組織課題を丹念に読み解く調査&コンサルティング会社「ビジネスリサーチラボ」が開催するセミナー。今回は「話の途中にスマートフォンを見る『ファビング』が職場にもたらす影響」をテーマとしたセッションの模様をお届けします。スマートフォンの使用に「意識的」になることの重要性が語られました。
少人数の場ではスマホいじりが「伝染」する
伊達洋駆氏:あらためてファビングにどう対応していくべきか。そのためには、まず「ファビングが生じやすい環境とは、どんな環境か?」という点を考えることが大切ではないかと思います。
そのヒントになる研究があります。64組の参加者を対象に行った調査ですが、「スマートフォンを使って相手をないがしろにする行為をどう思うか」「周囲の人はファビングをどの程度許容すると思うか」を尋ねた研究です。
その結果、ファビングに対して前向きな、つまり「別にそれくらいやってもいいんじゃないか」といった許容的な姿勢を持っている人は、実際にファビング行動をとりやすいということがわかりました。
言い換えると、ファビングをしても問題ないと思っているような環境にいると、ファビングは発生しやすくなるということです。これは当然のことかもしれませんが、ファビングを許容する雰囲気がある場所では、ファビングという行為自体が広がりやすくなってしまうということです。
しかも、少人数の集まりの場合は、ファビングが「伝染」することも指摘されています。どういうことかというと、誰かが最初にスマートフォンを触り始めると、それが周囲の人にも波及して、他の人たちもつられてスマートフォンを見るようになってしまう。そういった行動が観察されているんですね。
ただ、これも先ほどお話ししたように、「それはよくないですよ」と誰かが指摘することはあまりない。だからこそ、ファビングは放っておくと止まりにくく、歯止めがかかりづらいという特徴があるんです。
一方で、スマートフォンの使用についての規範、たとえば「対面中にスマートフォンを触るのはよくない」という社会的なルールや認識がある場合には、ファビングの発生は減少するということもわかっています。

また同時に、「情報を見逃すのが怖い」「常にオンラインでつながっていたい」といった感覚を持っている人ほど、ファビングをしやすいことも示されています。
ファビングの悪影響を社内で共有することの重要性
つまり、ファビングを減らすには、「ファビングは望ましくない行為だ」という規範意識を共有することが大切なんですね。例えば、「友人と顔を合わせている時にスマートフォンを見るのは失礼だ」といった認識を持っていれば、自然と対面中にスマートフォンを触らなくなる傾向がある。
一方で、常時オンラインでいることが当たり前になっていたり、何か通知が来た時に「何だろう?」とすぐ反応してしまうような感覚を持つ人は、スマートフォンを手に取る行動につながりやすくなります。だからこそ、ファビングを減らすためには、「ファビングは問題である」という認識を、みんなで共有していく必要があるわけです。
ファビングは、単に「スマートフォンを見るのはマナー違反だ」という話にとどまらず、人間関係や仕事への集中力、さらには、それを上司が行えばエンゲージメントの低下といった問題にまで拡大してしまう。そういった重大な悪影響が起こり得ることを、まず理解することが大切です。
多くの人は、自分がファビングをしているという自覚がないばかりか、ファビングが他者にどれほどの悪影響を及ぼすかということも、あまり理解していないのが現実です。だからこそ、まずはその理解を深めることが重要ではないかと思います。
そして、例えば組織の中でガイドラインをつくる時には、その前提として、ファビングがもたらす影響についての知識をしっかり把握することが必要になってくるのではないかと考えています。
なぜ会議中にファビングが起きるのか?
その一方で、あまりにもファビングを“悪者扱い”しすぎるのも問題かなと思うんですね。こんな研究もあります。退屈感が強いとスマートフォンを触りたくなることを示した研究です。

あるいは、「取り残されたくない」という気持ち。オンライン上では絶えず情報のやり取りが行われていて、その流れに乗り遅れたくないという不安を感じている場合も、ファビングが起こりやすくなる。たとえ会話中であっても、つい画面を確認してしまうという行動が、こうした心理と関係していることが明らかになっています。
要するに、ファビングという行為がなぜ起こるのかというと、「退屈を紛らわせたい」という気持ちと、「周囲の動きに遅れずついていきたい」という2つの気持ちが絡み合って発生している現象なんですね。
特に「退屈」というのは深刻です。ファビングが起きているということは、裏を返せば、「その場が退屈である可能性がある」ということでもあるんですよね。会議中にファビングが見られるとしたら、それはその会議が、参加者にとってあまり関与できない、あるいは関与しなくてもいいような進め方になっている可能性がある。
ただ話を聞くだけで、自分に発言の機会もないとなると、人は退屈を感じてしまう。そして、スマートフォンに手が伸びてしまう。そうなると、話している側は「自分の話を無視された」「大事にされていない」と感じてしまう。「自分はここにいなくてもいいんじゃないか?」という気持ちにもなって、悪循環が生まれてしまうんです。
だからこそ、ファビングを防いでいくためには、対面の場をうまく活性化させていく、つまり「対面のコミュニケーションをきちんとデザインする発想」が非常に重要になります。