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⑨坪井一樹氏に聞く適応(全3記事)

採用の失敗は他責、入社後は「お手並み拝見」 人が定着しない組織がはまる“負の採用プロセス” [1/2]

人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、ジャフコグループ株式会社 HRBP兼エグゼクティブコーチ/プリンシパルの坪井一樹氏と、採用における「適応」について語りました。本記事では、採用における「3つのフィット」から見る、組織と人のつながりのあり方を解き明かしていきます。

「価値の壁」のズレをなくす方法は?

坪谷邦生氏(以下、坪谷):適応の段階の最後の「価値の壁」については、目標管理も大事な要素の1つのように思います。適応フェーズでうまく目標管理をしている会社って、どんなやり方をしているんでしょうか。例えば、3ヶ月後までにはこれをやり切ろうというのも1個の目標ですか?



坪井一樹氏(以下、坪井):そうですね。「価値の壁」について、目標設定以外で取り組んでいる事例で言うと、シンプルに表彰をしているところは分かりやすいかもしれないですね。

入社後の話ですけど、例えば毎月その会社のバリューに対してどうだったかをみんなから投票してもらう。そういうところで選ばれると、早くもバリューを体現されているなという1つのシーンとして、スポットライトを浴びますよね。

坪谷:それはお互いにとっていい体験になりそうですよね。「うまくいったな」という自信を持って進めるようになるので。

坪井:とはいえ、4つ目の「価値の壁」は、時間軸が長いものではあります。短期的な取り組みの事例として、あるスタートアップでは、入社後3ヶ月経ったタイミングで、新規入社者が、その会社の中でバリューを発揮している人たちの行動について共有してもらう、というコミュニケーション機会があるようです。

新しく入った方が、全体に向けて「うちの会社のバリューでこれがすばらしいと思いました」という体験談を話してもらうことで、周りも「会社が大切にしてくれていることをちゃんと理解してくれている、良かった」とわかったり。

坪谷:確かに目線が揃っていきますよね。もしそこで勘違いがあれば、軌道修正もできますしね。

坪井:「その意味合いは、ちょっと異なるから待って!」みたいな(笑)。そこで考え方が合っていれば、あとは目標設定でちゃんと方向性を示してフォーカスしていく。

坪谷:やはりズレを埋めていくのが大事なんですね。

坪井:そうですね。目標設定でゴール地点は設定されますし、会社によってはプロセス評価もしていると思います。進む角度をチューニングしておくと、適応がより自然に進みますよね。

「採用を他責にしてはいけない」

秋山紘樹氏(以下、秋山):目標管理については、私も重要だと思います。特に今のお話を聞いて、価値の壁を越えるためには1対nの多数の部分で「この人はちゃんとレールに乗っているよね」という、全員の目線が合わせられる場を設けるのも重要だと思います。

目標設定だけでなく、その人の成果や適応状況を組織全体で確認し、認識を合わせる機会が必要なのではないでしょうか。組織の人数や規模によってもアプローチが違うと思いますね。

坪井:お試し入社のステップを踏んでいるスタートアップも、周囲の人たちから見てどうだったかを複数人にアンケートをとっているので、そこに近いですね。「この人、良かったよ」とみんなから出たら、「OK、オファーを出そう」となって、入社後の受け入れ体制も整いやすくなります。

経営者の方も、採用を他責にしてはいけない、とおっしゃっていました。仮に会社にフィットしない人が入社して上手くいかないと、極端な話、「採用したのは○○だ」と他責にされてしまうこともあり得ます。そうならないように、ちゃんと「みんなで一緒に働きたいと思って採用したよね」というプロセスを作るのは選考の工夫として大事ですよね。

会社がピボットする時、社員はついてきてくれるのか?

坪谷:少し話がずれるかもしれないんですが、スタートアップの場合、環境や方向性をガラッと変えなければならないシーンもありますよね。適応は常に起き続けるというお話もありましたが、そういう時は各企業どうされているんでしょう。

坪井:会社がまったく違う方向にピボットする状況においての適応の話ですよね。もうそういう時は、本当に原点の原点まで立ち返るんだと思います。

これは、YouTubeでやっている「スタートアップの壁」企画の取材で、TOKIUMという会社にインタビューさせていただいた時に、黒﨑(賢一)社長から「過去に組織崩壊があった」と赤裸々に語ってくださったので、話せるんですけど。当時30名ぐらい社員がいた時に、ほぼ全員退職されてしまったそうです。

ずっとBtoCでビジネスをやってきたがBtoBにピボットすることになり、社員の方から「なんでそんなに急に変えるのか?」「BtoBでうまくいくのか」「新規事業を始めればリソースが分散するのでは?」「BtoCのサービスに携わりたくて入社したのに……」。そんな声が続出した結果、創業メンバー以外は辞めてしまったと。

そんな状況でも、創業メンバーで取締役の西平CTOは、これまでBtoCでビジネスをしてきた強みを活かせれば、BtoBでも可能性があると信じていました。むしろ、創業初期と比べたら、BtoBに事業転換してもスタート地点は前よりプラスの状態からスタートできるよね、というくらいすごくポジティブで。

坪谷:すごい(笑)。

(一同笑)

坪井:黒崎社長としては、「自分が経営者として続けて良いのか?」という葛藤はあったけれども、西平CTOが背中を押してくれたから、事業を方向転換してもまた組織を作っていけたと。失ったこともあったが、自分たちがやりたいこと、大切にしたいことに向き合って言語化し、ベクトルを合わせて再び歩みだすことができた、というお話は印象的でした。

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