採用選考でジャッジしておきたい「3つのフィット」
坪谷:なるほど。そのCTOの方は何にコミットしていたんでしょうか?
坪井:会社のビジョンやミッションへの共感もありましたし、世の中にちょうどiPhoneやいろんなサービスが出てきた中で、自分たちも(人々の生活を進化させて)世の中を変えていきたいという志があるからこそ、コミットし続けていきたい、と話されていましたね。
坪谷:BtoCかBtoBかよりも、「世の中を変えていきたい」という思いが大きかったんですね。それは組織が世の中に「適応」していった話でもありますね。……今のお話を聞いて、やはり適応って、個人と組織が「どこで適応しているのか?」だなと思いましたね。
坪井:そうなんですよね。私は最近、ベンチャーキャピタルでHR支援をしている人っぽく、やりがいや働きがいも大事だけど、「『張りがい』って大事だよ」と伝えています。自分の人生や時間を何にベットするかが大事だよ、という意味ですね。
坪谷:おもしろい。すばらしいですね。
坪井:採用選考で言うと、スキルフィットとカルチャーフィットとキャリアフィット。3つのジャッジする視点があると思っています。

いわゆるスキルフィットは一次選考のイメージです。会社目線では、一番身近な同僚になる現場の人たちが一緒に働きたいかどうか。候補者目線では、実際にやる仕事の「やりがい」の目線合わせをする場だと思うんですね。
カルチャーフィットをひもとくと、私はミッション・ビジョンとバリューの2つに分かれると思っています。バリューは自社で活躍してくれそうかという文脈で、会社が大切にしている価値観に合うかどうかは活躍の基準にもなります。
だいたいバリューの部分を見て、このカルチャーフィットを判断している会社が多いイメージですが、ミッション、ビジョンのカルチャーフィットも大事です。仕事で活躍して仲間と一緒に夢中になれそうかどうかは、お互いにとって「働きがい」を持てるかどうかの目線合わせの場になります。
1個1個の仕事における「やりがい」を持つだけでなく、その会社や仲間と一緒になって働いていることに喜びを感じることができる「働きがい」を持てると良いですよね。ただ、もし仕事自体の専門性やおもしろ味だけの「やりがい」だけに関心があって入社した場合は、仕事内容が変わると本人希望と合わなくなるという話です。
一番エンゲージメントが高いのは「キャリアフィット」
坪井:最後はキャリアフィットです。会社目線では面接官が採用する側としてジャッジしますが、オファーを出しても結局相手にも選ばれないと入社してもらえないので、双方がキャリアフィットしているかを見ないといけません。
会社側は相手にどんなベネフィットを提供できるか、相手の持っているパッションがどれほどのものか。スタートアップだと特にですけど、困難なことがたくさん待ち受けているので、一緒に乗り越えられそうかどうか。
このレベルで相手と握れて入社してくれたら、一番エンゲージメントが高い状態と言えます。「どうしたらキャリアフィットした人に入社してもらえるの?」というと、やはり自分の人生や時間を何に張るかという、「張りがい」レベルで合意している必要があります。先ほどのTOKIUMの西平さんの話が分かりやすい例ですね。
そうでないと、大変な時に「他社の方が給料いいよな」とか、分かりやすい価値や評価によって転職しちゃうということもあるのだと思います。
坪谷:確かに。何に自分の人生を投資するか、ここなら「張る」価値があるぞと思えるということ。いいなあ。坪井さんの生き方にも通じる感じがしますね。
坪井:私は、「コトを起こして、コトを成す人たち」と共に時間を過ごすことで、世の中に新たな価値を生み出すことにコミットしたいので、ベンチャーキャピタルという立ち位置から関われることに張りがいを感じています。私の人生をベットできる仕事ですね。お金をベットするのではなくて(笑)。
(一同笑)
坪谷:時間が一番のベットですよ。どのフィットを重視して入社いただくのかは、人事側も知っておきたいですよね。「スキルフィットで合意で、今回採ることになったよ」なのか、「カルチャーフィットで来ていただくことになったよ」なのか、キャリアフィットで来てくださっているのか。あらかじめわかっていると、かかわりも変わります。
たとえお別れすることになったとしても、「もともとスキルで来ていただいているから、ピボットした時に辞められるのは当たり前だな」と、むしろ応援できたり。どのフィットを目指して握手しているのかを捉えておくことが、適応においてすごく大切ですね。
「マネージャーになりたくない問題」の根本にあるもの
坪井:そうですね。もともと約束していたところと違う適応を求める場合は、口説き直しからやらないといけません。例えば、よく言う「プレイングしたい人がマネージャーになりたくない問題」もそうですよね。
坪谷:まさに、本人はスキルフィットで入ったと思っていたけど、会社はカルチャーフィットで入ってくれていると思い込んでいるから「マネージャーをやってくれ」というズレの話ですよね。
坪井:他にも、違う事業や異なる仕事をお願いする時も「いやいや、この仕事内容だから入ったのに」ということだと、「同じ仕事内容ができる違う会社に行こう」となりますよね。
採用からオンボーディングまで考えると、先ほど話した「理解の壁」「業務の壁」「能力の壁」「価値の壁」という4つの壁が、人材の適応における重要なポイントになると思います。
会社の方向性を正しく理解できているか、実際の業務内容と期待のギャップはないか、求められる能力をどう発揮していくか、そして根本的な価値創出ができるか。これらの要素です。こういった壁を意識した選考プロセスを設計し、入社後のオンボーディングにも一貫して組み込むことができれば、より円滑な適応が実現できると思います。
坪谷:そうですね。無駄な努力が要らなくなる。
秋山紘樹氏(以下、秋山):やはり、まずはせっかくオファーを出してお互いに握手したんだから、その握手を正解にしていきたいよねという意気込みを関係者全員が持っていることが大事なんだなと思いました。
自社の首を絞める「お手並み拝見しちゃう会社さん」
坪井:そうですね。今の秋山さんの話で思い出したんですけど、適応でうまくいかないのは、「お手並み拝見しちゃう会社さん」ですね。
坪谷:うわあ嫌な言葉だなぁ(笑)。
(一同笑)
坪井:例えば、「高い給料で入社したんだからできるでしょ?」と言うのは簡単ですし、実際に推進力があってクリアしてくれちゃう人もいるんですけど、そこにはある種のリスクもあって。相手には「がんばってください」で、もう一方は「見守って結果だけ見る」だけでは、一緒に正解にするというスタンスじゃないんですよね。
お手並み拝見で採用後もジャッジしていたらダメですよね。そういうオンボーディングだと、ハイレベルの人を採ってもうまくいかないので、早期離職につながったり、もうハイレベルの人の採用はしたくない……と自社の首を絞める結果になると思います。
坪谷:確かに。リクルートの採用をしていた方が、「採用判断をする時は両目をしっかり開けてその人を見る、入ってもらって仲間になった後は、片目をつぶって大目に見る」と言っていたんですよね。この感じだと思います。
合うか合わないかを見極める時は、お互いしっかり冷静に見ることがすごく大事なんですけど、一緒にやろうとなった後に、「できていないよね」と言い続けてもしょうがない。
だんだんいい人が来なくなりますよね。意図せずズレてしまったり失敗したりすることもあると思うんですが、その時に「人として」どう振る舞うかが問われます。
企業のフェーズもいずれ変わりますし、人生も長いので、どこかでまた出会って一緒にできることもあるので、瞬間的なズレですべてを諦めないことも大事です。
「職務・職場・自己」への適応度を予測して採用する
坪谷:最後に、坪井さんの3つのフィットは、リクルート大沢武志さんの『心理学的経営』で紹介している「職務適応、職場適応、自己適応」の3つに近い概念だと思ったので紹介させてください。職務適応は「仕事ができる」、職場適応は「職場で人とうまくやれる」、自己適応は「自分らしくいられる」ことです。
採用と面接を通じて、この3つの「適応」を予測して採用することが重要だと、大沢さんは言っています。

(坪谷邦生『図解組織開発入門』より)
それでは、今日はここまでにさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
坪井:ありがとうございました。
秋山:ありがとうございました。おもしろかったです。