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株式会社パトスロゴス 代表取締役CEO 牧野 正幸氏(全1記事)

「2度目の起業」だからこそ、スピード感が大事 元ワークスアプリケーションズ代表・牧野正幸氏が挑むHR業界の改革 [1/2]

最初に創業したワークスアプリケーションズを短期間で売上高500億円の企業に躍進させ、上場も果たした、株式会社パトスロゴス代表取締役CEOの牧野正幸氏。本記事では、ワークスアプリケーションズやパトスロゴスの設立ストーリー、シリアルアントレプレナーとしての経営哲学や、現在描いている未来像までをお届けします。

※このログはStartup Magazineのインタビュー記事を転載したものに、ログミー編集部でタイトルなどを追加して作成しています。

スタートアップ経営者は、幼少期から他と違う発想を持つ人たちが多い

スタクラ:はじめに、牧野さんの幼少期のお話から伺いたいと思います。どのような子供時代を過ごされたのでしょうか?

牧野正幸氏(以下、牧野):小~中学生時代は、「自分が正しいと思うことを曲げたくない」という思いが強い子どもだったように思います。

授業中、先生に対しても遠慮なく「別の考え方もあるのではないか」と意見を述べるので、「授業の妨害だ」と叱られることも少なくありませんでした。そのため、周囲から変わった存在だと思われていたようです。実際、同窓会で「あの頃の牧野は何を考えているのかわからなくて怖かった」と言われたこともあります。

実は、スタートアップ経営者には、私と同様に幼少期から他とは違う発想を持つ人たちが多いと感じます。日本の画一的な教育の中では多くの苦労を経験してきたものの、学校教育の枠にはまらない姿勢が、後に新たな価値を生み出す原動力になったのではないかと考えています。

スタートアップに向いているのは、常に「もっと良い方法があるのでは」と考えられる人です。少々時間がかかっても自分で考え抜く力を持った人材がスタートアップでは成長し、起業家としての道を切り拓いていけるのではないかと思います。

大きなトラブルや混乱が起きている案件に進んで取り組む

スタクラ:そのような考えに至った背景には、原体験や家庭環境の影響があったのでしょうか?

牧野:特別な原体験や家庭の教育方針が影響したわけではなく、むしろ社会に出てから培われたものだと思います。

私の社会人としてのキャリアは、組織内での葛藤からスタートしました。新卒で大手建設会社に就職しましたが、組織に馴染みにくいタイプだったこともあり「既存の枠組みの中で適応していくこと」に常に違和感があった気がします。

一方で、「チャンスを与えられたら全力を尽くしたい」という思いは非常に強く、困難な仕事になるほど「これは成長の機会だ」と捉えてがんばっていましたね。

中でも特に、大きなトラブルや混乱が起きている案件には進んで取り組みました。従来のやり方が通用しないことが多く、自由な発想で挑戦できる余地があったからです。「失敗しても元の状況より悪くならない」ことも安心材料だった気がします。

スタクラ:より困難なチャレンジを好まれた理由は何だったのでしょうか。

牧野:以前より「人は挑戦と失敗の中で思考を深め、成長することができる」という信念があり、若いうちにどれだけチャレンジングな環境で自分を試せるかが、その後のキャリアに大きな影響を与えると考えていたからだと思います。

「すごいけど、ああはなりたくない」部下から言われて気づいたこと

牧野:最初の会社を退職後、システム開発会社やITコンサルタントなどの経験を経てワークスアプリケーションズを起業しますが、どんな時も「失敗できる環境で挑戦を重ねること」にこだわり、多くの事業に取り組んできました。

もちろん、若い頃には苦い経験もありました。私が初めてチームを持ち、若い人たちに積極的に仕事を任せ始めた時のことです。偶然、彼らが「牧野さんはすごいけど、ああはなりたくない」と話すのを耳にしました。最初はショックを受けましたが、挑戦を「チャンス」と捉えるか、「苦痛」と感じるかは人それぞれなのだと気づかされた瞬間でもありました。

スタートアップは自由度が高い分、成功も失敗も自分次第。だからこそ、失敗できる環境を楽しめる人にとっては、大きな可能性を秘めた場所です。一方で、大企業の安定した環境の中で着実に成果を上げることに適したタイプもいて、そういう人たちにとってはスタートアップのスピード感やプレッシャーはとても苦痛かもしれません。どちらかが良い悪いではなく、それぞれに適性があるのだと痛感しました。

「日本の情報投資効率を世界レベルに引き上げる」最初の起業へ

スタクラ:最初の起業についてお聞かせいただけますか?

牧野:ワークスアプリケーションズを創業したのは1996年。日本のIT業界が抱える課題を解決し、日本の情報投資効率を世界レベルに引き上げるために立ち上げました。

当時、海外では「SAP」や「Oracle」のようなSaaSが普及していましたが、日本では企業文化やニーズに合わない等の理由により、導入が進んでいませんでした。海外ベンダーに日本市場向けのカスタマイズを提案したものの、「グローバル基準に合わせるべき」と断られ、日本のシステム開発企業も「わざわざパッケージソフトを作る意味があるのか」と新たな挑戦に消極的でした。

この状況を打破するために立ち上げたのが、ワークスアプリケーションズでした。創業後は大企業向けパッケージソフト「COMPANY®」(※2)の開発に着手しました。バックオフィス業務のIT化により人事・経理・労務業務を効率化することを目指したものです。

最終的に日本の大企業の約6割が「COMPANY®」を採用し、2001年には上場、売上高も500億円を超える企業に成長しました。(※2「COMPANY®」は株式会社Works Human Intelligenceの商標又は登録商標)

私が目指したのは、単なる技術の提供ではなく、日本企業全体が競争力を高める基盤を築くことです。この挑戦を通じて、日本のビジネス環境に一定の貢献ができたのではと自負しています。

「良いものが売れる」のではなく、「売れたものが良いものになる」

スタクラ:ワークスアプリケーションズが急成長した要因はどこにあったと思われますか?

牧野:最大の要因は「社会的意義のある製品を世に送り出したこと」だと思っています。もちろん、意義ある製品を作っただけでは意味はなく、それが普及して初めて「成功した」と言えるわけです。

例えば、電気自動車のように社会のニーズに合致した革新的な製品であれば自然に普及しますが、単に既存の製品を少し改良したり価格を下げただけだったりするものに、持続可能性はありません。

重要なのは、テクノロジーを活用して生産性を向上させる製品を提供し、それによって社会を一歩進化させること。ワークスアプリケーションズではそれを実現していました。

もう一つは「製品の普及を重視したこと」です。「良いものが売れる」のではなく、「売れたものが良いものになる」という考え方を徹底しました。製品が普及すれば、収益だけでなくユーザーから多くのフィードバックが集まります。そして、それはさらなる製品改良に繋がります。この良い循環を作るため、営業・マーケティングには優秀な人材を配置し、普及活動に力を注ぎました。

急成長のツケが回り疲弊するマネジメント層

スタクラ:一方で、急成長に伴う課題や、意思決定において牧野さんが後悔していらっしゃる点があれば教えて下さい。

牧野:急成長の歪みは確かにありました。当時の私は経営者として優秀な人材を集め、彼らが成長し、市場価値を高められる環境を提供することを最優先していました。自己成長という曖昧な目標ではなく、明確に成長を促す仕事を与え、飽きないように難易度を上げていく等さまざまな工夫を凝らしました。人材集めという意味では、この戦略は間違っていなかったと思います。

一方で、事業拡大に見合う組織構造が十分に構築されていなかったのも事実です。
当時の運営はもっぱら個々の能力に頼る形で、組織としてよりも各人の実力で問題を突破するスタイルでした。ただ、規模が数百名を超え、階層構造が必要になってくると、状況が一変します。

当時は各メンバーが自分の役割を主体的に遂行する環境は整っていたものの、組織全体の目標達成に向けた協力体制の整備は後手に回っていました。そのため、マネージャーが部下をコントロールして組織全体の方向性を定めることが難しく、マネジメント層が疲弊するという事態を招いてしまったのです。急成長のツケと言える部分でしょう。

スタクラ:その課題を解決するために、どのようにマネジメントの仕組みを改善されたのでしょうか?

牧野:残念ながら、十分な解決策を見つけることができませんでした。個々の高い能力で多くの問題を処理してしまうことが、結果的に組織全体の生産性向上に繋がらないという悪循環に陥り、マネジメント層も組織全体を統括する仕組みを構築することが難しかったと言えます。

改善策を導入する取り組みもスタートさせましたが、十分な成果を出す前に私は退任することに。後任者も解決は容易ではなかったのではないかと思います。

「誰もやらないなら自分がやるしかない」パトスロゴス創業の経緯

スタクラ:ワークスアプリケーションズ退任からパトスロゴス創業に至るまでの経緯をお聞かせ下さい。

牧野:ワークスアプリケーションズ退任後の約2年間は、スタートアップ、ベンチャー企業の顧問やアドバイザーを務めながら、HRテック業界の動向を見守っていました。

この間にも多くの革新的なHR SaaSが登場していました。ただ、そのほとんどが業務領域を特化することで高い機能性を実現するもので、企業はニーズに応じた複数の製品を組み合わせて利用する必要があります。結果として各SaaS間のデータ連携や運用の統一が難しく、管理が複雑化する問題が生じていました。

特化型SaaSが持つ強みを活かしつつ業務全体を円滑に統合するためには、業界全体であらゆるSaaSがアクセス可能な共通データベースを構築し、各製品が連携できる環境を整える必要があります。しかし、多くの企業が自社製品の販売に注力しており、業界全体の課題解決には消極的でした。

「誰もやらないなら自分がやるしかない」と考えたのが、パトスロゴス創業の動機です。
ワークスアプリケーションズ創業時と同じく、必要性を感じながらも皆が避ける課題に取り組む使命があると感じたのです。

スタクラ:パトスロゴス創業後は、主にどのような課題に取り組まれているのでしょうか。

牧野:パトスロゴスでは業界全体で共有できる統一データベースを構築し、各SaaS製品のデータを一元管理しながら連携を可能にする仕組みを提供しています。特化型SaaSの利便性を活かしつつ業務の複雑な連携の問題解決を目指しており、また、データの整合性や業務の保証を提供することにより、企業が安心してSaaSを活用できる環境を整えています。

創業期に直面した壁は「メンバーの意識改革」

スタクラ:2度目の起業であるパトスロゴスを創業されて4年が経ちますが、これまでどのような壁にぶつかり、それをどのように乗り越えてこられたのか、お聞かせください。

牧野:ありがたいことに、資金面の不安は全くありませんでした。シードステージからシリーズAまで非常にスムーズに資金調達を進めることができ、前職と比較しても遥かに恵まれた環境でスタートすることができたと思います。

また、会社運営の中で出てくる課題は、現在のところいずれも想定内のものです。プロダクトについても、開発・営業・コンサルの各メンバーがHR分野でのベテラン揃いだったこともあり、早期からお客様からの信頼を得ることができ、想定以上のスピードで成長しています。

スタクラ:予想していなかったところで壁に突き当たったことはありましたか?

牧野:想定外の壁は、0→1フェーズにおけるメンバーの意識改革でした。前職である程度事業が軌道に乗った状態からの成長を経験していたメンバーが多く、厳しい創業期の経験者がいませんでした。そのため、1→10のスキルは十分に備わっていたものの、0→1の立ち上げでは予想以上に苦戦しました。

0→1フェーズでは、不確実な状況の中で新しいアイデアを出し続け、それを形にしていく必要があります。これは、1→10のフェーズで求められるスキルとは全く異なるものです。
事業自体は問題なく進んだものの、結果としてこれが想定外の壁となり、当初考えていた目標値には届きませんでした。

スタクラ:そのギャップはどのように埋めたのでしょうか。

牧野:1年ほどかけて、マインドセットの再教育を行いました。0→1の経験が浅いメンバーの多くは、当初は全く未知の領域に踏み出すことを「無理だ」と感じているように見えました。

そこで、過去の経験に基づいて、0→1のフェーズで起こりうる様々な問題や、解決法を具体的な事例を交えて繰り返し共有するとともに、マインドセットの重要性を強調し、困難な状況でも諦めずに挑戦し続けることの大切さを丁寧に伝え続けました。

「2度目の起業」だからこそ、スピード感が大事

スタクラ:1度目と2度目の起業を比べると、最も大きな違いはどこでしょうか。

牧野:30代で起業した時は、未来が無限に続いているように感じていました。全力で走ればどこまでも、それこそ雲の上や宇宙まで行けるんじゃないか、そんな風に思っていたんです。だから計画的でなくても、とにかく成長を目指せば良かった。

しかし、年齢を重ね、2度目の起業を迎えた今はそうはいきません。残された時間が限られていることを自覚し、5年や10年といった短いスパンで目標を達成するために、逆算して動かざるを得ません。

よく「2度目の起業なら、余裕を持って取り組めるのでは?」と言われるのですが、私の考えはむしろ逆です。時間が限られている以上、スピード感を持って動かなければ間に合わない。これが最大の違いだと思います。

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