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⑨坪井一樹氏に聞く適応(全3記事)

入社後の活躍を妨げるのは「期待値のズレ」 オンボーディングがうまくいく「4つの壁」の攻略法 [2/2]


入社後に活躍している人は「期待値のズレ」がない

坪谷:「適応の壁論」。すばらしい、ありがとうございます。とてもクリアになりました。そうなると、多くの方はどこの壁で引っ掛かるのかが気になりますね。

坪井:よく「期待値ギャップ」と呼ばれたりすると思うんですけど、最初につまづきやすいのは「業務の壁」のところだと思います。活躍までを考えると、「能力の壁」がポイントだと思いますね。

私たちがスタートアップの採用支援をしている中で、入社後にCxOクラスの方にアンケートをとらせていただいたことがあります。そこで活躍している方の傾向を見てみると、期待値のズレがないことが多いんですよ。

ある意味、「想像どおりカオスでした。」というのも含めて、ギャップがないのはすごくいい傾向です。逆に「聞いていたのと違った……」といったギャップが大きいと、違和感から早期退職につながる可能性が高まります。本人への期待値や、どんな業務を任せるのかというズレは、最初にボタンの掛け違いになりやすいところです。

活躍までの視点になると、期待値が高ければ高いほど、任せた業務の難易度やその方の能力の(発揮度から期待値との)ギャップが生じて、評価の時に毎回厳しい話をしないといけないというケースが起きてしまいます。これは時間軸でいえば先の話なんですが、後々出てくる「能力の壁」の話だと思います。

坪谷:確かに。理解の壁と業務の壁は、企業努力によってある程度以上越えられる。ただ、能力の壁以降になると、本人とのミスマッチはどうがんばっても起きる時は起きると思います。

本当は能力を発揮できる人が、理解の壁や業務の壁で転んで進めなくなるのはすごくもったいない。その2つの壁を越えるところまでは持っていくのが大事だなと思いました。

坪井:まさにそうですね。理解や業務の壁は受け入れ側が乗り越えやすいようにコントロールしてあげやすいです。能力や価値の壁に関しては、パフォーマンスの話になっていくので、受け入れ側だけではアンコントローラブルな領域もあります。

坪谷:そうですよね。4つの壁でだいぶ整理されました。

フェーズによっては、専門性よりも柔軟性のある人が必要な場合も

秋山紘樹氏(以下、秋山):今のお話をうかがって、企業努力で対応できる部分とできない部分があるのは分かったんですけど、能力の壁のところは2方向あるように思いました。1つはもともと専門性がある場合で、もう1つは専門性がなくて入る場合。

やはり前者の専門性がある人にとっては、能力のところでもバリューが発揮しやすい環境になるのかなと思う一方、専門性がない方にとってはつらいなと。

だからCxOなどでも、例えばマーケに特化した能力を持っている方なら、役割も明確で能力も発揮しやすい。役割が不明確かつ専門性に関してもゼネラルにやっていく方だと、フィットするのは厳しいんだろうなと感じました。

坪井:ここは会社やフェーズによっても違うと思います。私は「柔軟性人材」と言うんですけど、スタートアップのシードやアーリーくらいのタイミングだと、専門性だけじゃない柔軟性も重要です。

いわゆるスタートアップは、人がいないし基盤も整っていないので、間にいろんなボールが落ちそうになるわけですよ。そのボールが落ちないように柔軟にやる必要があるので、兼務がたくさんあるような状態になるんです。

(例えば、バックオフィスのメンバーの方だと)人事5割・3割広報・2割総務となるイメージです。スタートアップの初期フェーズはわりと柔軟性が大事だと思います。

一方で、型が出来上がってきた組織や成熟した会社のように、方向性が明確だったり、ポジション自体がわりと固定化されているなら、そこに合わせて専門性の高い人の採用ができれば良い、ということはありますね。

秋山:なるほど、ステージによって違うんですね。

「キラキラでつよつよ」な求人募集が生むミスマッチ

坪井:採用における能力要件の話で言うと、募集要項にどんな人を求めるかを書くじゃないですか。スタートアップに限らずかもしれませんけど、「そういう人、いないよ?」みたいな、「キラキラ」で「つよつよ」な感じの求人募集になりがちです。

(一同笑)

坪井:時にはそういうものが出てきちゃう時ってあると思うんですよね。あとは履歴書や職務経歴書を拝見して、「この人すごそう。何かやってくれるんじゃないか?」とか。

それは能力や経験への期待なんですけど、実際の業務はまだまだ立ち上げ期で、もっと泥くさい部分が必要なのに、採用のところで自社において求められる能力と業務を履き違えていると、どこかのタイミングで壁にぶつかりますね。

坪谷:まさに。柔軟性を求めなければいけないフェーズなのに、専門性を求めにいってしまって、専門性はすごく高いけど、その領域以外は基本あまり手出しできないし、やるべきじゃないとも思っている人を採ってしまって、使いこなせないとか。

秋山:あるあるですね。

坪谷:その人も自分の専門性を活かそうと思って入っているので、「何でもやってくれ」と言われた途端にやる気を失ってしまうかもしれない。もしやろうとがんばっても、柔軟性がないわけですから、うまくいかない。そういったボタンの掛け違いはよくある景色だと思います。

坪井:たとえスタートアップのCxOの方で、イベントに登壇したりしていても、オフィスに戻ってきて、コピー機の紙がなかったら紙を入れ替えたりするわけですよ(笑)。

ふだんの業務の中でも、そういう地味な作業もされているはずなんですけど、外からは見えない。CxOって裁量も権力もあってすごい仕事ができる人みたいな印象だったり、本人がCxOポジションを取りたい気持ちが強かったりすると、お互いの印象が先行して話が進むとミスマッチになりうる可能性に気がつかなかったりします。

坪谷:さっきの秋山さんの専門性の有無の話は、能力というよりはジョブ(職務)かもしれないですね。ジョブによってマッチングすると、専門性を持っている人はうまくいきやすい。

秋山:確かにそうですね。

自社の「何に適応してもらうか?」の設定の重要性

坪井:あるかもしれないですね。そういう意味でいうと、組織が数十人になってきて、一定機能化していかなきゃいけないようなフェーズだと専門性がわかりやすくなってきます。

坪谷:そうですよね。役割が分解されてくる。

坪井:そうすると期待値が明確なので、専門性のある人の採用がはまりやすくなるんですよね。「人事のCHROをお任せしたいです」というフェーズならわかりやすいんですけど、シードやアーリー期だとCHROだけで1人分の業務はないことも多く、ほかの業務もいろいろやる必要がでてきます。

シードやアーリーのフェーズでは、ミッションやビジョンにいかに共感しているかが大事だと考えています。それは、目の前の業務と紐づけられないと「何のためにこの仕事をやっているんだろう?」となってしまうので、より必要になってくるんですね。

坪谷:確かに。何に適応しようとして入ってくるのかということですね。その会社のミッション、ビジョンを成し遂げたいと思って入る人もいれば、創業社長個人にすごく魅力を感じて、「彼のためなら」という人もいるでしょうし。

「あのプロダクトがすばらしいから一緒に作りたいんだ」とか、会社の規模が大きくなってきたら、それこそ自分の専門性で、「この領域をやらせてくれ」というのもありそうです。何を求めてマッチングしようとしているのかが、お互いにズレてしまうと不幸が起きそうですね。

秋山:「適応の対象」ですね。

坪井:そうなると、やはり適応のスパンもあると思うんですよ。適応って常に必要になってくるじゃないですか。会社や事業が変化したり、求められる役割が変わる時も、常に適応は必要なので。ダーウィンの進化論ですよね(笑)。

(一同笑)

坪井:常に適応だと思うんですけど、半年とか1年のスパンで採用後における適応を考えた時は、おっしゃるとおり「何に適応してもらうか?」の設定が大事だと思います。

「適応したかどうか」の判断基準は?

坪谷:そうですよね。最終的には、先ほどの価値の壁。成果を出すところまでいっていただかないと、当然「採用して良かったね」にはならないですよね。

坪井:例えば、我々でいうとCHRO候補の方を採用して、その後、「実際にCHROになりました」という状況になっていれば、「How to value」が見えたタイミングなので、投資先への採用支援ができた後も様子を見守っていますね。

秋山:今の話を聞いていて思ったのですが、『適応した』と感じる瞬間は人によって違うと思います。実際に会社で『この人は適応できている』と判断されるのは、どういうタイミングや状況なのでしょうか? 本人が感じる適応と、周囲から見た適応の基準について教えてください。

坪井:活躍の視点で適応を捉えるとしたら、分かりやすいのは目標設定での評価だと思いますね。その人の目標は上長が見ますし、評価はもちろん会社で決めていくことになります。

本人の捉えているバリューを自己申告として出して、双方がフラットにコミュニケーションできる場なので、目標設定・評価・フィードバックのサイクルの中で本人と周囲の認識が合っていくことになります。

秋山:そのような目標設定が周りに共有されていないと、おそらく周りの人たちは「この人は入ったらすぐ何かしらの活躍をしてくれるんだろう」と期待してしまうというか。受け入れる側もちゃんと体制を整えなきゃいけないと思うので、このように目標や評価、振り返りのサイクルの中にニューカマーの方が組み込まれていることがうまくいくポイントなんだなと感じました。

坪井:結局、何かと何かを合わせて「適応する」ということじゃないですか? そうなった時の適応の角度はいろいろあって、ギャップも1つではないと思うんですよ。

上長と本人は認識が合っていても、一緒に働いているチームメイトからするとちょっと……とか。CxO候補に最初はメンバークラスで入ってもらうような場合は、もしかしたら上長と経営者の間でも期待値のギャップがあるかもしれない。

だから、適応にもいろんな範囲があるのだと思いますね。上長とは適応しているけど、経営者からすると適応していないと。経営者の期待としては、早くそのポジションを抜けて、違う組織の責任者をやってほしいという考えがあったら、まだ適応していない状態ですよね。

入社後に「適応の判断」ができる場を作る

坪谷:誰が受け入れの責任を持っているかを明確にしておくことも大事なのでしょうね。オンボードさせる責任が上司にあるなら上司が判断するべきでしょう。上司も本人もOKだと思うならうまく適応できたと。最初からそう決めていたら、混乱は起きませんよね。

たとえば受け入れ責任が経営者の場合は、現場の上司が「できた」と言っても、判断するのは経営者に任せるべきですよね。そこを初期で決めておかないとズレるのだと思いました。

坪井:私たちが支援しているCxOやVPの方々が実際にCxOになられたり、周りからバリューを評価されている場合は、経営者と1on1をしている頻度が多かったですよ。

坪谷:なるほど! 納得です。

坪井:「経営者といかにシンクロできるか?」は、「理解の壁」の話ともつながります。また、採用面接には経営者が出てきたけど、その後の接点はないです、みたいな状況だとしたら、そこで遮断されてしまう。つまり、適応の判断ができる場を入社後に作ってあげるのが大事だということです。

HRBPがいる組織だったりすると、新しく入った幹部候補の方と社内のキーパーソンの人たちの間に入ってつないであげたり、連続的なコミュニケーションの場を作るケースもあります。

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