学びを深めていく予定でしたが、色々見ているうちに、コンクリートを研究している酒井研究室に目が留まりました。酒井研究室では、コンクリートを中心とした建材の使い所を見直し、代替可能な素材の開発やリサイクルの促進を通じて、環境負荷を軽減する研究を進めていました。

ビジネスに通じる研究領域な上、内容が尖っていておもしろい。そう考えた私は、酒井研究室に入り、自分の研究テーマを検討し始めました。社会課題に何かしら貢献できて、かつ日常の一部に組み込めるようなテーマにしたい。

そして、何より自分がおもしろいと感じられるテーマがいい。そうして、酒井先生がもともと持っておられた発想をもとに、自分自身の環境に対する課題感を掛け合わせる形で開発を始めたのが「食べられるコンクリート」です。

「仮に失敗したとしても、貴重な経験が増えるだけ」

町田:食品廃棄物だけで作る新素材の研究を進めていったある日、柑橘系の食品を使った成形物ができあがりました。美しいオレンジ色をした素材を目の当たりにした時の感動を、今でもよく覚えています。こうした実験をさらに発展させ、多彩な素材を社会実装していけたら、絶対楽しいだろうと予感しました。

起業という道が思い浮かんだのは、ちょうどこの時です。自ら開発した技術とはいえ、社会課題を解決するだけであれば、どこかの大企業に入ったほうがよりスピーディに事業化できたのかもしれません。それでも、自分で実装していくほうがおもしろそうだと直感したのです。

大学卒業後、食品廃棄物の乾燥粉末を熱圧縮し成形する技術をプレスリリースで発表したところ、想定以上にメディアの問い合わせが相次ぎました。反響の確かさを実感できたこともあり、卒業から半年で松田や大石に声をかけ、2021年10月にfabulaを立ち上げました。

起業を決意した時、父をはじめ、様々な人に相談しましたが、反対の声は1つも挙がりませんでした。むしろ「おもしろいし、やってみたらいいのではないか」とみんなが後押ししてくれました。仮に失敗したとしても、貴重な経験が増えるだけ。それなら、起業しない理由はどこにもないと考えました。


fabula社が提供する、廃棄物から作る新素材。コンクリートの曲げ強度の約4倍を誇り、材料由来の色も楽しめる。

リスクマネーの資金調達に頼らず、自分たちで売上をつくる

町田:今年で創業4年目を迎えたfabulaですが、創業から約2年間はリスクマネーの資金調達を行わず、自己資本のみで経営してきました。CVCを運営している会社の経営者の方から起業前に頂いたアドバイスをもとに、自分たちで売上をつくるビジネスモデルをまず確立しようと決めたからです。

そのため、創業初期は松田や大石と3人でかき集めた資金をもとに、周囲の方々のお力を多々借りながら状態から事業を始めました。まずお互いに議論を交わしながらコンセプトノートを取りまとめ、会社のスタンスや考え方、ミッション・ビジョン・バリューを決めていきました。

言葉の軸を決めてからは、役員報酬をできる限り削り、時に預金残高に冷や汗をかきつつ、キャッシュフローを回していきました。お金を稼ぐためには、お客様に素直に向き合い、信頼を集め、かわいがっていただけるようにしていく必要があるのだということも、肌感覚で学びました。

ふだんはリモートでやり取りし、営業活動を行い、手を動かしながら製品をつくり、週末は研究。そんな日々が2年ほど続きました。仮に多額の資金を初期から調達していたとしたら、自分たちのお金で事業を回していく感覚が身につくことはなかったかもしれません。

おかげで、プロダクトの原価計算や単価の決め方が経験から分かるようになっていき、3人それぞれの得意を活かした役割分担も見えてきました。苦しい思いも多々しましたが、振り返ってみれば、起業前のアドバイスにしたがって、本当によかったと思っています。

会社の規模拡大で思いもよらない問題にぶつかる

スタクラ:立ち上げ当初の大変な時期を松田氏や大石氏と一緒に乗り越えて来られたわけですね。創業メンバーとして声をかけた当初、お二人はどのような反応でしたか?

町田:実は、二人とも私が誘ったらすぐに「一緒にやろう」と応えてくれました。特に松田は、付き合っていた彼女と結婚を視野に入れていた段階だったにもかかわらず、話を持ちかけたその日に相談して、翌日には前向きに話をまとめてきてくれました。

二人の反応が本当にうれしく、我ながら人の縁に恵まれていると改めて感じた出来事でした。松田や大石とは幼馴染で、かつ親同士も元々地元で知り合いという密接な関係だったので、阿吽の呼吸で事業を進めることができました。

3人で仕事がこなせているうちはよかったのですが、会社が3期目になると問い合わせがさらに増え、どうがんばっても手が足らないという状態に陥りました。そこでリファラルを中心に増員を図ったのですが、思いもよらぬことが起きました。

メンバーが増えたことで、経営メンバー3人の時には見えてこなかった組織づくりの壁に突き当たったのです。残念ながら、最初に雇用したメンバーは、スキルセットの部分が要件と合わないことが判明し、仕事の価値観も異なっていたため、すり合わせをしきれないまま、数ヶ月で退職してしまいました。

この失敗の要因は、人材に対する期待値を調整できておらず、教育コストの計算もできていなかったことでした。要は、見通しが甘すぎたのです。この苦い経験から、新メンバーの採用に対してどう向き合うか、会社のマネジメントのあり方を考えるようになりました。

人が増えていけば、一人ひとりと個別で取れるコミュニケーションの量は減ってしまいます。その分、個々の役割分担や組織の「当たり前」を明文化したルールを決めていきながら、チームを「会社」として育てていく必要があるのだと学びました。

マネジメントについては道半ばですが、現在ではメンバーの特性に合わせた配置転換を行うなど、個々の良さを活かしながら不安なく働いてもらえるように、ウェルビーイングな組織づくりに取り組んでいます。

「あらゆるゴミの価値化」を実現するために

町田:fabulaは「100%食品廃棄物から新素材をつくる技術」を中核に「あらゆるゴミの価値化」を目指しています。そのため、プラスチックの代替や二酸化炭素削減、SDGsへの貢献といったメッセージは使わず、新素材そのものの魅力や価値を訴求する独自のブランディングを採用しました。

私達の特許技術は、それ自体はシンプルなものです。だからこそ有機物を含む様々な乾燥粉末を固めるレシピを常にアップデートし、どこよりも多くのバリエーションを蓄積できるようにしています。それこそが、私たちの技術的な強みになるからです。

単に技術を保有するだけでなく、その技術そのものを進化させ、使用方法の改善・向上を図ることが私達の仕事です。使える原料のバラエティを増やし、機能性を更に拡張させていけるように、日々粛々と取り組んでいます。

また、大学との共同研究を通じて、最新の知見を取り入れる体制もfabulaには整っています。基礎研究や応用研究の成果を大学から取り入れるべく、今後も連携を強化していく予定です。

fabulaの事業を今後さらに成長させていくためには、プロダクトに関連した技術向上とブランドイメージの確立を両軸で進めていく必要があると考えています。そのためにも、クリエイティブ系の人材強化が大きな課題です。

「お金を稼ぐことの重み」を決して忘れない

スタクラ:最後に、fabula社の今後の展望について、教えてください。

町田:これから採用を強化し、事業を拡大していくわけですが、fabulaは常に「respect」、つまりre(繰り返し)spect(見る)ことを大事にしていきたいと考えています。お客様とも社会ともメンバーとも常に向き合い、目の前のこと一つひとつに対して素直に取り組んでいく。

そして失敗からも学び、プロとして成長していく。私自身もそうありたいですし、同じように「当たり前」のことを大切にコツコツ積み上げていけるメンバーと一緒に事業を伸ばしていきたいと考えています。

最初の2年間をリスクマネーに頼ることなく会社を経営する中で、「お金を稼ぐことの重み」を改めて実感しました。額の大小ではなく、お金をいただくことは大変なことです。そして、とても大事なことです。

今後fabulaがどれだけ組織を拡大しても、扱う資金の額が上がり、キャッシュフローが潤沢になったとしても、そこの土台となる部分は決して忘れないようにしていきたいと思います。

fabulaはこれから拡大していく組織なので、このタイミングで参画するメンバーにとっては、プロダクトや世界観との距離感が近く、この会社の技術や場を使って自分でやりたい未来を叶えやすい環境にあると思います。

「ゴミから感動をつくる」という私達のミッションやビジョンに共感いただいた上で、もしあなたのやりたいことが私達の描く未来と重なるのであれば、ぜひ一緒に展開を作っていけたらうれしいです。

スタクラ:本日は貴重なお話をありがとうございました。

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