スマホ操作が悪印象を与えないためのコツ
ここまでのお話では、基本的に「ファビング=相手との会話中にスマートフォンを見る行為はよくないこと」という前提で進めてきました。実際に、その前提はおおむね当たっていると思います。ファビングは、本人にとっても、周囲にとっても、さまざまなネガティブな影響を及ぼすということが研究から明らかになっているわけです。
ただ一方で、「スマートフォンは絶対に使ってはいけない」とまでは言い切れないと思うんですね。うまく使うことができれば、対面の会話を補完することもできますし、コミュニケーションをより豊かにしてくれる可能性もある。そういった側面も、やはり忘れてはいけない。
だからこそ、「スマートフォンの使用はすべてダメ」といった、一律の対応をしてしまうと、それはそれで柔軟性に欠けてしまうのではないかと思うわけです。
実際、こんな研究もあります。人はなぜスマートフォンを使うのかという調査で、その理由として「ストレス発散」や「外部との連絡」が挙げられました。ストレス発散は、先ほど触れた「リフレッシュ」にあたりますね。

そして、スマートフォンは外部とのコミュニケーション手段としても活用されています。特に、リアルタイムでのやり取りが求められる仕事では、通知や連絡が情報収集や意思決定の面で重要な役割を果たすこともあります。
離れた場所にいる人と、リアルタイムで連携しなければならない仕事もあるでしょう。そうした場面では、スマートフォンの使用が業務効率の向上につながるケースもあり得ます。そのため、「仕事中はスマートフォンを絶対に使ってはいけない」といった一律の禁止は、やや行き過ぎかもしれません。
では、どうすれば良いのか。1つの方向性として、「画面の共有」が考えられます。例えば、やり取りの内容が共有できる場合には、スマートフォンの画面を見ながら会話をすることで、共通の話題を深めることができます。
これは、相手を無視するファビングとは違います。2人で同じ画面を見ている、つまり共同行為をしているからです。何をしているのかが相手に見える状態であれば、「自分が価値のない扱いを受けた」といったネガティブな感情にもつながりにくいでしょう。
また、インタビュー調査の中には、「スマートフォンを使うのは、自分のプライベートな空間に一時的に逃げ込む手段」と捉えている人もいました。例えば、人間関係や仕事に疲れた時に、スマートフォンの画面に集中することで一時的に距離を取り、気持ちを切り替えるという行為が「休息」になる場合もあります。
ですから、場所や時間を選んでスマートフォンを使うことができれば、それは必ずしも悪いことではありません。仕事中であっても、画面を共有したり、適切なタイミングで活用することで、むしろプラスに働く面があるということです。
相手に一言ことわることの効果
もう1つ問題になるのは、自分に自覚がないままファビングを繰り返してしまうケースです。悪気がないにもかかわらず、相手にはネガティブな影響を与えてしまう。そうなると、今度は相手からの反応が冷たくなり、自分の側も共感しにくくなるという悪循環が生まれてしまう。これは、関係性にとって望ましいことではありません。
こうした負のループを避けるために、「ファビングを意図的なものにする」ことも1つの手段です。例えば、「ちょっとスマートフォンを確認してもいいですか?」と、相手に一言ことわるだけでも、印象は大きく変わります。相手にとって「置き去りにされた」という気持ちを抱かせずに済みますし、配慮されていると感じやすくなります。
同様に、会議の前に「あらかじめ緊急連絡があるかもしれません」と伝えておくのも効果的です。事前に理由が共有されていれば、途中でスマートフォンを見た時にも、相手の理解を得やすく、不快に思われにくくなります。
さらに、使用後には「お待たせしました」と一言添えるだけでも、相手への敬意を示すことができます。これは、スマートフォンを使うこと自体よりも、相手との関係性を大切にしているというメッセージになります。
このように、ファビングがもたらす悪影響を避けるには、スマートフォンの使用自体を禁じるのではなく、使い方や場面への配慮が重要です。デジタル技術が生活に浸透した現代において、スマートフォンを完全に排除することは現実的ではありませんし、生産性の面でも逆効果になりかねません。
だからこそ、テクノロジーとどのように付き合うか、その「関わり方のバランス」を見つけていくことが、今の時代に求められているのではないかと思います。ただ、それだけでは少し抽象的なので、今日は具体的な工夫として、画面を共有する方法や、使用前に一言ことわるといった例をいくつかご紹介しました。
要するに「相手をないがしろにしていない」ということを、きちんと言葉や態度で示していくことが大切だということです。そういった配慮があれば、スマートフォンの利用がすべて悪いわけではないということがおわかりいただけるのではないかと思います。
スマートフォンの使用に「意識的」になる
では最後に、今日の内容を簡単にまとめたいと思います。今やスマートフォンは、ほとんどの人が持っている身近なデバイスです。スマートフォンに限らず、タブレットなどのモバイル端末も含めて、いつでもどこでもつながれる時代になりました。
これにより、たとえ対面で会話をしている場面でも、つい別の誰かとつながってしまうことができてしまう。この状況が、まさに「ファビング」という現象を生み出しています。
ファビングという行為を通して見えてくるのは、「自分がないがしろにされている」と感じることが、対人関係においてどれほど大きなインパクトを持つかということです。それは人間関係だけにとどまらず、仕事のモチベーションや集中力にも影響を与えるということが、さまざまな研究から明らかになっています。
ご紹介してきたように、ファビングは対人関係、心理的健康、仕事の効率性やエンゲージメントにまで、幅広いネガティブな影響を及ぼすことが実証されています。特に職場では、上司がファビングを行う「ボス・ファビング」によって、信頼関係が損なわれたり、組織の雰囲気そのものが悪化するケースもあることがわかっています。
とはいえ、スマートフォンそのものが悪だというわけではありません。むしろ、うまく使いこなすことで、仕事の効率化につながることも多いです。ですから大切なのは、「どう使うか」という視点です。ファビングという現象は、私たちにその使い方をあらためて問い直すきっかけを与えてくれているのだと思います。

一番避けたいのは、自分でも気づかないうちにファビングをしてしまい、相手に悪い印象や影響を与えてしまうことです。だからこそ、「自覚すること」や「意図的に行うこと」、つまりスマートフォンの使用について意識的になることが、今まで以上に重要になってきています。
これからの社会では、対面のコミュニケーションと、デジタルデバイスの活用のどちらも欠かせません。そのバランスをどうとっていくかが、私たち一人ひとりに問われているのではないでしょうか。以上で、私の講演を終わらせていただきます。 ご清聴ありがとうございました。