人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、ジャフコグループ株式会社 HRBP兼エグゼクティブコーチ/プリンシパルの坪井一樹氏と、採用における「適応」について語りました。本記事では、ビジョンやミッションへの共感度や、カルチャーマッチの見極めについて意見を交わしました。
トップが会社の歴史や哲学を語っているか?
坪谷邦生氏(以下、坪谷):組織への適応において、どこで壁にぶつかるか、どうやってその壁を超えるかという実例ってありますか? 私はやはり最初のほうの理解や業務のあたりが気になるんですけど。
坪井一樹氏(以下、坪井):そういう意味でいうと、「理解の壁」の話はボディブローのように効いてきます(笑)。
(一同笑)
坪井:例えば「人間関係ができないからすぐ辞めます」とか「会社のことがよくわからないのですぐ辞めます」とはならないと思うんです。辞める側は、直接の退職理由を「何々の理解ができなかったから」とは言わないですよね。
でも、そこをちゃんとやっておかないと、業務を通じて価値を発揮してもらうのに時間がかかります。「よーいドン!」と言われてスタートしたのに、動きづらかったり、立ち止まってしまうことが多いような感覚に陥ってしまう話だと思います。

さっき「理解の壁」にも4つあるとお話ししたんですけど、そこを促すためにやったほうがいいことがあります。多くのスタートアップでもやっていますし、大企業でもやったほうがいいのは、やはりその会社の歴史とか哲学をトップが話すことですね。
坪谷:一番わかりやすいのはそこですよね。でも経営者も忙しいので、本人が毎回採用のたびに話せるかというと……。
ビジョンやミッションへの共感度を見極める方法
坪井:そう思われるかもしれませんが、大事なことなので時間をとって話をしている企業が多いのだと思いますね。例えばSmartHRもLayerXも時間を取って必ず話しているとお聞きしています。私が入社した時なので、2018年の話ですけど、ディー・エヌ・エーの南場(智子)さんも、3ヶ月単位で入社したキャリア採用入社の方にまとめて話をしていました。
ディー・エヌ・エーの歴史から大事にしていることについて直接話をしてくれました。最後に「質問ある?」って聞かれたので、手を挙げたんですよ。そうしたら、南場さんがトコトコトコって目の前まで来て。もう本当に親しみやすいチャーミングな感じでオープンに会話するトップの姿が見えて、なんて素敵なオンボーディングの機会なんだろうと思いましたね。
坪谷:おお! すばらしいです! それで雰囲気がだいぶわかりますね。
坪井:これは入社後の話ですけど、そういうのはすごく大事ですね。これを採用という局面に置き換えると、面接の時にトップが話すことは大事だと思います。規模感によってできない会社もあると思うんですけど、やはりビジョンやミッションを伝えるのは、採用の目線でもあったほうがいいなと思っています。
2024年12月に上場した、Synspectiveという宇宙系のスタートアップがあるんですけど、社長の新井(元行)さんという方は、必ずミッションとビジョンを話されるそうです。
面接を通じてカルチャーフィットを確認するという文脈の中で、ビジョンやミッションに共感しているかが重要、という話がよく出てくると思うんですけど、どうやって見極めているのかを新井社長に聞いたんです。そうしたら「聞くんじゃなくて話すんだ」という話をされていました。
なるほど! と思ったんです。起業家の方は資金調達などいろんなシーンで自分の会社のミッション、ビジョンを話しているんですよ。そうすると、そこに対して関心を持ってくれているか、前のめりになってくれるかは反応でわかるんだなと。
人事は、質問の中でその人の行動レベルをジャッジしようとするんですけど、起業家は聞くんじゃなくて話す手法が使える(笑)。これは起業家や経営者だからこそできるアプローチだと思いました。
相手からどんな質問が来るか、どんな反応や表情があるか。エネルギーがその場でわかるとお話しされていて、「なるほどなぁ、人事には難しいけど」と思いました(笑)。
(一同笑)
坪谷:おもしろいですね。創業社長などの意志を持ってリスクを取って何かを本気でやっている人って、相手の反応が本物かどうかは、肌感覚でビビッとわかるのかもしれませんね。「この瞬間に目の色を変えるんだ」とか、「そこで息を吸い込むんだ」というすごく些細なことで、「今届いたな」とわかる。